瀬崎祐の本棚

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詩集「峠」  宗昇  (2013/09)  砂子屋書房

2013-07-23 00:48:26 | 詩集
 80歳を超えられての第4詩集。108頁に23編を収める。
 人生が終焉にさしかかっているという思いが随所でうかがわれる。例えば「釣り」では、「だれの中にも はるかな昔から」魚が「必ずいっぴきはいる」という。それを確かめたことはないのだが、その魚の気配がゆらぐことがあるという。巧みなイメージ化によって自分が生きてきたことを振り返っている。
 「峠」は切り通しを歩いている作品。水音がして流れる水が道を濡らしているのだが、濡れているのは峠の片側だけで、反対側はいつも乾いているという。

   この世にはどこにでも峠があって たがいに反するものたちを 例
   えばこの切通しのように 仕切っているのだろう。それにしても不
   思議なことよとふと耳を傾ける。ここまでわたしを導いてきた水音
   がまだかすかに聞こえている。わたしの細胞のなかには 遠い地層
   が幾重にもたたみこまれていて 深い峠からこちら側に絶えず水が
   滲み出てくるのだろう。

 この世界に在る細かなものたちまでもが、何かのためにそこに在る。それは、「無鉄砲に生きても 生きられた若さ」(「手帳」より)の頃には気づかなかったことなのだろう。この作品を読んでいる気持ちのなかにも、それこそ水が湧いてきて、どこかを静かに濡らし始めるようだ。
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