桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

礼文島・花の島⑬

2005-03-31 22:13:02 | 旅行記
ウエンナイで休みにした。電話も入れた。心配してくれているようである。ありがたいことだ。疲れがかなり出てきて、食欲はない。菓子を少し口にした。

あまり休むと腰が上がらなくなると思われたので出発した。この後は岩場はない。しかし、その代わりに、海岸へ下りたり、山に登ったりと、アップダウンが続く。そして、海辺でもこれだけ風がないので、山の中では暑くなることが予想された。水筒の水の他に、缶のお茶を買っておいてよかった。

初めの難関は砂走りである。ここを痛みの走る足でよじ登らなくてはいけない。ロープを握り、足を砂に取られながら登っていく。日はもう高く昇っており、汗が流れてくる。それでも歯を食いしばって登り、ようやく上に到着した。わずかに吹いてくる風が心地よい。海もべた凪という感じである。

ここから林に出たり入ったりを繰り返すのだが、林の中ではやはり暑い。しかし、場所によっては風通しの良いところに出て、そういう場所では風が心地よい。そして、前回歩いた時は雨空で見ることができなかった海や山の景色が素晴らしい。4時間コースで見た景色も素晴らしかったが、このコースから眺められる景色も素晴らしい。夜のミーティングで彦さんが「ただ歩き通すだけじゃなくて、景色や花に目を向けてほしい。」と言っていたのが思い出された。まさにその通りである。白樺の若葉の隙間から見える空の美しいこと。木々の根元に咲く小さな花の愛らしいこと。夕べクイズで答えられなかったカラフトナニワズも見つけた。花に鼻を近づけると、ジンチョウゲと同じような匂いがする。こんな小さなことも、昨日クイズで知っていなければ気付かなかったに違いない。そしてこの24時間コースも、ただひたすら歩き続けるだけで終わってしまっただろう。

林を過ぎると、一面の笹原に出る。この辺りからアップダウンの少ない単調な道になる。風は相変わらずほとんどなく、暑い。汗が流れる。そして、もう一つ困ったことが出てきた。これまではアップダウンのある道を歩いてきたので、眠気は少しも気にならなかったのだが、単調な道になった途端、眠気に襲われたのである。しかも、相当な眠気である。ちょっと休もうと立ち止まると、立ったままでも眠気に襲われる。30分ほど歩くたびに、道ばたに腰を下ろして休んでいたが、この辺りでは休むたびに10分15分と眠り込んでいた。

この辺りでかなりタイムロスをしてしまったようだ。西上泊ではお弁当などの差し入れが待っている。なるべく早く到着したいが、足の痛みと眠気との争いは続いている。

そうこうしているうちに西上泊の家並みが見えてきた。目指すはアトリエ仁吉である。

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礼文島・花の島⑫

2005-03-29 21:06:32 | 旅行記
桃岩展望台から下は、しばらく舗装道路になる。山道を歩いて、ようやく足に慣れてきたところだったので、下り坂ということもあって、かなりのダメージを感じる。

元地に着く。ここで星観荘に電話を入れた。きっと皆は朝食を食べている頃だろう。聞けばわりと速めのスピードだそうだ。ウエンナイと西上泊でも電話を入れるように言われた。西上泊では差し入れもあるという。

地蔵岩を過ぎると、いよいよ難所の岩場の連続になる。ここから礼文滝までは歩いたことのある道で、岩場も3分の1くらいなので、気楽に歩いていく。この辺りまで来ると空はすっかり晴れ渡った。風もなく、どうやら最高に良い天気の一日のようである。ウエンナイから先は去年の雨の苦行の経験しかないので、今回は気持ちよく歩けそうである。

礼文滝は去年より水が少ない感じがした。ここでしばらく休む。この後いよいよ未知のゾーンに入る。道の先にはいきなり岸壁が立ちはだかる。どうやって歩いたらいいものかとまどったが、ロープが付いており、足場になる岩もあるので何とか歩けた。初めからこの調子では、この先がますます不安になってくる。

不安は的中してしまった。この先は岩場、岩場、岩場。ロープを伝ってようやく歩いていかなくてはならないところもあれば、大きな岩を飛び越えたり、よじ登ったりしていかなければならないところが次々にあらわれる。いくらひたすら海岸沿いを歩いていくだけでいいとは言え、やはり初めての道の不安は、疲労をますます増大させる。そう言えば、心なしか足も痛み出したように思われる。

どうやらここが今回の一番の難所と思われた。歩いても歩いても岩場は続き、右手には切り立った崖、左手には海、という景色がひたすら続く。足下には目を楽しませてくれる海岸性の植物の花さえない。さらに、こんな朝早い時間であるから、前から歩いてくる人と言葉を交わすようなこともない。何だか気が滅入ってくるような感じがした。

岩場との格闘を続けてしばらく経った頃、突然目の前に一人の男性が現れた。私より少し年上だろうか。向こうもこんな時間に南から歩いてくる人がいるのに驚いた様子であった。「お早うございます」と声を掛け合う。私はこの先の様子を聞きたいところだったが、彼は何だかとても急いでおり、そんな暇もないようであった。身なり格好からするとやはり地元の人ではないようだ。礼文林道からウエンナイへ下り、元地へ向かって歩いているのだろう。

そうこうしているうちに、前方がやや明るくなってきた。ウエンナイの谷が近づいてきていると思われる。朝の日差しが谷沿いに射し、明るくなっているものと思われた。岩場との格闘を今しばらく続けると、ひょっこりウエンナイの集落が見えた。岩場との格闘の終わりである。到着して星観荘に電話をし、ここでもしばらく休んだ。持ってきた朝食の残りとお菓子などを食べるが、疲れがたまってきているのか、あまり食欲がない。足もかなり痛い。特に膝。この先は海岸沿いのアップダウンのきつい道である。ここへ来てかなり先行き不安になってきた。

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礼文島・花の島⑪

2005-03-26 21:04:21 | 旅行記
寒さで目が覚めた。ここでようやくスキーウェアーを貸してもらったことが正しかったことを知る。寒さに震えつつ、香深の町を後にする。道は再び海辺に出る。空はすっかり白んでいるが、高曇りで陽は射していない。しかし、利尻山はくっきりと見えている。

島の南端にある知床には4時半に着いた。車道歩きはここまでで、ここから先、スコトン岬までは、元地、西上泊、スコトンのごく一部を除いて山道を歩くことになる。看板に従って車道を右へ曲がり、山道に入る。私が礼文に来てからずっと好天が続いているので、道は乾いており、歩きやすい。

知床から元地灯台までは歩いたことがないのだが、道は一本道で、迷うことはない。しかし、実は途中から”秘密の花園”と呼ばれる場所へ分岐する道があったのだが、当時はその存在を知らなかったので、そのまま通過した。しかし、後年同じ場所を同じ時期に訪れた時、その美しさに驚嘆した。あの時訪れていれば、あの美しさを独り占めできたのである。今思うと少しばかり残念なことだ。

元地灯台で少し休み、友人達と訪れた3年前のことを思い返した。あの時桃岩から元地まで歩き眺めた利尻の美しさは忘れられなかったが、まさかこんな形で再訪するとは思いもよらなかった。今回は一人での訪問、旅のスタイルも全然違うけれど、元地灯台から振り返った利尻山の姿は、7月に訪れた3年前よりやや雪が多いことを除いては変わらない。

元地から桃岩までも、花の道が続く。知床から元地灯台まではひたすら登りだったが、ここはかなりのアップダウンがある。足下に咲いている花々が目を楽しませてくれる。まだ日が昇る前なので、花を閉じぎみの花が多いが、エゾノハクサンイチゲの群落や、カラフトハナシノブ、レブンキンバイソウの美しさは印象深い。

桃岩展望台に着き、ベンチで朝食にした。日が射し始め、空も見えてきた。風もない。どうやら今日は素晴らしい良い天気の一日になりそうである。桃岩展望台は、現在ではいつも大変なにぎわいであるが、この時は朝も早かったので、桃岩を独り占め状態であった。大きなおむすびをほおばりながら、この先のことに思いをはせた。特に、礼文滝からウエンナイまでの、まだ歩いたことのない海岸沿いの道(現在では通行禁止)がどうなっているのか、少々不安も感じていた。でも、この後の好天に期待をし、何とかなるだろうと思いながら、桃岩展望台を下った。

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礼文島・花の島⑩

2005-03-25 21:21:11 | 旅行記
24時間コースとは、夜歩き始め、昼間は島の西海岸を歩き、ちょうど24時間ほどで礼文島一週72㎞を歩ききるのが一般的なようである。しかし、健脚の人は20時間かからず歩き、天候が悪かったり、大人数だったりすると、24時間をオーバーすることもあるという。最速記録は、トライアスロンの選手の人の12時間(もっと短かったか?)だそうだ。スゴイ人もいるものである。

さて、夜間は舗装道路が通じている東海岸を歩く。人家もあり、街灯もあるので、事故の心配はない。しかも、夜間はほとんど車は通らない。確か、12時から2時くらいまでの間は1,2台の車しか見なかったと思う。でも、後から考えれば無理もない。漁師の人達は朝が早いので、そんな時間は皆寝ているのである。

そんなわけで、東海岸を歩いている間のことはほとんど記憶がない。確か11時過ぎに、彦さんの運転するエース君がやって来て、Oさんや福リン、Nさん達が激励に来てくれた。激励に来た、というよりも「引き返すなら今だぞ。」という、断念を促すようなことを言ってくるのだった。もちろん冗談なのだが、その時の私は、まだ疲れてもおらず、眠気も感じていなかったので、笑い飛ばすことができた。もっと後だったら、ムッときていたかも知れない(実は私はあまり冗談が通じないタイプなのである。)。

一行が帰った後、海の方を向くと、不思議な光景が見られた。オレンジ色の不気味な月が、水平線あたりに浮かんでいる雲間から昇っているのである。日の出は1,2度見たことがあるが、月の出は初めて見た。日の出の時の太陽がオレンジ色なのと同じように、月の出の時の月もやはりオレンジ色なのである。

月がだんだん昇って行くとともに、水平線の辺りがうっすらと白んできた。暦の上ではあと少しで夏至である。関東地方よりも東に位置している礼文であるから、2時台ですでに水平線は白んでくるのである。私はだんだん眠気を催してきた。眠気の第一波である。歩いていてもふらふらするくらいである。香深の町では漁に出る時間も近づいているせいか、車も何台か目にしていたので、ふらふらと車道に出てしまうと危ない。そこで、フェリーターミナルの中で眠ろうと思ったのだが、何と先客がいた。5人くらいだろうか。4畳半ほどのスペースにきれいに並んで横になっており、分け入る余地はない。仕方なく、その近くにある屋根付きベンチで一眠りすることに決めた。漁に行く途中と思われるおじさんが通りかかって、「こんな時間に何してるのさ?」と聞かれたが、「いえ、まぁ。」と言葉を濁した。荷物を下ろしてベンチに横たわると、かなりの寒さを感じながらも、眠気がそれに勝って、すぐに寝入ってしまった。

1時間半ほど眠って目を覚ますと、東の空は白んでいた。時計はまだ3時半だったが。

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礼文島・花の島⑨

2005-03-24 20:59:49 | 旅行記
いよいよ24時間コースの出発である。24時間コースに行く時は、風呂に入れない。トド島に行って潮風に当たってきたので、髪は塩気でべたついており、できれば風呂に入りたかったのだが、ダメだという。入れない理由を説明されたのだが、毎日風呂に入らねば気の済まない私としては、ちょっと気分が悪いまま出発しなくてはならなかった。他に、今回は私が歩いたことのないところも2カ所ほど通るので、そこについての説明を受けた。

荷物を準備し始めた。しかし、明日の朝食と昼食のお弁当に加え、果物やお菓子などもいろいろと手渡され、それを詰めると、私が持っていこうとしていたリュックは一杯になってしまった。仕方なく、着替え等を入れてあった大きなリュックに詰め直した。部屋は、私の荷物で散らかってしまったが、時間もないので、それを無理矢理部屋の隅に押しやって出発することにした。(後で思えば、同室のOさん達には迷惑をかけたと思っている。)

服装は、さすがにスタジャンはマズイと思ったので、白いジージャン(古い言い方だ・・・)を来て出かけようとしたら、彦さんがそれでは寒すぎるという。他に持っていないと答えると、彦さんがスキーウェアーの上着を貸してくれた。ちょっとがさばる感じがしたが、羽織って外に出てみるとちょうどいい。ヘッドライトも貸してもらった。こんなに何も持たずに出かけるのは今思うと本当に、若さとは怖いもの知らずだなと思う。普通なら、それなりの用意はしてくるはずである。雨は100円カッパと折りたたみ傘でしのごうとしていたのだから、これまたのんきなものである。

さて、準備が終わり、”儀式”を行うことになった。アルバムの写真で見てはいたのだが、自分もされることになって、ちょっと緊張した。”儀式”とは、同宿の人達が、激励の言葉をマジックで体に書き込むのである。(女性の場合は腕のみ)私の、色の白い貧弱な体を衆目にさらすのはカナリ恥ずかしかった。しかも同年代の女性もいる。しかし、ままよと思ってシャツを脱ぎ、書かれるがままになっていた。幸い、星観荘に来て日が浅いせいか、おフザケな言葉や模様は描かれずに済んだ。書かれている時に、Tさんが写真を撮ってくれた。後で送られてきた写真を見てみると、妙な流し目をして得意げな顔をしていて、カナリ恥ずかしかった。

書かれ終わったのでシャツを着、リュックを背負い、ヘッドライトを頭に付けて表へ出た。看板の横で記念撮影をし、皆が2列に並ぶ間を通って道路に出る。駐車場に私がしゃがみ、そのまわりを皆が丸く囲んで手を差しのばし、彦さんが「24時間コース、ファイト!」と叫ぶと皆が「オー!」と答える。これを3回繰り返した。その後皆が星観荘の前に1列に並び、私が端からハイタッチをして、最後に彦さんとハイタッチをして、金田の岬の方へ向かって出発した。目の前には真っ暗な闇があるばかりである。

これからどうなるのか、ちょっと不安でもあった。時計を見ると、21:30だった。


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礼文島・花の島⑧

2005-03-23 21:00:00 | 旅行記
以前書いたことだが、夜のミーティングで映し出された花とその名前をよく頭に置いておき、翌日コースを歩いてそれらの花を確認し、夜のミーティングで花の名前をテストされる、ということがその夜行われた。答えられる人、間違える人。人それぞれだった。私はたまたまノーマークの花が当たってしまい、見事に間違えた。その花は今でも忘れない。カラフトナニワズという、ジンチョウゲを黄色くしたような目立たない花である。花の香りもジンチョウゲに似ている。

その中で、Yさんはミヤマオダマキが当たった。初めの「ミヤマ」はすぐ出たのだが、その後が続かない。彦さんが「オ」とヒントを出し、Yさんが「ミヤマオダ」まで出てきた。さらに彦さんが「マ」とヒントを出すと、Yさんはようやく思いついたようで、笑顔で「ミヤマオダマリ!」と答えた。一同爆笑であった。その後Yさんは、島を出るまで「おだまり君」と呼ばれる羽目になった。

さて、トド島から星観荘に戻ってテレビを見ると、ちょうど皇太子ご夫妻の結婚パレードの様子が放映されていた。そうだ、今日はこういう日だったのだ、ということを改めて実感した。世間様はみなこのおかげで今日が休日で、ここにいる人達も、その休日を土日とつなげてここにやって来ているのだった。学生の私は、授業のある日以外は毎日が休みの日なので、ただでさえ曜日の実感が乏しいのだが、旅行中である今はなおさらである。雨が上がって、雲間から午後の陽が射す、たくさんの警官が居並ぶ道をオープンカーでパレードするご夫妻の様子を、別世界のことのような思いで見ていた。

夕食まで一眠りすることに決めた。今夜24時間コースに出発する、という思いからなかなか寝付けない。昨日までは布団に入れば、夕方でもすぐに眠れたのに・・・そこで飲めないビールを買い、アルコールの力を借りて眠ることにした。もちろん1缶は飲みきれないので、Oさんに半分ほどグラスに注いで分けてあげた。飲み終わって布団に入ると、少しばかり眠ることができた。時間にして1時間ほどではなかったか。目が覚めて部屋を出ると、日差しが眩しかった。礼文にやって来て初めて目にする素晴らしい夕景である。トド島の真上に、オレンジ色の太陽が輝き、空は赤く染まり始めている。太陽はこのままいけばトド島に沈むことだろう。日中の天候からは想像もできないほどの美しい夕景だった。夕焼けが美しい日は、翌日も好天であると聞いている。今夜から始まる24時間コースは、どうやら天候に恵まれそうだ。


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礼文島・花の島⑦

2005-03-22 21:09:21 | 旅行記
見送りを済ませ、星観荘に戻った。今日新しく来た人の中には、福リンと呼ばれている人がいて、この人は鳥と花の専門家だそうだ。いろいろ教えて欲しいな、と思った。そしてこの人は、去年長期連泊していた菊リンと似ていて、実は隠し弟だ、ということになり、福リンと呼ばれるようになったのだそうだ。言われてみれば、雰囲気は似ている。でも、菊リンより落ち着いている感じだ。いかにも学者っぽい風貌である。

さて、今年初めてのトド島ツアーである。H間さん、Hさん、Mさん、Oさん、Tさん、Yさんと私の7人が参加した。白浜という漁港までエース君で送ってもらい、礼宝丸という小さな漁船で島に向かう。今日は曇りなのだが、風もなく、海も穏やかである。トド島には海が荒れた時などのために船着き場が設けられている。そこに船を寄せ、岸に飛び移る。この後お昼過ぎまで、島でのんびり過ごすことになる。

この時期のトド島は、カモメやウミネコの繁殖地になっているとのことで、そうした鳥がたくさん飛来してきている、だから頭上から糞が落ちてくることが多い、と聞いていたので、100円カッパしか持っていない私は傘を持ってきた。雨も降っていないのに傘をさすのは何とも変である。片手に傘を持ちながら、岩場を飛び移って、島の、船着き場とは反対の場所にある浜へ向かう。以前訪れたことのあるMさんによれば、ここでのんびりと過ごし、夏場には栗拾いなどに興ずるのだそうである。以前は星観荘でもトド島でバーベキューをやっていたのだが、現在では船泊YHだけが行っているとのことだ。それも面白そうである。

確かにカモメとウミネコの数がすごい。鳴き声がうるさいほどである。糞も傘の上に落ちてくる。浜辺の石は皆糞で真っ白になっている。これだけ白くなるということは、相当な数の鳥がいるのであろう。

浜辺に着いて一休みした後、島の上の平地へ上がった。トド島は平らな島で、周囲を崖が取り巻き、狭い浜が何カ所かある。かつては夏場には人が住んでいたそうで、人の手が加わり、道らしきものもできている。しかし、現在ではその大半が草に覆われている。平地の南側は、カモメの大繁殖地になっていた。毎年カモメが営巣するため、丈の大きな草はほとんどない。枯れ草を集めた簡単な巣がたくさん並び、色は目立たないが、巣という巣に卵が並び、親鳥がそれを暖めている。私たちが近づくとギャーギャー鳴き立てるので、巣に近づくのはやめ、島の一番北を目指し、膝くらいの高さのある大きな葉の草を皆で踏みしめて道を作りながら進んでいく。そんな草の陰にも思わぬ所にカモメの巣と卵があるので、鳥が草むらから飛び立った時はそれに近寄らないように注意しながら進んでいった。

平地の一番先は岬のようになっており、ここにもたくさんのカモメやウミネコの巣があった。また、それらの鳥が飛び立つのだろう、草がはげて、土がむき出しになっていた。ここでも親鳥がギャーギャーとうるさいので、交代交代で写真を写し、早々に退散した。

トド島には灯台がある。そのまわりがちょうど座れるようになっており、ちょうどお昼時でもあったので、お弁当を広げた。ここは鳥もほとんど飛んでこない。風が強ければ見事に吹きさらしになるところだが、今日は風もない。その分、礼文島の上半分はガスで見えない。天気がよくて、時間にゆとりがあれば、この後は草に寝ころんで、気持ちのいいお昼寝タイムとなるのであろうが、今日はそういうわけにもいかない。「何もないところで何もしない」という、礼文での最高の楽しみを味わうことができるのがこのトド島なのだが、残念である。また、最近では、トド島ツアーそのものが、いろんな事情でほとんど出ないという。これまた残念なことである。

お昼を済ませると、迎えの時間が近づいてきた。皆で灯台の前で写真を写し、船着き場へ戻った。帰りも同じ漁船で白浜に戻った。港のすぐ前にある家で星観荘に電話し、彦さんに迎えに来てもらうことになった。港でボーっと待っているのもつまらないので、皆で船泊方面へ向かって歩き始めた。30分ほどするとエース君がやって来た。きっとこの時間は彦さんのお昼寝タイムだったのだろう。起こしてすまないと思った。

夕食の準備等にはまだ時間があるとのことなので、レブンアツモリソウ群生地とアトリエ仁吉に寄ってくれることになった。レブンアツモリソウは4日連続だが、日に日に花が開いていくのが本当によくわかった。アトリエ仁吉では、短い時間だったけれど、仁吉さんといろいろ話して楽しかった。

星観荘に帰ると、皇太子のご成婚の様子がテレビで放映されていた。今日がその日であったことなど、すっかり頭の隅に追いやられていた。

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礼文島・花の島⑥

2005-03-21 21:46:35 | 旅行記
今回の礼文行きで、表向きは作品を贈呈し、レブンアツモリソウを見るということが目的だった。しかし、心の内では、ひそかに期するところがあった。それは、24時間コースを歩く、ということである。去年、旅の思い出ノートを見た時、小樽で一緒だったKさんが「次に来る時は、必ず24時間コースを歩きます!」と書いているのをを見たのである。24時間コースの話は耳にしていたけれど、チャレンジした場面には遭遇したことがなかった。でも、今回チャレンジしておかないと、この後星観荘にゆとりをもって来ることはできなくなりそうである(この時は、この後7,9月とやって来ることなど、想像もしていなかったのである。)。だから、思い立ったところでチャレンジしてしまおう、と考えたのである。

幸い天気予報ではこの後も好天が続きそうである。去年来た時のような雨の中では歩く気がしない。青空の下、花で埋まる島を、利尻を眺めながら歩いてみたいのである。たとえ一人であっても。ここ2日間、礼文岳と4時間コースを歩き、ますますその思いが強くなった。

夜のミーティングでは、「24時間行きます。」と宣言した。皆から「おぉっ!」の声が挙がった。こうなったら引き下がるわけにはいかない。何だか、とんでもない決心をしてしまったように思えてきた。

24時間コースにチャレンジする日は、基本的には何もせずに体力温存し、体調を整えるものらしい。しかし、明日は今年初めてのトド島ツアーが出ることになった。これには参加せずにはおれない。この時期は海に入ったりすることもないので、比較的早く戻ってくることができるとのことなので、思い切って参加することにした。

この夜のブラックホールは、明日島抜けする人が多いので、かなり盛り上がった。特に、Yさん、Sさん、Tさんといった、一緒に歩いた人が出てしまうことになっていたので、私もちょっとはしゃいでしまった。住所交換などもした。私は住所を書く代わりに、以前モスモスで大賞をもらった時に作ってもらった名刺を配った。皆から「マスククリエーターって何ですか?」と聞かれて、答えるのに苦労した。この日はブラックホールに泊まっている人もいなかったので、ミーティングはかなり遅い時間まで続いた。

翌朝は皆で港まで見送りに行った。エース君は満車。不安定な場所に後ろ向きに座った私は、港に着いた時は少し気分が悪くなってしまった。島抜けは5人。去年来た時は、見送りはしたものの、親しい人ではなかったので、何となく、という感じだったが、今回は違う。2日間続けて一緒に歩いた人だったから、名残惜しさもひとしおだった。見送られる側の人も、一緒に泊まったほぼ全員の人に見送ってもらえて、嬉しいと同時に、見送る人側以上の名残惜しさを感じているに違いない。

この時期は桃岩荘もまだ営業していないので、あのにぎやかな見送りはない。星観荘の人達だけで、精一杯声を張り上げて船の上の人達に声をかける。船の上の人からも声が返ってくる。今回はどんなふうに見送られ、どんな気持ちで島を離れるのかな、などということを考えながら、皆と一緒に手を振り、声を張り上げていた。


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礼文島・花の島⑤

2005-03-18 21:36:46 | 旅行記
一応就職試験のための問題集等を持参していたのだが、結局星観荘に戻ると、疲れて眠くなったり、皆と話をしたりして、そんなものは荷物の中にしまわれてしまっていた。本来なら試験まで1ヶ月しかないのに、こんな様子でいいのだろうか、という思いは少しも浮かんでこなかった。星観荘は実に困ったところである。もちろん、いい意味で。

さて、ミーティングでは今日も花のビデオが映し出された。どうやら今日彦さんはビデオ撮影に出かけていたようである。そう言えばアツモリソウ群生地でも撮影をしていた。今日は昨日と異なり、皆に明日の宿題が出された。ここに出てくる花をなるべくたくさん見てきて、明日は花の映像を示されたら、その花の名前を答えられるようにしてくるように、つまり、テストを行うとのことだった。私は本州の高山でも見られるような花は、小学生の時北アルプスに登った際結構覚えていたので心配はなかったが、礼文でしか見られないような花は、花も、その名前も知らないので焦った。明日のテストに答えられなかったら、また彦さんにどう思われるか知れたものではない。ましてせっかく私に向かって去年「お前なんかあっちに行けよ!」と言ったことなどすっかり忘れていてくれているのだから。だから、結構注意してビデオを見た。

明日はTさん、Sさん、Yさんが最後の一日とのことで、皆で4時間コースに行くことになった。その後ブラックホールでのミーティングが行われ、昼間の好天からすると、星を見に行くようなこともあったかも知れないのだが、その辺りは全く覚えていない。

翌朝。彦さんにスコトン岬まで送ってもらい、4時間コースのスタートである。メンバーは、男性がTさん、Hさん、私。女性がTさん、Sさん、Yさん。今日は曇りで利尻は見えないが、礼文岳は見える。風はなく、花を見るのには絶好の日和である。花の時期ということもあり、立派なカメラを持ってきている人が多い。男性のTさん、女性のTさんとも一眼レフの立派なカメラで花や景色を写している。自ずと皆の歩みも遅くなる。私もバカちょんではあるがカメラなど持ってきていたから、一応目に留まった花を撮してみるが、やはり後でプリントしてみると、Tさん達から送られた写真とは雲泥の差である。

スコトンの集落から少し下がったところに、鮑古丹という集落がある。ここへ下る道を切り開くためにのり面ができ、そこに背の低い花々がそれこそ敷いたように咲いている。薄紫色のチシマフウロ、白いネムロシオガマ、黄色いキジムシロが一面に咲き、所々に紫色のミヤマオダマキが混じっている。道から見上げると、これらの花々がちょうど空に向かって一面に咲いているように見えるのである。私はその様子をカメラに収めようと、ちょうど目の前に立っている電柱に登った。しかし、登ってから後悔した。下から見上げたから花だけが美しく見えたのであり、上から眺め下ろすと普通の草原に花がぽつぽつと咲いているだけなのである。写真を一枚だけ写し、すぐに電柱から下りた。皆には「とてもきれいでしたよ。」と嘘をついた。後でTさんから送られてきた写真には、私が電柱に登っている様子を撮した写真が入っていて、かなり恥ずかしかった。

鮑古丹からは道はひたすら登りで、登り着いたところがゴロタ岬だった。天気は相変わらずである。風がないのが助かる。その後ゴロタ岬には何度も行ったが、こんなにも風のないゴロタ岬は珍しい。利尻山が見えないのは残念だが、礼文の山々は見える。皆で写真撮影会となる。

ゴロタ岬から先は笹原が続き、高山植物はあまりない。4時間コースが、花のコースと言うより景色のコースだというのがよくわかる。

鉄府に到着する。ここの砂浜では、穴あき貝が拾えることで知られている。私たちも砂浜に下り、貝を拾った。私は拾うのについ夢中になってしまい、皆から遅れてしまった。慌てて追いつくと、Sさんに「足跡を皆で合わせて歩いていたんだよ~」と言われてしまった。確かに、5人で歩いているのに、足跡は一列である。我ながら困ったヤツである。

浜から上がり、鉄府の集落に入って左手を見上げると、レブンアツモリソウの保護地の柵が巡っているのが見える。(当時はまだ2.0の)目を凝らして見ると、白い大きな花が柵の外にぽつんぽつんと見える。どうやら、柵の外にあるレブンアツモリソウのようだ。皆で見に行こう、ということになった。咲いているところはかなりの急斜面で、草につかまりながら登る。つい高山植物を踏みつけてしまい、済まないと思いつつも、柵からはみ出たレブンアツモリソウを目にして、写真を撮ろうということに皆気が向いてしまっていた。

今思うととんでもないことをしたものである。写真を撮り終え、集落まで下りた後、さっきまでいた崖を振り返ると、我々が踏みつけた跡が歴然としている。現在では、崖の下の所まで柵が巡り、近づけないようにしている。私たちのような不心得者が後を絶たなかったのであろう。

浜辺からもう一山を越えて西上泊に到着した。アトリエ仁吉に行く。これで3日連続である。Tさん、Sさん、Yさんは今日が最後ということで、いろいろと買っていた。私もイカのキーホルダーを買った。その後は皆で歩いてレブンアツモリソウの群生地へ行き、3日連続でレブンアツモリソウを見た。大きな株は、昨日以上に花が開いており、日に日にきれいさを増していく。ちょうど今日が見頃のように思えた。3日連続レブンアツモリソウを見ることができ、今回の旅の目的である「レブンアツモリソウを見る」という目的は充分すぎるくらい達成できた。後は星観荘までバスで戻るばかりである。




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礼文島・花の島④

2005-03-17 22:55:48 | 旅行記
星観荘に到着した。驚いたのは、Nさんがいたことだった。びっくりしてしまった。あのハガキにほのめかされていたことは、本当だったのだ。お互いに再会を喜んだ。その後は例によって美味しい夕食、ミーティング、ブラックホールでのミーティングが行われたのだろうが、ほとんど記憶にない。花のビデオは覚えている。知らない花ばかりで困った。でも、きれいな花ばかりだった。それにしても6月の礼文はすごい。こんな美しい花々が、島の至る所に咲いているというのだ。今日はまだレブンアツモリソウしか見ていないけれど、明日以降がとても楽しみになった。

ブラックホールのミーティングは、今年は男性のヘルパーがいないので、彦さんが司会を務めた。6月ということでブラックホールは酒を飲んだ後でも寒いくらいである。皆布団にくるまっていろいろな話をした。

翌日は大変良い天気で、礼文岳に登ることになった。メンバーは男性がTさん、Hさん、Yさん、私。女性がNさん、Yさん、Sさん。Yさん以外は皆何度か星観荘に来ている人達ばかりのようである。

出かける前に彦さんが「今日は天気が良いからミラーマンをやろう。礼文岳の山頂から11:30に星観荘の方へ向かってこの鏡を反射させてみて下さい。」と言った。何でも、礼文だけの山頂からの鏡の反射はちゃんと星観荘から見えるそうである。もっと言うと、利尻山の山頂からの光も、星観荘の上の丘から見ることが出来るのだそうだ。かつては、利尻山の山頂、礼文岳の山頂、ゴロタ岬、トド島の4カ所でのミラーマンにも成功したことがあるのだそうだ。これはすごい。しかも、その様子をビデオにとって見せてくれるそうである。礼文岳行きは、礼文の山頂から利尻山を見ることが主目的だったが、これは楽しみが一つ増えた。

登山口で写真を写して登り始める。山頂までは2時間かからないとのことなので、ゆっくりと登っていく。気温はさほど高くなく、暑さは感じないのであるが、何しろ日差しがきつく、帽子をかぶっていない私は、日向に出るととても眩しかった。しかも、日焼け対策を全くしていない(今思うと大変なことなのだが、そのころはむしろ真っ黒く日に焼けた方がいい、などと考えていたのだ。だからNさんから日焼け止めを塗ることを勧められても断ってしまったのを覚えている。)。

メンバーは皆気さくな人達ばかりで、登る間じゅういろいろな話をした。Tさんは銀行に、Yさんはスーパーに、Hさんはメーカーに勤めているとのことだった。皆、皇太子の結婚の日の休みと、土日をつなげて連休にしてやって来ているのだそうだ。

山頂らしきところが見えたので、到着かと思いきや、Sさんが「あれはニセ山頂で、本当の山頂はもっと先だよ。」と言う。なるほど、ニセ山頂に着くと、その先に本物の山頂が見えた。ニセ山頂でようやく利尻方面の視界が開ける。しかし、天気は良いのに利尻山だけは上3分の1に雲がかかっている。実に残念だ。礼文岳の山頂を見上げると、実は一面ハイマツに覆われていることに気付いた。ハイマツは、本州では2500mくらいまで登らないと見られない。それが、こんなに低いところで見られるのは、さすがに北限の島、という感じである。カモメの飛ぶ姿を見、波の音を聞きながら高山植物を見られるのは礼文しかないな、とも思った。

山頂には間もなく到着した。30分ほど休んで約束の時間になった。星観荘のある方角はすぐにわかったので、リュックから鏡を取り出し、日が当たるように工夫しながら、その方角へ向けた。Nさんがコンパクトを取り出して、同じように向けている。果たして光は見えているだろうか。これだけ天気が良いのだから見えているに違いない。ところが、何分間向ければいいのか指示されていないことに気付いた。仕方なく、10分ほど向け続けた。ビデオを撮している彦さんはどうしただろうか。

その後お昼にした。去年食べた美味しい弁当。今年も食べることができた。中身も、オカズの種類は少し違っているけれど、同じようなものである。ほどよくお腹一杯になり、山頂で昼寝をすることにする。時間には余裕があるし、山頂は風もないので、皆のんびりと横になった。

1時間ほどして下山することになった。写真を写している時、一瞬利尻の山頂が見えた。昨日見えなかった利尻。6月の利尻は、去年見た7月の利尻より、ずっと雪が多い。礼文にいる間に、雲一つ無い利尻を見たいと思った。

下山はあっという間だった。星観荘に電話をかけ、彦さんに迎えに来てもらった。彦さんはその足で、レブンアツモリソウの群生地に連れて行ってくれるという。皆賛成した。今日は天気が良いから、昨日よりも花が開いているに違いない。特に、あの10株以上まとまっている大株がどうなっているのかを見てみたかった。

群生地は例によって私たちだけだった。時間を気にせず、ゆっくり見て回った。やはり、今日は天気が良かったので、どの花も昨日より開いているような感じがした。その後アトリエ仁吉に寄って星観荘に戻った。今日帰った人に代わって、新しい人が何人かやって来ていた。

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