桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

2012年12月九州の旅・九州の山

2013-02-03 21:35:18 | 旅行記

11/29

昼に学校を出て、電車を乗り継いで羽田へ出、飛行機で熊本までやってきました。今夜は教え子で熊本勤務中の小川と高宮と一杯やってきました。

二人は前高野球部で先輩後輩でありながら、偶然にも群馬を遠く離れた同じ熊本で、職場こそ違え働いているのです。 今回の熊本行きにあたり、高宮に連絡したところ、今日であれば都合がつくということで、小川にも連絡してもらい、月末で二人の勤める金融機関は忙しいにもかかわらず、時間を作ってくれたのです。

たまたまホテルから歩いて2分ほどの近くにあった肥後路という店で熊本の地元の料理を腹いっぱい食べました。 普段はほとんど飲まない俺ですが、久しぶりに会う二人と一緒ということで、体調がいまひとつにもかかわらず、いつもより少し多く飲みました。

11/30

夕べちょっと飲みすぎて、あまり朝早く起きると酒が残っている可能性があるので、今朝はゆっくり目に起きて、祖母山だけ登ることにしました。

7時半過ぎにホテルを出たのですが、何しろこのレンタカーのカーナビはとても使いづらく、場所の設定にとても手間取り、結果的に渋滞に巻き込まれ、かなりの時間のロスとなりました。

9時半過ぎに宮崎県高千穂町にある北谷登山口に着いたのですが、そこまでの林道がかなり荒れていて、レンタカーの底をするのではないかとひやひやものでした。登山口には2台の車があり、日本百名山のひとつとしては少なく、これもおそらく山の上は雪で、登山を断念した人も多いのではないかと思われました。

9:45に登り始めました。前日に当地では雨だったので、おそらく山の上は雪だと思われ、傾斜のゆるい国見峠ルートをとりました。こちらは確かに距離は長いものの斜度は緩やかで、国見峠までは快適な登山でした。国見峠手前の八間平あたりから地面に雪が見え始め、国見峠は一面真っ白でした。また、そのあたりから山頂に雲がかかり始め、山頂からの眺望は望めなくなりました。

国見峠からは地獄の行軍が待っていました。この日このルートを歩いたのは私が初めてで、雪を載せた笹が登山道に覆いかぶさり、しかも雪の下の土はぬかるんでいてとても滑りやすく、笹から落ちる雪で、合羽を着た全身はずぶぬれ、靴はどろどろとなり、幸い気温が高くて雪もさほど冷たさを感じなかったものの、9合目から山頂までは今までで一番ハードな登山だったと思います。

そういえば、雪山登山は初めてでした。 ずぶぬれどろどろで何とか山頂に到着して時計を見ると11:45。2時間で上がってこられたので、雪がなければ1時間半で登れるお手軽コースでした。

山頂からは南側の山が少し見えるだけ。後は一面の雲でした。山頂は15畳ほどの広さで、一面に雪が5センチほど積もっていました。幸いに風はなく、寒さはほとんど感じませんでした。

山頂には先客が1人いました。佐賀から来た方で、いろいろ話しかけてきて、私にラスクなど分けてくださり、眺望は望めなくとも楽しいひと時を過ごせました。ただしこの方に頼んだ山頂標識前での写真は4枚とも全部足先が切れており、結局セルフタイマーで撮り直しました。その後上がってきた夫婦はなんと埼玉からやってきたとのことで、私が群馬から来たと伝えると、特に群馬出身のご主人の方はとても驚いていました。

30分ほど滞在して、今度は風穴コースを降りました。こちらは距離は短いものの急峻で、健脚者向けとされています。確かにこの足元の悪い中ここを登るのは相当ハードだなと思われました。途中3回ほど思い切り滑って転び、尻とザックが泥だらけになってしまいました。

登山口に着くと佐賀から来た人のほかに別の夫婦が一組いました。この夫婦がコーヒーを入れてくださったのは、冷えた体にとてもありがたかったです。下山は1時間40分で、思ったよりもかかりませんでした。着替えて帰途に就きましたが、林道の途中で振り返ると、さっきまで雲に隠れて見えなかった祖母山が何とか見えました。写真に収めると、コーヒーをくれた夫妻の乗った車が通り過ぎていきました。

帰りに温泉に入るつもりでいたのですが、温泉施設がなかなか見つからず難儀しました。群馬だったら同じ距離走れば日帰り温泉など10軒以上はあるだろうと思われるのに、しかも阿蘇谷であちこちから温泉の煙が立ち上っていて、温泉は豊富なはずなのに、どうして観光客でも気軽に入れる日帰り温泉施設がないのか、とても不思議でした。最終的に立野のちょっと手前で見つけた村営温泉施設を見つけて入ることができましたが、入浴料は300円!びっくりするほどの安さでした。

帰ってホテルで合羽やザックについた泥を洗って落とし、今日着た服を全部洗濯しました。靴もぐしょぬれで、サービスでもらえる新聞紙を丸めて詰めました。部屋の暖房を強くして外へ出ました。今夜は一人で夕飯を食べなくてはなりません。いろいろ探した結果、熊本ラーメンの有名な店で軽く済ませました。それにしても熊本は大きな町ですね。金曜の夜ということもあってか、繁華街にはたくさんの人が繰り出していてとてもにぎやかでした。

12/1

6時過ぎにホテルを出て、昨日と同様に阿蘇山方面へ向かいましたが、阿蘇山の上は雲の中。やまなみハイウェイに入り、一面の草原の向こうには、頭に雲をまとった九重連山。残念ながら山頂での展望は望めそうもなく、すっかり気持ちがなえたまま、登山口の牧ノ戸峠に着きました。

牧ノ戸峠は風もあってかなり寒いので、ジャージの上下の上にフリース、さらにその上に合羽の上下を羽織り、さらに頭に巻いた手ぬぐいを覆うようにネックウォーマーを着け、ほぼ完全装備で登り始めました。

最初はコンクリートの急坂、それを登り切ると気持ちのよい稜線歩きになります。登山道の周りにはミヤマキリシマがたくさん生えており、春には山一面ピンク色になって、さぞかしきれいだろうと思われました。

しかし今日は12月。山は真冬です。地面は凍りつき、一昨日降った雪が積もっています。合羽を羽織ったおかげで体は寒さを感じませんが、顔に当たる風はとても冷たい。

稜線を進んでいくと、時折雲の切れ間から山が見えます。山に生える木には真っ白に霧氷がついていて、晴れていたら青空に真っ白な木々が光って、さぞかしきれいだろうと思われました。高度を増すごとに雪は多くなり、風も強まります。この寒い中、結構たくさんの人が登っているのには驚きました。

久住別れの平地では風も強くなり、完全装備をしてきてよかったと思いました。ここから久住山への最後の登りになるのですが、登山道には一面に雪が積もって、どこが登山道かわかりません。かろうじて地面に張られたロープと、岩につけられた黄色いペンキを手がかりに登ります。

雲が切れてふと目の前に目指す久住山が見えました。九重連山の最高峰は中岳ですが、阿蘇方面からはこの久住山が九重連山の盟主として眺められたのでしょう、久住山が九重連山の代表の山と見なされています。本来なら中岳も登るべきでしょうが、この雪では断念するほかありません。

山頂へと続く最後の稜線の登りは、強風との戦いでした。青い空に白い雪。遠く眼下には一面の草原。風と雲さえなければさぞかしすばらしい眺めなのでしょうが、風に吹き飛ばされないようにしようと、それどころではありません。

山頂も大変な風です。山でこれほどの強風に遭遇したことはありません。たまたま居合わせた3人組と写真を撮り合いましたが、私が写してもらう時は、山頂標につかまって体を支えなければならないほどでした。

そんな山頂に長くいる必要をまったく感じず、私はすぐに下山しました。帰りは雪には凍っていた登山道も解けてひどいぬかるみとなり、後から登ってくる人とのすれ違いや行き違いも多く、またお手軽な山と勘違いをして軽装で登ってくる人や、登山のマナーを守らない人にもたくさん遭遇して、いささか気分を害して下山してきました。登りは100分下りは120分で、雪がなければもっと短縮できたことでしょう。

昨日の祖母山といい、今日の久住山といい、はっきり言って冬の九州の山をなめてかかってひどい目に遭いました。阿蘇山に登る気持ちは完全に失せていました。

帰りに有名な黒川温泉に入ろうと思いましたが、駐車場に車を置いて、そのまま温泉に行けるようなところがなく、どこも駐車場からかなり歩かなくてはいけないので、断念しました。私は風呂に入りがてら山の服を着替えたいのです。黒川温泉の立地上仕方がないのかもしれないけれど、やはり車で来る人の利便性を考えると、ちょっと不便だなぁと思わずにはおれませんでした。

仕方なく黒川温泉の手前にある満願寺温泉の耕きちの湯というところに入りました。ここが実にすばらしかった。建物の雰囲気もよく、薄水色のお湯も最高で、のんびりつかりました。しかも私が入っている間は誰も来なくて、湯船を独り占めでした。そこは食事処もやっているので、気を良くして寄ってみると、これまた私一人。私一人のために薪ストーブや石油ストーブをたいてくれて、ちょっと申し訳ないくらいでした。温泉で体も火照っていたので、冷たいおろしそばを頼んだのですが、これがつゆにユズが効かせてあってすばらしくおいしかった!

いろいろむかつくことの多い今日でしたが、締めくくりはとても満足しました。夜は九州新幹線で博多に出て、大学時代の友人と8年ぶりに再会し、旧交を温めてきました。

12/2

天気予報は朝から雨で、窓を開けると一面の曇り空。これでは山に登るわけにもいかないので、予定通り鹿児島までドライブに行くことにしました。高速に乗って間もなく、雨がぽつぽつ落ち始めました。南下するほどに雨は強くなり、山に登らなくて正解だったと思いました。

まず鹿児島まで行き、かごしま近代文学館で開催されている「向田邦子の随筆」展を見ることにしました。6年前に来た時にも特別展を開催しており、その時以来でしたが、今回の展覧会は向田邦子の随筆『無形仮名人名簿』『霊長類ヒト科動物図鑑』を取り上げ、自筆原稿を多数展示していました。

私は自宅から2冊の随筆の文庫本を持って行っていたので、それを開いて自筆原稿と付き合わせながら、ゆっくり時間をかけて鑑賞しました。

それにしても読みにくい字です。どんな悪筆でもおおかたは読める自信のある私でも読めない箇所が何ヶ所かあるほどでしたが、これは編集者・印刷業者泣かせだなぁと思わせました。

1時間ほどじっくり鑑賞し、向田邦子が自作の小説を朗読した録音テープを聴きました。他にも向田邦子が全国の美味いもののチラシなどを集めた「『う』の引き出し」や、向田邦子愛蔵の中川一政の虎の絵も展示してありました。帰りに向田邦子が子供の頃住んだ旧宅跡にも立ち寄り、鹿児島市内を後にしました。

続いて6年ぶりに肥薩線の嘉例川駅に行きました。嘉例川駅には明治時代に建てられてほとんど改築されていない駅舎があり、観光地になっているのですが、ライトアップの電飾のコードが敷かれ、看板は俗悪な代物に付け替えられ、観光客向けのトイレが2カ所も増設されていて、6年前の時のようなひなびた情緒は失われていたのが本当に残念でした。ここで週末だけ売られている「百年の駅弁かれい川」をカミさんへの土産に買いました。

この後人吉まで戻り、これまた6年前に列車で訪れた肥薩線の大畑駅に行きました。ここは1日に5往復しか列車が来ない駅で、また周囲に人家が全くないので秘境駅に数えられているのですが、改札口横には地域の名産品が並べられ、駅の控え室で賑やかに談笑するおばさんの声が聞こえ、これまた観光地化された様子にがっかりしました。

空港に戻る時間までにまだ余裕があるので、人吉市内にあって、数年前に新たに国宝に指定された青井阿蘇神社にも立ち寄りました。ここは寺社建築としては大変珍しい茅葺き屋根の門と拝殿があるので、国宝に指定されたニュースを聞いた際に是非行ってみたいと思っていたのです。神社は間もなく祭礼が行われるようで、境内にはいろいろな準備がなされていてやや興ざめでしたが、それでも普通の神社とは異なった独特の情緒は好ましく思えました。

この後高速をとばして空港に戻り、夕方の飛行機で東京に戻りました。3泊の旅でしたが、登山は今ひとつだったものの、懐かしい人に再会できたり、初めての観光地を訪れたり、向田邦子の展覧会に行けたりした点はまぁ良かったかな、と思いました。

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