いくつかのアップダウンを繰り返し、山頂が次第に近づいてきた。最後に西側がガレ場となって落ちている稜線を上りきると、そこが至仏山の山頂であった。登り始めて2時間もかからなかった。
山頂はその大らかな山容のわりに意外と狭かった。既に多くの登山者(ほぼ全員中高年)が休んでいる。山頂で写真を撮したが、どう撮しても休んでいる人が入ってしまう有様だった。平日でこうなのだから、休日の混雑ぶりが思いやられた。
山頂からの眺めは見事の一言に尽きた。北には平ヶ岳のその名のごとくのなだらかな姿が見え、その左奥には中ノ岳と越後駒ヶ岳の連峰が聳えている。東側には遙か下の尾瀬ヶ原、その向こうに燧ヶ岳が鋭く聳えている。上空には薄く雲がたなびき、爽やかな微風が吹いて、強い日射しに照らされた肌に心地よい。
山頂で30分ほど休んで、山ノ鼻に下山することにした。山頂でお昼にしようかとも思ったが、時間的に早いのと、休める場所がほとんど占領されていたからである。
山ノ鼻に下る道は、かつて荒廃していたために、当分の間閉鎖されていたことがあった。それが再整備されて97年に通行可能になったのであった。
この下りが実にきつかった。日射しがきつく、風こそ吹いてはいるものの、日射しを遮ってくれる木立もなく、かんかん照りとも言ってよい中、ひたすら下り続けるほかなかったのである。
登山道は至る所で整備され、立ち入り禁止のロープなどが目に付いた。看板には、かつてこの地が一面のお花畑で、それが踏み荒らされて現状のようになってしまったと書いてあるのを見るとちょっと寂しかった。
ともかくひたすら木道を下り続け、山ノ鼻にいる人々の声が遠く聞こえ始めると、樹林帯に入る。少しばかり樹林帯を歩くと、ひょっこり目の前が開け、尾瀬ヶ原の西端に出たのであった。
山ノ鼻に着き、ベンチを探した。昼時で、日陰には空いているところがない。かろうじて半日陰のところを見つけてお昼にした。塩味のカップラーメンは、汗をかいた体には嬉しかったが、いささか暑すぎた。
後は鳩待峠までの木道を、数多くのツアー客とおぼしき人を急ぎ足で追い抜いて行くばかりであった。