桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

大雪山の紅葉

2015-10-17 20:06:44 | 旅行記

9/20(日)

前夜は大森のホテル泊。4時に起きて準備をし、始発で羽田空港へ。5時半に着くと、既に出発ロビーはごった返していました。さすがシルバーウィーク。エア・ドゥ旭川行きも満席でした。機内放送で旭川が雨と聞いてがっかり。到着するとやはり雨。この日の裾合平行きは諦めざるを得ません。レンタカーを借り、待ち合わせている、ゆわんと村つながりの友人であるスゴロクさんと西聖和駅で落ち合いました。

その後旭岳温泉ロープウェーまで行くとやはり雨。潔く引き返し、富良野方面に向かうことにしました。下界まで下りると雨はやみ、青空も見えます。東川の道の駅(何とモンベルのショップがあります!)で休んだ後、旭川郊外にあるゆわんと村つながりの友人であるグッチが経営する野の花菓子店に向かいました。ここに来るのもかなり久しぶりです。美味しいプリンをいただきながら、3人で小1時間も話しました。

すっかり時間が経ってしまい、お昼もかねて富良野にあるカンパーナ六花亭に向かいました。もう26年も前に訪れた富良野ワインハウスのすぐ近くにある新しいショップです。ブドウ畑に囲まれた建物は高台にあって、富良野盆地を見下ろせ、正面には十勝岳連峰が聳える(このときは雲の中で見えませんでしたが)素晴らしいロケーションにあります。着く直前に高台から大きな虹が架かっているのが見下ろせました。ここでハヤシライスとブドウソフトをいただき、おやつに栗きんとんと醍醐というチーズクリーム入りのお菓子を買いました。

その後スゴロクさんの発案で糠平にある三股山荘にて夕食を食べることになりました。眠気を我慢しながらひたすら車を走らせ、懐かしい上川と、この日から3泊する層雲峡を通過し、三ツ股山荘に着いたのは閉店15分前でした。ここで以前何度か食べたことがあるビーフライスを注文し、美味しくいただきました。

夕食後は層雲峡に戻り、私は1泊だけ、スゴロクさんは3泊する層雲峡YHにチェックインしました。時刻が遅かったため、私は2階の和室(本来は女性かグループしか泊めない)に通されました。おかげでこの夜はゆっくり寝られたし、また、同室になった人も旧星観荘に宿泊したことがあって共通の知人がいて、旅の話に花が咲き、食堂に行くこともなくそのまま床につき、疲れですぐに眠りに落ちました。

9/21(月)

YHの朝食はゆわんと村を思わせる質と量で美味しかったです。この日はスゴロクさんと銀泉台に向かいました。シャトルバス駐車場は既に満車に近く、かなりの数の人が入山しているようです。シャトルバスも満車。幸い早く乗り込めたので、座って行くことができました。

銀泉台に着くと、早くも目の前に素晴らしい紅葉が広がります。出発時点では晴れていたのですが、登っていくうちにどんどん雲が出てきて、結局この日は空から雲が取れる時間帯はほとんどありませんでした。

登り始めて最初のビューポイントに着くと、やはり三脚を据えて撮影しているカメラマンが何人もいました。第一雪渓の斜面のナナカマドはやや終わりかけでしたが、ダケカンバの黄色がちょうど見頃。しかも黄色が実に鮮やかで、今年は黄色の当たり年なのではないかと思われました。

銀泉台の紅葉のピークの時期は9/15前後なのですが、今年は天候に恵まれたためか、この時期になっても紅葉は残っていました。事前に調べてありましたが、まだこの時期でもこれだけきれいな紅葉が見られて良かったです。途中北海道警の山岳警備隊の人が大きなのぼりをザックに挿して登っていきましたが、登山道脇のナナカマドにぶつかって葉がたくさん落ちてしまったのは興ざめでした。確かに彼らの職務はとても大切なことで、我々もそのおかげで安全に登ることができているわけですが、もう少し細やかな配慮をしてもらいたいなと思いました。

第二雪渓の雪は全部消えていました。雪渓を縁取る紅葉はやや終わりかけていましたが、雲間にのぞく青空とのコントラストはいつものことながらきれいでした。奥の平はまさに見頃。ここはチングルマの紅葉が見事なので知られていますが、チングルマの群落を縁取るようにして生えているナナカマドもちょうど見頃を迎えていました。

その次のコマクサ平では、私は強風に見舞われることが多いのですが、この日はほとんど無風。遠くに見える第三雪渓を縁取る紅葉は終わりかけていました。しかし、次第に見えてきた第三雪渓下の紅葉はちょうど見頃。正面の雪渓に左縁を、さっきののぼりを挿した警備隊の人が登っていくのが見えます。写真を写す人には興ざめこの上ないもの。これまたもう少し配慮がほしい。せめて写真撮影の邪魔にならないように、雪渓のところだけはのぼりを手に持って登ってほしいなと思いました。

第四雪渓の紅葉はほとんど終わりかけでした。しかし一部にはきれいに紅葉したナナカマドも残っていました。第四雪渓を登り切ると頂上です。頂上には50人以上の登山客が休んでおり、山岳警備隊の人達ものぼりを立てて集まって休んでいました。山頂からの景色は今ひとつで、旭岳もかろうじて見えましたが、空には雲が浮かんでいて、眺望には恵まれません。また、山頂まで来るとさすがに風が冷たく、15分ほどいて早々に下山することにしました。

下山しながら、雲の切れ間から日が射すチャンスを狙って写真を写しましたが、第三雪渓と、第一雪渓の最後のところを除いて、思うような写真は写せませんでした。また、第一雪渓でナキウサギを見ることができましたが、ここでナキウサギを目にしたのは初めてでした。

下山後スゴロクさんをYHに送り、私はYHの隣にある朝陽亭にチェックインしました。本来は上川にある宿を予約していたのですが、お盆前に宿の方からキャンセルしてほしいとの連絡が入り、やむなくネットで探し、当初旭川の永山にあるビジネスホテルを押さえたのですが、さすがに旭川から層雲峡まで通うのも煩わしく、さらにいろいろ手を尽くして何とか確保したのが何と朝陽亭。1泊でYHに4泊くらいできる金額です。しかし、この超多客期に、一人で層雲峡の高級ホテルに2泊できるなんてほぼあり得ないことなので、清水の舞台から飛び降りるつもりで予約を入れたのです。通された部屋は何とYHの真上の部屋。夕食はバイキングですがいまいち。温泉と部屋は満足しました。

夜はスゴロクさんと一緒に、上川在住の旧ゆわんと村経営者ご夫妻に会いに行きました。ご夫妻は現在では旧ゆわんと村を離れ、町中の町営住宅に住んでいます。聞けばカメムシ攻撃に辟易して急遽移転することに決めたそう。ご夫妻に会うのは昨年11月以来ですが、いろんな話に花が咲き、2時間ほどの滞在があっという間でした。

10時過ぎにホテルに戻りましたが、ゆわんと村や層雲峡YHに泊まるのと違い、同宿や同室の人に一切気を遣わずに、気楽にのんびり寝られるのは最高でした。

9/22(火)

この日は天気予報によれば晴れのち曇り。翌23日が晴れの予報だったので、高原温泉には23日に行くことにし、愛山渓から沼ノ平に登ることにしました。沼ノ平に行くのは13年ぶり。その時は行く直前に台風が直撃して、紅葉がみんな落ちてしまい、かろうじて林の中の紅葉を楽しめた程度で、とても残念な思いをしたのを覚えています。

前日も午後になって天気が回復したので、ややゆっくり目にホテルを出ました。愛山渓まで来ると既に山に雲がかかり始めており、既に気持ちが萎え始めました。愛山渓の駐車場はほぼ満車で、あと少し遅ければ駐められないところでした。

登山口には「松仙園へのルートは不明瞭のため閉鎖しています」との掲示。13年前はまさにその松泉園のルートを通って三ノ沼を見に行きましたが、その時はそれほどルートが荒れたり不明瞭になっていたりするような印象はなかったので、13年の間に行く人も減り、ルートが不明瞭になってしまったのでしょう。

登り始めて間もなく、三十三曲がりコースと滝コースの分岐点に差し掛かりました。滝コースは何度も通っているので、今回はまだ通ったことがない三十三曲がりルートを通ってみました。最初はきつい登りが続き、登山道もその名の通り何度も折れ曲がり、どんどん高度を稼いでいきます。空が開けてきたと思ったら、駐車場からも見えた台地の上に出ました。ここから沼ノ平までは、前日の雷雨でほとんど沢のようになった滑りやすい登山道を、少しずつ高度を上げながら登っていくだけです。

それほど急いだつもりはなかったのですが、何と1時間で沼ノ平分岐に着いてしまいました。本来なら正面の当麻乗越の向こうに旭岳が、正面には当麻岳が、左手には永山岳や安足間岳が望めるはずなのですが、残念ながら雲がかかっていてよく見えません。しかし、ナナカマドやダケカンバは見事に紅葉しており、晴れて日が射せばさぞかしきれいだろうと思われました。

沼ノ平に着くと、やはり旭岳は見えません。半月沼あたりでわずかに日が射した程度。確かに紅葉はきれいですが、空が曇っていては美しさも半減です。西の空に浮かぶ雲は分厚く、半ば諦めながら、沼の間に付けられた木道を歩きました。歩きながら、初めて来たときの悪路を思い出しました。二十数年の間にすっかり整備されて歩きやすくなりました。

そのまま当麻乗越の手前の岩場まで行き、本来なら正面に聳えているはずの旭岳が見えるまで小一時間ほど待ちましたが、雲は切れそうもありません。時折晴れ間がのぞいたところで、眼下に広がる湿原や、遠く旭岳山腹の紅葉をカメラに収めたりしましたが、どうにも埒があかず、かといってこのまま引き返すのも残念なので、当麻乗越まで登りました。

当麻乗越では、私と同じように晴れを待っている人達が何人もいました。ここでも30分ほど晴れを待ちましたが、やはり時折日が射すだけ。折悪しく雨も落ちてきたので、諦めて下山することにしました。

途中で22年前のことを思い出しました。確か沼ノ平を一望できる高台から沼ノ平を見下ろしたことを。登山道から少し外れたところに岩山があり、その上から見下ろした記憶がよみがえってきました。岩山はすぐ見つかり、笹をかき分けて岩山の下に付き、岩を登って岩の上に立つと、眼下に沼ノ平の景色が広がりました。間違いありません。22年前もここから沼ノ平を眺め下ろしたのです。あのときは一面の青空、紅葉もまさに見頃でした。しかし、登山客は現在よりずっと少なかったのを覚えています。学生の登山部のメンバーとおぼしきグループ、少人数の中高年の登山客、そして私のような2,30代の旅人とおぼしき登山客だけでした。あれから22年経ち、山もすっかり賑やかになりました。そして、装備が皆立派になりました。私は22年前は普通のワイシャツにジーンズ、安物のウィンドブレーカーだけ着て、足下はゆわんと村で借りた長靴でした。今でも私はあり合わせの服装で登っていますが、それでも一応登山用品店で揃えたものです。しかし、あの頃の写真を見ると、今では信じられないような軽装で登っています。

そんな昔の思い出に浸りながら、あとはひたすら下山しました。晴れ間を待っている時間が長かったせいか、かなり時間が遅くなりました。途中沼ノ平分岐のところまで来ると、正面の永山岳の山腹に日が射し、見事な紅葉が広がっているのが見えました。南の当麻岳の上空も雲がとぎれて青空が見えます。永山岳方面へ向かう登山道を少し下って写真を写しました。特にダケカンバの黄色が素晴らしかった!今年はどこも黄色が当たり年のように思えます。沼ノ平もナナカマドは終わりかけていましたが、それでもダケカンバの黄色の美しさには感動しました。

沼ノ平分岐まで戻り、三十三曲がりを下って愛山渓温泉に下山しました。

9/23(水)

23年大雪山に通って、唯一実現できていないことがありました。それは大雪高原温泉沼を、紅葉の見頃の時期に、快晴の空の下で歩くことです。高原温泉沼にはもう5回ほど行っていますが、いずれも紅葉の時期には早く、また学生時代に1度だけ見頃の時期に訪れたときも、曇り空の下で歩いたので、青空の下で映える紅葉でなく、曇り空の下のくすんだ紅葉しか見ることができませんでした。

今回のシルバーウィークでは4日間日程がとってあります。最終日の23日も、飛行機を最終便にして、何とかぎりぎりまで粘って良い天気の日を狙って歩こうと思っていました。しかし、直前の予報では20日は雨、21,22日は曇りがちの晴れ。最も予報が良かったのが23日だったので、思い切って最終日の23日に高原温泉に行くことに決めました。

23日の朝、窓の外には雲一つ無い青空。朝食とチェックアウトを済ませ、はやる気持ちを抑えて大雪湖へ。やはりシルバーウィーク最終日ということで、一昨日ほどの混雑ではありません。バスの時間が迫っていて、最初は1本見送って座っていこうかと思ったものの、少しでも長く沼に滞在したかったので、満席のバスに乗り込み、幸い空いていた後方の通路に腰を下ろしていきました。高原温泉へは銀泉台よりも時間が短く、道路の傾斜も緩いのでさほど苦にならず行けたのですが、やはり下りた後は足がしびれていました。

バスから降りると、正面の林は既に素晴らしい紅葉です。いつもの通りヒグマ情報センターで簡単なレクチャーを受けた後でいざ出発。はやる気持ちを抑え、ぬかるみに気をつけながら進んでいきます。今年は特にカエデとダケカンバの黄色が素晴らしい。赤いナナカマドは少し終わり始めていますが、とにかく空が晴れ渡っているので、素晴らしく鮮やかに見えます。

ヤンベタップ川の橋を渡っていよいよ沼巡りのスタートです。最初の土俵沼の手前の紅葉からして素晴らしい。土俵沼への脇道を入ると、箱庭のような土俵沼に出ます。針葉樹の中に赤いナナカマドが点在し、はるか遠くに高根ヶ原の断崖がそびえ立ち、その上に真っ青な空が広がります。ここに来るのは22年ぶり。あのときは曇り空でした。

続いて芭蕉沼。ここの大きなナナカマドの株はもう散っていました。沼の周りのナナカマドも終わりかけ。草紅葉はきれいでした。逆光のために写真は上手く写せませんでした。

そのまま進むと滝見沼です。ここはちょうど見頃でした。正面の針葉樹の向こうにナナカマドが真っ赤に紅葉しているのが見え、そのさらに向こうに、滝が細く落ちているのが見えます。右手の斜面の紅葉もちょうど見頃。沼の黒い水面(高層湿原の池塘と同じく、高原温泉沼の多くは焦げ茶色の水がたまっています)に映る紅葉も素晴らしいです。ここは沼の近くまで出られるように木道が2本あるのですが、一人のカメラマンが一方にずっと居座って三脚を構えており、写真を撮る順番待ちをしている人も何人もいて(私もですが)ひんしゅくを買っていました。私と一緒にヒグマ情報センターを出発し、ほぼ同じ頃に沼に到着した別の登山客から苦情が出て、渋々移動していましたが、撮り鉄の人達のケースといい、どこでもマナーの欠如したカメラマンが問題になっているのは残念です。この件であまり良い気分がしなかったので、逆光ぎみということもあり、ここでも写真はあまり写しませんでした。

さらに進むと、私が一番好きな緑沼に出ます。前回来たときは、草紅葉はきれいだったものの、ナナカマドがようやく紅葉し始めたくらいだったのを覚えています。しかし今回はまさに見頃。沼の中に生える草紅葉もちょうど見頃です。そして何より空の青さ!正面遠くに聳える緑岳。左手奥に聳える高根ヶ原の絶壁。無風状態で、黒い水面にはこれらが逆さに映っています。ただただ嘆声を挙げて見ほれるばかりでした。これが見たくて22年通ったと言っても過言ではないです。15分ほど滞在し、何枚もの写真を写し、たくさんのツアー客がやって来たのをしおに、まさに後ろ髪引かれる思いで緑沼を後にしました。

湯の沼・鴨沼に行く途中でも、あちこちで素晴らしい紅葉が眺められました。特に黄色いダケカンバのすばらしさ!時折木々の間から見上げる高根ヶ原の絶壁と、空の青と、紅葉にコントラストは、どこで見ても素晴らしいの一言に尽きます。このルートは帰りには通らないので、時折後ろを振り返り、振り返って見る素晴らしい紅葉をカメラに収めるのも忘れませんでした。鴨沼では、数年前の台風で倒れた大きなダケカンバの倒木がそのままになっており興ざめでしたが、これも仕方がありません。

鴨沼は行き止まりなので、すぐ手前から左へ分かれる道を上っていきます。そして目の前に現れるのが、今回の目的の一つである蝦夷沼です。ここは沼のすぐ縁を登山道が通っており、以前来たときは登山道がほとんど水没していて、長靴で足をぬらしながら歩いたように記憶しています。ここは登山道から左手を見ると、湖面の向こうに美しい紅葉が続き、その向こうに真っ青な空が広がり、遠くに見えるものがありません。このような景色が見られるのはここだけです。沼の周囲をぐるりと囲むように美しい紅葉が広がっているのもここだけです。ここの紅葉もまさに見頃で、黒い沼の水にきれいに映っています。沼を回り込むと、沼の向こうに緑岳が聳えているのが見えます。登山客が切れるタイミングと、風が止むタイミングを見計らって何枚もカメラに収めました。沼から少し上がったところからは、沼全体を見下ろせました。青空を映して青く光る水面を、赤や黄色、オレンジ色の紅葉がぐるりと取り囲んでいます。左手遠くには緑岳が聳えています。これもぜひ見たかった景色。それを青空の下眺め下ろしているのは、まさに至福のひとときでした。

蝦夷沼の縁の斜面を登ると、いよいよ目の前に、青空をバックに高根ヶ原の絶壁が立ちはだかります。手前にはやや終わりかけのナナカマド。その辺りから真っ赤なナナカマドの群落が、右手の式部沼を囲むように広がっており、さらに奥の方まで広がっているのが見えます。式部沼のほとりに出ると、遠くに緑岳が姿を現しました。式部沼の水面はやや波立っていたが、それでも水面には池の畔の紅葉が映っています。式部沼のほとりに生えているナナカマドの大きな株もやはり既に紅葉は終わってしまっていました。

式部沼の縁を歩きながら高台に上がって振り返ると、式部沼は紅葉にぐるりと取り囲まれているのがよくわかります。そして、その向こうには遠く音更山と、吊り尾根を隔てて石狩岳が並んで聳えているのが見えました。いずれも既に登った山ですが、その際利用したユニ石狩岳へのルートは、先年の洪水で林道が被害を受けて閉鎖されたために、もう二度と通ることができないのです。初めて音更山に登ったときの、ヒグマにおびえながら鈴を鳴らし続けたときのことが思い出されました。

そこを登り切ると、左手に大学沼が広がっていました。ここは他の沼と異なり、沼の水は透明です。また、ここは他の沼よりも標高が高いにもかかわらず、沼のほとりのナナカマドはまだ紅葉しきっていないのが不思議でした。ここの紅葉はあまりきれいではありません。しかし、これまでの沼が鬱蒼とした木々に囲まれているところばかりの中で、この沼だけは周りが明るく開けており、趣がだいぶ違っているのが印象的でした。沼のほとりは休憩地になっていて、多くの人が休んでいました。

ここからさらに斜面をひと登りすると、いよいよ最も標高の高いところにある高原沼に到着しました。この沼は沼のほとりまで行くことができません。右手に見下ろす高原沼は、今まで2回訪れてはいるものの、その時の記憶が全くありません。それはなぜか?その時は高原沼の向こうに見えるはずの緑岳が全く見えなかったからでしょう。やはり高原沼は、紅葉とともに、沼の向こうに聳える青空をバックにした緑岳をともに見なければ来た甲斐がないというべきものでしょう。その点今回はまさに願ったとおりの素晴らしい光景を目にすることができたのでした。青い湖水を囲む真っ赤な紅葉。それはさらに遠く空沼の方まで続いています。さらにそのはるか遠くに緑岳が、望んだとおりに真っ青な空をバックに聳えています。この景色が見たくて、この日まで待ってやって来たと言っていいでしょう。それくらい素晴らしい景色でした。

高原沼は沼を一周しない人が折り返す地点で、大学沼とともに昼食を食べて良い場所だったため、多くの人が休んでおり、ゆっくりできないため、写真を撮った後に空沼に向けて歩き始めました。途中草原の向こうに緑岳が聳えるのが見える場所がありました。その辺りまで来ると人はほとんどいなくなります。草原を下ると登山道が高原沼のほとりに出るところがあります。こんなところがあったとはすっかり忘れていました。

空沼に下る途中に、三笠新道への分岐点があります。ここは6月の残雪期にしか歩けないルートです。その時期以外はルート上がヒグマのえさ場になってしまい歩くことができないのです。だからこの日も立ち入ることができないのですが、分岐点から新道の方を見ると、真っ赤なチングルマで彩られた素晴らしい岩場があり、周囲を真っ赤に紅葉したナナカマドが取り囲んでいます。あの岩場には間違いなくナキウサギがいるはずです。少なくともこの岩場くらいまでは入らせてもらえないのでしょうか?しかし、分岐点にはヒグマ情報センターの監視員がおり、立ち入ることができません。

やむなくそこから空沼へ向かって下っていきました。右側の斜面は見事なナナカマドとダケカンバで彩られています。空沼は6,7月の頃は雪解け水がたまって立派な沼になっているのですが、8,9月になると水が無くなり、一面の草原となる変わった沼です。周囲はこれまでの沼と同様に見事な紅葉で囲まれているのですが、沼が美しい緑の草原となっており、その対比が美しい。さらにこの日は真っ青な青空の下。空沼への下り口で見た、真っ青な空と緑の草原、真っ赤な紅葉のコントラストは見事の一言でした。

登山道は池の縁を巡るように付けられているのですが、途中真っ白な岩が点在し、水がたまっているところがあります。その辺りは紅葉と緑の草と白い石とたまった水が、まるで自然の日本庭園を形作っているかのようでした。沼の端まで来て振り返ると、空沼の周りの紅葉と高根ヶ原の絶壁、そしてその上の青い空が美しかったです。

空沼を過ぎると、登山道から見られる沼はもうありません。あとはひたすら樹林帯を歩きます。しかし、どこも皆紅葉がまさに見頃で、美しい景色が現れるたびに足を止めて写真を写しました。特に空沼を過ぎて間もなく現れる草原にはリンドウがちょうど見頃でした。谷川の流れ(22年前に来たときに、一緒だった井上好美さんが沢を渡りそこなって沢に落ち、一緒に来ていた人と引っ張り上げたのを思い出しました)と紅葉の取り合わせも見事でした。雪壁温泉の上でもやはり視界が開け、振り返ったときの紅葉が素晴らしかったです。ヤンベダップ温泉のところでもとの登山道に合流するのですが、そのあたりはカエデとダケカンバの黄葉がきれいでした。

時間があれば再度緑沼まで行こうと思いました。しかし、朝最初に見たときの感動を壊したくなかったし、この青空の下、22年前と同じように緑岳の第二花園辺りまで登りたいと思ったので、思いを振り切って登山口に戻りました。ヒグマ情報センターまで戻ると4時間経っていました。コースタイムを1時間ほどオーバーしていましたが、あれだけ写真を撮したのだから当然のことでしょう。

駐車場に戻らず、そのまま緑岳に向かいました。正面の紅葉は本当に素晴らしい。そして、毎度のごとく最初の樹林帯の登りはきつい。ここを45分ほど我慢して登り続けると目の前が開け、緑岳がばーんと目の前に姿を現します。そして少し行くと間もなく第一花園です。草紅葉もチングルマもちょうど見頃です。振り返ると常緑樹の中に点在するダケカンバの黄色が鮮やかです。22年前は緑岳の紅葉は終わりかけていましたが、このダケカンバの黄色は印象深かったです。それをもう一度見たかったのです。時間に限りもあったので、第二花園まで行って引き返しました。

振り返ると正面はるか遠くに聳えるのは、ここでもやはり音更山、石狩岳、そして高原温泉沼巡りでは見えなかったニペソツ山でした。既に午後になっていましたが、この日は空に雲も出ず、山にも雲はかからず、1日本当によい天気でした。ニペソツ山の山頂でも素晴らしい眺望に恵まれたことでしょう。登山道が再び樹林帯に入り、これからいよいよ視界が遮られようとするとき、最後に私の目に入ってきたのはニペソツ山でした。ニペソツ山も4度も登っていながら、実はまだ快晴の下に登れていない心残りの山なのです。トムラウシは2度目でそれを実現しましたが、二ペソツ山はまだです。北海道に唯一残した宿題を挙げるとすれば、これでしょう。そしてそれがいつのことになるのか、今の私にはわかりません。

足早に下山し、シャトルバスを一本見送り、帰りは席に座って帰りました。黒岳の湯で汗を流し、あとはひたすら車を運転して旭川空港へ向かいました。途中から旭岳が姿を現したが、やはり雲はかかっていません。少し南下すると、トムラウシと十勝岳連峰が見えてきました。遠く夕日に照らされたトムラウシ。五色ヶ原から見たトムラウシとはずいぶん形が違い、一見するとそれとはわからないくらいですが、位置的には間違いなくトムラウシです。あの山に2度登頂したのです。あの8月の晴れ渡った空の下登頂したときのことを今でもはっきり覚えています。トムラウシに登る機会はあるのでしょうか。そんなことを考えているうちに日は沈み、山も見えなくなりました。美瑛まで足を伸ばし、山頭火でラーメンを食べ、中国人でごった返す旭川空港から羽田まで飛び、午前1時過ぎに帰宅しました。

ゆわんと村もなくなり、大雪山のおおかたの山を登り尽くし、美しい景色・紅葉・高山植物を目にした私は、もう大雪山に行くことはないでしょう(東大雪のニペソツ山だけは、快晴の日にまた登ることがあるかも知れない)。今回の旅は、私にとって大雪山との決別の旅でもありました。さらば大雪山!
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高妻山

2015-10-13 22:47:12 | 旅行記


10月6日に長野にある高妻山に登ってきました。もちろん百名山の一つです。高妻山の裏側にある火打山に以前登ったときは雲がかかっていて、この高妻山は見えなかったのですが、昨年4月にあんずの里に行ったとき、満開の杏の花が咲くはるか遠くに、雪をかぶったとがった山容が見え、それが高妻山だとわかってからは、いつか登らなくてはと思っていた山でした。

高妻山は登山道が1本しかなく、また斜度がきつく混雑する山だと聞いていたので、秋の天気の良い平日に登りたいと考えていました。6日は休みを取ってあったのですが、幸い晴れの予報。自宅を4時半に出て高速をとばし、信濃町インターで下りて、登山口の戸隠牧場を目指しました。駐車場には20台ほどの車が停まっています。ちょうど紅葉が見頃のシーズンということもあり、平日でも結構な数の人が登っていそうです。

高妻山は元は五地蔵ルート一本しかなかったのですが、実は数年前に東側の弥勒尾根から登るルートができたとの情報をネットで得たので、このルートを使うことにしました。この弥勒尾根のルートはひたすら登るだけのルートとのことでしたが、新しいルートということもあってよく整備され、登りが得意な私には、やや眺望には恵まれないようでしたが、折から紅葉のシーズンということもあるので、紅葉を楽しみながら問題なく登れそうに思えました。

牧場の中を歩いて小さな沢を渡ると弥勒尾根に取り付きます。ここからは樹林帯をひたすら登るだけです。幸い木の根を乗り越えていくばかりで、岩はほとんどなく、かなり登りやすいです。尾根筋に沿って付けられた登山道ですが、ところによっては左右がすっぱり切れ落ちた幅の狭いところを渡っていかなければならないところもあって、結構スリルを味わえました。しかし、紅葉はまさに見頃で、特にダケカンバとカエデの黄色、ドウダンツツジとモミジの赤が素晴らしかったです。残念ながら登山口では快晴だったものの、次第に雲が出てきて、途中からは晴れたり曇ったりという感じでした。

二時間ほどで六弥勒(高妻山は戸隠山信仰に連なる信仰の山で、登山口の一不動から山頂の十薬師まで、十カ所の祠が設けられ、それがそのまま合目も表しています)に着きました。ここは五地蔵ルートとの合流地点になります。ここからルートは一本だけになり、山頂へと続きます。六弥勒からはようやく目指す高妻山が姿を現します。遠くからは鋭く聳える山容が印象的ですが、六弥勒から見る高妻山は、どっしりとした姿が印象的でした。その右側の稜線に、まっすぐ山頂に向かって延びる登山道が付けられています。遠く芥子粒くらいの大きさに登っていく人が見えましたが、近いように見えて実に遠いことがわかります。しかもその斜度のきつさときたら。深田久弥が「実に長かった」と嘆いたほどの急登が待ちかまえているわけです。しかし、ここまで来たら引き返すわけにはいきません。頑張って稜線の取り付きまで向かいました。

しかし、六弥勒からはいったん下るのです。しかもかなり下ります。疲れたところでこの登りはうんざりするなぁと思いながら下っていくのですが、その辺りの紅葉が特に素晴らしいので、何とかそれに慰められつつ鞍部まで下りました。九勢至までの登り返しは岩場も多くかなりきつかったのですが、やはり紅葉が美しく、何とか我慢して登り続けました。そして九勢至に着くと一気に視界が開け、目の前に山頂へ向かう最後の登りの斜面が立ちはだかりました。六弥勒から見ると、とがった山容の一番高いところが山頂のように見えたのですが、九勢至から見るとさらに音妻山の方にまで稜線が続いており、本当の山頂はそこにあるように思われました。

最後の登りは、登り口から見るとさほど距離はなさそうに見えるのですが、上部にいる人がかなり小さく見えるところからすると、相当な距離があるように思われます。コースタイムでも1時間とあるので、やはり相当な距離があるように思われます。しかし、登山道はほとんど直登で、上に行くにつれて相当斜度がきつくなることが予想されました。

登り始めると予想通り、笹の間に付けられた道はぬかるんで滑りやすい上に、足場となる岩も少なく、つかまる枝や木もほとんどなく、今まで経験したことがないほどの登りにくさです。しかも予想通り、上に行くにつれて斜度がどんどんきつくなります。登山客の中では比較的遅い時間に登り始めたので、既に下ってくる人もけっこうあり、すれ違うときにはよけるところもなく困りました。40分ほど我慢して登り続けましたが、最後の辺りは少し休んでは登り、の繰り返しで、山頂へ連なる稜線に着いたときにはすっかりへろへろになっていました。

そこからは岩がごろごろした稜線歩きをして、10分ほどで山頂に着きました。4時間かかり、コースタイムよりも少し早い程度でした。山頂は大きな岩がごろごろと積み重なったところで、山容の割には意外と広く、座るところもたくさんありました。南側には戸隠山の偉容が、北には乙妻山が並んでいます。本当ならその向こうに焼山・火打山・妙高山と連なる頸城三山が、西には雨飾山の向こうに白馬三山が見えるはずなのですが、雲がかかって何も見えません(3日前に登った教え子は、快晴の空の下、山頂から素晴らしい眺望を堪能したそうです)。いつものように湯を沸かしてラーメンを食べ、写真を写しました。

今日は時間も割と遅いので、下りる時間のことも考えて山頂では30分ほど滞在して下山することにしました。下りが苦手なので、当初は五地蔵ルートを下るはずでしたが、帰りも弥勒尾根を下ることにしました。山はすっかり雲に覆われてしまい、眺望も聞かないので、ひたすら下りました。幸い弥勒尾根は斜度は急でも登りやすいルートなので、私としては快調に飛ばすことができました。戸隠牧場に着くと3時間経っていました。牧場からは、山頂では雲に隠れて見えなかった飯縄山がきれいに見えました。飯縄山、黒姫山、妙高山と、古い順に火山が並んでいますが、皆同じように元の火山の山頂部分に小さな新しい火山が盛り上がっている形をしているのが興味深かったです。

高妻山は日帰りで登った山では1,2を争うハードな山で、時間もかかりました。百名山に入っていなかったら、恐らく登っていなかっただろうと思います。帰りには妙高の池ノ平の温泉に入って帰りました。やはり7時間半もかかったので、いつもよりも帰宅が遅くなってしまいました。
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