桑の海 光る雲

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いま、風が吹いている~向田邦子没後40年特別イベント~

2021-01-26 16:19:15 | 日記・エッセイ・コラム
どうしても行きたかった向田邦子没後40周年記念イベントへ、無理して出掛けてきました。
会場のカフェで、かつて向田邦子が妹に営ませていた居酒屋・ままやのメニューをアレンジした、ままやセットをいただきました。限定30食なので、これを食べたくて開店に合わせて並びました。それでも18番目でした。カレーはすりおろした野菜の甘味が優しい味。名物のニンジンのピリ煮とサツマイモのレモン煮は、あっさりしすぎていてちょっと物足らなかったです。ままやはもう20年以上前に閉店してしまったけれど、私が社会人になったときにはまだ営業していたので、一度行っておけば良かったと、今になって改めて後悔。
展示品は自筆原稿と蔵書、衣類と所蔵していた美術品、使用していた食器などの器類。多くはかつて仙台や東京で開かれた展覧会や、かごしま近代文学館で見たことのあるものだったけれど、今回の展覧会では、衣服は展示ケースに入れられず直に吊るしてあり、美術品も額のまま壁に掛けられていて、とても近くで見られたのが感激でした。遺品の多くはかごしま近代文学館が所蔵していますが、蔵書は向田邦子の母校の実践大学に所蔵されています。また、特に愛用していた服や愛蔵していた美術品は、現在でも妹さんが自宅に置いているはずです。これらを併せて見ることができる機会はなかなかないので、とてもありがたかったです。
会場の奥には天井から吊るされたたくさんの糸で囲まれたスペースがあり、そこでは向田邦子が残した留守番電話のメッセージを聞くことができました。その横には大きな脚立のような装置が置かれ、係員が動かすと、上の方から向田邦子の名言を印刷した細長い紙が降ってくる仕掛けとなっていました。観客はその紙をもらうことができます。私も直木賞をもらったときのコメントを記したものと、向田邦子の言葉で一番好きな「叶わぬ夢も多いが、叶う夢もあるのである。」を記したものをもらってきました。
本来このイベントは、トークショーやコンサートなどの有料イベントが中心で、展示は添え物的な意味合いだったようですが(展示は入場無料であることもそれを表しています)、それらのイベントはすべて配信となり、実際に足を運べるイベントはこの展示だけということとなり、特に今日の午後は雨の中行列もできていたようです。約一時間滞在して展示品をじっくり見た後、近所にある向田邦子が住んでいたマンション(いよいよ取り壊されるとのこと)を一周して目に焼き付けました。
向田邦子が亡くなって今年で40年にもなるのに、会場には若い人が多く訪れていました。死後これほど経っても多くの人に愛され、新たな読者を得続ける作家はほとんどいないでしょう。そうした向田邦子の魅力を思うとき、妻子を捨ててまで向田邦子を追い求め続けた、恋人のN氏のことを思わずにはおれません。一方で、向田邦子もN氏の思いに応えていたことは、今日も展示されていましたが、死後に膨大な数残されていた、N氏が撮したとおぼしき、向田邦子の若い頃の写真の、撮影者に身も心も任せきった表情を見れば明らかです。女性ファンの方がずっと多い向田邦子に、異性ながらこれまで30年以上にわたって惹かれ続けてきた私には、そうしたN氏の気持ちがわずかばかりでも理解できたような気がしました。
今年は向田邦子没後40年。夏には多磨霊園にも足を伸ばしてみようかと思っています。












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