登り始めは樹林帯の中をひたすら進んでいった。斜度はそれほどでもなく、息が上がるということもない。途中から木道が始まるが、尾瀬ヶ原などと違ってあまり整備はされておらず、ちょっと歩きにくい。
木道を歩くと間もなく稜線に出、森林限界を超える。出発時はやや曇っているように思えた空は、すっかり晴れ渡り、一面の青空である。この先の山行が期待された。
尾根筋に付けられた登山道からは、東に燧ヶ岳が雄大に聳えている。そのまま南に視線を移動させると、日光白根山と皇海山の高みがはっきりと見て取れる。西はやや雲が目立つが、山の名前はわからないものの、谷川連峰の山々がずらりと並んでいる。
登山道の左右のあちこちには小さな地塘と湿原があり、真っ白なワタスゲが沢山咲いている。更に進んでいくと、小至仏山にさしかかる。登山道は小至仏山の山頂を通らず、その山腹をトラバースしているのだが、そのトラバースしている登山道の周囲が、素晴らしいお花畑となっていた。
お花畑には、チングルマ、ハクサンイチゲ、シナノキンバイ、そして尾瀬、中でも至仏山特産のオゼソウが一面に咲いているのである。家を出てまだ3時間ほどしか経っていないのに、こんなにも素晴らしい高山植物のお花畑を見ることができた感動は筆舌に尽くせないほどであった。ただ、至仏山は特殊な岩石から形成されているからか、これだけのお花畑でありながら、花の種類は少なく、また白と黄色の花ばかりであったのが印象的であった。
お花畑に感動し、帰りはこの道を通らないので、少し後ろ髪を引かれつつ、山頂へ向かって進んでいった。