子供の頃、NHKの夜7時前の関東地方のニュースの天気予報で、毎年7,8月に「山の天気」を伝えていた。私はその頃からそこで言われる山々に遠く思いをはせていたが、まさか実際に登ることになろうとは、その頃は思ってもみなかった。
その中に「秩父の雲取・三峯方面」があった。「八ヶ岳」とか「谷川岳」「立山」などは「山」「岳」が付くのに、「雲取」「三峯」とは「山」なのか「岳」なのかわからずにいた。後に地図帳で「雲取」とは「雲取山」であることを知った。というわけで、雲取山の名前は、私が子供の頃から耳なじんだものであった。
百名山に登り始め、ガイドを買ったところ、雲取山は泊まりで登らなければならない山だとわかり、また登山口までのアプローチがよくないので、自然と足が遠のいてしまっていた。しかし、同じようにアプローチが悪く泊まりで登らなければならないと、同じガイドに書かれていた、お隣の甲武信岳が、実はガイドに載っているのとは別の容易なルートがあることをネットで知り、実際にたやすく登頂できたので、雲取山もよく調べてみると、埼玉県の三峯神社からだと、距離は往復で20キロ強と長いものの、日帰り登山が可能であることがわかった。しかも三峯神社までは、関越道を使えば群馬からは遠くない。そこで、今年の登山の締めくくりとして雲取山に登ることに決めた。
関越道を下りて一路秩父を目指し、秩父の町を抜けると一気に山間の道となり、途中崖崩れで不通になっている道を迂回して、登山口の三峯神社の駐車場に着いたのは5時半であった。駐車場に停められた車は皆結露しており、雲取山荘で泊まった登山者の車のようであった。私のように日帰りで登ろうとする人は他にはいないようであった。やはり三峯神社からのルートは距離が長いので、日帰りの人はあまりいないのであろう。
5:50に出発した。空は見事に晴れ渡り、山頂では素晴らしい眺望が期待できた。恐らく初冠雪の富士山も見られるだろうと期待された。最初は杉林の中の歩きやすい緩やかな斜度の道を延々登っていく。しばらくすると周囲が広葉樹林となり明るくなってきて、雲取山に続く稜線に出る。すると間もなく目の前に建物が見えてきた。霧藻ヶ峰の休憩小屋である。その手前で、何と登山道にほうきの掃き目がある。なぜこんなところだけ、と思って見上げると、霧藻ヶ峰の命名者である秩父宮(昭和天皇の弟)のレリーフがあった。横には秩父宮后のレリーフも並んでいる。休憩小屋の管理人が毎朝こうしてレリーフの下の登山道にほうきの掃き目を入れているものと思われた。
休憩小屋には7時に着いた。小屋の前からは、昨年8月に登頂した両神山が眺められた。両神山は、登っている間にその姿を眺めることができない山である。ゴツゴツした峰峰が続く独特の山容をしているのだが、その全体はこうした離れた山からしか眺めることができないのである。小屋からは管理人の朝食の味噌汁か何かの香りが流れてくる。ここで5分ほど休んですぐ出発した。
せっかく登ってきたのに、ここからお清平までひたすら下る。お清平から今度は前白岩山まで登り返す。前白岩山には8時に着いた。前白岩山からさらに白岩山まで登り詰める。霧藻ヶ峰から白岩山あたりまではちょうど紅葉が見頃で、特に他の木々の多くが葉を落としている中、ドウダンツツジとカエデは真っ赤に紅葉していてきれいだった。
白岩山まで登り詰めた分、大ダワまで標高差にして200メートル近くをまた下ってしまう。斜度はそれほどきつくはないが、意外とアップダウンがある。その距離が長いためにアップダウンはあまり気にならないが、疲れのたまった帰りはかなりきついだろうなと思われた。
大ダワから雲取山荘までの登りはなかなかハードであった。途中雲取ヒュッテの廃屋があったが、現在では雲取山の三峯ルートの小屋で営業しているのは雲取山荘のみとのことである。雲取山荘で小休止をし、甘いものを口に入れた。ここで甘いものを食べたのは正解で、この後山頂まで距離は短かったもののかなりの斜度があってきつかった。
雲取山荘から山頂までは見通しの利かない樹林帯が続いたが、樹林帯からひょっこりと出た山頂は広々として明るかった。山頂には10:18着。登り始めて約4時間半かかった。コースタイムよりは1時間ほど短縮できた。岩がゴロゴロ積み重なった山頂はあまり眺望に恵まれず、西の方角が見通せただけだった。残念ながら雲がかなり出てきてしまっており、遠くの山々は見通せなかったが、以前登った甲武信岳は眺めることができた。山頂に一本だけあるマユミの木の実が美しかった。
それにしても東京からも近い百名山、秋のこれだけ天気の良い日なのに、山頂にいる人がとても少ないのが信じられない。もっと混雑していると思っていたのが、考えてみると、雲取山は日帰りで登るにはややきつい山である。多くの人は雲取山荘に泊まって1泊2日で登る。山荘に泊まった人は朝食後に(あるいは前日のうちに)登頂しており、この時間には皆下山しているので、これだけ人が少ないのだった。私が三峯神社から登ってくる間に追い越した人はほとんどいないので、この時間に山頂にいる人は皆奥多摩方面から登ってきた登ってきた人だろうと思われた。
山頂標のところではかろうじてカメラをお願いできたので撮してもらったが、先日の巻機山同様、お願いした人が思い通りの写真を撮してくれたのがありがたかった。
山頂から少し南に移動すると避難小屋がある。ここにも岩場があり、休憩するのにはちょうど良い。本来ならここから富士山や丹沢山が見えるのだが、あいにくその方向には雲がかかっており、前日のニュースで初冠雪が報道されていた富士山を見ることはかなわなかった。
さて、昼飯にしようと食料を取り出し始めたところで大変なことに気付いた。何とバーナーを忘れてしまったのである。いつもはコッヘルの中に入れているのだが、巻機山に登ったときにコッヘルでラーメンを煮て食べ、洗うときにバーナーを別にしたままにして、忘れてきてしまったのだった。これではせっかく用意してきたカップの蕎麦も食べられないし、コーヒーも飲めない。実は今回の登山では、先頃大枚はたいて購入したタイツも履き忘れてきており、重大な忘れ物を立て続けにしてしまうという、ある意味では私らしい事態が重なってしまったのだった。
仕方なく冷たいお茶を飲みながらおにぎり2個を食べ、早々に下山することに決めた。富士山も見えないのでは仕方がない。周囲を見渡すと、カラマツが紅葉し始めている。よく知られた、広々とした登山道が奥多摩方面へ続いているのが見えた。
山頂には30分ほどいて、10:47には出発した。この後は時間だけを示そう。11:07に雲取山荘。何か食事ができるかと思ったら出していないとのことだった。登りには緩やかな女坂を通ったので、帰りはややきつい男坂を通って、大ダワに11:26着。この辺りから再び紅葉がきれいになり出す。ドウダンツツジとカエデの赤は相変わらずきれいだ。白岩山への登り返しはかなりきつかった。12:14に白岩山着。ここから少し下って前白岩山に12:46着。ここからさらに下り、お清平まで一気に下り、ここから最後の登り返しを登って、霧藻ヶ峰に13:38着。ここで最後の小休止。朝は日が当たっていなくてさほどきれいとも思わなかった、小屋の前の紅葉がきれいだった。ここからはだんだん日も傾いてきて、気温が下がってくると思われたのでかなり飛ばし、14:45に登山口に着いた。
下山はちょうど4時間。往復で21.4kmだった。これだけの距離を1日で歩いたのは、アルプス方面での縦走を除けば、大清水から往復した燧ヶ岳以来ではないかと思われる。ただ、距離は長くてもあまり斜度がきつくなかったので、へばったという感じはしなかった。下山後は道の駅大滝温泉で汗を流した。もう少し早く出発・下山できていれば、秩父の阿佐美冷蔵でかき氷が食べられたのにと、ちょっと残念だった。
その中に「秩父の雲取・三峯方面」があった。「八ヶ岳」とか「谷川岳」「立山」などは「山」「岳」が付くのに、「雲取」「三峯」とは「山」なのか「岳」なのかわからずにいた。後に地図帳で「雲取」とは「雲取山」であることを知った。というわけで、雲取山の名前は、私が子供の頃から耳なじんだものであった。
百名山に登り始め、ガイドを買ったところ、雲取山は泊まりで登らなければならない山だとわかり、また登山口までのアプローチがよくないので、自然と足が遠のいてしまっていた。しかし、同じようにアプローチが悪く泊まりで登らなければならないと、同じガイドに書かれていた、お隣の甲武信岳が、実はガイドに載っているのとは別の容易なルートがあることをネットで知り、実際にたやすく登頂できたので、雲取山もよく調べてみると、埼玉県の三峯神社からだと、距離は往復で20キロ強と長いものの、日帰り登山が可能であることがわかった。しかも三峯神社までは、関越道を使えば群馬からは遠くない。そこで、今年の登山の締めくくりとして雲取山に登ることに決めた。
関越道を下りて一路秩父を目指し、秩父の町を抜けると一気に山間の道となり、途中崖崩れで不通になっている道を迂回して、登山口の三峯神社の駐車場に着いたのは5時半であった。駐車場に停められた車は皆結露しており、雲取山荘で泊まった登山者の車のようであった。私のように日帰りで登ろうとする人は他にはいないようであった。やはり三峯神社からのルートは距離が長いので、日帰りの人はあまりいないのであろう。
5:50に出発した。空は見事に晴れ渡り、山頂では素晴らしい眺望が期待できた。恐らく初冠雪の富士山も見られるだろうと期待された。最初は杉林の中の歩きやすい緩やかな斜度の道を延々登っていく。しばらくすると周囲が広葉樹林となり明るくなってきて、雲取山に続く稜線に出る。すると間もなく目の前に建物が見えてきた。霧藻ヶ峰の休憩小屋である。その手前で、何と登山道にほうきの掃き目がある。なぜこんなところだけ、と思って見上げると、霧藻ヶ峰の命名者である秩父宮(昭和天皇の弟)のレリーフがあった。横には秩父宮后のレリーフも並んでいる。休憩小屋の管理人が毎朝こうしてレリーフの下の登山道にほうきの掃き目を入れているものと思われた。
休憩小屋には7時に着いた。小屋の前からは、昨年8月に登頂した両神山が眺められた。両神山は、登っている間にその姿を眺めることができない山である。ゴツゴツした峰峰が続く独特の山容をしているのだが、その全体はこうした離れた山からしか眺めることができないのである。小屋からは管理人の朝食の味噌汁か何かの香りが流れてくる。ここで5分ほど休んですぐ出発した。
せっかく登ってきたのに、ここからお清平までひたすら下る。お清平から今度は前白岩山まで登り返す。前白岩山には8時に着いた。前白岩山からさらに白岩山まで登り詰める。霧藻ヶ峰から白岩山あたりまではちょうど紅葉が見頃で、特に他の木々の多くが葉を落としている中、ドウダンツツジとカエデは真っ赤に紅葉していてきれいだった。
白岩山まで登り詰めた分、大ダワまで標高差にして200メートル近くをまた下ってしまう。斜度はそれほどきつくはないが、意外とアップダウンがある。その距離が長いためにアップダウンはあまり気にならないが、疲れのたまった帰りはかなりきついだろうなと思われた。
大ダワから雲取山荘までの登りはなかなかハードであった。途中雲取ヒュッテの廃屋があったが、現在では雲取山の三峯ルートの小屋で営業しているのは雲取山荘のみとのことである。雲取山荘で小休止をし、甘いものを口に入れた。ここで甘いものを食べたのは正解で、この後山頂まで距離は短かったもののかなりの斜度があってきつかった。
雲取山荘から山頂までは見通しの利かない樹林帯が続いたが、樹林帯からひょっこりと出た山頂は広々として明るかった。山頂には10:18着。登り始めて約4時間半かかった。コースタイムよりは1時間ほど短縮できた。岩がゴロゴロ積み重なった山頂はあまり眺望に恵まれず、西の方角が見通せただけだった。残念ながら雲がかなり出てきてしまっており、遠くの山々は見通せなかったが、以前登った甲武信岳は眺めることができた。山頂に一本だけあるマユミの木の実が美しかった。
それにしても東京からも近い百名山、秋のこれだけ天気の良い日なのに、山頂にいる人がとても少ないのが信じられない。もっと混雑していると思っていたのが、考えてみると、雲取山は日帰りで登るにはややきつい山である。多くの人は雲取山荘に泊まって1泊2日で登る。山荘に泊まった人は朝食後に(あるいは前日のうちに)登頂しており、この時間には皆下山しているので、これだけ人が少ないのだった。私が三峯神社から登ってくる間に追い越した人はほとんどいないので、この時間に山頂にいる人は皆奥多摩方面から登ってきた登ってきた人だろうと思われた。
山頂標のところではかろうじてカメラをお願いできたので撮してもらったが、先日の巻機山同様、お願いした人が思い通りの写真を撮してくれたのがありがたかった。
山頂から少し南に移動すると避難小屋がある。ここにも岩場があり、休憩するのにはちょうど良い。本来ならここから富士山や丹沢山が見えるのだが、あいにくその方向には雲がかかっており、前日のニュースで初冠雪が報道されていた富士山を見ることはかなわなかった。
さて、昼飯にしようと食料を取り出し始めたところで大変なことに気付いた。何とバーナーを忘れてしまったのである。いつもはコッヘルの中に入れているのだが、巻機山に登ったときにコッヘルでラーメンを煮て食べ、洗うときにバーナーを別にしたままにして、忘れてきてしまったのだった。これではせっかく用意してきたカップの蕎麦も食べられないし、コーヒーも飲めない。実は今回の登山では、先頃大枚はたいて購入したタイツも履き忘れてきており、重大な忘れ物を立て続けにしてしまうという、ある意味では私らしい事態が重なってしまったのだった。
仕方なく冷たいお茶を飲みながらおにぎり2個を食べ、早々に下山することに決めた。富士山も見えないのでは仕方がない。周囲を見渡すと、カラマツが紅葉し始めている。よく知られた、広々とした登山道が奥多摩方面へ続いているのが見えた。
山頂には30分ほどいて、10:47には出発した。この後は時間だけを示そう。11:07に雲取山荘。何か食事ができるかと思ったら出していないとのことだった。登りには緩やかな女坂を通ったので、帰りはややきつい男坂を通って、大ダワに11:26着。この辺りから再び紅葉がきれいになり出す。ドウダンツツジとカエデの赤は相変わらずきれいだ。白岩山への登り返しはかなりきつかった。12:14に白岩山着。ここから少し下って前白岩山に12:46着。ここからさらに下り、お清平まで一気に下り、ここから最後の登り返しを登って、霧藻ヶ峰に13:38着。ここで最後の小休止。朝は日が当たっていなくてさほどきれいとも思わなかった、小屋の前の紅葉がきれいだった。ここからはだんだん日も傾いてきて、気温が下がってくると思われたのでかなり飛ばし、14:45に登山口に着いた。
下山はちょうど4時間。往復で21.4kmだった。これだけの距離を1日で歩いたのは、アルプス方面での縦走を除けば、大清水から往復した燧ヶ岳以来ではないかと思われる。ただ、距離は長くてもあまり斜度がきつくなかったので、へばったという感じはしなかった。下山後は道の駅大滝温泉で汗を流した。もう少し早く出発・下山できていれば、秩父の阿佐美冷蔵でかき氷が食べられたのにと、ちょっと残念だった。