桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

雲取山

2014-10-26 00:12:34 | 旅行記
子供の頃、NHKの夜7時前の関東地方のニュースの天気予報で、毎年7,8月に「山の天気」を伝えていた。私はその頃からそこで言われる山々に遠く思いをはせていたが、まさか実際に登ることになろうとは、その頃は思ってもみなかった。

その中に「秩父の雲取・三峯方面」があった。「八ヶ岳」とか「谷川岳」「立山」などは「山」「岳」が付くのに、「雲取」「三峯」とは「山」なのか「岳」なのかわからずにいた。後に地図帳で「雲取」とは「雲取山」であることを知った。というわけで、雲取山の名前は、私が子供の頃から耳なじんだものであった。

百名山に登り始め、ガイドを買ったところ、雲取山は泊まりで登らなければならない山だとわかり、また登山口までのアプローチがよくないので、自然と足が遠のいてしまっていた。しかし、同じようにアプローチが悪く泊まりで登らなければならないと、同じガイドに書かれていた、お隣の甲武信岳が、実はガイドに載っているのとは別の容易なルートがあることをネットで知り、実際にたやすく登頂できたので、雲取山もよく調べてみると、埼玉県の三峯神社からだと、距離は往復で20キロ強と長いものの、日帰り登山が可能であることがわかった。しかも三峯神社までは、関越道を使えば群馬からは遠くない。そこで、今年の登山の締めくくりとして雲取山に登ることに決めた。

関越道を下りて一路秩父を目指し、秩父の町を抜けると一気に山間の道となり、途中崖崩れで不通になっている道を迂回して、登山口の三峯神社の駐車場に着いたのは5時半であった。駐車場に停められた車は皆結露しており、雲取山荘で泊まった登山者の車のようであった。私のように日帰りで登ろうとする人は他にはいないようであった。やはり三峯神社からのルートは距離が長いので、日帰りの人はあまりいないのであろう。

5:50に出発した。空は見事に晴れ渡り、山頂では素晴らしい眺望が期待できた。恐らく初冠雪の富士山も見られるだろうと期待された。最初は杉林の中の歩きやすい緩やかな斜度の道を延々登っていく。しばらくすると周囲が広葉樹林となり明るくなってきて、雲取山に続く稜線に出る。すると間もなく目の前に建物が見えてきた。霧藻ヶ峰の休憩小屋である。その手前で、何と登山道にほうきの掃き目がある。なぜこんなところだけ、と思って見上げると、霧藻ヶ峰の命名者である秩父宮(昭和天皇の弟)のレリーフがあった。横には秩父宮后のレリーフも並んでいる。休憩小屋の管理人が毎朝こうしてレリーフの下の登山道にほうきの掃き目を入れているものと思われた。

休憩小屋には7時に着いた。小屋の前からは、昨年8月に登頂した両神山が眺められた。両神山は、登っている間にその姿を眺めることができない山である。ゴツゴツした峰峰が続く独特の山容をしているのだが、その全体はこうした離れた山からしか眺めることができないのである。小屋からは管理人の朝食の味噌汁か何かの香りが流れてくる。ここで5分ほど休んですぐ出発した。

せっかく登ってきたのに、ここからお清平までひたすら下る。お清平から今度は前白岩山まで登り返す。前白岩山には8時に着いた。前白岩山からさらに白岩山まで登り詰める。霧藻ヶ峰から白岩山あたりまではちょうど紅葉が見頃で、特に他の木々の多くが葉を落としている中、ドウダンツツジとカエデは真っ赤に紅葉していてきれいだった。

白岩山まで登り詰めた分、大ダワまで標高差にして200メートル近くをまた下ってしまう。斜度はそれほどきつくはないが、意外とアップダウンがある。その距離が長いためにアップダウンはあまり気にならないが、疲れのたまった帰りはかなりきついだろうなと思われた。

大ダワから雲取山荘までの登りはなかなかハードであった。途中雲取ヒュッテの廃屋があったが、現在では雲取山の三峯ルートの小屋で営業しているのは雲取山荘のみとのことである。雲取山荘で小休止をし、甘いものを口に入れた。ここで甘いものを食べたのは正解で、この後山頂まで距離は短かったもののかなりの斜度があってきつかった。

雲取山荘から山頂までは見通しの利かない樹林帯が続いたが、樹林帯からひょっこりと出た山頂は広々として明るかった。山頂には10:18着。登り始めて約4時間半かかった。コースタイムよりは1時間ほど短縮できた。岩がゴロゴロ積み重なった山頂はあまり眺望に恵まれず、西の方角が見通せただけだった。残念ながら雲がかなり出てきてしまっており、遠くの山々は見通せなかったが、以前登った甲武信岳は眺めることができた。山頂に一本だけあるマユミの木の実が美しかった。

それにしても東京からも近い百名山、秋のこれだけ天気の良い日なのに、山頂にいる人がとても少ないのが信じられない。もっと混雑していると思っていたのが、考えてみると、雲取山は日帰りで登るにはややきつい山である。多くの人は雲取山荘に泊まって1泊2日で登る。山荘に泊まった人は朝食後に(あるいは前日のうちに)登頂しており、この時間には皆下山しているので、これだけ人が少ないのだった。私が三峯神社から登ってくる間に追い越した人はほとんどいないので、この時間に山頂にいる人は皆奥多摩方面から登ってきた登ってきた人だろうと思われた。

山頂標のところではかろうじてカメラをお願いできたので撮してもらったが、先日の巻機山同様、お願いした人が思い通りの写真を撮してくれたのがありがたかった。

山頂から少し南に移動すると避難小屋がある。ここにも岩場があり、休憩するのにはちょうど良い。本来ならここから富士山や丹沢山が見えるのだが、あいにくその方向には雲がかかっており、前日のニュースで初冠雪が報道されていた富士山を見ることはかなわなかった。

さて、昼飯にしようと食料を取り出し始めたところで大変なことに気付いた。何とバーナーを忘れてしまったのである。いつもはコッヘルの中に入れているのだが、巻機山に登ったときにコッヘルでラーメンを煮て食べ、洗うときにバーナーを別にしたままにして、忘れてきてしまったのだった。これではせっかく用意してきたカップの蕎麦も食べられないし、コーヒーも飲めない。実は今回の登山では、先頃大枚はたいて購入したタイツも履き忘れてきており、重大な忘れ物を立て続けにしてしまうという、ある意味では私らしい事態が重なってしまったのだった。

仕方なく冷たいお茶を飲みながらおにぎり2個を食べ、早々に下山することに決めた。富士山も見えないのでは仕方がない。周囲を見渡すと、カラマツが紅葉し始めている。よく知られた、広々とした登山道が奥多摩方面へ続いているのが見えた。

山頂には30分ほどいて、10:47には出発した。この後は時間だけを示そう。11:07に雲取山荘。何か食事ができるかと思ったら出していないとのことだった。登りには緩やかな女坂を通ったので、帰りはややきつい男坂を通って、大ダワに11:26着。この辺りから再び紅葉がきれいになり出す。ドウダンツツジとカエデの赤は相変わらずきれいだ。白岩山への登り返しはかなりきつかった。12:14に白岩山着。ここから少し下って前白岩山に12:46着。ここからさらに下り、お清平まで一気に下り、ここから最後の登り返しを登って、霧藻ヶ峰に13:38着。ここで最後の小休止。朝は日が当たっていなくてさほどきれいとも思わなかった、小屋の前の紅葉がきれいだった。ここからはだんだん日も傾いてきて、気温が下がってくると思われたのでかなり飛ばし、14:45に登山口に着いた。

下山はちょうど4時間。往復で21.4kmだった。これだけの距離を1日で歩いたのは、アルプス方面での縦走を除けば、大清水から往復した燧ヶ岳以来ではないかと思われる。ただ、距離は長くてもあまり斜度がきつくなかったので、へばったという感じはしなかった。下山後は道の駅大滝温泉で汗を流した。もう少し早く出発・下山できていれば、秩父の阿佐美冷蔵でかき氷が食べられたのにと、ちょっと残念だった。










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巻機山

2014-10-09 23:07:11 | 旅行記
今年の夏は、日本中の山で天候に恵まれなかったとのこと。一方で、8月末に急激に気温が下がったために、紅葉が早く、また色づきも近年になく良いとのことで、今年の秋はどこに登ろうか考え、百名山の中でまだ登っていない、日帰りで行ってこられる山ということで、巻機山・武尊山・雲取山・妙高山・高妻山が候補に挙がりました。地元紙でも尾瀬の草紅葉の写真が掲載され、9月末には既に紅葉が見頃になると思われたので、9/28にどこかに登りに行こうと決め、天気も良さそうなので、駐車場が広くて日曜日でも心配がない山として、ひとまず雲取山と巻機山にしぼりました。

9/27に北海道つながりの友人が群馬までやって来てくれたので、お茶を飲みながら山の話をする中で、その友人のそのまた友人がその日谷川連峰に登っており、写真をUpしているのを見せてくれ、見事な紅葉だったので、友人からは紅葉の名所として知られる巻機山の方を勧められ、巻機山に登ることに決めました。その場でも御嶽山の噴火のことが話題に上りましたが、まさかあんな大惨事になっていたとは、その時はまだ知りませんでした。

9/28(日)
3時に起床、3時半に出発しました。高速を飛ばし、5時半前には駐車場に到着しました。奥の駐車場の存在に気付かず、手前の駐車場に駐めてしまいました。辺りはまだ薄暗く、7時に出発しようと、買ってきた朝食を食べて一眠りしようとしたのですが、胃袋が動き始めたのか一向に寝付けず、仕方なく6:15には出発しました。

ガイドではヌクビ沢を登るルートが紹介されていますが、登りやすい井戸尾根を往復することにしました。最初は広葉樹の樹林帯を登っていきます。7時には5合目に着きました。少し休んで間もなく出発したところで何と仕事関係の電話が入り、その対応に追われて足止めをくらい、6合目までけっこう時間がかかってしまい、せっかく追い抜いた団体(この日は天気の良い日曜日で、20人以上の団体が3つほど登っていました)にも再び追い越されてしまう始末でした。

6合目辺りから木々の間に天狗岩など対岸の山々が見えはじめます。高いところはかなり色づいている様子がうかがえます。その後は順調に登って、8:20には7合目に出ました、ここの紅葉は見事でした。ナナカマドは既に枯れていたり、色づきが悪かったりしていたのですが、ドウダンツツジの赤が特に見事でした。



8時半に8合目、9時に9合目(ニセ巻機)と、順調に登っていきます。その辺りになると今度は草紅葉が見えはじめます。確かに草紅葉は既に見頃で、あと1週間遅いと既に枯れてしまうところで、ちょうど良いタイミングでした。南には谷川岳と相向かいに聳える朝日岳に続く山並みが見えました。ニセ巻機からは山頂が望めるはずなのですが、既にガスがかかり始めています。この日は気温が高いとの予報で、確かに半袖で登っている人もけっこう見られます。私は長袖のアンダーシャツの上に半袖ポロシャツを着て登っていたのですが、ちょうど良かったです。



9合目からいったん下り、避難小屋に到着したのは9時半でした。トイレ休憩をして、いよいよ山頂に向けて最後のひと登りですが、ガイドには健脚向きと書かれていたものの、さほど疲れも感じてはおらず、小屋まで約4時間かかるというコースタイムよりも1時間以上短縮できました。もし仕事の電話が入らなければ、もっと早く登れたことだろうと思います。避難小屋のところで、ようやく山頂にかかっていたガスが切れ、草紅葉の斜面の向こうに、なだらかな山頂部分と、山頂に立つ沢山の人々の小さな姿が見えました。



避難小屋の前からいよいよ山頂に向けての登りが始まります。草紅葉の美しい稜線に敷かれた木道と階段を登りながら右手の山頂方向を見上げると、見事な草紅葉です。やがて池塘の点在する小さな湿原に出ました。湿原を過ぎるといよいよ最後の登りになります。先ほどまで山頂にかかっていたガスも晴れ、巻機山の本来の山頂のなだらかな姿と、割引岳の鋭い山頂が望めます。山頂標のある分岐点までは20分ほどの登りでした。巻機山の山頂標は、本来の山頂でなく、なぜかこの分岐点に立てられています。分岐点から北側には、本来越後三山が聳えているのが見えるはずなのですが、残念ながらちょうど標高2,000メートルほどの高さのところに一面に雲がたなびいており、見ることはできませんでした。





本来の山頂がある山は、美しく紅葉しています。山頂まで行く途中からは、今まで登ってきたルートがずっと見下ろせます。途中、ドンダンツツジが見事に真っ赤に紅葉したのが目に入り、思わず歓声を上げました。本来の山頂までは5分ほどで着いてしまいました。本来の山頂にはケルンがあるだけで、山頂であることを示すものは何もありません。しかも、本来の最高点はケルンから2,3メートルのところにあるのですが、登山道にロープが張ってあるために行くことができません。百名山に数えられる山の中では、草津白根山と並んで残念な山頂だと言えるでしょう。





山頂から少し離れた、朝日岳方面への分岐点に来ると、素晴らしい眺望が広がりました。残念ながら谷川岳や苗場山方面は見えませんが、未踏の武尊岳、赤城山、皇海山、日光白根山、至仏山、燧ヶ岳、そして未踏故にあこがれの遙かなる平ヶ岳が並んでいます。手前には奥利根湖の湖面も見えます。さすがに上越地域の最奥部だけあって、見渡す限り山山山です。牛ヶ岳に続く稜線を歩きながら、これらの山々の眺めを堪能しました。やがてガスが上がってきてしまったので本来の山頂に引き返し、越後三山が晴れるのを待ちましたが、残念ながら晴れることはなかったので、山頂標まで戻りました。本来の山頂と山頂標で写真を撮してもらいましたが、前回登った笠ヶ岳と異なり、お願いした人が一発で満足する写真を撮してくれたのは、ほとんど奇跡的でした。





避難小屋まで下り、ここで昼飯にしました。団体が去った静かな小屋の前でラーメンを作ってすすっていると、出発の時に見えたヘルメットの集団が登ってきました。話からすると、沢登りをしてきたとのこと。若い女性達だったのには驚きました。さらに私が出発する頃には、同じくヘルメットをかぶった若い男性のグループも登ってきました。どうやら有名な沢登りのルートがある模様です。

昼食後は登ってきた道をそのまま戻るだけでした。やはりガスの中に入ってしまって、行きの時よりも眺望には恵まれませんでしたが、曇り空の下で見る紅葉は、一段と赤さを増しているように見えました。あとはそのままひたすら下り、昼食休憩を入れてちょうど3時間で下山できました。登りも電話の騒ぎと避難小屋でのトイレ休憩、写真撮影の時間を除くと3時間ちょっとでしたから、ガイドブックには「健脚向き」とあるものの、私には普通の山に思えました。しかし、紅葉の名所であることは間違いなく、もう1週後に登れれば、中腹の紅葉がさぞかし見事だったろうに、と思いました。
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