桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

大雪の山々に登る⑪・音更山

2005-06-30 20:49:06 | 旅行記
今日は、昨日書いた石狩岳の北に隣接する音更山に、石狩岳に登った1年前に登った時のことを書いてみよう。なお、二つの山は隣接してはいるが、私は全く別のコースから登っている。
 
ニペソツ山に登るたび、北に見える石狩岳と音更山のどっしりとした山容を見て、いつか登ってみたいと思っていた。石狩岳は、あの深田久弥が下山時に一回転して転げ落ちたというシュナイダーコースに躊躇してしまい、今回は音更山に登ってみた。

層雲峡方面から三国峠を越える手前にある、ユニ石狩岳の登山口から入る。まずは樹林帯のなだらかなコースを行く。鳴兔園という、ナキウサギの生息地を通り過ぎ、視界が開けると、そこが大崩である。大崩とはその名のごとく、大きな岩がごろごろと積み重なったところである。大崩を過ぎたところで道は沢沿いに続く。

道が再び樹林帯に入って少しすると、ブヨ沢への短縮コースに入った。テープが付いており、小さな看板も下がっている。「熊に注意!」とある。熊よけ鈴を持ってきていないので、熊とおぼしき(?)足跡におののきながら、登っていった。

道はすぐ涸れた沢を登っていく。途中、テープを見失ってしまって、二股の沢を左に入ってしまい、文字通り獣道をかなり登ってしまった。踏み跡がブッシュに消えるに及んでようやく間違いに気づく始末。我ながら困ったものである。幸い時間にすると10分ほどしか経っていなかったので、すぐに本来の道に戻ることができた。後は淡々と登り、ブヨ沼に着いた。ここまでで、出発してからまだ1時間半ほどだった。

そこからの登りはかなりきつかった。稜線上にとりつくと,それまで見えていたニペソツ山、ウペペサンケ山、石狩岳に加え、表大雪の山々が眼前に広がる。風も心地よく、爽やかだ。ふり返ると、阿寒の山々まで見渡せる。しかし、トムラウシや十勝連峰は雲に隠れてしまっている。そんな眺めを楽しみながら登っていくと、音更山本体の手前にある小ピークにたどり着く。
 
道は再び下り、いよいよ音更山への最後の登りになる。樹林帯を過ぎると、道は尾根筋に出る。そこでようやく音更山の山頂を目にすることができる。尾根筋を15分ほど行くと、山頂にたどり着く。結局山頂まで2時間40分ほどで着いた。そんなに急いだつもりはないが、コースタイムに比べれば、かなり速く着いてしまったことになる。山頂にいた人たちは、皆シュナイダーコースから上がり、石狩岳を登頂し、音更山、十石峠をまわって下山するという。シュナイダーコースは下山路に使わない方がよい、とも聞いた。石狩岳への道はますます遠くなった。

山頂からの眺めは見事であった。表大雪、東大雪の山々が一望できる。トムラウシと十勝連峰はやはり目にすることは出来なかったが、この眺めを楽しめただけでも良しとしよう。
 
それにしてもニペソツ山の眺めは見事だった。まるで槍ヶ岳と見まごうばかりの鋭いピラミッドが天を刺すようにスッキリと立っている。そして、あの頂に3度も立ったことがあるかと思うと、まさに感慨無量であった。

石狩岳も、どっしりとした山容を見せている。山頂からの道は、吊尾根を通り、石狩岳へと続いている。もう少し早起きすれば、そして、今日ほど暑くなければ石狩岳まで行けたのだが、音更山までですっかり体力を使い果たし、気力も残っていなかったので、後ろ髪引かれつつ山頂を後にした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大雪の山々に登る⑩ 石狩岳

2005-06-29 22:36:33 | 旅行記
今日は石狩岳をシュナイダーコースを利用して登った時のことを書いてみよう。これもゆわんと村のHPに書いたことから引用した。

瓔珞みがく石狩の 源遠く訪ひくれば 原始の森は暗くして 雪解の泉玉と湧く (北海道大学寮歌)
 
ニペソツ山から、沼ノ原から、そして去年は音更山から石狩岳を望み、今度こそは、と思っていた。しかし、石狩岳に登るには、あの深田久弥が転げ落ち、Kさんが二度と登りたくないと言ったシュナイダーコースを登らなければならないので、どうも躊躇していた。

ゆわんとを朝5時過ぎに出て、6時半に登り始めた。初めは沢沿いの平坦な道で、間もなく急な斜面に取り付き、そこから急峻な登りが始まった。ニペソツ山の山頂手前の痩せ尾根登りに似ている。手を使って登らなければならないところもある。少し登っては休み、を繰り返した。山はすっかりガスに覆われてしまい、展望は望めそうにない。足はいっそう速まる。

急峻な斜面を登り切ると、急に斜度が緩くなり、尾根筋に出る。そこを少し行くと、音更山から続く吊し尾根に出る。足下には高山植物があちこちに花を咲かせており、花の時期にはきっととてもきれいであるに違いない。稜線をたどり、だんだん斜度がきつくなってくると、山頂は近い。

シュナイダーコースの登りのコースタイムは3時間50分とあるが、結局2時間で登り切ってしまった。音更山の分岐からは30分で山頂に着いた。意外とあっけなかった。(山頂で一緒になった人達は5時間かかったそうだ。)山頂は狭い岩場で、人が10人もいればいっぱいになってしまう。山頂から少し下ったところで休んだ。

山頂はガスの中だったが、10分ほどすると視界が開け、日も差してきた。北側にはポン音更山が見え、東側には、今登ってきたシュナイダーコースが見下ろせ、南側には川上岳が見える。西側のはるか下には雪渓と沢が見える。山頂にいた札幌山岳会の方に聞くと、そこが石狩川の源流だということだった。深田久弥が「日本百名山」の大雪山の項で引用している、冒頭に示した北大の寮歌を思い出した。「雪解の泉」を直に手にすることは今の自分には叶わないが、北海道の山深く分け入った先人達の思いの一端をうかがい知ることができたような気がした。

下山はあっけなかった。1,2度しりもちをついたが、深田久弥のように、もんどり打って転げ落ちる、ということはなかった。しかし、私が経験した下りの中では、最も険しい部類に入るように思えた。コースタイムは往復で9時間50分のところ、往復で5時間だった。そんなに急いだわけでもなかったが。Kさんは二度と登りたくないと言っていたけれど、天気が良ければ、もう一度は登ってもいいかな、と思った。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大雪の山々に登る⑨ ニペソツ山

2005-06-28 21:58:28 | 旅行記
今日は、大雪の山々の中で、トムラウシと並んで私の一押しの山、ニペソツ山の山行を紹介しよう。2001年の記録をゆわんと村のHPから引用する。

同じ山に何度も登るのはあまり好きではない方だが、好きな山には何度登っても気持ちがいい。私にとって、ニペソツ山とトムラウシはその代表である。

ニペソツ山に登る時は早朝の出発が必要で、この日も4:30に起きた。気温7度!大雪山の上には雲が懸かり、不安がよぎるが、まあ、何とかなるだろう、ということで出発する。三国峠ではニペソツ山の姿をはっきりと目にすることができた。
 
三国峠を越え、三股山荘を過ぎ、岩間温泉へ向かう林道に入る。右へ行くと岩間温泉方面へ向かう分かれ道を左に進むと、杉沢出会の登山口に到着する。日曜日と言うこともあり、登山口には10数台の車がある。また、テントもいくつか張ってある。ほとんどが道内ナンバーだが、道外のナンバーもいくつかある。ニペソツ山も二百名山に入っており、百名山を終えた人には次のターゲットとして注目されているのだろう。しかし、もしニペが百名山に入っていたら・・・今回のような混雑では済まされなかったに違いない。

しかし、後でも取り上げる深田久弥の文章を読む限り、もし深田が「日本百名山」の執筆前にニペソツ山に登っていたら、間違いなく百名山に加えらたはずである。深田が「日本百名山」執筆後にニペソツ山に登ったことに感謝せねばなるまい。
 
いきなり沢を渉り、樹林帯を登り続ける。小天狗岳の鎖場までの樹林帯が、だらだらと長い登りで辛い。私の足では1時間半ほどだったが、コースタイムは3時間とある。登り切ると一端下り、再び灌木帯の登りに入る。そこを過ぎると森林限界を超え、ハイマツ帯に入る。この辺りからナキウサギの声がしきりに耳に入ってくる。エゾオコジョの姿を目にしたこともある。

前天狗まで来ると、それまで見えなかったニペソツ山が突然姿を現す。その時の驚きを深田久弥は次のように書いている。

『おくれて一番後から天狗のコルへ近づくと、皆が何かを私に期待する面持で待っていた。それも道理、コルで初めて私はニペソツを見た。全く意表を衝くニペソツの現れかただった。それはスックと高く立っていた。私は息をのんで見惚れた。』(深田久弥「山頂の憩い」より)

事実、私も一昨年と去年に、この場所から同じようにニペソツ山を眺めた。いずれも、見えるか見えないか不安に思いながら前天狗にたどり着いた。そこへ来るまでに2時間以上の時間がかかっているわけだから、ニペソツ山の姿が見えるかどうかはギャンブル的な要素がかなりあるように思う。

さて今回は、不思議な光景が目の前に現れた。ニペソツ山から前天狗に連なる尾根を境として、山頂と北側は晴れ、南側からは雲がわき上がっている。まるで北アルプスなどの夏山に見られるような光景である。その時、去年展覧会のために作品にした、同じ深田久弥の文章の次の一節が思い浮かんできた。
 
『流れるガスの間に隠見するニペソツは、高く、そして気品があった。峨々たる岩峰をつらね、その中央に一きわ高く主峰のピラミッドが立っている。豪壮で優美、天下の名峰たるに恥じない。』(深田久弥「山頂の憩い」より)

深田も、まさにこのような光景を目にしたのではないだろうか。雲が湧き立つことによって、山頂付近に連なる岩峰の一つ一つが自己主張し、山全体の鋭さ、急峻さを際立たせている。今までに目にしたことがない、ニペソツ山の姿だった。

後は淡々と頂上を目指すだけだった。何回かの上り下りを繰り返し、ようやく最後のきつい登りにかかる。ハイマツに覆われた痩せ尾根で、足下は滑りやすい。ハイマツや岩に捕まりながら登っていく。痩せ尾根が終わると、山頂直下の斜面を斜めに横切って、山頂につながる稜線に取り付く。

山頂直下のお花畑はガスに覆われていたが、チシマキンバイの群落は印象的だった。ナキウサギも、前天狗岳辺りから、その声をしばしば耳にしてきたが、山頂直下のがレ場で、ようやくその姿を目にすることができた。ガスがかかっているので、この後も姿を見られるだろうと期待しつつ、山頂へ向かった。

山頂では花も多く見られた。山頂から少し下がったところを僕が見回していると、ふとウスユキソウが目に入った。礼文では普通に目にしているが、大雪やニペソツ山で見るのは初めてだった

下山し始めて間もなく、山頂直下でまたナキウサギを見つけた。しばらくじっとしていたので、これがあの「瞑想のポーズ」なんだろな、と思った。そのナキウサギがいなくなると、今度は別の場所から小さなナキウサギが姿を現した。ナキウサギの子供である。本で見てはいたが、まさか本物を見ることができるとは思わなかった。ナキウサギの子供は親に比べて毛の色の灰色が強く、周囲との見分けがしにくくなっている。思いがけずナキウサギの子供を見られ、ラッキーだった。

登りの時はガスがかかっていたお花畑も、下りの時はガスも晴れ、様々な花が咲いているのがよく見えた。ニペも、数こそ少ないけれど、種類豊富な花があることがよくわかった。その後は淡々と下山するだけだったが、その間もニペは刻々と姿を変え、次第に雲の中に姿を消していったのが印象的だった。

ニペソツ山は、単なる登りと下りではなく、岩場あり、樹林帯あり、登りや下りが交互にあったりで、疲れはするが飽きないコースだと思った。加えて山の姿も立派で、前天狗からの眺望は、見る人をあっと言わせる。山頂からの、大雪・トムラウシ・十勝と続く山並みも素晴らしい。さらには、ナキウサギや高山植物なども目を楽しませてくれる。本当に、ニペソツ山にはいろいろな楽しみがあると思う。

私はまだニペソツ山頂からの晴れた景色を眺めたことがない。大雪でも比較的高山のニペソツ山は、日中になると雲がかかりやすい。だから、いつか、なるべく早い時間に登頂し、山頂からの眺めを堪能したい。だから、きっとまた登るだろうなあ。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大雪の山々に登る⑧ 愛別岳

2005-06-26 21:13:29 | 旅行記
今日は北鎮岳から永山岳に至るルートを少し外れて登る愛別岳を紹介しよう。これもゆわんと村HPに書いた山行記録から引用した。

比較的穏やかな山容の山が多い北海道の山の中で、芦別岳のみが鋭い岩稜を誇っているように、愛別岳も、大雪連峰の中でもひときわ急峻な姿を見せている。

登った日(8/1)は、数日来の大変な暑さ(最高気温は35度を超えていた!)がまだ続いており、黒岳の登りは実にきつかった。しかし山上では風も吹き、それ以降は比較的楽に行くことができた。黒岳から雲の平、お鉢の肩を過ぎ、北鎮岳分岐を北鎮岳に向かう。北鎮岳の山頂からは、かつて足跡を記した、旭岳や白雲岳、トムラウシ、ニペソツ山なども見え、感動を新たにした。

北鎮岳を一端下り、比布岳の登りにかかる。比布岳を登り切るとまた下りになるのだが、この辺りは爆裂火口の跡なので、足下がザレ場となっており、歩きにくい。愛別岳へは、そのルートから、簡単な目印のポールのところを下っていくのであるが、下りは踏み跡も不明瞭で、しかもいっそう歩きにくいザレ場、さらにはたいへんな急斜面で、足がすくむ思いで、このまま引き返そうと考えたくなるほどであった。ただ、これから進んでいく稜線上に、先に登頂をしてこちらに向かってくる人たちが見えたので、何とか勇気を奮い立たせて下っていった。

そこから山頂までは、岩場をしゃがんで降りたり、ステゴサウルスの背びれのように岩が並んでいる間を通ったり、浮き石だらけの岩場を恐る恐る通過したり、そして最後は岩場をよじ登ったりしてようやく登頂した。実にさまざまな地面の状態が連続してあらわれ、しかも痩せ尾根でもあるので、頂上直下では正直言ってかなりへばってしまい、炎天下ということもあって、数歩進んでは休む、というほどであった。

その山容に比して、山頂は思った以上に広く、畳一枚くらいの平らな岩もあって、その上に横になって休息をとった。天候も良く、東には凌雲岳、北には森林とアンガス牧場が広がり、西には沼の平、南には爆裂火口の荒々しい山肌と、今通ってきた痩せ尾根、さらに永山岳の向こうには十勝岳の噴煙も眺められた。ともかく、かねて登りたいと思っていた愛別岳の山頂に立てた喜びは大きかった。

愛別岳は、表大雪の山々から少し外れて位置しているせいか、ガスがかかりやすい。ガスがかかると足下が見えにくくなり、危険度が増す。天候の良い日を選んで登りたい。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大雪の山々に登る⑦ 平山

2005-06-25 21:05:43 | 旅行記
久方ぶりの今日は、北大雪は平山をご紹介。と言いながら、実は昨年お盆に登り、ゆわんと村のHPに山行記録を書いているので、それを引用しながら書いてみます。

平山はナキウサギを見られる山としておなじみです。私も、実は7年前に、小雨をおしてナキウサギを見に行ってるんですよ。ナキウサギは確かにたくさん見られました。足元の穴からも出てきたし。でも、雨が強くなってきて、山頂までは行けずじまい。それ以降、平山の頂上って、どんな感じなんだろうな、眺めはどうなんだろうな、隣に比麻奈山と比麻良山っていう、ちょっと変わった名前の山が並んでるけど、どんな山なのかな、と少しばかりだけど、頭の片隅に引っかかっていたわけなのです。
表大雪は雲の中だったけど、北大雪連山上空は雲もなく、これは期待できるな、と期待しつつ登り始めました。道はずっと谷沿いに付いており、はじめは樹林帯、後に沢沿いとなり、いくつもの滝を左に右に見ながら登っていきます。これがけっこうキツイ!谷沿いながら風もほとんどなく、暑いこと暑いこと。わずかに行雲・冷涼の滝の姿に涼しさを感じつつ登っていくと、道は沢をそれていよいよ本格的な登りになります。そして道の左手にガレ場があらわれます。ここがナキウサギのガレ場です。盛んに声がしていて、2匹ほど姿も確認。でも、天気が良いせいか、岩の上でじっとしていることはなく、すぐに引っ込んでしまいました。
そこから少し登ると稜線に出ます。稜線に出るとカナリの風。表大雪は相変わらず雲の中。左手に平山、右手に比麻奈山と比麻良山(読んでみても書いてみてもミョーな名前だナ・・・)と続いているんですが、けっこう山頂まで距離がある!でも、せっかく来たので、意を決して三山とも登頂することにしました。三つの山をつなぐ稜線は比較的なだらかなので、大した苦労もせずに登れそうだったからでもあるのですが。
平山山頂からは、武利・武華の山々のほか、遠くかすかにトムラウシが見えました。あの山頂に二度も立ったことがあるかと思うと、感慨無量でした。比麻奈山と比麻良山の山頂からは、ニセイカウシュッペの堂々たる山容を見て取ることができました。
北大雪の山ということで、表大雪とは眺めが全く違います。高山植物も少ないのですが、ナキウサギを比較的容易に目にすることができることも合わせ、それなりに楽しめる山だと思います。
  


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大雪の山々に登る⑥ トムラウシ・その2

2005-06-19 22:15:02 | 旅行記
早朝に起き、いよいよトムラウシ登頂である。

ヒサゴ沼の岸辺に着けられた木道を歩き、ヒサゴ沼の水源になっている雪渓までやって来る。ここから雪渓をしばらく登る。大きな雪渓なので、踏み抜きの心配はないが、私は雪渓歩きはあまり得意でないので、2回目の時は雪渓を外れ、雪の解けた斜面を歩いた。

雪渓が終わって間もなく、道は化雲岳からトムラウシに通じる道とぶつかる。ここで荷物をデポし、南にあるトムラウシに向かう。

歩き始めから岩が積み重なる間を縫うようにして歩く。所々に池や沼、湿地などが点在している。特に日本庭園と呼ばれる辺りはまさに京都の寺院にある池泉庭園、あるいは枯山水庭園さながらの光景である。中でも天沼周辺は、苔むした石の造形、朝の青空を映した美しい沼、岸辺を彩るイワイチョウの緑の葉と白い花、岩の間にはチングルマやエゾノツガザクラなどの花々が咲き乱れており、自然の造形の妙には驚嘆せずにはおれない。

日本庭園を過ぎるとロックガーデンと呼ばれる大きな岩が積み重なっている地帯に入る。ここはこのコース最大の難所で、斜度はほとんどないのだが、大きな石を飛び越えたり、よじ登ったりして、歩きにくいことこの上ない。2回目の時、トムラウシに入る前にゆわんと村で泊まり合わせ、五色岳の山頂でばったり再会し、ヒサゴ沼でも一緒だった自治医大のグループは、山頂で日の出を見るために、暗いうちに出発したそうだが、暗い中でこのロックガーデンを歩くのはさぞかし大変であったことだろう。

ロックガーデンを通り過ぎ、ややきつい斜面を登り切ると、緩やかな稜線を描く山の向こうに、ついに目指すトムラウシの山頂が見える。道は山頂めがけてまっすぐに付いている。きっと私と同じ道を歩いてきた人は、皆ここで歓声を上げたに違いない。そんなことを考えずにはおれない感動的な光景である。

振り返ると化雲岳山頂にある”化雲のへそ”がはっきりと見える。そして、その向こうに表大雪の山々が勢揃いしている。化雲岳から続く道が所々に見える。あの道を私は歩いてきたのだと思うと、我ながら自らの脚力に感心してしまう。

緩やかな稜線を描く山を登り切ると、眼下に北沼が見える。北沼まで一端下り、そこから山頂への最後の登りが始まる。これがまたきついのである。先ほど歩いたロックガーデンに斜度が加わり、ロックガーデン以上に歩きにくい。しかも、ロックガーデンと異なり、矢印等が示されていないので、どこをどう歩いたらいいかわからないのである。また、そのためか、踏み跡があちこちに付いており、紛らわしいことこの上ない。しかし、念願の山頂を目前にしては、そんなこともあまり気にならない。

そして、念願の山頂にたどりついた。ただただ喜ばしく思った。これまでいくつもの山に登ったが、これほど登頂の喜びを感じたのは、利尻山とトムラウシだけである。深田久弥の「念願の頂に立てた喜びは無上であった。」という言葉は、きっとこのような思いを言うのだろうと思った。

山頂は岩の積み重なった火口の縁である。トムラウシにも火口があり、それが小さな池になっていることを初めて知った。1回目の時は2,000メートル付近に雲がかかっており、表大雪、ニペソツ山、十勝岳、遙か遠く幌尻岳だけが雲海の上に頭をのぞかせている、大変印象的な光景を目にすることができた。2回目の時は、雲一つ無い、無風の、まさにドピーカンの天気だった。やや硫黄臭い臭いがしたのは、十勝岳の噴煙によるものと思われた。

それにしても周囲の山々の眺めのすばらしさと言ったらなかった。表大雪、十勝岳連峰、芦別・夕張岳方面の山々、石狩・音更連峰、そして前々日(2回目の時)に登頂したニペソツ山。遠く南に日高連峰。一番高く見えるところがおそらく幌尻岳だろう。念願の山の山頂に、しかも2度も、好天の時に立つことができ、私は何と恵まれていることだろうと思った。あの深田久弥でさえ、トムラウシの山頂では何も見えず、天人峡方面への下山道でようやくトムラウシの姿を目にしている。北海道の山に登り始めた時、トムラウシなんて夢のまた夢、と思っていたのが、2度も実現することができた。山頂から、トムラウシ以上に無理だと思っている幌尻岳の姿を目にし、幌尻岳だって何とかなるんじゃないか、と思えてきた。

結局その日は一日中好天が続いた。沼ノ原まで、トムラウシはその雄大な姿を見せ続けてくれた。深田久弥が天人峡へ下る道で何度もトムラウシを振り返ったように、私も何度も何度も、それこそ数えきれないくらい何度も、私はトムラウシの姿を眺めた。

現在では五色ヶ原や日本庭園当たりは木道が整備され、以前よりずっと歩きやすくなっているそうだが、私が目にした、あの自然のままの日本庭園の姿は、もう目にすることができない。

でも、そろそろ3度目の登頂を考え始めている。でも、いつのことになるやら・・・


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大雪の山々に登る⑤ トムラウシ・その1

2005-06-19 00:05:32 | 旅行記
今回と次回とで、トムラウシのことを書こうと思う。

トムラウシの名前を初めて耳にしたのは、礼文・星観荘でのことであった。Sさんがぜひ登ってみたい山だと言っていたのが印象に残っていて、その年の秋、白雲岳から初めてそれと意識してトムラウシを眺めた。そして、五色岳山頂から間近に眺めて、登頂を決意したのである。そして、天候にも恵まれ、2回登頂することができた。

トムラウシに登るには、南にあるトムラウシ温泉から登るコースと、南西にある十勝岳連峰から縦走してくるコース、そして北にある化雲岳方面から縦走してくるコースがある。更に化雲岳方面からのコースは、化雲岳を起点に天人峡からのコースが、五色岳を起点に沼ノ原からのコースと高根ヶ原からのコースに別れる。

私は車で登山口まで入れ、一番距離の短い沼ノ原のコースを2回とも利用した。(五色岳までは「大雪の山々に登る④」を参照されたい。)

五色岳からは、人の背丈ほどもあるハイマツをくぐり抜けながら歩く。しばらくするとハイマツ帯がとぎれ、化雲平にさしかかる。右手に雪田のお花畑、左手に湿原が広がる。私は7月の終わりに登ったが、エゾキスゲやエゾノハクサンイチゲをはじめ、様々な花が咲いていた。ホソバウルップソウも咲き残っており、もう少し早い時期に来ていれば、それはそれは見事なお花畑を眺めることができたことだろうと思われた。

この辺りではトムラウシの姿はますます雄大に迫ってくる。あの山に明日は登頂しているかと思うと、胸が高鳴ってくる。天人峡からの道と合流して少しすると、ヒサゴ沼へ下る道が分岐している。トムラウシは夏場の午後には雲がかかりやすいため、朝のうちに登るとよい。私は2回ともそうしたが、初めて登った時は、山頂では晴れていて、表大雪を一望できたが、下山しているうちに雲に覆われてしまい、五色ヶ原辺りでは全く見えなくなってしまった。よって、ヒサゴ沼の避難小屋で一泊し、早朝に出発し、晴れているうちに登頂することができたのである。

ヒサゴ沼へ下る道も雪田跡に付けられており、木道の周囲は一面のお花畑であった。眼下にはヒサゴ沼が青く水をたたえている。

ヒサゴ沼に到着し、非難小屋で今夜の寝場所を確保する。なるべく早い時間に到着して、場所を確保した方がよい。時にはツアー客が団体で泊まることがある。また、十勝岳方面から縦走してくる人は到着が遅く、暗くなってからやって来る人もいる。よって、小屋の隅に場所を確保するとなおよい。ただし、独特のホコリ(カビ?)臭さを我慢する必要があるが。でも、それにはすぐ慣れる。テン場もあまり広くないので、やはり早い時間の到着が必要である。

ヒサゴ沼は東西に長い沼で、西端の大きな雪渓から、雪解け水が勢いよく流れ込んでいる(雪渓の先端は水場にもなっている)。周囲はお花畑になっており、様々な花が咲き乱れている。特にエゾキスゲの群落は見事である(私は名残を目にしただけだった)。沼の真ん中辺りのくびれたところには石が飛び石状に積み重なっており、そこを歩いて対岸に渡ることができる。渡った辺りはナキウサギの生息地で、声が盛んに聞こえる。

ヒサゴ沼はまさに大雪連峰最奥部の別天地である。そんな場所で一夜の夢を結ぶのは、何とも言えない贅沢なことではないだろうか。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大雪の山々に登る④ 五色ヶ原・五色岳

2005-06-17 21:51:01 | 旅行記
五色ヶ原は、大雪山の中でもあこがれの場所だった。一面に黄色い花と白い花が咲き乱れ、その間を登山者達が列を作って歩いていく様子は、いろいろな本などでも紹介され、ぜひ一度訪れてみたいところであった。

しかし、五色ヶ原はあまりに遠かった。まず、車がないと登山口まで行けない。しかも、本格的な装備がないといざという時に困る。しかし、北海道で山登りを重ねるにつれ、それなりの装備もそろい、たまたま泊まっていたゆわんと村で、皆で出かけようということになり、初めての五色ヶ原行きが実現した。

車で沼ノ原登山口へ向かう。歩き始めは川沿いのなだらかな道だが、それを過ぎると急な登りになる。登山道は、沼ノ原台地の縁の急な崖をジグザグに登っていく。一面の原生林の中で、視界も開けず、風通しも悪く、とにかく暑い。

それを登り切ると、道は急になだらかになる。少しずつ高度を稼いでいくと、突然足下がぐちゃぐちゃし出す。このコース特有のぬかるみ道の始まりである。間もなく道は完全に湿地帯となり、倒木や草地を選んで歩くことになる。

ワタスゲがちらほら見え出すと沼ノ原に到着する。沼ノ原は大沼を巡る湿原で、たくさんの池塘も見られる。初めて登った年は、大沼が渇水で、大沼の周辺には、テントが何基も設営できるくらいの広い地面が現れていた。(しかし、2,3回目の時は、大増水していて、湿原の池塘と連続し、地面が全く見えなかった。)

そこで皆と写真を写した。遠くにはトムラウシが霞んでいる。大沼越しに見るトムラウシは大変よく知られた光景であるが、
実際に目にするのは初めてで、山は霞んではいたものの、大いに感動した。

沼ノ原には木道が設置されていて、歩きやすかったが、それが終わると、またもや湿地帯との格闘が始まった。五色の水場まで下ると、今度はぬかるみとの格闘だった。五色の水場からは、ぬかるんだ斜面を登って行かなくてはならない。スパッツが大いに役立った。

五色ヶ原の台地へ登る崖を斜めに登っていき、足下のぬかるんだ笹原を通り過ぎると、いよいよ五色ヶ原の始まりである。
雪田のあちこちにはチングルマやエゾツガザクラ、アオノツガザクラなどが咲き乱れている。池塘もあちこちにあり、ワタスゲが咲いている。この辺りのワタスゲは、他の所と違い、とてもこぢんまりしていて、ちょうど耳かきのようである。

そうした雪田を通り過ぎると、いよいよ五色ヶ原の最奥部に到着する。あちこちに黄色い花と白い花の群落が見える。しかし、写真で見た一面白と黄色の世界、というのではない。白い花はエゾノハクサンイチゲ、黄色い花はチシマノキンバイソウであった。もちろん花期を過ぎているからなのだろうが、聞けば五色ヶ原も乾燥化が進み、ササが進入してきているとのことだった。あのお花畑も、いずれは見られなくなるだろうという。ちなみに、ぬかるみは五色ヶ原に入ってもあちこちにあった。花を眺めながら、ぬかるみに足を取られないように歩くのは、なかなか難しいことであった。

いずれにしても、あこがれの五色ヶ原に、晴れた日にやってくることが出来た喜びはこの上ないものであった。一行は五色ヶ原でお昼にすることにした。余力のある私は、五色岳まで行ってみることにした。皆を待たせてはいけないので、かなり早足であった。

五色岳のピークは、ちょっとわかりにくいものであった。山々は相変わらず霞んでいる。しかし、沼ノ原で見た時よりも、トムラウシの姿はいっそうはっきり見える。その姿を眺めながら、来年は絶対にトムラウシに登る、と私は決意した。

下山は歩いてきた道をそのまま戻るだけであった。現在では五色ヶ原の登山道は木道になっており、歩きやすくなっている。花はいっそう少なくなっているそうだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大雪の山々に登る③ お鉢平一周

2005-06-16 20:52:06 | 旅行記
今日はお鉢平一周コースを。

私は層雲峡からしか登ったことがないので、その時の経験をもとに書いてみる。

層雲峡からはロープウェーで黒岳5合目まで登る。夏の観光シーズンや紅葉シーズンの朝や夕方はとても混む。ロープウェーからの景色は個人的にはあまり好きでない。それに、だいたいツアー客の方々が窓際を占領してしまうので、まともに見ることもできない。

ロープウェーを降りると5合目のリフト乗り場へ移動する。ここまでは普通のツアー客はやって来ないので、リフトに並んで乗った経験は一度もない。リフト乗り場からは黒岳の姿を仰ぐことができる。紅葉の時期の眺めは特に素晴らしい。(リフトは本来冬季のスキー用のものなので、スピードはゆっくりである。しかし、このスピード以上の速さでは、夏場は涼しすぎるだろう。)

リフトを降りるといよいよ登りになる。これがかなりきつい。黒岳の斜面をジグザクに登っていく。最近ではかなり整備されているが、あちこちに大きな岩がたくさんあり、また、雨の日などは登山道が泥田んぼになって、歩きにくいことこの上ない。せめてもの幸いは、斜面をジグザグに登っているので、斜度が少ないことである。しかし、それでも夏の風のない日などは、汗が滝のように流れてくる。

私の足なら40分ほどで山頂に着く。山頂直下の登山道は石をコンクリートで固めた階段になっているので、これが現れると山頂であることがわかる。山頂は小岩が転がっている。山頂からは、それまで全く見えなかったお鉢平を囲む山々を一望できるので、思わず歓声を上げたくなるほどである。左から、桂月岳、凌雲岳、北鎮岳、旭岳、間宮岳、烏帽子岳などである。

黒岳を下り、雪渓を通り過ぎると、高山植物がたくさん目に入ってくる。黒岳石室の前を通り過ぎると、雲の平に入る。ここは高山植物の群落でよく知られている。あちこちに花々の絨毯が・・・と言いたいところなのだが、私は花の時期にここを通ったことはない。

雲の平を通り過ぎるとお鉢の肩に出る。ここはまさにお鉢平の縁にあたる。お鉢平が一望できる。そんな場所なので、風が強いことが多い。ちなみに私はお鉢平一周の時はなぜかいつもガスか風の日ばかりであった。なお、お鉢平はかつて3,000M級の高さであった旧大雪山の山頂部分が、大昔に大噴火で吹き飛んで、後に残った火口なのだそうである。底の部分からは現在でも硫化水素ガスが出ていて、立ち入り禁止である。

お鉢の肩から右手にルートは進み、北鎮岳への分岐を通り過ぎると、道は下り坂になる。砂礫地で、歩きにくい。中岳を通り過ぎ、中岳分岐を通り過ぎると、再び緩い登りになる。登り切ると間宮岳である。間宮岳と言っても、目立つ山体を持つわけではなく、お鉢平の縁の高まりの一つに過ぎない。ここからはなだらかな道が続き、北海岳も間宮岳と同じように、ピークがわかりにくい山である。この辺りも風の通り道で、吹き飛ばされそうになる。

北海岳を過ぎると、以前書いた赤白黒コースと重複するのでここでは省く。お鉢平一周の途中は石と砂ばかりの道でやや退屈だが、始めと終わりは花々の咲き乱れる道で、自然の取り合わせの妙に感心せずにはおれない。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大雪の山々に登る② 旭岳

2005-06-14 21:45:16 | 旅行記
今日は旭岳について。

旭岳は北海道最高所で、旭岳温泉からロープウェーを使って容易に登ることができる。そのため、軽装で登っている人が多いが、悪天候時は、風を遮るものが何もなく、登山道の左右は急な崖になっているので、侮れない山である。

ロープウェーは、夏の観光シーズンには大変なにぎわいである。ロープウェーを姿見駅で降りると、目の前に旭岳の勇姿が現れる。ふもとの地獄谷からは、蒸気が噴き出している。姿見の池周辺は高山植物があちこちで咲いている。旭岳に登るには、姿見駅から右手の方へ登っていく。

登山道は、初めのうちは階段が整備されていて、登りやすい。しかし、階段がなくなると、火山特有の砂礫地となり、大変歩きにくい。また、乾燥している時にはほこりっぽいことこの上ない。さらに、登山の装備をしてきていない観光客もたくさん登ってきており、特に天気の良い夏の日には、ペースを崩されたり、マナーを守らなかったりするので、注意が必要である。

登山道からは、北は当麻岳や永山岳など、愛山渓方面の山々が、東は白雲岳方面が、南は忠別岳、化雲岳、そして遙か遠くにはトムラウシが、南西には十勝岳連峰が眺められる。

ニセ金庫岩、金庫岩の、大きな箱形の岩を通り過ぎてひと登りすると、旭岳の山頂にたどり着く。山頂からの眺めも素晴らしい。前述の山々に加え、お鉢平と、それを囲む北鎮岳、凌雲岳、黒岳などの山々を一望することができる。私が登った時は、雲一つない好天で、東大雪にあるニペソツ山や、遠く阿寒の山々まで眺めることができた。

山頂からはそのまま東に下り、お鉢平の縁をまわって黒岳から層雲峡に下りたり、反対方向にまわって裾合平(途中には中岳温泉という野趣あふれる露天風呂もある)に下りて一面のチングルマの群落を見ることもできる。

旭岳はぜひ晴れた日を選んで登ってほしい山である。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする