桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

礼文島・花の島③

2005-03-16 22:55:48 | 旅行記
その後レブンアツモリソウを見に行こう、ということで、皆で車で出かけた。レブンアツモリソウの群生地は、去年監視小屋で休ませてもらったのを覚えている。

レブンアツモリソウを見ることは、今回の旅の目的の一つであった。それが、早くも達成されるかと思うとわくわくした。去年、辛く惨めな思いをしながら歩いた道を、エース君は快調にとばし、群生地に到着した。今年は気温が低く、レブンアツモリソウはようやく咲き始めたばかりで、群生地が見学できるようになって間がないとのことだった。

車を降りてみると、寒い。スタジャンをリュックから引っ張り出して着てきたのだが、それを着てもちょっと肌寒い感じがする。群生地には通路が斜面をぐるっと回るように付けられている。登り口の日当たりのよいところの花は見頃である。本来のアツモリソウは濃いピンク色をしているのだが、このレブンアツモリソウは淡いクリーム色である。花によっては白いものもあり、個体差があるようである。それにしても、花にしては妙な形をしていながら、何とも気高く、それでいて穏やかな印象を受ける。かつては島中にいくらでも生えていて、ちょうちん花などと呼んで子供のおもちゃにされていたそうだが、乱獲されて現在では島のこの辺りにしか残っていないとのことである。ちなみに、袋状の部分は指で一度触るとすぐに茶色く変色してしまうのだそうだ。そんなところにも、この花のはかなさと貴さが感じられた。

群生地の中では、至る所に咲いているのであるが、下草の丈の高いところや、木の下などには生えていない。どうやらそれなりに日の当たるところでないと育たないようである。また、一カ所に10株以上まとまって咲いているところもあった。これはまだつぼみが開きかけであったが、この後満開になった時の華やかさが思われた。島に滞在中にもう一度見られるだろうか。

初めてのレブンアツモリソウであったが、十分に堪能した。私と、フェリーで一緒だった男性・Kさんはここで後に残り、そこから歩いて少しの所にある、澄海岬まで歩いていくことにした。肌寒さは相変わらずで、歩いていれば暖かくなるだろうと思ったが、なかなかそうもいかない。やはり礼文の天候を甘く見ていたようである。道ばたには、これは私も知っているハクサンチドリがあちこちに咲いている。センダイハギの黄色い花も見られる。あとは普通の雑草の花ばかりで、まだここが「花の島・礼文」だということは実感できない。

上り坂の道が下り始めると、集落が見えてきた。西上泊である。ここの西に澄海岬があるという。西上泊に到着し、まず岬へ行ってみる。冷たい海風が吹き、肌寒い。ちょっと体調が悪く感じられるほどだった。海面にはさざ波が立ち、Kさんの「晴れていればきれいなんだけどなぁ。」という言葉も無用であった。

その足で、Kさんが「アトリエ仁吉」という店に招じ入れてくれた。そう、ここは、一昨年小樽で出会った3人組の話に出てきた木彫りの店である。早くも訪れることができて嬉しかった。中にはたくさんの木彫りの作品が展示され、販売されている。愛らしい小物も多い。そして、一人の男性がKさんと挨拶をしながら熱心に木を刻んでいる。この人が「にきち」さんなのであった。私は3人の話から、もっと年を取った方かと思っていたのであるが、意外と若い人である。初めて訪れた私にも、気軽に話しかけてくれる。そして、話をしながらも、ずっと彫り続けている。Kさんが近況報告をしているところを見ると、Kさんは礼文に来るたびにここへ来ているらしい。私はその間も、仁吉さんの彫る様子から目を離さなかった。よく切れる彫刻刀で、さくり、さくりと実に気持ちよく木を彫っていく。そうしながら、私にも質問をしてくるので、答える。しかし、何しろ島に来たばかりだし、星観荘もまだ去年2泊しただけである。会話が続くはずもなく、Kさんと仁吉さんとの話を聞いているだけであった。

そんなわけで、アトリエ仁吉を後にし、来た道を今度は歩いて戻った。するとちょうど、別のお客さんにレブンアツモリソウを見せるために彦さんがやって来るところに出会った。その車に乗り込み、星観荘へ戻った。

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