小屋に戻ると、水守さん達も夕食の準備で賑やかにしていた。彼らは明日の朝は暗いうちに出発して、山頂でご来光を見るそうなので、ここでお別れの挨拶をする。それにしても、人の縁とは不思議なものだ。
私も小屋の中で夕食にする。コンロでお湯を沸かし、カップラーメンを作り、インスタントコーヒーを作り、パンをぱくついた。真夏とは言え高山にある小屋、気温は大分下がってきている。温かいものは体にも心にも嬉しかった。
今回はシートのスペースが広いので、シュラフを開いて掛け布団のようにし、ゆっくりと横になった。今回は小屋は割とゆっくりしている。去年のような大きなグループもおらず、少人数のグループや単独行の人ばかりなので、とても静かである。明るいうちは読書などをし、本が読めなくなる頃に目を閉じた。
翌朝は4時頃に周囲の人の物音に目が覚めた。お湯を沸かし、コーヒーを作り、パンを食べて荷物を片付け、出発した。天気を気にしながら表に出ると、雲一つ無い素晴らしい天気である。昨日の昼間と違い、ヘリコプターの音も聞こえない。自治医大のグループのテントはひっそり静まりかえっている。きっと今頃は山頂にいるのだろうと思われた。
沼のほとりを歩いていき、雪渓の登りに取りかかる。昨年は曇り空の下、足下の踏み跡を丁寧にたどって登っていったが、歩きにくかった。今年は昨年と違って周囲も明るいので、雪渓を避け、設計に沿って岩場を歩いた。雪渓歩きよりもずっと歩きやすいように思えた。
ヒサゴ沼分岐に昨年同様荷物(シュラフとシート)をデポし、山頂への登りにかかった。ひとしきり登って雲一つ無い空を見上げ、そして後ろを振り返ると、表大雪の山々の眺めが素晴らしい。トムラウシの山頂からの山々の眺めが大いに期待された。さらに登っていくと、目の前にトムラウシの山頂が見えた。昨年は雲の中で見えなかったけれど、今年はまさに山頂を目指しながら登るのである。しかも、この辺りから日本庭園と呼ばれる岩と沼、植物が織りなす美しい光景が繰り広げられる。左手には、今朝出てきたヒサゴ沼の全景を見下ろすことができた。その場所から見ると、沼の形はまさにひょうたん型である。昨年と異なり、これから雲が湧いてくる気配すらない。私はすっかり嬉しくなってしまい、意気揚々と足を進めた。