桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

書道について⑨

2007-01-18 21:34:28 | 日記・エッセイ・コラム

○運命の出会い2

「趣味講座・書道に親しむ」という番組がNHK教育テレビで始まった。今井凌雪という先生が、3人の生徒を相手に教える、という形式で書道を基本から教えるという内容だった。先生はとても優しそうな方で、関西弁の語り口もソフトで耳に優しかった。

それはそれとして、私が圧倒されたのは、番組の始めでいきなり先生が見たこともないような大きな紙に「塗鴉」という文字を大書したことだった。しかも先生は穏やかな表情で易々と、しかも練習もなしに一発で書き上げられた。

確かに毎月出している教書雑誌で大きいであろう紙に大人が字を書いた作品を、小さな写真版で見たことはあったが、実際にこんな大きな紙にこんな大きな文字を書くのを見たのは初めてであった。

私は目から鱗が落ちた、いや、度肝を抜かれてしまったのだ。私の知らない書道の世界をいきなり目の前に突きつけられた気がした。これからどんな書道の世界がこの番組の中で展開されるのか、すっかり引きつけられてしまった。

それから私は、毎週この番組を見るようになった。幸い7時のニュースが終わったあとだったから、チャンネルを気にせず見ることができたのもありがたかった。時には家族も一緒に番組を見てくれた。

いま、その時に用いられたテキストが手元にある。後に古書店で購入したものだったが、初心者向けに書かれた本でありながら、内容は全く本格派である。今の私が読んでみても学ぶべきところが多い。しかし、番組ではそれが少しも難しくなく、先生の穏やかな語り口で語られるのであった。

この番組の初回のタイトルは「まず書いてみよう」であった。今思うと、この番組を見ながら本物の”書道”の世界へ導かれていったのだと思う。

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開聞岳④

2007-01-08 21:28:11 | 旅行記

登山道が山の西側に入ると、海風が直接吹き付けるようになり、また高度も上がってきたこともあって寒くなってきた。そう言えば12月だった。

このあたりからすれ違う人が現れてきた。おそらく駐車場に車を泊めていた人達である。あの台数からすると、山頂にはそれほど多くの人はいないようだ。皇海山や雨飾山で経験したような、山頂が座る場所もないほど混んでいる、という状況ではないようだ。

足下はいよいよ大きな岩ばかりになる。登山道が山の北側に入ると傾斜もきつくなり、手を使って登るところも出てきた。後ろを振り返ると、遠くに池田湖が見える。

岩場を登り切ると、いったん登山道は灌木の中に入る。そして灌木を抜けると、目の前に大きな岩の積み重なりがあらわれ、そこが山頂であった。ガイドブックによれば、灌木の中に窪地があり、そこが火口であるとのことだった。

山頂からの眺めは素晴らしかった。雲が出ていて最高の眺めとはいかなかったけれど、東の長崎鼻、北の池田湖が一望できる。山の北側には畑が広がり、美瑛ほどではないにしても、一面のパッチワークのようである。

山頂の一番高いところは岩の積み重なったところであったが、そのすぐ下に皇太子が登頂した記念のプレートが埋め込まれていた。

山頂はどんなにか混んでいるだろうと思ったが、実際には6人ほどのグループがいただけだった。彼らの写真を写してあげた代わりに、写真を写してもらった。

南国とはいえやはり12月。風は相変わらず強い。山頂の岩の南側の風の当たらないところで早お昼にした。そんなことをしている内に先にいたグループがいなくなり、山頂は一人きりになった。最後にもう一度、岩の上に立って周囲を眺めわたし、下山した。

下山の途中ではたくさんの人とすれ違った。ツアーの参加者とおぼしき人も多かった。あと少し遅く登っていれば、山頂でゆっくり過ごすことはできなかった。つまり、私は登り始めたのが早かったのである。下山して駐車場に戻ると、たくさんの車が停まっていた。

開聞岳を登頂できたことは喜ばしいことであったが、開聞岳はどちらかと言えばその美しい山容を眺めて楽しむ山であるように思えた。

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開聞岳③

2007-01-05 21:18:15 | 旅行記

ガイドブックにあったとおり、登山道はひたすら鬱蒼とした森の中だった。しかも、これまで慣れてきた北海道や上信越の山と樹種が全く異なる。だから、森の中の匂いが全く違っていた。

これまたガイドブックにあるとおり、単調な登りが続く。足下は火山らしくザクザクとした火山礫である。幸いに木々の根が張っているので、歩きにくいことはない。

1合目ずつに休憩場所が設けられている。傾斜はやや緩いとはいえ、ひたすら登り続けるので、けっこうきつい。これが頂上まで延々続くのだから、ちょっとうんざりするくらいだった。しかも、深田久弥が言っていたような「これだけ海が堪能できる山は他にない」という光景も、深田が登った頃に比べれば木々も茂ってしまったためなのか、実感できない。

登山道が開聞岳の円錐形の山容をぐるっと一回りしているということは、登っている時に顔が向いている方角がだんだん変化してきていること、木々の合間からわずかに見える海の見え方が明らかに変わってきていることからも察せられた。

ちょうど六合目あたりだっただろうか。突然左手の視界が開け、眼下に海が広がった。空は曇っているが、雲の切れ間から光が海面に落ちている光景が何とも印象的であった。このあたりから足元は火山礫から溶岩の固まった岩場に変わり、いっそう登りにくくなってきた。

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