○大学院1年の頃⑤
*台湾の旅・その1
台湾学外演習が始まった。朝早く大学前からバスに乗り、一路成田空港へ向かった。学生40人、教官4人の総勢44人である。
成田空港はその前の年の1月に香港に出かけた時以来。あの時は初めてでしかも一人で不安を感じていたが、今回は面倒な手続きは全部添乗員が済ませてくれる。あっと言う間に機中の人となる。
実は書コースは九州出身の学生が多く、彼らは皆飛行機で地元とを往復するので、飛行機には乗り慣れている。しかし、群馬出身の私はまだ香港行きの時しか飛行機に乗ったことはない。そのためにいささか浮かれすぎたのか、台北到着直前の飛行機の降下に伴う気圧の変化と飛行機の揺れにすっかり酔ってしまい、気分が悪いままに台湾への第一歩を記さざるを得なかった。
気分がすっきりしないまま空港に降り立つと、南国特有の空気に包まれる。空気のにおいも日本とは全く違い、香港へ行った時のことを思い出した。入管の所へ移動する通路にはたくさんの書作品が掲げられており、さすがだな、と思った。中に筑波に留学されていた杜忠誥さんの作品もあり、杜さんの台湾での評価の高さを改めて思い知らされた。
入管の行列に並んで私の前に立っている男性の頭を何の気もなくぼーっと眺めていると、何だか懐かしい思いにとらわれた。よく見ると、見れば見るほど私の頭の形、髪の生え方、髪の質、生え際の形がよく似ているのである。私は思わず後ろにいたある先輩にそのことを耳打ちすると、先輩もよくよくそれを見て、私と同じ印象を持って、声を出さずに爆笑していた。いわゆるドッペルゲンガーとはこういうことをいうのであろうか?しかし私達は、その見ず知らずの男性(日本人だった)に声を掛けることもできずに終わってしまった。
その日の午後は台北でも著名な庭園を見学し、これまた著名な観光地である龍山寺を訪れることになっていた。前者はマカオで見た庭園と似たようなものでこれと言って面白くもなかったが、後者は日本で言う浅草のような場所で、色々と見ものもあり面白かった。周辺の雑然とした雰囲気も面白く、夜になって遊びに来ればさぞかし楽しいだろうに、と思ったが、言葉の通じない私には、そんなことをする勇気はなかったのは言うまでもない。
ホテルは3つ星クラスの普通のところだった。前回の台湾学外演習の時は、圓山大飯店という5つ星クラスのホテルにも泊まったそうだが、今回はない。それにしては結構なお値段(旅行費用は23万円くらい)なのだが、特別なところを訪れ、しかも添乗員がずっと同行するのであるからやむを得ないだろう。ホテルや夕飯の記憶はない。写真もほとんど無いところを見ると、普通に皆で夕食を囲み、夜は皆の部屋を訪れ賑やかに過ごしたのだろう。日付が変わっても遊んでいる様子を撮した写真が残っている。同室だったT君は、先輩のAさんに呼び出され、3日間とも俺が寝てから部屋に戻ってきたのを覚えている。