急流の中をじっと目を凝らして見ていると、川底の石の様子がわかってきた。何とか目星を付け、意を決して、足を勢いよく急流に踏み入れた。すごい勢いだ!足を今にもさらわれそうである。声を出して気合いを入れ、もう一方の足を向こう岸の石へと飛び移らせた。何とか川に落ちることなく飛び移ることができた。
ほっと一息ついて少し前へ進むと、前にある岩にペンキで「心洗の滝」と書かれている。左の崖に目をやると、落差15メートルほどの滝が落ちている。滝の姿を見ていると、急流を渡る時の緊張した心持ちから解放され、まさに心洗われる気分がする。良いネーミングだと思った。
ここから後の渡渉はもうすっかり慣れてしまって、問題がなかった。一カ所だけ、深さが足の付け根の所まで来た場所があったが、ちょうど淵になっているところで、流れも緩やかであり、問題なく通過できた。でも、この深い場所が初めの方にあったら、足がすくんで進めなかっただろう。増水(この時も普段よりは水が多かったようだ)の時は、女性などはここでは腹や胸まで水に浸かることにもなるだろう。
そして幌尻山荘の姿と、立ち上る煙が見え始め、ようやく胸をなで下ろした時、目の前に最後の渡渉箇所が現れた。渡渉と言っても、大きな石が飛び石状に並べられており、その上を渡っていくだけである。
小屋に着いて、ようやく一息つくことができた。小屋は空いており、一番奥のストーブの前のスペースにシートを敷き、荷物を置いた。濡れたズボンと靴下をストーブの囲いの網に干した。利用料を係の人とおぼしき人に支払ったが、本来の小屋番の人は下山しており、この時は長期の取材にやってきていたNHKのスタッフの人が代わりに手続きを行っていたのだった。(ちなみに本来の小屋番の人はかなり気むずかしい人だと、帰ってからネットで知った。)