桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

書道について46

2008-04-14 22:57:13 | 日記・エッセイ・コラム

○3年生の頃⑦

今回の学外演習の最大目的は、今井凌雪先生が所蔵される名品を鑑賞させていただくことであった。

それ以上に、何よりも私は、書の道を歩むきっかけの最初となったNHK教育テレビの「書道に親しむ」の講師をされた今井先生にじかにお会いできることが一番の楽しみであった。

電車を乗り継いで帯解駅に降り立ち、小雨降る中を先生のお宅に向かって歩いた。辺りは田んぼと集落が入り交じったのどかなところだった。

先生のお宅の門をくぐると、そこには「書道に親しむ」で若月純子さんが訪問した先生のお宅そのものの実物が目の前にあった。お宅にお邪魔して、広い書室に入った時、そこにはテレビで見た実物の書室そのものであった。そして、私達を案内してくださったのは、テレビで見た今井凌雪先生その方であった。テレビで見たのと同じ優しい笑顔で私達を迎えてくださったのだ。

私はもうそれだけですっかり舞い上がってしまっていたが、実は今井先生にお会いするのはそれが初めてではない。前の年に雪心会選抜展を見に奈良を訪れた時に先生を見かけていたし、その年の夏には上野の森美術館で開催された雪心会展の座談会に参加させていただいて、じかにお話もさせていただいていたのだった。

先生はその時を覚えていてくださったかどうかはわからないが、私がその時のことでご挨拶申し上げると、お馴染みの笑顔で応じてくださったのはなんとも嬉しいことだった。

先生は先輩のIさんの手助けを得て、名品を展示してくださっていた。2階の部屋は襖を取り払い、王鐸、徐渭、張瑞図、董其昌の巻子が全部広げられていた。私達はそれをまたいだりしながら慌ただしく鑑賞した。

1階の応接間では清朝の文人達の手紙の冊を鑑賞した。あまりにも膨大な量で、著名な文人のものを探すだけで一苦労だった。制作室では拓本を鑑賞した。龍門二十品が印象深い。

テレビでも見た書室では、傅山や何紹基の軸、呉昌碩の画と書の屏風、伊秉綬や梁巘の冊、趙之謙の手紙の冊などを鑑賞した。

どれもこれも素晴らしいものなのだろうが、残念なことに下級生を中心に、その凄さを十分に消化しきれていなかった学生が多かったように思う。私もその1人で、鑑賞しきれないために、やたらと写真ばかり撮りまくっていた。

しかし、その中でも私がその年の夏休みに卒業研究の対象にと決めた陳鴻壽の手紙だけは念入りに鑑賞し、写真にも収めた。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

書道について45

2008-04-01 22:49:33 | 日記・エッセイ・コラム

○3年生の頃⑥

その後は、藤井有隣館、逸翁美術館、陽明文庫などの展示施設の他、今井凌雪先生のお宅に伺って、明清の書画のコレクションを拝見した。

藤井有隣館は中国系の様々なコレクションを展示している。中でも古銅印と明清の書蹟が私達の関心を引いた。特に王鐸の条幅のみずみずしい筆致は印象深かった。しかし、すべての展示物の中で最も印象的だったのは、科挙の時に受験生が衣服の下に着用したと伝えられる、四書五経の全文を、極細字で一面に書き込んだ紙製の下着である。科挙に何としても合格するという執念のようなものすら感じたことであった。

逸翁美術館は日本の書蹟や茶道具のコレクションが有名である。特に訪れた時期には、平安時代の仮名書道の名品を数多く展示しており、来た甲斐があった。特に「継色紙」は、同行されている村上翠亭先生が論文の対象として扱ったもので、一層印象深く見ることができた。

陽明文庫は有志で見学した。村上翠亭先生が事前に話を付けてくださっていたので、普通に申し込んだのでは見学できない場所であった。ここでは何と言っても藤原道長の自筆日記「御堂関白記」でよく知られている。コレクションが知られる古筆は見られなかったが、薄暗い展示室の中でも、「御堂関白記」は、平安の昔の藤原道長の息づかいを確かに伝えるものであった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする