桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

書道について52

2008-08-23 22:06:29 | 日記・エッセイ・コラム

○4年生の頃②

夏休みに入り、友人達は次々に就職先を決めていく。私は教員採用試験に半ば意図的に失敗し、その直後から、大学院入試のための準備を始めた。友人達の半分くらい(主として男子)は大学院へ進学するとのことで、寂しさは感じていなかったし、何しろ大学院へ行けば書道関係の授業ばかりとなり、余計な授業に神経をすり減らさなくてもよくなる。そんなことを夢見つつ、自分なりに受験勉強に励んだ。

筑波大学芸術研究科美術専攻書分野というのが、私が進学しようとしているところの正式名称である。ここの入試科目は以下の通りである。

1日目:①中国語の文献を翻訳する。(辞書持ち込み、使用可)②中国書法史と日本書道史に関する小論文を各1編ずつ書く。

①は年によっていろいろだが、対策は立てようがなかったので、「藝林叢録」という本に収められた書道について中国人が(もちろん中国語で)論じた短い文章を自力で訳し、それを日本語訳して出版した本に掲載された日本語訳と突き合わせて間違ったところを訂正していくという方法で、自分一人で勉強をした。一緒に受験した同級生は、中国に留学経験のある先輩に面倒を見てもらっていた。②については先輩方が残してくれた過去問集があり、それを元に勉強した。主として中国書法史と日本書道史の授業内容で、自分がその授業を取ったときに勉強した内容か、その年の授業で取り上げられた内容が出る傾向にあるので、ノートを集めて内容を整理した。でも、小論文を実際に書いたり、それを誰かに添削してもらうというようなことはしなかった。

2日目:《制作》①五字句を草書で書く。②仮名古筆を原寸大で臨書する。③漢字古典を半紙に臨書する。④和歌一首を仮名書作品として色紙に制作する。⑤七言絶句を全紙大の紙に制作する。⑥漢字仮名交じり書を全紙大の紙に制作する。《面接》持ち込み作品(漢字・仮名・漢字仮名交じり書各1点)の説明と、目の前に広げられた作品(複製や書籍。漢字・仮名)について説明し、質問に答える。

制作についても、過去問が蓄積されているので、それを参考にしたが、これまた過去問通りに制作してみることはしなかった。あえてしたのは草書を覚えること。よく使われる文字で、楷書や行書と字形が全く異なる文字を中心に覚えていった。一方で、持ち込み作品の制作には心を傾けた。漢字作品は学園祭書展に出品したものとし、仮名作品は古今和歌集の秀歌を自分で選んで、料紙を自分で冊子に仕立てたものに関戸本古今集風に制作したものとし、漢字仮名交じり書は、私の母校の出身者である萩原朔太郎が、自らの中学校時代を詠じた詩を題材に制作した。面接については、友人は先輩方などに面倒を見てもらっていたようだが、私は自分で有名な作品について本や図版を見ながら説明内容をまとめて頭にたたき込んだ。こちらは小論文に較べて妙に自信があった。

9月頭に学外演習があった。館山にある大学のセミナーハウスで篆刻の実習を行ったのだが、一緒に受験する友人は、受験準備があるという名目で参加しなかった。しかし、私は先輩の「学外演習に参加することは、大学院入試に向けての意欲ある様子を示すためのアピールになる。」というアドバイスを元に、参加することにした。というか、私は学外演習にたかが2泊3日程度で参加しても、大学院入試に影響が及ぶなんて全く考えておらず、それより先輩や後輩、先生方と日常から遠く離れて楽しく過ごすことが大学時代の大事な思いでの一コマになることの方が大切に思っていたのである。

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吾妻山(西吾妻山)

2008-08-21 19:09:20 | 旅行記

早池峰山に登った翌日は天気が良く、自宅への帰り道からちょっと寄り道すれば、吾妻山に登れそうです。しかもこの山はロープウェーとリフトを使えば簡単に登れます。東北道を南に下ると、山形方面は空がのぞいています。山々の向こうは天気が良さそうなので、登ることに決めました。

米沢から南下し、白布温泉に着きました。米沢からは雲間に吾妻連峰が見えていましたが、白布温泉からは全く雲の中で見えません。でも、きっと山の上は晴れだろうと思い、ロープウェーに乗ろうとしたのですが、ちょっと甘かった。何とロープウェーは20分ごとの運行で、ちょうど出発してしまったばかり。リフトは長く、そして遅く、しかも3本も乗らなくてはなりませんでした。 でも、リフトに乗って上に行けば行くほど空が晴れてきて、3本目のリフトに乗った時は空が晴れ上がり、山が見えました。後ろを振り返ると、遠く月山、蔵王山、朝日岳、飯豊連峰が雲の上に頭をのぞかせているのが見えます。

リフトを降りてからは早足です。夕立になってしまっては困るので。初めの樹林帯を抜けると一気に稜線に出ました。稜線は東北地方の山によくありがちな湿原になっており、木道が敷かれていて歩きやすい。また吾妻山は古い火山なので、大きな岩がゴロゴロしているところも何カ所もあり、湿原があることも合わせ、大雪山ととてもよく似た感じです。あちこちにお花畑の痕跡があり、あと1月も早く来ていれば、素晴らしいお花畑が見られたことでしょう。

平日にもかかわらず、結構な数の人が登りに来ていましたが、これはアクセスの良さによるものでしょう。 リフトを降りて往復4時間ほどがコースタイムとなっています。

稜線から南側を見ると、吾妻連峰の山々が一望できます。実は吾妻山は山形県から福島県にかけての連山全体を差しているのです。その中には、福島市内からよく見える吾妻小富士も含まれています。その中の最高峰は、連峰の西に位置する、今日登る西吾妻山なのです。その吾妻連峰のさらに向こうには、安達太良連峰も見えました。

稜線に出てからアップダウンを繰り返すと、目の前に木々に覆われた山が見えてきました。これが西吾妻山です。天狗岩という眺望の利くところから、山頂はすぐでした。この山で不満なのは、西吾妻山の山頂が全く眺望が利かないことです。写真を写しただけで早々にそこを後にしました。

山頂の少し手前の梵天岩というところでお昼にしました。来る途中米沢駅で買った牛肉どまんなかという駅弁です。この駅弁は、全国の人気駅弁ランキングでいつもベスト3に入る人気駅弁なのです。この話を聞いていたので、いつか買ってみたいと思っていて、今回ようやく買うことができ、しかもそれを山の上で食べようと思っていたのです(以前も、北海道の厚岸駅の有名な駅弁、かきめしを買って、摩周岳の山頂でお昼に食べたことがあります)。これが美味しい!ご飯の上に牛肉のそぼろと、そぼろよりも大きく刻んだ牛肉を甘辛く似たものが敷き詰められているだけなのですが、これが素晴らしく美味しい!しつこさや脂っこさはなく、後味もすっきりしています。控えめなおかずにも満足しました。

さて、ここからも前述の吾妻連峰、安達太良連峰が望め、月山、朝日連峰、飯豊連峰が雲の上に頭をのぞかせています。困ったことにこれらの山々に登りたいという思いが頭をもたげてきてしまいました。でも、それが実現するのはいつのことになるやら。。。

コースタイム4時間のところ、かなり急いだこともあって2時間10分でした。リフトとロープウェーに乗っていた時間は待ち時間も入れれば全部で1時間半くらいあったかも知れません。

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早池峰山

2008-08-20 17:04:44 | 旅行記

岩手山に登った翌日は、同じ岩手県にある早池峰山に登ることに決めていました。天気予報では雨でしたが、ホテルで目が覚めると青空だったので。予定通り登ることにしました。

しかし、早池峰山の登山口に車で近付くに連れて山々にガスがかかりはじめました。登り始めた最初のうちは山頂も見えていたのですが、結局8合目あたりからは完全にガスの中に入ってしまいました。

早池峰山の高いところには高木が生えていません。近くの他の山には普通に生えています。しかし、早池峰山には遠目で見ても赤茶けた岩場が見えるばかりです。なぜかと言うと、早池峰山を形成している岩石には金属分が多量に含まれ、それが植物の成育を阻害しているからです。だから早池峰山には独特の植物分布が見られるのだそうです。これは俺が先ごろ登った尾瀬の至仏山と同じです。

そうしたこともあって、早池峰山は高山植物の宝庫です。初夏には早池峰山特産の高山植物で、一面のお花畑になります。その時期はマイカー規制もあるくらいたくさんの人が訪れます。しかし、この時期はマイカー規制は終わっており、今日は百名山で日曜にしては人が少なかったです。秋の花はかなり多く咲いており、早池峰山特産のハヤチネイスユキソウの残骸やナンブイヌナズナの実もあちこちに見られました。ただし、今日はそれなりの数の人が登っていましたが、聞くところによると、その大半は地元の人で、山頂にある小屋のトイレ処理のボランティアで登ってきているのだそうです。こうした地元の人の努力で早池峰山が保たれていることに感激しました。

早池峰山の登山道は麓から山頂までほぼまっすぐに付いているので、距離は短いけれど、登りも下りも実に辛かったです。しかも岩場の連続で浮き石も多かった。雨が降ったらかなり滑るでしょう。珍しく鎖場もありました。結構な疲労を覚えつつ登頂した山頂では少し日も差しました。山頂に着くとやはり早池峰山は神の山だということがよくわかります。石仏があったり、剣や矛がたくさん奉納されたりしています。真新しいものも多く、祈りのために登ってくる人が現在でもいることがわかります。

個人的な結論としては、やはり早池峰山は花の時期に登るべきだということです。登山としては単なる上り下りの往復だけで、面白味に欠けました。

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岩手山・八幡平

2008-08-19 19:45:41 | 旅行記

東北地方にある日本百名山に数えられる山々に登りに来ました。特に岩手山は、石川啄木や宮澤賢治と関わりのある山として、岩手山の麓の盛岡市同様、日本百名山の麓にある県庁所在地の前橋に生まれ育った者として、岩手山にはいつか登ってみたいと思っていました。またかつて列車で北海道へ旅した時、盛岡周辺で、左側の車窓に聳える岩手山を目にしていたのも、そうした思いにつながっていたのでしょう。

盛岡で宿泊したホテルで目が覚めると曇りでした。岩手山は諦めようかな、と思ったのですが、天気予報では、東北北部は晴れとのことで、なかなかこっちまでは来られないので、思い切って登ることにしました。馬返しの登山口からは全く山の姿は見えないのですが、空は高曇りで、山肌に雲が湧き上がっている感じです。ひょっとすると山の上は天気が良いかも知れないと思われたので、改めて登頂を決意しました。

コースタイムは4時間半となっています。7合目までは樹林帯をひたすら登ります。これが辛かった!ひたすら登りである上に、樹林帯なので風が吹きません。汗が滝のようで、いつも頭にかぶっている手ぬぐいはすぐに汗でぬれて雫が滴るほどでした。山の麓は自衛隊の演習場で、今日はちょうど砲撃演習をやっているようで、時折銃砲の音がこだまし、その都度びくっとしてしまうのは困りものでした。

途中雲の切れ間から青空がのぞき、これは結構良い天気になるんじゃないかと期待が高まります。7合目で雲の上に出、山頂のある薬師岳の姿がくっきりと見えた時は嬉しくなり、登って良かったと思いました。

山頂までは心地よい風が吹く快適な稜線歩きでした。山頂は噴火口のへりにあります。土曜日で、しかも岩手山は日本百名山に入っているというのに、人はあまり多くなく、いつも百名山の山々の山頂で感じる、百名山ハンターの中高年の登山客に対する不快感を、今日は珍しく感じませんでした。天気もまずまずだったので、写真を写したりしてのんびり30分ほど休憩を取りました。登りのコースタイムは3時間15分。我ながら上々です。

私が登ってきた登山道は、途中で新道と旧道に分かれており、登りは新道を通ったので、下りは旧道を通りました。これが正解。火山特有の(岩手山は活火山です。山のあちこちから水蒸気が上がっています。登山道もそういう場所の横を通っていました。)ざらざらじた砂の道で、ひどく歩きにくかったのですが、新道と違って木がほとんど生えていないために風通しがよく、汗をかいた肌に風がとても心地よかったです。下りのコースタイムは2時間40分。下りの苦手な私にしてはやはり上々です。

岩手山はの前述の通り、ぜひ一度登ってみたい山でしたが、個人的な感想としては北海道の羊蹄山などと同じく、登りも下りも山頂からの眺めも単調で、一度登ったらもういいかな、という感じでした。

麓に着いたらまだ14時前だったので、思い立って同じく日本百名山に入っている八幡平へ行くことにしました。ここは山頂近くまで車で行け、わずか10分ほどで登頂できるのです。せっかく近くまで来ているので、行くに越したことはありません。とりあえず麓の町にある日帰り温泉で汗を流し、八幡平へ向かいました。

晴れならば素晴らしい眺めが楽しめるであろう高原の道をすいすいと車で飛ばし、山頂下の駐車場に車を停め、予定通り歩いて10分で登頂。こんな簡単な山はありません。 山頂を示す木柱の前で写真を写し、あっけなく登山は終わりました。

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礼文の旅2008・その8

2008-08-10 23:36:39 | 旅行記

その日も早めに港に戻れたので、利尻山の写真を写したりしてバスの時間を待った。

バスで星観荘に戻ったのだが、すっかり日に焼けてしまって痛いほどである。夕飯はいつものように美味しい。最後の夜ということでしみじみした気持ちで食べる。今日は年配の方が多く、静かな食卓である。

食後、どうやら今日は久しぶりに素晴らしい夕陽が見られそうだということで、星観荘の裏にあるスコトン神社の方へ皆で上がっていって見ることにした。

太陽が水平線に近づくにつれ、次第に空にはオレンジ色が差してくる。スコトン神社に着く頃には、西の空は一段とオレンジ色を増していた。空には相変わらず雲一つ無い。この後どのような夕焼けが見られるのか、胸が高鳴った。

日没の時間が近づくと、空のオレンジ色はますます濃さを増すとともに、今まで見たことのない光景が眼下に広がった。そう、今日はあまりに無風状態であるために、海はあるか彼方まで凪ぎわたっているので、太陽に光がまっすぐ海面に映っているのである。ちょうど、水平線の彼方から、私たちのいるところまで、光の道がまっすぐに続いているかのようである。このような光景は、湖などでは目にしたことがあるが、海では普通は波が立っているので目にすることができない。それが今日は、空には雲一つ無く、海面には波一つ立っていないことから、このような光景が目の前に広がったのだった。

私達は息を呑んでその光景に見入っていた。この後どのような光景が目の前に繰り広げられるのかと胸をわくわくさせながら。

太陽が沈んで行くにつれ、遙か彼方には薄く雲がたなびいているのがわかった。沈む夕陽はこの雲を真っ赤に染め、素晴らしい夕焼けを見せてくれるに違いないと思われた。

そして日没の時間を迎えた。太陽は真っ赤に染まり、次第に水平線に姿を消していく。それに比例して、空はますます赤く染まっていく。太陽が水平線に沈みきると、空の水平線に一番近いところから、オレンジ、赤、薄紫、そして薄い青という、鮮やかなグラデーションをなした。水平線の上に浮かぶ雲も、様々なオレンジや赤の色に染まっている。

私たちは言葉も出ずにその夕陽に眺め入っていた。私は「俺はもう十何年も礼文に来ているけど、こんなにきれいな夕陽は初めてですよ。初めて礼文に来てこんなにきれいな夕陽を見られるなんて、みんなラッキーだなぁ。」と思わず口にした。それを聞いたみんなは嬉しそうだった。

確かに、水平線に沈む夕陽を見るのはこれで3回目であるが、これまでの2回は水平線近くに雲がなく、ただ空一面がオレンジ色に染まっただけで終わった。しかし今回は、海も凪ぎわたり、雲も棚引いていて、素晴らしい夕陽が見られる条件がそろっていたのだった。今年は天候が不順で夕陽が見られないことが多く、今年になって一番美しい夕陽とのことだった。

そんな美しい夕陽が、私の今年の礼文の旅の締めくくりになってくれた。翌朝私は礼文を離れたのだった。

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礼文の旅2008・その7

2008-08-05 21:09:17 | 旅行記

礼文に十数年も通っていると、行っていないところはほとんどなくなってくる。しかし、近頃話題のピーク268にはまだ行ったことがなかった。

礼文島の香深の集落の後ろに聳えているのは三角山という。昔はこの三角山に登る道があったそうだが、現在では廃絶している。実は数年前、何とかしてこの三角山に登ろうと考えて、近くまで行ってみたのだが、笹藪がひどく断念したことがある。

ところが、このピーク268には以前から香深方面から登山道が付いていたのだった。星観荘からも数年前からハイジの谷などとセットで登る人が増えてきたので、今回出かけてみたのだった。

植林用に付けられた道をのんびり歩く。今日は1日大変良い天気、しかも稜線に出ると心地よい風が吹いている。東海岸を見下ろす稜線に出ると、東側の斜面は一面の原生林。礼文では珍しい。そこをひと登りするとピーク268に着く。驚いたのは家族連れがいたこと。話の内容からして地元の人のようである。ピーク268の山頂へはロープが張ってあって行けないようにしてあるが、植物を踏まないようにちょっと行かせてもらう。

山頂からの眺めは素晴らしい。しかも初めて見る光景なので感慨も深かった。特に南に聳える利尻山は見事という他ない。香深の港に豪華客船が停泊しているのは目障りだったが、青い海と青い空、そしてすっくと聳える利尻山の美しさ、凛々しさは表現する言葉を知らないほどである。

登山道はそのまま香深の集落へと付いている。この下りの道も短いながら、あるところでは北海道の高山の針葉樹林帯、またあるところでは低山の広葉樹林帯を通っていて、意外なほど植生が豊かであることがわかる。

登山道は香深のスキー場のゲレンデに出、そのまま集落へと続いていた。長いアスファルト道を歩いて、フェリーターミナルに戻った。足はやや痛くなっていたものの、登山靴を履いてこなくて良かったと思った。

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礼文の旅2008・その6

2008-08-01 20:53:24 | 旅行記

礼文滝に行く道を曲がった。入り口には監視員のプレートを掲げている車が1台停まっている。ある内緒のことを計画している私にはちょっと邪魔な存在だったが、今日は時間もたっぷりある。いつかいなくなってくれるだろうと高をくくって、ハイジの谷へと向かっていった。

それにしても暑い!ハイジの谷へ降りていく道は笹藪と林の中を通っているので、風通しが悪い。流れる汗をぬぐいながら道を下っていく。

今回の礼文ではずっとスニーカーで歩いているので、足の痛みがある。それを我慢しながら歩いていくと、目の前が開け、ハイジの谷の見慣れた光景が目の前に広がった。誰もいない。監視員とも既にすれ違っている。私はひとまずその内緒のことを実行しようと急いで道を下っていった。

内緒のこととは、ある場所へ行くことである。私は晴れの日のその場所が、晴れの日の礼文岳山頂と並んで、礼文で一番好きな場所なのである。私は静かにその内緒のことを実践した。

その場所はやはり素晴らしかった。前回訪れたのはもう8年ほど前になるが、あの時同様にチシマゲンゲとヨツバシオガマがたくさん咲いていたが、前日に見たゲンゲの丘同様、以前訪れたときよりも花の数は少ない。予想はしていたもののやはり寂しい。でも、私が礼文で一番好きな場所に、こうした素晴らしい天気の日に訪れ、花々が咲く遠くに利尻山が聳えているのを眺めることができ、満足だった。できればここでしばらくゆっくりしたかったが、諸事情あって、写真を何枚も写して30分ほどでその場を後にした。

礼文滝には降りなかった。降りて滝の下でお昼を食べようとも思ったのだが、滝の横を再度上がるのは嫌だし、滝から元地方面へ海岸に沿って歩いていくのは禁止されているので、滝には行かずにそのままペーターの丘へ戻って、そこでお昼にした。他に人は誰もいない。ペーターの丘の北側斜面にはたくさんのレブンウスユキソウが咲いている。レブンウスユキソウ群生地よりもたくさん咲いており、しかも見頃である。群生地では他の植物と混じって咲いているが、ここでは礫地にレブンウスユキソウだけが咲いているので、ことのほか美しく見える。レブンウスユキソウが咲く向こうに、緑色のハイジの谷全景と、その向こうの青い海が見える。その様子を写真に収め、1時間ほどゆっくりしてハイジの谷を後にした。

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