桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

書道について73

2012-04-14 22:29:14 | 日記・エッセイ・コラム

○修論と修了制作

大学院2年となり、将来のことを考え始めたのだが、教育実習で、高校生を教えることの楽しさを知ってしまった私は、高校教師になろうと決め、就職活動をしてこなかった。

群馬県では高校の書道の教師の採用は長らく行われていないと聞いていた。教員採用試験の願書を取り寄せてみると、やはり書道の採用はなかった。やむなく第2志望の国語教師になることに決め、出願をした。3月から受験勉強を始め、春休みから新学期にかけて、私自身としては大学入試の時以上にかなり真剣に勉強した。6月に礼文島に高山植物を見に行ったのだが、その行き帰りの列車の中や、泊まった宿で時間のある時にも時間を見つけて勉強していたほどだった。

幸い試験をパスして、晴れて4月から高校の国語教師になることが決まったわけだが、一方で修論のことも並行して準備を始めていた。卒論で陳鴻壽を取り上げ、その交友関係を調べていく中で、陳鴻壽もその一人に数えられている西泠八家の印人の書に心惹かれ、また彼らの書に類似性を見いだしたこと、印の側款にも関心を持ったこともあり、西泠八家の書についてまとめる(「研究する」「論じる」ではない)ことに決めた。タイトルは「西泠八家及び周辺印人の書」とし、西泠八家に加えて屠倬と胡震の書についても合わせてまとめることにした。

卒論と同じく彼らの書作品の図版をできる限り多く集め、その中の典型的な書風やそれらの関連を整理した。また、側款の書についてもその書風と変遷を整理した。卒論の時に助手の先生から「陳鴻壽展覧会図録にならないように」と指摘されたが、そんなことはすっかり消し飛んでいて、とにかく資料を整理してまとめることに終始した。

修了制作は、その頃資料を入手して関心を持っていた包山楚簡の臨書と、前年から取り組み始めていた高野切第一種・巻1と、高野切第三種・巻18の復元臨書は決まっていた。もう一点をどうするか。これは創作になるわけであるが、大学6年間の集大成として私は、漢字仮名交じり書の大作に取り組むことに決めた。大きさは3尺×9尺の横物。紙は大学の先生にいただいた高級な画仙紙を接いで使用した。題材はとっておきの言葉「忘れないで」。

前年に訪れた礼文島で私は忘れられない出会いをした。星観荘という宿である。そこに泊まることで礼文島の素晴らしさを知り、たくさんの旅人との素晴らしい出会いがあった。その年にも6月、7月、9月と3度も訪れ、さらに多くの旅人と出会い、素晴らしい体験をすることができた。この感動を何とかして書作品として表現したかった。題材としては、島を去る旅人達のために、皆で歌った、礼文島で昔から歌われてきた「忘れないで」の歌詞を取り上げることにした。歌詞は一番よりも二番の方が、大学生活を終える私の心境にもふさわしいと思えたので、それを書くことにした。

忘れないで 忘れないで この島のことを / 旅立つ船が見えなくなるまで ちぎれるほど手を振ろう / さいはての海の色より 澄んだものがある / それは船のデッキの上で 手を振る君の涙 / 忘れないで 忘れないで 忘れないでおくれ

表具に失敗して書き直すというアクシデントもあり、不十分なまま制作を終えたが、この歌詞を書いたことにこそ意義があったので、それこそ「忘れられない」作品となった。学生時代に書いた作品の多くは既に処分してしまったが、この作品はパネルから剥がして丸め、今も押し入れの奥に眠っている。

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 書道について72 | トップ | 荒船山 »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして。コメント失礼します。わたしは、筑... (あおもり。)
2012-09-22 00:36:49
はじめまして。コメント失礼します。わたしは、筑波大学の芸術専門学群・美術・書コースを受験する高校3年生です。頭がよろしくないので推薦で受けようと思っています。実技については大学のサイトなどの要項ぐらいしか、手に入れれず、やっとここにたどり着き、試験会場の雰囲気などを知ることができました。。大学の知り合いや先輩がいなくきけなかったのでとてもよかったです。ありがとうございます。それで、質問があります。

一、創作作品の方は書家の書風がでたほうがいいのですか?(いままで五文字の方を自分の楷書で書いていたもので)
二、漢字の臨書は、文で抜き出さなければ失格になってしまうのでしょうか?
三、これは絶対やっておかなければならないものはありますか?

進学を夏に決めたので、すごく遅れをとっているのですが、筑波に挑戦するのはとても自分のためになるし、少しでも多くの情報を知っておきたいので、質問させていただきました。お手数ですが、よろしくお願いします。失礼しました。
返信する
あおもり。さん (桑の海)
2012-09-22 21:44:31
あおもり。さん

こんばんは。はじめまして。コメントありがとうございます。
単刀直入に回答を。

1.古典の臨書の方がずっと評価されます。あまりに書家の書風を前面に出すと「この受験生は入学後進歩しない」と判断されます。楷書なら、初唐の三大家、北魏の造像記などの書風にならって書くのが一番です。

2.漢字の臨書は問題用紙に「ただし、連続する6字を選ぶこと」という指示があります。どの連続する文字を選んでもかまいませんが、連続しない6字を選ぶと課題違反になります。書きやすそうなところを2,3カ所選んで書いてみて、1カ所に決めて繰り返し練習して仕上げるのがベストでしょう。

3.仮名の書は古筆の原寸臨書(だいたい3~5行)が出題されます。しかも、料紙を課題に印刷された作品の図版と同じ大きさに切って書かなくてはいけません。また、俳句1首を色紙(仮名用)に仮名の書作品として、三角法構成を利用して散らし書きにする課題もあります。これは俳句を変体仮名と連綿を利用して書かなくてはいけません。私も筑波の書コースの受験生を指導しましたが、この2つの課題が一番上達せず困りました。仮名の書の出来不出来は合否を大きく左右すると思います。

「教育図書」という教科書会社のHPを見てみてください。筑波大その他、書道を学べる大学の実技試験問題を見ることができますよ。
返信する
桑の海さん。こんばんは。 (あおもり。)
2012-10-08 21:50:56
桑の海さん。こんばんは。

詳しい回答ありがとうございます。とても参考になりました。

ただ、ひとつわからないとこがあって、

質問2で連続する6文字を選ぶことについてなんですけど、連続する6文字とは、ただ単に文字が6文字続いていればいいのでしょうか、それとも文章が切れないように6文字選ばなければならないのでしょうか・・・?

返信する
図版には釈文は付いていないので、文章の意味とし... (桑の海)
2012-10-09 07:11:12
図版には釈文は付いていないので、文章の意味としての切れ目は、高校生にはわかりようもないですね。
我々にだって難しいものです。
よって、意味の切れ目に関係なく、ただ文字が連続している6字を選べばよいのです。
秋風が吹き始めました。
推薦入試は11月末です。
エンジンをかけましょう。
返信する
分かりました! (あおもり。)
2012-10-09 21:53:38
分かりました!

詳しい回答ありがとうございました。


面接練習もはじまって、いよいよだって感じです。
このブログを見つけて質問できて、桑の海さんから、詳しいことをたくさん聞けてよかったです。参考にして、もっと頑張ります!!

桑の海さん。大切な時間を割いてくださり本当にありがとうございました。
返信する
お役に立てて何よりです。 (桑の海)
2012-10-10 21:46:23
お役に立てて何よりです。
面接も、あまり専門的なことは聞かれません。
実技のできはどうだったか、とか、入学後どんな書風や書体に取り組みたいか、卒業後はどんな進路を考えているか、など一般的なことばかりです。
受験生をいじめるような質問はされません。
緊張せず乗り切ってください。
朗報を期待します。
返信する

コメントを投稿

日記・エッセイ・コラム」カテゴリの最新記事