桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

書道について65

2009-12-30 23:47:59 | 日記・エッセイ・コラム

○大学院1年の頃⑧

*台湾の旅・その4

その日は残された写真によれば、龍山寺の近くで皆で夕食だったようだ。

その翌日は自由行動だが、オプショナルツアーもあって、多くの人はそれに参加した。しかしこの日は雨で、どこに行くにしても雨にたたられてしまった。私はツアーは申し込んでいなかったので、留学生の人の案内で、市内の書店巡りをすることになった。

書店は4,5カ所回っただろうか?でも、さしたる収穫もなく、目に付いた本をいくつか購入して荷物だけはいっぱいになったものの、気持ちは何となく不十分であった。昼食もその辺りの店に適当に入ったが、留学生の人が「ここはあまり美味しくない。」というくらいで大したことがなく、できれば割り切ってオプショナルツアーに申し込めばよかったと後悔した。

その夜は旅行の最後の晩ということで、パーティーが開かれた。食事も豪華で、酒も進んで大いに盛り上がった。その後、その夜のパーティーにも参加していた、筑波に留学していた杜忠誥さんのアトリエに伺うこととなった。杜さんも薛先生同様、台湾を代表する若手書家で、そのような立派な方と大学で一緒に学べたことは、台湾の書人から見ると大変なことらしい(実際、他の台湾からの留学生の人からすると、このお二人は雲の上の存在であるそうだ)のだが、私などにはそんな実感は全くなかった。

その後上級生と先生方がタクシーに分乗して、パーティーのゲストであった、台湾を代表する若手書家の一人である薛平南先生のアトリエに伺うこととなった。

先生のアトリエはマンションの一室で、篆刻をよくする先生らしく、机上には篆刻の道具が一面に広げられ、ガラス棚には篆刻用の印材がたくさん並べられていた。その中のいくつかを先生は私達に見せてくれたが、そのすごさは私などの門外漢には理解できなかった。篆刻家でもある小西先生は目を丸くしてそれらの印材の名品に見入っていた。

杜さんのアトリエもマンションの一室であった。部屋の壁一面に二重になった本棚があり、本がぎっしり詰まっている。机の上には紙が広げられ、書かれたばかりの作品も無造作に置かれている。軸や額などもあちこちに置かれている。私はその書棚の蔵書にびっくりしてしまい、杜さんにことわってその本の何冊かを手に取って見始めたのだが、興味深い本が多くてきりがない。先輩方が杜さんと話をしている間も、私はひたすら本に見入ってしまった。

帰る時間になった頃、杜さんの発案で、アトリエに置かれてあった作品のうち2点を、お邪魔した私達にくじ引きでプレゼントしてくださることになった。すると草書で書かれた大きな作品の方が私に当たり、小さい方の作品は、留学生の呂さんに当たった。私はできれば小さい方の作品(杜さんが得意とする秦隷書で書かれていた)が欲しかったのだが、まぁよしとしようと思った。(作品は帰国後すぐに表具に出して軸に仕立てた。)

翌日は帰国の途についた。台湾ではとにかくたくさんの本を買ったので、レンタルして持って行ったスーツケースは、帰りには本でいっぱいになってしまい、服などは一緒に持って行ったリュックに詰め換えて帰ってきたほどであった。それ以外にも大漢和辞典の海賊版を購入したが、それは後日自宅へ配送されるとのことだった。

初めての台湾旅行だったが、いろいろ不十分なところはあったものの、充実した4泊5日であった。ちなみにこれ以降、書コースでの海外研修旅行は実施されていない。台湾で買った本も、大漢和辞典以外はほぼすべて処分してしまった。でも、あの時中央研究院で見た木簡と、故宮博物院で見た黄州寒食詩巻と祭姪文稿を直に目にした感動は今でも鮮明である。

コメント
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