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「太陽が輝き、ツグミが囀り、バンビが蝶々を追いかけてるとこだ」

2005年12月03日 | パルプ小説を愉しむ
『クリスマスのフロスト』(R・D・ウィングフィールド)に登場するフロスト警部は、女王陛下のオマルですら平気で使ってしまうほど人怖じすることのない、がさつで下品な警察官。よれよれのコートにプレスの痕跡もなくなっているズボン、それに品の悪いマフラーというのが、このイギリスのコロンボのいでたち。コロンボには少なくとも愛らしさがあるが、この男にはそんな可愛らしい愛嬌などない。ただ、格好悪いが人間臭く、何事にも結果オーライという力が抜けた自然体でしぶとく事件に食いついて解決してしまう珍道中が読んでいて面白く、ついつい夜更かしする日が続いてしまった。

ハードボイルド探偵に不可欠な信念などという代物はポケットを裏返したって欠片も出てくることが無い無節操男なので、これはという名台詞には巡りあわないが、変な力みがない自然体から迸り出てくる下卑た台詞の連射は、それはそれなりに愉しく可笑しく、読んでいる身からも力が抜けてさっぱりとしてしまう。

ライバル警部の代役として事件現場に出向いた当日の天気をこう言う。

「おれが出張ると、空は決まって機嫌を損ねる。これがアレン警部なら、太陽が輝き、ツグミが囀り、バンビが蝶々を追いかけてるとこだ。

拗ねてるのか皮肉を言っているのか、万事がこんな調子だから何を言っても「へいへい」という感じで受け入れられてしまう。

上司の署長からはとっても嫌われているが、同僚たちからの評判は悪くない。書類を書くのが面倒なので、自分が解決した事件を同僚に譲ったり、借金ゆえに内部情報を引き渡せと脅されている内勤警官を救ってやったり。しかもそれを自慢する事も相手に親切めかして伝える事もなく、ただただ普通のこととしてやってしまう愛すべきキャラクターの持ち主。

捜査令状なしでの捜査にも二の足を踏むなどということもなく、平気で他人の家に上がりこむし、出されたティーカップや調度品の小皿で煙草をもみ消して、家主をやきもきさせる。こんな調子ですっかり現場を自分のペースに巻き込んでしまうのです。

状況証拠から単純にある老人を殺人犯人と考えるのだが、部下の新米警官から推理の根拠拠が薄弱だと指摘されると、

「それは見解の相違というやつだな。おれの判断基準は、おまえさんのよりもうんと甘くできてる」

などとしゃあしゃあと言ってのける。しかもそのいい加減な推理がドンピシャで、その老人が30年前の殺人犯であった。話の進め方も主人公なみにマイペースで結果オーライ。ストレスを感じた時に、体中から余計な力を一気に取り去ってくれる魔力のようなお話でした。


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