「そうだな、一目惚れしつつあるよ。」 2005年03月11日 | パルプ小説を愉しむ 女に職業を訊かれた探偵が、放った一言 - 「おなたはいったい何をなさっているの?」 「そうだな、一目惚れしつつあるよ。」 以前も紹介した『スティック』(エルモア・レナード)で見つけたごく軽い口説き文句です。
「この国じゃ、現金は事実上違法になりつつある」 2005年03月07日 | パルプ小説を愉しむ 「この国じゃ、現金は事実上違法になりつつある。麻薬が現金を汚れたものにして、インフレが価値を低下させた。百ドル札は今では15年前の十ドル札3枚の価値しかない。その上誰も百ドル札を受け取りたがらない。なぜなら、その90%には、コカインの残滓がごく微量ついてるからだ。もちろんそんなことはでたらめかもしれない。しかし本当かもしれない。世界の総人口のたった5%しか占めていないアメリカ人は、世界中の麻薬の80%を鼻から吸い込んだり、火をつけて吸ったり、注射しているんだからね。」 言っている内容はハチャメチャだが、やたらと説得力がありませんか。ロス・トーマス(大好きな作家です)の『黄昏にマックの店で』で、遣り手弁護士が捲くし立てる台詞です。 こんなレトリックで相手を煙に巻けるようになりたいな、と思いつつパルプ小説を愉しんでおります。
「そういう寓話的な話は嫌いだ。俺は現実主義者だから」 2005年03月05日 | パルプ小説を愉しむ 『バッドガール・ブルース』(レックス・ダンサー)の主人公である元売れっ子ファッション写真家のアンディー・ドランが、抽象的で訳の分からない話を披露されて辟易した時に吐いた台詞がこれ。自分は汗をかかないくせに理屈を並べて偉ぶるのだけは上手な奴ら(あなたの周りにもいませんか?)に、いつかぶつけてやれそうな台詞だわい、とメモっておいたものです。 愛人であるファッションモデルのキャンディーと逢引している夜、中庭で一人の男が刺し殺された。その男はアンディを殺しにきていたことがわかる。ニューオリンズでの映画ロケ現場でも不審な事故。調べていくうちにどんどん不審が深まる。愛人の夫のテキサス富豪や、右翼政治家、怪しい黒尽くめの男と女。知り合いの女性が次から次へと事故にあう。家主の娼婦、ブルーセット、女優の友達パリス、事故に巻き込まれた新人女優の兄の協力を得て、陰で糸をひく人間に迫っていくうちに、映画監督が主催した船上パーティーに惨事。黒幕と見ていた愛人の夫が沈んだ船の中で死ぬ。真犯人は誰? 主人公の周りには魅力的な女たちがずらり、そして彼を助ける男たちも。アンディー従兄弟に言わせると芸術家ではなく、撮った写真に自分が投影されることがない単なる雑誌向けのカメラマンでしかないのだそうだ。決して派手でも口八丁手八丁ではないのだが、クールさと身に秘めたタフさが持分の主人公だ。 【その他のお薦め台詞】 ・アンディーの地元ニューオリンズについての政治観。食べ物に喩えるのがクールだね。喩えの意味はよく分からないにしても、なんとなく分かったような気がする。使える手ですね。 - 「ニューヨークやワシントンの政治をマヨネーズとすれば、ここのはタバスコだと言っていい。」 ・アンディーが自分を語ったシニカルな台詞。小洒落たバーで女性を相手にこんな台詞を口にしてみたいもんだ。 - 「俺は腐り始めた、ゆっくりと内側からね。しばらくすると何もなくなっちまった。自分の内側が空っぽになったんだ。」
「ねえグラミー賞をどう思う?」「いいと思うよ。もっと回数を減らすべきだとは思うけど。」 2005年03月04日 | パルプ小説を愉しむ 「ねえグラミー賞をどう思う?」 「いいと思うよ。もっと回数を減らすべきだとは思うけど。たとえば10年に1度とか。80年代は飛ばすべきだと思うな」 第77回アカデミー賞のニュースを読みながら、『ノスタルジア・キルズ』(ロバート・ウェストブルック)のこの台詞を思い出しました。お祭り騒ぎばかりでなく、こんなピリリと薬味の効いたコメントをして欲しいな、マスコミの皆さま。 それはそうと、この小説の主人公は、ベバリーヒルズ署の警部補でありながら、なんとピアノの名手。バッハのフーガの64分音符をひいたり、ジャズもいける。だって名前はラフマニノフなんだから。この警部補さん、ルックスもよく成績良好なナイスガイ。設定にちょっと無理があるな。
「きれいな女にタマを蹴られたような感じだ」 2005年02月26日 | パルプ小説を愉しむ いきなり下品な台詞で失礼。『探偵はいつも憂鬱』(スティーブ・オリバー)の主人公、昼は新聞記者で夜はタクシー運転手、そしてその実態は元精神病患者でありながら素人私立探偵のスコット・ムーディーが、癌を宣告されたインタビュー相手から引き出した台詞がこれです。なかなか、率直かつ感情がこもっている一言ではありませんか。 恋人の父親が殺され、嫌疑をうけることになったムーディが、犯人探しをするうちに辿り着いたのが、人類長年の夢であった長寿の秘法を開発したと名乗る研究所。実は、長寿というのは真っ赤な嘘で、大掛かりな詐欺の組織であった。途中で雇った一見ダメ探偵や、同じく研究所を探っている超元気老人と一緒に、バタバタ探偵業が続く。 【その他のお薦め台詞】 ・癌患者の老人インタビューした後にムーディーが悟った人生観がこれ - 「人生は18歳のときに思っていたような壮大で永遠につづく贈り物ではないらしい」 ・へまをしたムーディーが、へまを指摘された相手に返したナイスリターン。この台詞は職場で使えそうだ。 - 「皮肉な現実を指摘するつもりならお手柔らかに頼む」
「そう、人生は困難な選択の連続さ」 2005年02月22日 | パルプ小説を愉しむ 古いノートの片隅に、こんな会話が書き留めてありました。何の小説だったか忘れましたが.. 「煙草を吸ってもいいか?」 「窓を開けてくれ」 「外は零度だよ!」 「そう、人生は困難な選択の連続さ」 好きだな、こんな小洒落た会話が。
「後日改めてのご招待には応じない主義なんだ」 2005年02月19日 | パルプ小説を愉しむ 『古狐が死ぬまで』(ジャネット・ドーソン)で主人公の女性私立探偵ジェリ・ハワードが口説かれるシーンの台詞 - 「今日は長い一日だったの。あとは熱いシャワーとひんやりしたシーツね」 「ぼくは誘いを受けているのかな?」 「今夜はだめ」 「後日改めてのご招待には応じない主義なんだ」 ハードボイルドっぽくはないが、乾いた文章で丁寧にストーリーが展開されている。主人公のジェリ・ハワードは歴史を専攻し20世紀末の人類行動の研究と冗談を言いながら探偵をしている。身の上を積極的に語って女っぽさを出すことなく、淡々と仕事に打ち込むが、やはり話の流れで離婚暦があることも出てくる。ジェリを女として表現しているのは、登場人物の一人が口説こうとしているシーンくらい。あとは見事に女を消し去って物語りを進めている。 父親の友人であるフィリピン人の大学教授の殺人をめぐって、サンフランシスコ近隣に住むフィリピン移民とフィリピン富豪、父長制のなごり、世界大戦からの歴史に関わる人間関係などを織り込み、謎解きが始まる。 大学での専攻科目(歴史)と職業(探偵)がかけ離れていると言われたジェリが、探偵業について語る言葉がなかなかイカしている - 「わたしはこの商売を20世紀末期の人間行動の研究と考える方が好きよ」
「季節の移り変わりも落ち葉や雪ではなく、屋根の幌をおろしたオープンカーの数で決められている街なんだ」 2005年02月18日 | パルプ小説を愉しむ 『ホテル・カリフォルニア』(アラン・ラッセル)で、有名リゾートホテルの副支配人アムが自分の住む街-サン・ディエゴ-をシニカルに形容する台詞。 アムは、支配人GMからのむごい仕打ちにも耐えつつ業務に励んでいる。そんな中ホテル探偵が辞職したために保安部長も兼務することとなり、仕事の量は増えるばかり。まともに働かないフロントマン、必ずホテル内を迷うベルボーイなどに加えて、アシスタントとして変な女性を押し付けられた。支配人GMのスパイか?そんな中いろいろな事件に直面する。超大サイズブラ泥棒、飛び降り自殺、175人のボブ・ジョンソン集団の到着、そして浮気妻とその愛人を殺した夫。どたばたといろいろな事件が起こり、それへ右往左往しながら対処している様がおもしろい。決してダメ男ではなく、ちょっと冷めた視線で世を眺めながら仕事はちゃんとこなしていく。しっかりしているが、ちょっと冷めた社会派主人公の仕事柄オフビートな日常をユーモラスに描いてくれる物語。 素晴らしいのは、好意をいだきあったアシスタントと夕食をとりにでかける途中でアムがそれとなく語るホテル哲学。現実の世界から抜け出したくてホテルにやって来る泊り客に幻想的な環境を作って楽しませる魔術師がホテルマン。死んだ妻の遺灰を持って夫婦としてチェックインした男の思い出話などを折りまぜつつ、アムの仕事感を語るシーンお薦め。 【その他のお薦め台詞】 「海は女性的である、それに人間の多くはまぬけである、とフロイトは言った」
「あんたは役立たずの、むかむかする、傲慢なくそったれ小僧よ」 2005年01月20日 | パルプ小説を愉しむ 『ブルー・バイユー』(デック・ロクティ)の中で、元売春宿経営者で今や警備保障会社経営者となっているやり手のナディア(たぶん60歳は超えているのだろう)が小気味よくこう言う - 「あんたは役立たずの、むかむかする、傲慢なくそったれ小僧よ。その甘やかされた金持ちの子供のような態度を、悪い習慣を絶つように改めたほうがいいわ。もうあんたは金持ちでも子供でもない。となると、残るのは甘やかされていることだけ。今じゃ、需要のある商品とは言えないわね。だから一歩踏み出すか、それとも楽な道を取るか、決めるのはあなたよ。」 麻薬治療病院から出た後、元同僚の死を調査するよう依頼されて調査するようになったテリー・マイオン。それと交錯しながらルイジアナ州の一部を支配する犯罪ファミリー内で子供が父親を排除しようと進めている計画が交錯する。殺人を依頼された殺し屋の正体は、テリーの依頼主でセキュリティ会社を経営するやり手経営者の従業員の兄。とにかくいろいろな話の筋が絡み合い、それがうまく一つのストーリーに織り合わされているところが感心。物静かだが物事に動揺せず冷静に処理していくテリー、やり手経営者のナディア、組織にはまらず自分の価値基準で物事を進める警官エバン・マン、そしてテリーと恋におちるその妹、野卑で残酷な犯罪ファミリーのドンとスイスで教育を受けバラクーダーのように冷徹となり自分の利益のみ追求するその長男のリーヴィー、退院後ノテリーのホストとなる小説家のマーカス。 ディープサウスのブルーバイユー近辺の湿度の高いねっとりとした気候がそれとなく伝わってくる背景の中で話が展開する。 【その他のお薦め台詞】 「何の交渉においても、その交渉をまとめるための必要以上の、本質的価値のある情報を相手に与えないように特に気をつけろ。」
「灰色の部分はおとぎ話にすぎない。ひとがその存在を信じ始めたとき、世の中が狂ってしまった」 2005年01月15日 | パルプ小説を愉しむ 『ブリリアント・アイ』(ローレン・D・エスルマン)の私立探偵エイモス・ウォーカーが、依頼主と会話を交わす - 「きみの目に映っている世間には白と黒、善と悪があるだけで、その間のものはなにもない」 「その間には何もないんですよ。それでもあるという者は、すでに何割か黒に染まっているんです。灰色の部分はおとぎ話にすぎない。ひとがその存在を信じ始めたとき、世の中が狂ってしまった」 友人の新聞記者を探してくれとの依頼を受けたエイモス。探すうちにお定まりの殺人事件に出くわす。市警内部に金で殺人を請け負うグループがあり、そのメンバーが炙り出される。記者がそのことを知って身を隠しつつ小説を完成させていた、というストーリー。 派手さも華やかさもないデトロイトという無機質の街で、一人硬派の私立探偵が動き回る。彼がどんなに動き回ろうが、街の動きとは何の関係もなく、人々の生活は別のステージの出し物として進行していくといった、マーロウやパーカーが書く探偵ものを読んだ時には感じなかった感覚を読みながら感じた。エイモス自身が「時代遅れの職業についている落伍者」と自分を評しているのが伝わってくるのは、作者の狙いだったのだろうか。最初と最後はシンプルだが、途中が込み入っていて、何の関連があるのかがよく掴めない。紅一点としてお決まりの美女との出会いがあるが、これまたお決まりとして振っている。幾つかの警句があるものの、独り善がりにむつかしい台詞を撒き散らしている、がたいのデカイだけの年代もののアメ車といった人物どころか。 【その他のお薦め台詞】 ・エイモスが法律を振りかざしてあれこれ言う奴への警句 - 「あなたは法律の空気を長いこと吸いすぎているよ。現実の人間はコルク抜きの話をするのに そのまわりのことばかりをあれこれ話したりはしない」 ・エイモスが知り合った女性に言う台詞 - 「きみのそんなかっこうを見たら、若いシェイクスピアたちはきっと手をたたいてアザラシのように吼えるよ」
「んもぉ-」 2005年01月04日 | パルプ小説を愉しむ 『けちんぼフレッドを探せ!』(ジャネット・イヴァノビッチ)の女性バウンティ・ハンター、ステファニー・プラムの決め台詞。いつものことながら、期待通りのはちゃめちゃな活躍で、これでもかこれでもか、と楽しませてくれる読者サービス満点のシリーズ。 地元バーグでのできことで失踪した親戚のフレッドおじさんを探すうちに、なぜか次々に事件にぶちあたり金脈を当ててしまうステフ。途中でお金のためにレンジャーの副業を手伝うのだが、もらう車はどれも壊すか盗まれるか。地元新聞に書かれる見出しは爆発バウンティーハンター。相変わらずのメイザ婆さんと一緒にあちこちで問題を起こすのみならず、裁判所不出頭でステフに捕まり、ひょんなことからステフの部屋に居座ることになった身長90センチのブリッグスも交えてパワー全開の活躍。 ふたを開けてみるとなんのことはない、これまた地元の昔からの知り合いの銀行員をお客の金を横領、それの関係者と発見者を次々に殺していたのことを発見して無事解決のはずだが、そこに至るまでの底抜け脱線大追跡の過程で起こる珍騒動がこのシリーズの呼び物。相も変わらず楽しませてくれました。
「モウは人間を計るのに基本的に三つの物差しがあるという」 2005年01月01日 | パルプ小説を愉しむ 『幻のペニー・フェリー』(リック・ボイヤー)で語られる台詞ー 「モウは人間を計るのに基本的に三つの物差しがあるという。その人間が何であるか、何をするか、何を持っているかの三つである。この三つの中では最初の物差しが最も重要であり、二番目はさほでもなく、三番目はほとんど意味がない。」 主人公の”ドク”チャールズ・アダムズには憧れを覚える。腕の良い口蓋外科医でありつつ(当然裕福でボストンに住宅、ケープコッドに別荘、そしてヨットも持っている)、冒険心あふれ冒険に飛び込んでいくことをためらわない。 そんなふうに書くとヒーローのようだが、本人が与える印象はヒーローとは無縁で、好奇心をおさえられない(またはちょっとお節介)性格が災いして事件に巻き込まれていく極めてお人よしな主人公である。 探偵の素養がある訳ではなし、訓練を受けた訳ではないそんな’ど素人’が余計なことにクビを突っ込みたがる持ち前の性格からどんどんと事件の中心へと入り込み、読むのが中断できなくなる。 必ず相棒となる友人(これが常に主人公よりも強いのだが不思議と主人公の方が目立ってしまう)が現われては一緒に事件が解決されてしまう。今回は殺されたメッセンジャーサービスの相方が一緒になって解決。 奥さんのメアリーも十分に魅力的。決して若くはないのだが、コケティッシュかつ愛情あふれ、そしてイタリア系らしく気が強い。 裕福、あふれる冒険心とぶち当たる冒険、魅力的な奥さん、こんな主人公に憧れない方が無理だろう。
「年を取るってこういうことなんだな、最近わかってきたよ」 2004年12月28日 | パルプ小説を愉しむ 『匿名原稿』(スティーブ・グリーンリーフ)の知性派探偵ジョン・タナーがふと口にする台詞 - 「年を取るってこういうことなんだな、最近わかってきたよー人間は、最初の40年で自分を支えてくれる原理原則を使い果たすんだ。だから、今おれは、新しい原理原則を見つけようと努力しているのさ」 友人の小編集会社からの依頼で事務所に突然現われたベストセラー間違いなしの原稿の著者を捜し回るうちに、5年前の名門高校で起きたセックス・スキャンダルという実際の出来事がプロットであることに気づいたタナーが当時の関係者に接触。スキャンダルに巻き込まれて刑務所に入っていた元教師が殺され、無事タナーが事件の真相を暴くのだが、こうやって内容を記録するにも大したプロットでないことが分かる。それにもかかわらず夜中まで読ませてしまう力はなんなのだろう。 【その他のお薦め台詞】 一人の登場人物のアメリカ観 - 「ウォール街のビジネスマンにはジャンクボンドやストックオプションという名の紙幣を刷ることを許す一方で読み書きの満足にできない貧しい女性には子供を養うために食料援助を受けなければならないことを6ページの書類に記入して証明しろというアメリカ、エリートたちが価値あるものを作り出すかわりに生産手段を外国企業に売り渡す仕事で高い報酬を得るアメリカ、・・」
「いまはファンタスティックは時代は終りを告げ、経理屋どもが音楽の楽しさを数値化しようとしている」 2004年12月15日 | パルプ小説を愉しむ 『A&R』(ビル・フラナガン)の中で、業界の大立者のCEOが最近の業界を嘆いて言う台詞がこれ。 「いまはファンタスティックは時代は終りを告げ、経理屋どもが音楽の楽しさを数値化しようとしている。この業界を支えていたすべての忠誠心は、”クビになるまえに百万ドル儲けるにはどうすりゃいいんだ?”という底なしの欲望にとってかわられた。」 ジム・カントーンは小さい音楽会社から大手ワールドミュージックに引き抜かれたやり手A&Rマン。この会社のCEOは音楽界では伝説となっている人物。1年前から目をつけているバンド「エルサレム」と契約を結びデビューは成功。音楽業界ならではははちゃめちゃな刺激的で派手な生活を楽しむとともに2人の双子をかわいがる家庭的な男でもある。そのなジムのまわりで会社をめぐる覇権争いが勃発。CEOの旅行中をいいことにNo.2の社長がCEOの追い落としを画策。CFOと組んだこのたくらみは成功に終り、CEOのビル・ドゴールは投げ出される。ビルはまえから手がけていたバミューダーのリゾート地の開拓、それもミュージシャンをよべるようにレコーディングかつはでな遊び場にしてしまう計画に夢中。ジムはクーデター派には加わらずに正直な気持ちをTVや雑誌に語ることで新体制からは目をつけられてしまう。ところが野心家の新CEOはオセロよそしく他人を信用できなくなり会社はぼろぼろ、本人もつまらぬことからケチがつき会社をほおリ出されてしまう。結局は正直もののジムは目出度し目出度し。 音楽業界の一員が中から見た業界を描いたとってもポップでヒップな小説。 【その他のお薦め台詞】 業界の伝説男を語る熱いラブコールをひとつ - 「ビル・ドゴールのような人間は会社の作業工程図さえ読めないし、社員の序列を無視ばかりしていると主張している者もいます。・・・しかしそもそもわたしたちのいるこの業界は、そうしたビルのような、欠点のある人々が創りあげたものなのです。ガッツと忍耐力を備えた彼らは、森に分け入り、三角州を下り、海を渡っていきました。さもさければ、大音響が轟く薄汚いバーへ入っていき、"すべての人間がこの音楽を聴くべきだ"と熱く反応したのです。」
「そんな消極的な考え方はあんたらしくないと思うがね。もっと積極的に考えなきゃ」 2004年12月04日 | パルプ小説を愉しむ 『グリッツ』(エルモア・レナード)で、自家用飛行機を出せと脅されて抵抗したジャッキーに主人公が吐いた台詞。 かつて逮捕した男の逆恨みで撃たれた警官ヴィンセント・モーラがリハビリ兼休暇で訪れたプエルトリコで一人の女と知り合った。彼女は大金持ちの誘いで、アトランティク・シティのカジノホテルでホステスで働くことになったが、高層マンションの部屋から身を投げた。自殺か他殺か。連絡を受けたヴィンセントはNJへ飛び、地元の警官と一緒にフリーで捜査にあたる。ホテル王のトミー・ドノバンと美しく聡明かつ打算的な妻のナンシー。カジノ支配人のジャッキーとボディーガードで元ドルフィンズのラインバッカーだったディリアン。皆一癖も二癖もありながら魅力的な人物。半ばおかま口調で次から次へと迸り出る言葉に負けず頭の中が回転するジャッキーの自己顕示欲旺盛さはこれでもかこれでもかというほど繰り返される。ボディーガードでありながら大胆不敵なヴィンセントに惚れ込み、肩入れするディリアンは身長195cmの巨漢でありながら、頭脳の冴えがみごとな実はインテリ。上司のおしゃべりに適当に付き合いながら冷静に出来事を判断して人物評価を的確に下す。ヴィンセントを助けながら殺人犯を追う。 何より見事なのは、ごくさりげない物腰の中に不適な面だましを秘めたヒーローのヴィンセント。物に動ずることなく、冷静客観的に物事を判断。マスクはあまく、39歳の男前はホテル王の妻ナンシーに言い寄らせながらもすげなく扱う。金も女もなにもこの男を操ることが出来ない、心がハードボイルドな警官。読みながらも次の展開が待ち遠しくストーリーというよりも人物の描き方、言葉の交わし方が気になって次々読み進んでしまった。