穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

図書館

2023-12-15 07:48:21 | 小説みたいなもの

相手が去ると、老人は再びノートを広げて真っ新な紙面を睨んでいたがやがて筆を下した。

やはり13歳の夏から始めるのがいいかなと思いを定めた。12,13歳というのは発達心理学でも転換点の定番らしい。彼は最近自伝を書くために買った心理学の参考書をカバンから取り出した。そのころ男女ともに身体的に性的特徴が発達しだして精神が不安定になるらしい。女性なら初潮だろうが、私の場合は顔中にひげが猛烈な勢いで生えてきた。もちろん体毛も濃くなったのである。この分で行くと目の中にも髭が生えてくるんじゃないかと心配した。

中学一年生でもう安全剃刀を日に二回以上使わないと始末に負えない。安全剃刀というのは慣れないと剃刀負けをする。ある朝親父が食卓で俺の髭剃りで荒れた顔を見て電気カミソリを使えといった。なんでも父親の知っている家庭の息子が肌が荒れて、電気カミソリを使ったら治ったという話をした。さっそく電気カミソリを求めて使いだしたら唇の周りの肌荒れはすぐに治った。

知的にも爆発的な発達があった。小学生のころはなんということもなく、平凡なおとなしい性格であったが、中学に入ると学期末試験で全科目満点で全校で一位になった。また暑中休暇中よく実施されていた学校横断の模擬試験でも、いつでも一位となった。

身体的には上記した髭ずらに悩まされたほかに近眼が進行して、3,4か月ごとに母親に連れられて眼科医に通って眼鏡を新しくした。

そして13歳の夏、忘れもしない「ベランダ事件」に遭遇した。後年東欧の作家カフカの伝記を読んでいて彼の幼児に彼の研究者の間で「ぱヴらっちゅ」事件として知られるのに酷似した体験をする。それ以来、さる映画のキャッチコピーではないが、「僕の帽子はどこえへ行ったの」状態になった。

 


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