穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

大江健三郎の「芽むしり仔撃ち」(2)

2022-01-30 09:58:06 | 書評

 読み始めてすぐに感じたのは状況設定が素晴らしいということだ。つまり材料がいい。だからこれをどう料理するのかなと期待した。ところがこれが期待外れというか材料腐れと感じた。いつも例に引く釜炊きご飯に例えると「はじめチョロチョロなかもチョロチョロ」だったが終盤にきてパッパと見事に炊きあがった。小川榮太郎氏は「作家の値打ち」では他の誉め方をしているが90点をつけたのは分かる。
 これは作者が書いているうちに技量が進歩してきたということであろう。作者がまだ大学生のころの成長期の作品である。さてこれから述べる作品の構造というか意味合い、そして前回このブログで批評したポイントを作者が自覚していたかどうかは不明である。しかし、潜在的にあるいは体感的に彼がおい育った四国の山村での体験から本質を把握していたものと受け取りたい。
 さて、山奥の部落に少年感化院の生徒が収容された直後、部落に疫病が発生した、あるいは疫病が発生したと農民が恐れる事態が起こった。そこで彼らはどうしたかと言うと、感化院の少年に知らせず、放置したまま深夜ひそかに全員が避難した。この部落は、設定では他の世界とは深い谷にかかるトロッコでした繋がれていない。翌朝気が付いた少年たちがトロッコで後を追おうとしてもトロッコの向こう岸には島民がバリケードを築いている。そして猟銃で武装した村民がトコッロを見張っている。つまり少年たちは疫病が蔓延する土地に閉じ込められたのである。
 島民が避難した後で少年たちは民家に押し入り食料を奪いそこで寝泊りをした。やがて何日かして島民が戻ってくる。家を荒らされたことで少年たちをリンチにしようとするが、そこで気が付く。政府から少年たちの疎開を頼まれたのに疫病から避難する際に彼らを置き去りにした。。これはお上のおとがめを受けると恐れた。
 また、農民たちは山に隠れていた脱走兵を捕まえて本来なら憲兵に引き渡すべきなのに勝手に虐殺してしまった。
 脱走兵のリンチや少年たちの置き去り避難は警察や行政の処罰の対象になる。そこで村長は狡猾に少年たちに交換条件を持ち出す。
 つまり、避難中、勝手に村民の家に侵入し食料を奪い家財を壊したことには目をつぶってやろう。そのかわり、兵隊のリンチや村民が疫病地帯に彼らを置き去りにしたことを官憲にはいうな、というのである。結局少年たちは順番に同意させられる。
 しかし「僕」は最後まで同意しない。村長は彼をトロッコで村外に追放する。そうしてトロッコを向こう岸で降りたところで付いてきた鍛冶屋が彼を殴り殺そうとするが、かれは(僕は)間一髪森の中に逃げ込む。でおわり。

 


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