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言の葉

2008.11.28 開設
2022.07.01 移設
sonnet wrote.

居住まい 佇まい

2009年06月24日 | さんぽ


山本有三記念館の前を通った。
先を急いでいたので外観だけ撮影しようと敷地に入ったが、建物の素晴らしさに引き込まれて館内も見たくなり入館した。
氏の作品は残念ながら一作も読んでいない。子どもの頃に代表作の「路傍の石」をテレビドラマか映画で見たきりである。
したがって正直展示物より建物の方を興味深く見て回った。(館内撮影可)
大正モダニズムというより本格的な洋館だが、それでも和室も取り入れられ、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
豪邸には違いないが、いわゆる金満家が金にあかせて建てた派手な造りではなく、質実にして簡素、それでいて優雅で格調があり、邸主のセンスとともに生き方の信条までもがうかがえるようである。

サイトで主だった外観・館内・建物平面図が見られるので、細かい所の画像をいくつか紹介。

 
例えば窓の鍵、桟。ドアのデザイン、ドアノブ、蝶番などが目を惹く。
シンプルなステンドグラスの窓も、腰高窓の下に嵌め込まれた長椅子も、調度品なども、すべて住む人のポリシーでまとめられたのだろう。
厨房や浴室はどのような造りなのか、屋根裏部屋や離れの書庫はどうなっているのか見たかったが、非公開エリアで見ることができなかった。残念! 
そういう訳でその邸主に関心が湧き、改めて展示品を見た。

そのひとつに氏が息子に宛てた手紙があった。
達筆さも目を引いたが、文面に引き寄せられカメラに収めた。
館内撮影OKということは展示品も紹介しても構わないことと判断してUP。
(クリックして、拡大すれば判読可)

昭和8年夏、山中湖畔で避暑中の氏が千葉の私立小で寮生活をしている小6の息子から手紙をもらい、これに返信したものである。
父と子の関係が何と言ったらよいか、折り目正しいと言うのか、威厳を持ちつつも慈愛に満ち、人格を認め、人生の先輩として指針を示している感じがする。
子ども宛ての手紙をしたためるにも居住まいを正している様子が想像できた。
できたらその前の、子から父への手紙も読んでみたかった。

桜桃忌

2009年06月19日 | さんぽ

今日6月19日は太宰治の命日(正確には遺体が発見された日、且つ誕生日)桜桃忌である。
ことに今年は生誕100年で、ゆかりのある三鷹市は盛り上がっている。

太宰作品は若い頃に読んでいた。
大ファンからすれば一笑に付される程度、太宰嫌いからは「好きねぇ…」とこれまた苦笑される、その辺りの読者だった。彼ほど好き嫌いが分かれる作家も珍しい。読まなくなってもう30年以上になる。
思えばお墓のある禅林寺も入水した玉川上水も、自転車でちょっと遠出する程度の距離にあり、先日サイクリングがてらに出かけてみた。

ジブリ美術館の外観だけをあわただしく見て(後日投稿)、井の頭公園を横目に玉川上水沿いを三鷹駅方面へ。
途中にある山本有三記念館もスルーするつもりだったが、建物に惹かれ、内部も見たくなって立ち寄った(後日投稿)。
「深くゆるゆると流れ」「青葉のトンネル」と描写された上水は、当時とは違って川幅は狭く両岸の木々が迫って生い茂り、トンネルもなさず水面もほとんど見えなくなっている。



中央線に架かる跨線橋は太宰が写真に収まっている当時のままで残っているとのこと。
知人が遊びに来ると案内したという橋の上からは、どんな風景が望めたのだろうかか。
その日橋上には鉄オタ予備軍の小学生4人がいて、上り下りの列車が来るたび飽きることなく右に左に駆け出しては「お~い、甲斐路~!」などと叫んでは手を振っていた。



禅林寺は山門だけ。ここには森鴎外のお墓もあるらしいが、墓地にまで行ってみる気にはなれなかった。
今日はたくさんのファンがお参りに行ったことだろう。
…吉行淳之介は言っている。
「太宰は好きだが、太宰ファンは嫌いだ」と。
なかなか含蓄に富んだ言葉である。
不遜にもそちら側に付いて「我が意を得たり」などと頷いてみたりする。
嫌われているにもかかわらず…。

偶然にも今日、山形の知人から毎年送られてくるサクランボが届いた。
「子どもより親が大事」などと太宰を真似て呟きながら、家族よりいち早く味見。
自分には太宰ほどの懊悩も屈託もなく、佐藤錦の甘味が口いっぱいに広がった。cherry


紫陽花

2009年06月18日 | 印象花言葉
傘を新調した。
雨、降ってもいいよ。



ジメジメとうっとうしい梅雨の季節。
とかく嫌がられるけれど、じゃあ空梅雨でいいかと言えば、それもまた夏に向けて困る。
梅雨ならではの風情を愉しむしかない。



2009年06月12日 | 宮崎縣かるた

 椎茸木炭 日向の宝 (しいたけ もくたん ひゅうがのたから)

   

豊かな自然に恵まれた宮崎県には数々の名産品がある。
東国原知事効果で完熟マンゴー地鶏宮崎牛など全国的に知られるようになったが、しいたけ木炭は古くからの特産品である。

宮崎県の乾しいたけは、隣県大分と並んで品質・生産量ともにトップクラスである。
江戸時代の古い書物「日本山海名産図会」には「日向の産を上とす。」という記述があるそうである。
しいたけは乾燥させることによってグアニル酸という有効成分が多量に生まれ、 この成分は昆布などのうまみの素であるグルタミン酸と合わせることによってさらに美味しい味になり、さまざまな料理に用いられている。
このうまみ成分を充分に引き出すには、時間をかけてじっくり戻すのがコツ。
やむを得ない時、砂糖少量を加えたぬるま湯に浸し、ラップを掛けて電子レンジで2分程度加熱する方法もあるが、より美味しく調理するには冷蔵庫で5~8時間掛けてじっくり戻すことをお奨めする。
保存方法は外気に触れないようにして冷蔵庫に入れておくのがベストだが、密閉容器に入れて冷暗所で保存すれば大丈夫。

日照時間が長く温暖な気候の宮崎には「干す食文化」があり、他に切干大根干しタケノコなどもある。

木炭づくりも昔から宮崎県の山間地域で盛んに行われていた。
時代が変わって需要は減っているが、そのぶん品質にこだわった上質の木炭は現在も生産されている。
特に美郷町北郷区の「宇納間(うなま)備長炭」は、関東・関西の高級料亭などで珍重され、全国でも有数の生産地となっている。
木炭の原材料は主にナラ、クヌギ、カシ等。
炭窯の中で空気を絶って消火する「黒炭」と、炭窯の外に出して消し粉をかけて消火する「白炭」に分けられ、備長炭は白炭に属する。
ちなみに宮崎県は和歌山県に次いで全国2位の白炭生産地である。
炭火温度その他特性の違いで用途が異なり、黒炭は家庭用燃料や暖房用、バーベキューや茶道で使われる。
白炭は炭質が硬く着火しにくいが、着火後は均一で安定した火力を長時間保つため、焼き鳥やうなぎの蒲焼きなどで用いられている。
焼き鳥を例にとっても、炭の良し悪しで味や食感に格段の差が出るそうである。
宮崎地鶏の炭火焼きが美味しいのは、地元の高品質の炭を使っているからだろうか。

折りしも今週末、六本木ヒルズで日本列島まるごと祭り 第1回『宮崎県』が開催される。
古くからある特産品、新しく加わった郷土食、伝統の文化芸能を体感しにぜひともお出かけください。 


阿修羅展

2009年06月05日 | ノンジャンル


一昨日、会期終了間近の阿修羅展に行ってきた。
3月末からの長い会期で、いつでも行ける、まだまだ大丈夫、…そう思っているうちに最終週になっていた。
日を追うごとに人気が高まり、それを伝えるマスコミの影響でさらに混み、長蛇の列の記事を見て一度は行くのをよそうかとも思ったが、今後100年門外不出らしく、たとえ奈良興福寺まで行ったとしても拝観できるのは正面からだけ。会場では像を一周してつぶさに鑑賞できるので、平日の午後から夕方が狙い目というネット情報を頼りに出かけた。
列の最後尾についたのが午後3時15分。入館できたのがちょうど5時。
「待ち時間100分」の看板はほぼ正確だった。

阿修羅像は会場の奥深く照明を最小に抑えた暗がりに、大勢の人にぐるりと囲まれて屹立していた。
信心深いわけでも仏教に詳しいわけでもなく、正直なところ仏像もアートとして鑑賞している(バチが当たりそう…)。
数ある仏像の中でこの阿修羅像は、中宮寺、広隆寺の弥勒菩薩半伽像と並んで大好きで、ようやく実物を見ることができた。

まず何より、この繊細な像が1,300年近い時を経て現存していることに感動する。
三つの顔をいただく身体は細い胴をしてやせっぽちの少年のよう。
六つある腕はさらに細く長く、正面の一組は合掌、ほかの四本は中空にしなやかに広げ、何かを意味しているのだろうか?
よく考えれば異形であるのに、360度回って見てもどこも破綻なくバランスのとれた美しいフォルムだった。
阿修羅の表情は、悟りに至った菩薩の穏やかなそれとは全く違う。
眉根を寄せた正面の顔はあまりに有名だが、左側にある顔は下唇を噛んでいて、その微かな噛み具合がなんとも言えない。
印刷物でもあまり紹介されてなく残念である。
勝手な解釈をするなら、悩み、憂い、惑い、怒り、哀しみ、悔い、怖れ、妬み……、人間の煩悩を一手に引き受け、三つの顔で表現しているのかもしれない。

広隆寺半伽像のことを詠った清岡卓行氏の「思惟の指」という長い詩がある。
読むと「そう。そう。自分は言葉を見つけられないけど、それ。」と膝を打つ思いがする。
そして仏像鑑賞と同じように陶然とし、さすが詩人は違うと思う。
自分はただため息が出るばかりである。

ほかにも八部衆像十大弟子像など素晴らしい展示物が多数あり、堪能した。