
1月も今日で終わりである。
1週間が、1ヶ月があっという間に過ぎていく。
前回投稿から2週間以上経っている。
いまさらの感もあるが、炎帝戦、金秋戦と同様に夏井先生の解説、添削も記しておこう。
1位 風花へ しゅぱんしゅぱんと ゴム鉄ぽう
【作者自解】 子どもの頃、割り箸でゴム鉄砲を作って室内で遊んでいたら、母親に「外でしなさい」と言われた。
外は風花が舞っていて、それを標的に遊んだ思い出から。
【解 説】シンプルで映像がストレートに浮かぶ気持ちのいい句。
いいオノマトペを見つけた。軽やかな「しゅぱんしゅぱん」が、風花の感触とゴム鉄砲の飛んでいく感触を上手く繋いでいる。
【私 感】村上さんも言っていたように、オノマトペの響きから子どもをイメージできるが、鉄砲の表記をまだ漢字を習ってない想定で「鉄ぽう」とするのもうまい手法。
2位 一月や ゴム動力の プロペラ機
【作者自解】1月という1年の始まりに、エネルギーと動きがむき出しのプロペラ機が飛んでいる空を思うと詩があると思った。
【解 説】1月でなくてもいいのではという意見が出た。これは議論すべき点。
4音の月は他にもあり、例えば6月なら梅雨空の湿気を感じる。8月だと終戦のイメージがあって、プロペラ機が他の意味を持ってくる等々。
作者が「一月」を自信を持って選んだのが最も大事な決断である。
新年の気配を含んだ空に向かってゴムを巻く手の動きなどが思い浮かぶ。
【私 感】他の季語でも句が成立することを「季語が動く」という。
一月の清冽な青空に飛ぶ様子が目に浮かび、作者の思いが伝わってくる。
3位 無影灯 下腹に 冷たい何か
【作者自解】輪ゴムの写真が手術室のライトに見え、発想を飛ばした。
手術の経験があり、半身麻酔しているにも関わらず下腹部にひやりした感覚を覚えた。メスなのか、恐怖による錯覚なのか。
その時の体験を詠んだ。
【解 説】「無影灯」だけで場面、状況が描かれ、言葉の経済効率がいい。
「冷たし」が冬の季語であるが、この「冷たい」を作者がそれと認識して詠んだのか、無季の句か、その解釈は読者に託してもいいと思う。
【私 感】東さんならではの俳句である。
4位 鏡越し ロット巻く手や 春隣
【作者自解】行きつけの美容院で、鏡越しにパーマをかける女性客がいた。
ロットを巻いてゴムで留める美容師の手元や、パーマを終えた女性客の表情に春近しを感じた。
【解 説】いい着眼点である。「鏡」「ロット」「春隣」の取り合わせも悪くない。
しかし語順が悪く、鏡越しの「越し」が微かに説明臭い。
添削 ロット巻く 手や 春近き日の鏡
こうすると最後の鏡に春の気配の陽射しが描写できる。
【私 感】語順の良し悪しはよく言われている。それはカメラワークに例えられ、分かりやすい。
5位 ゴムとび競う声 冬天に満ちる
【作者自解】輪ゴムから子供の頃遊んだゴム跳びを思い出し、寒さにめげず元気よく遊ぶ様子を詠んだ、
【解 説】これもまたもったいないのが語順。冬天の映像から行った方が得である。
添削 冬天に満つ ゴムとびを 競う声
【私 感】破調も悪くないが、やはり五・七・五のリズム(句またがりではあるが)は心地よい。
6位 手にはぜる 弁当のひも 雪催(ゆきもよい)
【作者自解】弁当のゴム紐がパチンと手に当たり、寒い冬だとことさら痛い。
それを「雪催」の季語と取り合わせた。
【解 説】自分の体験を探しに行くと、ちゃんといい材料に巡り合う。
「爆ぜる」の言葉もよく選んだ。しかしゴム紐を「ひも」としたのが痛恨の凡ミスである。
ゴムでなければせっかくの「はぜる」と響き合わない。
添削 手にはぜる 弁当のゴム 雪催
【私 感】作者は当初想像してのロマンチックな俳句が多かったが、先生に体験を詠むよう勧められよくなっている。
2019年炎帝戦予選の 黒き地の 正体は海 揚げ花火 はすごくよかった。
湘南の花火大会を実際に見たとのことで、だからこそ「正体は」の言葉を使っても破綻してないと褒められていた。
7位 冬の月 輪ゴムの中に 入れてみる
【作者自解】輪ゴムを手に作句を考えながら窓の月にかざした時、その行為をそのまま詠んでみようと思った。
【解 説】こういうシンプルな発想もいい。
しかし下五の「入れてみる」という描写が雑である。
添削 冬月を捕う 輪ゴムの輪の中に
こうすると、輪ゴムが月の周囲でゆらゆらしている短い時間が表現できる。
【私 感】「捕らえる」という言葉を使うことで一気に詩になる。
8位 血を止める ゴム巻く手際 冬あざみ
【作者自解】病院で注射をする時にゴムを巻く看護師の様子を連想し、注射の痛みと冬あざみの棘とを重ね合わせた。
【解 説】前半の言葉選びが雑であり、選んだ季語の「冬あざみ」がどうしても野外のイメージ。
それより診察室や検査室といった場所であるとわかるような季語を、歳時記を見直して探して欲しい。
添削 採(献)血の ゴム巻く手際 ○○○
【私 感】○○○は作者に委ねられた。
9位 七日の 名もなき家事 パズルの樹氷
【作者自解】輪ゴムから年賀状を束ねる発想で、炊事洗濯などではない細かな家事をやり、暇になったらジグソーパズルをしようということで、パズルに描かれた「樹氷」で冬の映像の確保をした。
「七日」も「樹氷」も季語だが挑戦してみた。
【解 説】視点は悪くない。
1月の1日から7日までは新年の季語になる。前半は悪くないが、着地に失敗した。
パズルの絵柄が樹氷というのは不要。むしろ名もなき家事のひとつを軽く示唆した方がよい。
添削 七日 名もなき家事 ジグソーの一片
【私 感】絵柄の「樹氷」は季語としては弱い。それより「ジグソーの一片」を片づけるイメージにした添削に感服。
10位 雑煮食う 爺はバケモノ 指鉄砲
【作者自解】以前、「こたつとみかん」の兼題で、婆やは蜜柑食べ続ける妖怪 という句を詠んだ。それを進化させる形で、子供の頃の思い出を詠んだ。
祖父が雑煮を食べる喉の動きがなんだか不気味で、指鉄炮で撃ってみたいと思った。
【解 説】やろうとしていることはそれなりに面白い。
この句の問題点は材料が多すぎること。「雑煮」「爺」「バケモノ」「指鉄砲」とキーワード4つでは季語の印象が薄まってしまう。
兼題は無くなるが、
添削 雑煮食う バケモノ 爺さんの喉(のんど)
喉は「のんど」とも読め、ちょっと恐ろしげな響きが「バケモノ」と釣り合う。
最後に喉の動きに焦点が合い、季語の「雑煮」が主役として引き立つ。
【私 感】志らくさんも独特の俳句を詠む。