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言の葉

2008.11.28 開設
2022.07.01 移設
sonnet wrote.

2025春光戦観戦記 決勝 & ランク外

2025年03月19日 | 俳句
1stステージを勝ち上がった3名は、お題は変わらずに新たな俳句で対戦した。
 
優勝 歌舞伎揚げの 家紋三枡や 竜天に  梅沢富美男(永世名人)
【自 解】歌舞伎揚には歌舞伎役者さんの家紋が刻印されている。
ほとんどが丸い煎餅だが、市川團十郎さんところの家紋は四角い枡なので煎餅も四角。
非常にレアなので、袋にこれがあったらラッキーとのこと。
上五に「の」はいらないと思われるかもしれないが、調べが良くなるので敢えて六音にした。
【解 説】長い季語「竜天に昇る」は、春になると淵に潜んでいた竜も天に昇っていくかのようだという、中国の伝説に由来したもの。(対して「竜淵に潜む」は秋の季語)
「竜天に」で止め余白を残すことで、三枡のおうちの隆盛を祈るご挨拶句のような味わいになっている。いかにも粋ではないか。
 
   ++++++++++++++++++++++++++++
 
残り2名については、番組内で自解、TVerで順位を付けずに解説されたので、放送順に記載する。
 
花曇 ため息代わり フエラムネ 犬山紙子(特待生1級)
【自 解】春曇りの憂鬱な気分の日、将来のことなど考えてため息をつきたいところ、フエライムをピーと吹いて気分を変えようと思った一句。
【解 説】気分が伝わって来るいい句だが、上五で切れ、中七も軽く意味の切れ目があって、この調べ(3段切れ)が損している。
上五中七をつなげるなら。中七下五をつなげるなら。
添削 花の日の ため息代わり フエラムネ
   花曇 ため息めける フエラムネ
 
シーフードヌードル 春夜の反航  藤本敏史(永世名人)
【自 解】YouTubeで、長距離フェリーに乗って一人旅する動画が好きでよく見ている。
その一人旅をしている人は、自分が乗っているフェリーと逆の航路から来てすれ違う「反航」を楽しみにしている。
シーフードヌードルを食べながら反航を見ている状況を詠んでみた。
【解 説】「春夜のハンコウ」を耳で聴くと思春期の反抗のようだが、「反航」の文字を見て意味がわかると、旅のオタクみたいな人物が浮かび上がってくる。
反航を楽しみたいために甲板でシーフードヌードルを食べているのではないか。
そういう気分が伝わってくる面白い取り合わせだった。
 
   ++++++++++++++++++++++++++++
 
1stステージの11位以下もTVerで順位発表と添削があった。
自解はなくナレーションで要約されていた。
 
11位 ポッキーも 春もボートと 浮いている  春風亭正吉(特待生3級)
【 N 】若い男女がボートの上でポッキーを食べている姿を詠んだ一句。
【解 説】発想は楽しくて面白い。
しかし「も」「も」「と」という助詞の使い方がこれでいいのだろうかと悩まされた。
作者の意図を聞いてないので「私ならば」ということになるが、例えばすべて「と」でつないで恋の気分も入れると面白い句になる。
添削 ポッキーと 恋とボートと 春と雲
 
12位 モノクロの桜に グリコの赤い箱  立川志らく(名人8段)
【 N 】幼少期、花見に行った時のグリコのキャラメルの思い出を詠んだ一句。
【解 説】「モノクロの桜」となると記憶っぽいイメージで、季語「桜」の鮮度が心配だが、追憶の後継として浮かび立っている。
惜しいのは「に」。これが不要だった。
添削 モノクロの桜 グリコの赤い箱
 
13位 馬連かワイドか エクレア喰む春夜  皆藤愛子(名人6段)
【 N 】競馬予想中に必ずエクレアを食べる週末の日常を詠んだ。
【解 説】惜しいのは一点、「喰む」という動詞がいらなかった。
添削 幽馬連かワイドか 春の夜のエクレア
これで食べているのは否応なく分かる。
 
14位 たんぽぽや ヘッドロココと 通学帽  森迫永依(特待生2級)
【 N 】ビックリマンチョコに付いているシールを持って通学していた幼少期の思い出。
【解 説】「たんぽぽ」と「ヘッドロココ」の取り合わせは楽しい。
しかし「ヘッドロココ」が出た瞬間に子どもだと分かるので、「通学帽」はない方がよかった。
 
15位 ポッキーポリポリ 受験子スパークす  中田喜子(名人10段)
【 N 】勉強中にポッキーで一息つき、やる気スイッチを入れる状況を詠んだ一句。
【解 説】カタカナをいっぱい入れて揃えるという意図は意欲的だったと思う。
しかしポッキーに対してポリポリは少し安易。その部分こそ工夫して欲しい大事な点だった。
 
16位 飛花の夜や 鴇羽(ときは)ひとひら 親子丼  的場浩司(特待生2級) 
【 N 】舞い散る桜の花びらが、食べていた親子丼に落ちた瞬間を詠んだ。
【解 説】入れたい言葉が多すぎた。「夜」を諦めていただけるなら、
添削 親子丼に 飛花のひとひら 鴇羽色 
とすると調べがゆったりと流れる。調べと内容を工夫していただきたい。
 
17位 フルーチェの ミルク増し増し 草萌や  馬場典子 (特待生1級)
【 N 】大好きなフルーチェをたくさん食べたくて、多めに牛乳を入れて作った状況を詠んだ。
【解 説】下五に詠嘆の「や」を付けると俳句の型が不安定になり、バランスがとりにくい。
また「増し増し」の表現もリズムがあって楽しいが、借り物の感じがするのでひと工夫の余地あり。
このままの形で行きたかったら、「や」を使わずに着地して欲しかった。
添削 フルーチェの ミルク増し増し 草萌ゆる

2025春光戦観戦記 1stステージ

2025年03月18日 | 俳句
3月13日(木)、プレバト春光戦が放送された。
出場者は過去最多、17名の名人・特待生で争われた。うち12名は優勝経験者である。
今回のお題は「ついつい買ってしまう人気フード」だった。
ファーストステージの上位3名だけが決勝に進み、今回もまた11位以下は番組内で放送されず、TVerでの放送になった。
夏井先生の解説と添削は以下の通り。
 
1位 春風を入れて マーブルチョコに蓋  藤本敏史(永世名人)
【自 解】子どもの頃マーブルチョコが大好きで、公園に行く時持って行っていた。
遊んでいる最中に2〜3個食べ、蓋を閉める時に春風も一緒に入れていたという一句。
【解 説】マーブルチョコの特徴を上手に使っている。
カラフルな色と円筒の形がうまく入っている、
そして季語の「春風」。これは他の3つの季節の風と入れ替えることのできない不動の季語で、しっかり立っている。
 
2位 ケトルの湯 春日の タマゴポケットに  梅沢富美男(特別永世名人)
【自 解】チキンラーメンは青春時代から今もよく食べている。
昔は卵を足すこともそうそうできなかった。
熱湯を注ぎ、出来上がるまでののどかなひとときを詠んだ。
【解 説】「タマゴポケットに」としたことで、書いてないが麺に凹みがあって、そこに既に生卵が置いているのがわかる効率的な表現になっている。
一点気になったのが最後の助詞の「に」だった。
これが「へ」なら、今まさにお湯を注ごうとしている瞬間になる。
それに対して「に」は、、すでに注がれていて、白身の色が変わっている様子。
作者の話を聞くと後者を表現したかったのだと理解し、このままで味わいたい。
 
3位 朧夜や 薬の横の ミニボーロ  犬山紙子(特待生1段)
【自 解】朧夜の低気圧のような時期に、頭が痛くなることがある。
薬のそばにミニボーロがあって、その優しい甘さは大人になった今でもいいなぁと思う。
【解 説】読んだ瞬間に光景が立ち上がってくる。
季語の「朧夜」が病気の状況を包み込むような感じもする。
そしてミニボーロを食べた時の優しい食感とほんのりとした甘さが、季語と付かず離れずでとても上質な出来になっている。
 
4位 チキンラーメン 兄と割る 四畳半の春  千原ジュニア(永世名人)
【自 解】この世界に入ったばかりの時、兄と二人でワンルームの四畳半で暮らしていた。
お金がなくて1つのチキンラーメンを2つに割って食べた思い出がある。
【解 説】一番褒めないといけないのは、盛り込んでいる情報が多いのによくここまで整えた事。
チキンラーメンでなくカップヌードルでもいいのではないかという声もあるかもしれないが、「割る」という行為が作者の体験として入っているので、抜き差しならない、動くはずのない作品になっている。
 
5位 おみやげの 銀だこ熱し 春の雪  本上まなみ(特待生4段)
【自 解】銀だこのたこ焼きを子どもへのお土産に買うことが多く、熱いまま持って帰りたくて上着でくるんで大急ぎで帰るという状況を詠んだ。
【解 説】それぞれの言葉が意味・情報の重なりがなく、意図を持って選ばれている。
銀だこの「銀」と春の雪の「白」とで、色のイメージの対比がさりげなく出てくる。
たこ焼きは本来熱いものなので「熱し」は要らないようだが、おみやげのたこ焼きなので、熱いまま届けたいという思いが伝わってくる。
 
6位 かつサンドつまむ 日永のロケ現場  森口遥子(名人9段) 
【自 解】春になって日が長くなって、うららな時のロケは和やかでとてもいい雰囲気である。
まい泉のヒレかつサンドは簡単につまめて、好んでよく食べている。
【解 説】「かつサンド」のアップから始まり、「つまむ」でそこに人物が見える。
「日永」は映像を持たない季語だが、いい位置に入れた。
季語の力がかつサンドを美味しそうに見せ、ロケも順調に進んでいる印象を醸し出し、確かな一句。
 
7位 コーラグミ 3回噛んで 春一番  蓮見翔 (特待生4級)
【自 解】散歩する時などにパッと食べられるものとしてコーラグミをよく買う。
食べながら歩いている春一番が吹いたという句。
【解 説】コーラグミを噛むことと春一番が吹くことは全く関係がない。
しかし関係のないものをあたかも関係があるように取り合わせるところに詩が生まれる。
グミを噛んだ時の弾力、酸味や甘味の複雑な感じ、そのような感触を春一番と合わせたのだろう。
春一番が吹く風の強さ、春が来たという喜び、それがコーラグミを強く3回噛む感覚と似ている。若い方の一句だった。
 
8位 夏近し ビッグマックの 箱に鉤(かぎ) 村上健志(永世名人)
【自 解】ビッグマックは箱に入っていて、フタが開かないようにフックが付いている。
それを開けて「さあ食べるぞ」という期待感と「夏近し」が合うと思った。
【解 説】最後に「鉤」を置いて焦点を当てたかった作者の意図は十分理解できるが、これは本来金属製の物を意味する。
いきなり出てきてプツンと終わるのは違和感がある。それがとてももったいなかった。
捨て石のように「紙箱」として質感を補填しておいて、
添削 ビッグマックの 紙箱に鉤 夏近し 
鉤を開けると夏がいよいよやって来る、そこに主眼が来る。
そうしていたら間違いなくベスト3に入っていた。
 
9位 ぼんち揚 割れば春陽の 実家かな  内藤剛志(特待生5級)  
【自 解】東京に出てきたばかりの頃、歌舞伎揚げって何だ? 関西はぼんち揚だと思っていた。
俳優養成所でライバルが多い中、これを食べると実家にいた頃や無邪気な子供の頃を思い出して癒された。
【解 説】多少気になったのが「春陽」である。これは季語の「春日」で十分。うららかな陽射しも感じられる。
「実家かな」と詠嘆するのではなく、他の方法でやってみると、
添削 ふるさとや 春日にぼんち揚 割れば
こうすると、最後にぼんち揚の感触が残る。

10位 ピノ溶ける春暁や 『山月記』閉づ  三宅香帆(特待生5級)
【自 解】アイスのピノはスティックで刺して手が汚れないので、読書のお供によく買う。
「山月記」を夢中で読んでいて、ピノが溶けてしまった時の思い出を俳句にした。
【解 説】「ピノ」「春暁」「山月記」の取り合わせが意外なのに、どこか惹かれあっているという不思議な感覚だった。
ただし最後の「閉ず」は不要。本を閉じていようがいまいが、読書に夢中になってハッと気づけば。
添削 ピノは溶け果て 春暁の『山月記』
こうすると時間経過が表現できる。
そして溶けても形をとどめているピノは、他のアイスには変えられない大事な要素になっている。

2025冬麗戦観戦記 決勝戦

2025年01月20日 | 俳句
上位3名で行われた決勝戦のお題も「大ピンチ」だった。
(ということは、全員同じお題で2句ずつ提出したということか。
どちらを1stステージ用にするかでも迷ったに違いない。)
 
優勝 病窓は暗闇 慣れぬ尿瓶凍つ  千原ジュニア(永世名人)
【自 解】若い頃バイク事故で意識を失い、一般病棟に移って目が覚めると夜中で真っ暗だった。
トイレを自分でしなければならず、尿瓶を持ったらとても冷たかった。
この先闘病生活がどのくらい続くのだろうと思い、まさに人生の大ピンチだった。
【解 説】まず「病窓」と場所から始まる。
「慣れぬ」とは何が?と思うと「尿瓶」である。
このモノの力に「凍つ」という季語の力を合体させている。
ガラスの尿瓶の感触や暗闇の冷気、それらが下五「尿瓶凍つ」にグッと凝縮していく。
実に生々しい大ピンチであって、季語を主役に立てていて、添削の必要なしと3拍子揃ったこの句こそが「大ピンチ」の優勝句と言える。
今回の評価は、
●季語が主役に立っているか
●「大ピンチ」、特に「大」のテーマ性をどこまで押さえることができるか
●添削の有無
そういう意味で3句を較べた結果、こともあろうに「尿瓶」の優勝となった。
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地上波の放送では3名の自解と優勝句の解説だけで終了した。
TVerで他の2句の解説があったが、2位・3位の順位は明言されていなかったので、放送順に記す。
(センエツながら、俳句の出来からしてこの順位だと思う
 
開演ブザー チケットは 着膨れのどこ  森口瑤子(名人9段)
【自 解】演劇を観に行った時、着いたのが開演ギリギリの時間だった。
もう始まるというのにチケットがすぐには見つからず、寒い日で厚着をしているので、いくつもあるポケットを焦りながら探した経験を詠んだ。
【解 説】上五を「開演ブザー」にしたのは良かった。
映像だけでなく、読者のみんなに同じ音を再生させる力がある
そして「チケット」というモノに語らせて、季語「着膨れ」の選択。
最後に「どこ」として余白を持たせているのもとても上手い。
 
終電の聖菓 保冷剤は温し 横尾渉(永世名人)
【自 解】クリスマスに予約していたケーキを受け取りに行き、その後も買い物がいくつもあって結局終電になり、保冷剤が生ぬるくなってしまった状況を詠んだ。
【解 説】なぜ遅くなって、終電にまでなってクリスマスケーキを持って帰っているのか、この状況は確かにピンチである。
「保冷剤」というモノを使って、「温し」ということで時間経過を語っている。
必要な言葉がきちんと必要な位置に置かれている。
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1stステージの10位以下もTVerで順位発表と添削があった。
自解はなく、ナレーションで要約されていた。
 
11位 締め切りは昨日 冬暁の部屋 蓮見翔(特待生4級)
【 N 】締め切りに追われながら迎える朝のことを詠んだ一句。
【解 説】締め切りは明日でもピンチなのに昨日というのが面白い。
「冬暁の部屋」として時間と場所を表現しているが、場所の情報をやめ、もう少し切迫感を出して心情に切り込んでみてはどうか。
添削 締め切りは昨日 冬暁が痛い
 
12位 冬麗や 鈍色の影 父は逝く 的場浩司(特待生2級)
【 N 】冬のうららかな病室が、父の訃報を聞いてからはショックのあまりモノクロのように感じてしまった時の一句。
【解 説】これはとても惜しい句。
お父様を悼む句なので、きっちり完成させたいと強く思う。
詠嘆の「や」は「父逝く」に持ってきた方がよかった。
語順を変えると追悼句としてとても良くなり、当然上位に食い込んでくる一句だった。
添削 父逝くや 冬麗を鈍色の影
 
13位 子の薬手帳は厚く 春を待つ 村上健志(永世名人)
【 N 】病気にかかりがちな子どもの、お薬手帳のことを詠んだ一句。
【解 説】俳句としてはきちんとできており、どこを直さないといけないということはない。
「春を待つ」という季語も主役としてちゃんと立っている。
ただお題の「大ピンチ」を考えた時、「風邪を引いたりしたけど、寒い冬を耐えてよく頑張ったね」と、むしろ幸せな労りの味わいがある句になっていて、そこで損をしている。
俳句そのものはとてもいい句。
 
14位 すりの標的 きび返す 赤コート 中田喜子(名人10段)
【 N 】買い物中にスリの標的になっていることに気づき、思わず引き返した時の経験を読んだ一句。
【解 説】これは問題点がはっきりしている。
スリに遭っている人が赤コートなのか、スリ本人が赤コートなのかがはっきりしない。作者は敢えて曖昧にしているのかもしれないが。
添削 すりの残像 きび返す 赤コート
 
15位 凍つ夜や 涙が出ずに テイク10 大友花恋
【 N 】泣く芝居でなかなか涙が出なかった時の、ピンチの瞬間を詠んだ一句。
【解 説】惜しいのは「凍つ夜」の表記が文法的に間違っている。
連体形なので「凍つる夜」である。
添削 凍つる夜や 涙の出ない テイク10
 
16位 蒲団剥ぎ青息 こむら返りかな 野村麻純
【 N 】寝ている時にこむら返りの激痛で目覚めた経験を詠んだ一句。
【解 説】こむら返りの痛さは誰もがとてもよくわかる。
季語「蒲団」を立てようとしている意識もある。
ただ、全体の調べががこむら返りの割には悠長、落ち着き過ぎている。
特に「かな」という詠嘆の辺りが。
下五を強い言い方にすると、上下のバランスが釣り合う。
添削 こむら返りの青息 蒲団剥ぎ捨てる

2025冬麗戦観戦記 1stステージ

2025年01月19日 | 俳句
兼題は「大ピンチ」だった。
1stステージの上位3名だけがが決勝戦に進む。
今回も地上波では10位までしか紹介されず、以下はTVerで順位、解説があった。
夏井先生の解説と添削。
 
1位 本番は明日 風邪蔓延の 稽古場  森口瑤子(名人9段)
【自 解】高校時代、演劇部だった。
日々みんな頑張って練習していたが、公演前に風邪が流行って体調の悪い部員が何人もいた。
いったいどうなるんだろうと焦っていた当時の思い出を詠んだ。
【解 説】季語は「風邪」。
稽古場にマスクの人がいるに違いない。咳の人、鼻水の人、鼻声で歌えない人…。その人たちをこの季語が伝えている。そしてまさに「大ピンチ」。
季語を立てることとテーマを生かすこと。この2つのポイントが同じくらいなら、添削のない人を上位とするというルールで、今回は順位をつけた。
 
2位 新札は不可 凍星の パーキング  横尾渉(永世名人)
【自 解】2024年に新札に変わった。
財布にそれしかなかった冬の夜、コインパーキングに停めた車を出そうとしたら、機械はまだ旧札しか使えず、近くに両替できる店もなくピンチだった。
【解 説】面白い切り口で来た。
いきなり「新札は不可」と、現場の貼り紙に書いてある文言をそのまま書いているようで、ちゃんと俳句になっている。
この句を五・七・五にしようとしたら簡単にできる。
「凍星や 新札不可の パーキング」と。
ただ作者として何を一番表現したいか、それを考えてどの型に入れようかと工夫してこうなった。
時事を俳句にするのは難しいが、季語「凍星」の力が発揮できる位置においてある。
 
3位 難病や 膝の外套 握り締む  千原ジュニア(永世名人)
【自 解】股関節が痛くなり、1〜2年経ってから病院で診察を受けたら「難病です」と言われた。
その瞬間「えっ!?」となり、膝の上にあったコートをギュッと握り締めていた記憶がある。
【解 説】いきなり「難病や」と詠嘆している。
五・七・五にしっかり入れ込んでいるのもさすがである。
驚いて何かを握りしめるという句はなくはないが、「外套」という季語を選んだのがよかった。
どっしりと重い季語をこの場所に置くことで、難病に立ち向かう気持ち、ドッと落ち込む気持ちなどをが季語によって表現されている。
最後に「握り締む」と言い切ったところにも作者の心理が入り込んでいる。
 
4位 冬帝のライブ 血指のストローク 清春
【自 解】自分は30歳を過ぎてからギターを始めた。
下手くそだった頃指先から出血して、ライブが終わるとギターや洋服が血まみれになっていた。その時の体験から。
【解 説】「冬帝」は冬を擬人化した季語。
「冬帝のライブ」というフレーズが面白い。まさに王のように舞台上を支配しているアーティストがいるかのようなイメージを抱かせる。
型を押さえておくと、句またがりになっている。
正直「血指(けっし)」という言葉を知らなかったので調べてみた。
漢和辞典に出てくる言葉で「不慣れ」という意味だった、
まさに不慣れなゆえに指が血に染まるということで、よくぞこの言葉を見つけてきたと感心し、相当俳句を勉強してくれていると感動した。
 
5位 千五百グラムや 春を待つ嬰児 矢柴俊博
【自 解】私は1,500グラムの未熟児で産まれてきたそうで、それが自分の人生の最初の大ピンチだったと思う。
そのことを詠んでみた。
【解 説】思い切った型である。
千五百グラムの数詞に「や」と詠嘆し、残りのフレーズに季語を入れて音数を整えるという結構難しい型で、これは褒めないといけない。
五・七・五で、「春待つや 千五百グラムの 嬰児」とも詠める。
しかし作者が何を表現したいかが大事。千五百グラムの体重を詠嘆したかった。
そして「春を待つ」の季語に希望を乗せている。その辺りのバランスもよかった。
 
6位 冴ゆる夜の ロストバゲージ 星条旗  森迫永依(特待生2級) 
【自 解】アメリカに留学していた時、ロストバゲージをされたことがあった。
その時の体験をそのまま読んだ。
【解 説】今回のテーマの「大ピンチ」をどのように盛り込んでいくかというのがあるが、「ロストバゲージ」という音数の多い単語をドンと置くことでテーマをクリアしている。これもひとつのアイデア。
冴えた冷たい夜空に星条旗だけがはためいている。
「荷物」の映像もない、季語「冴ゆる」は皮膚感なのでこれも映像がない。
夜という時間の中に星条旗しか映像がない。それでも言いたいことをきっちりと言えている。強く褒めたい。
 
7位 トランジット失敗 寒影のモーテル  藤本敏史(永世名人)
【自 解】15年ほど前、アラスカに一人でロケに行くという仕事があった。
マネージャーも同行せず、チケットだけ渡されて「シアトルで乗り換えてください」と言われた。
飛行機が遅延してシアトルに着き、アナウンスしていたが英語なので理解できず、なんとかカウンターに行ったが乗り換え便は飛び立った後だった。
仕方なく自力でモーテルを見つけて泊まった。
【解 説】テーマの大ピンチに、最初に「トランジット失敗」と打ち出している。これも一手である。
季語「寒夜」は映像でありながら、トランジットに失敗してすごすごと安ホテルに辿り着いた作者の心情が託されている。
 
8位 ビストロは師走 ソムリエ 鼻詰まり  水田信二
【自 解】以前、料理人として働いていた。
料理人・ソムリエなど飲食店の人間にとって、鼻詰まりは料理やお酒の味が分からなくなり能力ゼロに近くなる。
師走の忙しい時に鼻詰まりになると大ピンチである。
【解 説】ソムリエはその店の接客の花形、要になる人。
その人物の鼻が効いてないと、店としても本人としてもピンチの状況である。
実体験を詠むのが一番良いと繰り返し言っているが、そのいい例。
 
9位 再検査告知 さらりと クリスマス 犬山紙子(特待生1級) 
【自 解】年齢を重ねてくると健康診断でよく引っかかるようになって再検査と言われる。
こちらとしてはドキッとして大事に受け取るが、医師はみんなに伝えていることでさらっとした口調の印象がある。
【解 説】「再検査告知」と「クリスマス」の取り合わせは対比が効いてとてもいい。
問題点は一点だけ。「さらりと」が「クリスマス」に流れていくので、「再検査と言われたが、例年のようにクリスマスを楽しんだ」と解釈され、作者の意図と文字面に齟齬が生まれる。
添削 デスクに聖樹 さらりと 再検査告知
 
10位 朽野(くだらの)や 我が病の名 ひとづてに  梅沢富美男(特別永世名人)
【自 解】人生で初めて入院した。3日間で10キロほど痩せた。
仕事で山形に向かう新幹線の中で、窓に映った自分の顔が痩せて不安に思った時、後部座席の二人が知人がガンで長くないらしいという会話をしていた。
マネージャーに「本当のことを教えてくれ。俺はガンなのか?」と聞いたら、「いいえ、普通の病気です。」と言われた。
【解 説】マニアックな季語をよく知っていた。
冬の季語「朽野」は、あらゆる草木が枯れきった野原のこと。
惜しいのは1点。上五が「や」でしっかり切れているので、そういう時は残りのフレーズの調べをスルスルと流して欲しい。
ところが中七の「名」で半拍ほどの呼吸が生じる。そこを繋げるだけ。
添削 朽野や 我が病名を ひとづてに

2025冬麗戦観戦記 参加者選出

2025年01月17日 | 俳句

昨日、プレバト俳句タイトル戦の「冬麗戦」が放送された。
去年1年間に番組で詠まれた全313句の中から、優秀句を詠んだ16名が参加した。
今回も名人・特待生以外で5名が選ばれていた。
まずはどんな句で選出されたのかを記しておこう。
ちなみにこれらは年間優秀句の15句ということではないだろう。
一人が秀句を複数詠んでいる場合もあるのだから。
また、優秀句の順番ではなく、段位順に表記(敬称略)している。
 
●梅沢富美男(特別永世名人)
  苗代の桜や 鬼の住まいする 
   兼題「桜」 2024.3.28放送
 
●村上健志(永世名人)
  星明かりほどの 重さの子に 汗疹
   兼題「幼少期の写真」 2024.8.22放送
 
●千原ジュニア(永世名人)
  故郷の 苜蓿(もくしゅく)の香は 濃かりけり
   兼題「ふるさと」 2024.4.25放送
 
●藤本敏史(永世名人)
  弟に 秘密の秘密基地 真夏
   兼題「秘密基地」 2024.8.1放送
 
●横尾渉(永世名人)
  雪渓のピザ屋 品川ナンバー来
   兼題「好きな観光地」 2024.7.11放送
 
●中田喜子(名人10段)
  ケーナの音 麦の風吹く 秘密基地
   兼題「秘密基地」 2024.8.1放送
 
●森口瑤子(名人9段)
  ふわっとふらここ 水平になる手前
   兼題「ブランコ」 2024.4.18放送
 
●犬山紙子(特待生1級)
  生家のこでまり 甘やかな退屈  
   兼題「ふるさと」 2024.4.25放送
 
●森迫永依(特待生2級)
  薄めたシャンプー 朝冷のワンルーム 
   兼題「一人暮らし」 2024.9.12放送
 
●的場浩司(特待生2級)
  三日月や 真朱(まそほ)の隠岐に 藍の波 
   兼題「自分で撮った写真」 2024.10.3放送
 
●蓮見翔(特待生4級)
  夏暁の納沙布 FMのノイズ  
   兼題「好きな観光地」 2024.7.11放送
 
●矢柴俊博
  網棚に 置きし卒論 冬の朝  
   兼題「うっかりミス」 2024.11.14放送
 
●清春
  良夜なり フロアを包む アルペジオ  
   兼題「大観衆」 2024.11.7放送
 
●大友花恋 
  風爽か 豚骨臭の シーン8  
   兼題「ケータリング」 2024.9.5放送
 
●野村麻純
  まどろみの 友は臨月 夏氷  
   兼題「かき氷」 2024.8.15放送
 
●水田信二
  夕虹の列 前の男の 傘当たる  
   兼題「雨の行列」 2024.6.20放送