3月13日(木)、プレバト春光戦が放送された。
出場者は過去最多、17名の名人・特待生で争われた。うち12名は優勝経験者である。
今回のお題は「ついつい買ってしまう人気フード」だった。
ファーストステージの上位3名だけが決勝に進み、今回もまた11位以下は番組内で放送されず、TVerでの放送になった。
夏井先生の解説と添削は以下の通り。
1位 春風を入れて マーブルチョコに蓋 藤本敏史(永世名人)
【自 解】子どもの頃マーブルチョコが大好きで、公園に行く時持って行っていた。
遊んでいる最中に2〜3個食べ、蓋を閉める時に春風も一緒に入れていたという一句。
【解 説】マーブルチョコの特徴を上手に使っている。
カラフルな色と円筒の形がうまく入っている、
そして季語の「春風」。これは他の3つの季節の風と入れ替えることのできない不動の季語で、しっかり立っている。
2位 ケトルの湯 春日の タマゴポケットに 梅沢富美男(特別永世名人)
【自 解】チキンラーメンは青春時代から今もよく食べている。
昔は卵を足すこともそうそうできなかった。
熱湯を注ぎ、出来上がるまでののどかなひとときを詠んだ。
【解 説】「タマゴポケットに」としたことで、書いてないが麺に凹みがあって、そこに既に生卵が置いているのがわかる効率的な表現になっている。
一点気になったのが最後の助詞の「に」だった。
これが「へ」なら、今まさにお湯を注ごうとしている瞬間になる。
それに対して「に」は、、すでに注がれていて、白身の色が変わっている様子。
作者の話を聞くと後者を表現したかったのだと理解し、このままで味わいたい。
3位 朧夜や 薬の横の ミニボーロ 犬山紙子(特待生1段)
【自 解】朧夜の低気圧のような時期に、頭が痛くなることがある。
薬のそばにミニボーロがあって、その優しい甘さは大人になった今でもいいなぁと思う。
【解 説】読んだ瞬間に光景が立ち上がってくる。
季語の「朧夜」が病気の状況を包み込むような感じもする。
そしてミニボーロを食べた時の優しい食感とほんのりとした甘さが、季語と付かず離れずでとても上質な出来になっている。
4位 チキンラーメン 兄と割る 四畳半の春 千原ジュニア(永世名人)
【自 解】この世界に入ったばかりの時、兄と二人でワンルームの四畳半で暮らしていた。
お金がなくて1つのチキンラーメンを2つに割って食べた思い出がある。
【解 説】一番褒めないといけないのは、盛り込んでいる情報が多いのによくここまで整えた事。
チキンラーメンでなくカップヌードルでもいいのではないかという声もあるかもしれないが、「割る」という行為が作者の体験として入っているので、抜き差しならない、動くはずのない作品になっている。
5位 おみやげの 銀だこ熱し 春の雪 本上まなみ(特待生4段)
【自 解】銀だこのたこ焼きを子どもへのお土産に買うことが多く、熱いまま持って帰りたくて上着でくるんで大急ぎで帰るという状況を詠んだ。
【解 説】それぞれの言葉が意味・情報の重なりがなく、意図を持って選ばれている。
銀だこの「銀」と春の雪の「白」とで、色のイメージの対比がさりげなく出てくる。
たこ焼きは本来熱いものなので「熱し」は要らないようだが、おみやげのたこ焼きなので、熱いまま届けたいという思いが伝わってくる。
6位 かつサンドつまむ 日永のロケ現場 森口遥子(名人9段)
【自 解】春になって日が長くなって、うららな時のロケは和やかでとてもいい雰囲気である。
まい泉のヒレかつサンドは簡単につまめて、好んでよく食べている。
【解 説】「かつサンド」のアップから始まり、「つまむ」でそこに人物が見える。
「日永」は映像を持たない季語だが、いい位置に入れた。
季語の力がかつサンドを美味しそうに見せ、ロケも順調に進んでいる印象を醸し出し、確かな一句。
7位 コーラグミ 3回噛んで 春一番 蓮見翔 (特待生4級)
【自 解】散歩する時などにパッと食べられるものとしてコーラグミをよく買う。
食べながら歩いている春一番が吹いたという句。
【解 説】コーラグミを噛むことと春一番が吹くことは全く関係がない。
しかし関係のないものをあたかも関係があるように取り合わせるところに詩が生まれる。
グミを噛んだ時の弾力、酸味や甘味の複雑な感じ、そのような感触を春一番と合わせたのだろう。
春一番が吹く風の強さ、春が来たという喜び、それがコーラグミを強く3回噛む感覚と似ている。若い方の一句だった。
8位 夏近し ビッグマックの 箱に鉤(かぎ) 村上健志(永世名人)
【自 解】ビッグマックは箱に入っていて、フタが開かないようにフックが付いている。
それを開けて「さあ食べるぞ」という期待感と「夏近し」が合うと思った。
【解 説】最後に「鉤」を置いて焦点を当てたかった作者の意図は十分理解できるが、これは本来金属製の物を意味する。
いきなり出てきてプツンと終わるのは違和感がある。それがとてももったいなかった。
捨て石のように「紙箱」として質感を補填しておいて、
添削 ビッグマックの 紙箱に鉤 夏近し
鉤を開けると夏がいよいよやって来る、そこに主眼が来る。
そうしていたら間違いなくベスト3に入っていた。
9位 ぼんち揚 割れば春陽の 実家かな 内藤剛志(特待生5級)
【自 解】東京に出てきたばかりの頃、歌舞伎揚げって何だ? 関西はぼんち揚だと思っていた。
俳優養成所でライバルが多い中、これを食べると実家にいた頃や無邪気な子供の頃を思い出して癒された。
【解 説】多少気になったのが「春陽」である。これは季語の「春日」で十分。うららかな陽射しも感じられる。
「実家かな」と詠嘆するのではなく、他の方法でやってみると、
添削 ふるさとや 春日にぼんち揚 割れば
こうすると、最後にぼんち揚の感触が残る。
10位 ピノ溶ける春暁や 『山月記』閉づ 三宅香帆(特待生5級)
【自 解】アイスのピノはスティックで刺して手が汚れないので、読書のお供によく買う。
「山月記」を夢中で読んでいて、ピノが溶けてしまった時の思い出を俳句にした。
【解 説】「ピノ」「春暁」「山月記」の取り合わせが意外なのに、どこか惹かれあっているという不思議な感覚だった。
ただし最後の「閉ず」は不要。本を閉じていようがいまいが、読書に夢中になってハッと気づけば。
添削 ピノは溶け果て 春暁の『山月記』
こうすると時間経過が表現できる。
そして溶けても形をとどめているピノは、他のアイスには変えられない大事な要素になっている。