8月3日にプレバト俳句の炎帝戦が放送された。
炎帝戦はこのシステムが定番になったようで、過去に「才能あり」経験の出演者254名に参加資格がある。
お題が出され、投句エントリーした中から優秀句を詠んだ上位15名が出場資格を得て行われた。
名人・特待生以外に4名が選ばれていた。
今回の兼題写真は「行きつけのお店」で、順位と夏井先生の解説、添削は以下の通りだった。
1位 水貝の さくりと清く まず一献 梅沢富美男 (特別永世名人)
【自 解】夏になると行きつけの料亭で水貝をいただく。
これを肴に飲むのは、暑い夏に頑張った自分へのご褒美でもある、
【解 説】夏の季語の「水貝」は、生のアワビと野菜を水に浮かべた料理。
その季語を気持ちよく描けている。
「清し」だったら水貝のことだけで終わっているが、「清く」とすることで料理だけでなく店の清潔感、上品さも全て表している。
下五の「まず一献」で、作者はこの季節になると必ずこの店に行って水貝を食べるのだろうと思わせる。
小手先の行きつけ感ではなく、季語を生かしながらお店の雰囲気、味も表現している。
2位 呼び鈴の はんなり抜けて 湯びき鱧(はも) 中田喜子(名人8段)
【自 解】京都のいつものお店で懐石料理をいただいている。
卓上に呼び鈴が置いてあり、それを鳴らすと優しい音が帳場に届いて、湯びき鱧が運ばれてくるというシーンを詠んだ。
【解 説】季語の「鱧」を美味しそうにちゃんと描くことで、そのお店に対する想いを表現している。
「はんなり」で京都だと想像させ、「抜けて」で店の空間、奥行きを感じさせ、呼び鈴の涼しげな響きも伝わってくる。
露骨なおなじみ感の出し方ではなく、言外に滲ませている粋な一句である。
3位 鱧の皮 あの娘再婚 したらしい かたせ梨乃
【自 解】夏になると、行きつけのお店で鱧料理をいただいている。
私と同じように毎年来店されている女性の近況を聞くと、「再婚したらしい」と店主に言われた。
私は一度もしてないのに二度も!(笑)
【解 説】この句の特徴は、店とお客さんとの会話を盛り込むことで、行きつけ感をうまく表現している。
鱧は高級料理だが、鱧の皮は比較的庶民的でお手頃。それがちょっと下世話な話をしているときに出てくるのがよい。
また「結婚」ではなく「再婚」もいい。「皮」とつり合っている。
4位 古都眩し 夜は酒場の 氷店 横尾渉(名人10段)
【自 解】行きつけのバーが、夏の間だけ昼間にかき氷の店をやっている。
子どもたちがかき氷を食べながら、ズラリと並んだお酒のボトルを不思議そうに見ていたのが印象的だった。
【解 説】季語は「氷店」。
「夜は」の「は」によって、自分は昼の様子も夜の様子も知っているという行きつけ感が表現されている。
もったいないのは、上五の「古都眩し」からの流れになると、行きつけというより、観光パンフレットの情報?という読み方もされがちである。
作品としては良い。
5位 土用鰻 大将すまん 小ジョッキ 伊集院光
【自 解】土用の丑の日、暑い最中に炭火の前で鰻を焼き続けている店主は大変。
待ってる間にビールを飲みたいが、申し訳ない気もする。
しかし我慢しきれず、せめてはと小ジョッキを頼む場面を詠んだ。
【解 説】1年の中でお店が一番忙しい日。
朝からずっと焼き続けているのが季語の力で見えてくる。
「大将すまん」で行きつけの親しい間柄だとわかる。
なぜ「小」かについては、テイクアウトを待つ短い間に飲むというふうに解釈した。
6位 土地区画整理 末伏の タッカンマリ 藤本敏史 (永世名人)
【自 解】長年通っている韓国料理の店がある。
土用の丑の日と同じように、韓国でも初伏、中伏、末伏というのがあり、精のつく料理を食べる習慣があるそうだ。
その店が道路拡張計画の影響で閉店か移転するかもしれないと聞いた。
【解 説】「末伏」が季語。立秋後の真夏のような酷暑日のこと。
「末伏のタッカンマリ」、このリズムが楽しくていい。
ただ「土地区画整理」の解釈が、拡張工事をする側、影響を受ける側に二分されてくる。
例えば、
添削 地上げの噂 末伏の タッカンマリ
こうすると明らかに困っているお店側になり、誤読がなくなるのではないか。
7位 じゃあそれと ガツ刺し 夕涼の酒場 村上健志(永世名人)
【自 解】焼きトンが好きでよく行く店がある。
最初に必ず「今日は美味しい○○の部位がありますよ」と薦められる。
なので自分も決まってそれといつもの好きなガツ刺しをオーダーする。
【解 説】これも客の台詞を入れて行きつけ感を出した一句。
酒場というと屋内のイメージが強いので、季語の「夕涼」を生かすなら、
添削 じゃあそれと ガツ刺し 夕涼の屋台
または地名を入れて「屋台」を「中洲」として屋台を想像させることもできる。
8位 焼酎や けふは店主に 辞儀深う 千原ジュニア(永世名人)
【自 解】大阪に昔から芸人仲間の集まる居酒屋がある。
いつも楽しく飲んでいるが、みんな若いので時には「アイツより俺の方が面白い」などといった会話もある。
ある時マスターが一人の芸人に「お前のことをえらく言ってる後輩らがいる。絶対的な笑いであんなこと言わせないようになれ」と叱咤激励していた。
彼はお礼を言って深々とお辞儀して帰って行った。
【解 説】「焼酎」が夏の季語。その昔、夏の疲れをとる暑気払いとして飲まれていた。
これも「今日は」の助詞「は」で行きつけ感を出した句に分類される。
ただ、なぜお辞儀をしているのか、読みの幅が広すぎる。
隣の席の客に絡んで迷惑をかけたお詫びとか、転勤でもう来られないというお別れの挨拶とか・・・
しかし作者にとって心に残る一夜であったのだろうという手触りがするので、自分の人生の一句として残しておいていいのではないか。
9位 西日溜める店 影だけが 呑んでる 立川志らく(名人7段)
【自 解】今はもうないが、昔通っていた飲み屋があった。
その店は西日がまともに当たってとにかく暑く、窓を背に飲んでいる客たちは皆逆光で、まるで黒い影が並んで飲んでいるように見えた。その時の印象を詠んだ。
【解 説】「西日」が夏の季語。
ただ「溜める」という表現が不安な要素でもある。
それよりもちょっと「行きつけ感」を加えてはどうか。
添削 西日の店 いつも影だけが 呑んでる
10位 キープボトル 墓碑銘となる 夏のBAR 春風亭昇吉(特待生4級)
【自 解】居酒屋あるあるの話になるが、常連のおじさんが亡くなって、店主はそのことを知らなかった。
名前を記したキープボトルだけが残され、なにやら語りかけているようだった。
【解 説】「キープボトル」と「バー」が本当に2つとも必要か?
季語をもっと丁寧に「晩夏」とすれば「墓碑銘」と連動して似合うのではないか。
添削 晩夏なるBAR 墓碑銘となるボトル
こうすると「なる」の韻も踏める。
10位以下は順位だけで俳句の発表はなかったが、TVerで公開されたのでチェックした。

11位
命日を集う 紫陽花のレストラン 森口遥子(名人6段)
【解 説】毎年友人の命日に集まる様子を詠んだ一句。
季語の「紫陽花」は作者にとって動かし難い思いがあるのだろうから良しとする。
ただ「レストラン」と音数を使う必要があったか?
「店」にして、その分馴染み感や紫陽花の描写に使えたのではないか?
12位 鰻待つ 今日は台本 家に置き 千賀健永(名人9段)
【解 説】鰻を食べる特別な日の開放感を詠んだ一句。
これは季語が動くのではないかというのがいちばんの問題点。
鰻でなく鱧でも、他の夏の食べ物でも成立するのではないか。
「今日は」の助詞「は」で特別感を出した配慮は良かった。
13位 風青し カンロ杓子の 三拍子 森迫永依(特待生3級)
【解 説】かき氷を作る音を切り取った一句。
「風青し」は載っていない歳時記もある新しい季語で、青葉や海をイメージさせて清々しい。
杓子のすくう三拍子とシロップ感の取り合わせはよかったが、行きつけ感が弱いのが残念。
14位 混濁のスープ 青山椒の蒼 星野真里
【解 説】坦々麺の青山椒の辛さを「蒼」と詠んだ一句。
季語は「青山椒」。
混濁しているのはどういうメニューのスープかをきっちり書いた方がよかった。
これだけでは坦々麺が見えてこない。
15位 夏惜しむ キープボトルを 一人呑む 嶋佐和也
【解 説】行きつけのバーで、一人夏の終わりを感じた一句。
「夏惜しむ」の季語がストレートでよかった。
下手なことをしないで、自分の思いを素直に詠んでいる。
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千原ジュニアさんがいみじくも言っていた。
「今回のテーマは、人生経験の豊富さが重要で有利だったのではないか。」と。
然り。
それに対してMCの浜田さんが、
「それって、つまり上位は年寄りだってこと?」
ジュニア「・・・そ、そうです。」