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言の葉

2008.11.28 開設
2022.07.01 移設
sonnet wrote.

2024炎帝戦観戦記 3 決勝戦

2024年07月31日 | 俳句
 
1位 夏暁(なつあけ)の納沙布 FMのノイズ  ダウ90000 蓮見翔(特待生4級)
【自 解】北海道東端の納沙布岬は日本で一番最初に日が昇る場所である。
友達と車で朝日を見に行ったことがあった。
端っこなのでラジオもきれいに入らない。
車の中でノイズがかかったまま日の出を待っていた。
【解 説】後半の「FMのノイズ」は、あると言えばあるフレーズ。
しかし前半がしっかりしている。
夏の暁、短い夜が明けようとしている。そして納沙布の地名が大事。
日本で一番早く日が昇る場所へ行こうとしている。車とは書いてないが、この書き方でカーラジオのFMに違いないと、読者は勝手に想像する。
そして岬に近づくほどノイズが激しくなっていく。その距離感を「ノイズ」で表現している。作者は朝日を声を上げて眺めたのではないか。
季語の「夏暁」がしっかり主役に立って、地名が季語を支えている。
 
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以下の4句については、TVerで解説がされた。
番組内で優勝を争った句は横尾さんということだったので2位としたが、TVerでは順位をつけずに解説だけだったので、あとは段位順とした。

2位 能登は虹 一棟貸しの 露天風呂  横尾渉(永世名人)
【自 解】以前番組のお題で能登の「千枚田」があった。
梅沢さんに実際行ってみた方がいいと勧められ行ったことがある。
その時の思い出と、地震後の復興で頑張っている能登に希望の虹を架けたい思いもあった。
【解 説】能登と季語「虹」との取り合わせが復興のイメージやエールで、読者も同じ思いを共有できる。
残念だったのは後半部分が上五と少し離れてしまっている。
能登が「伊勢」でも「萩」でも成立してしまう点である。
能登ならではのものが入っているとよかった。
 
宮古島 ホースに溜まる 水は炎(も)ゆ  千原ジュニア(永世名人)  
【自 解】宮古島では、庭の水道の蛇口を捻ると、ホースに溜まっている水が熱湯みたいに熱くなっている。
そこで暮らす人たちは、そんな環境も受け入れて暮らしておられる。
【解 説】季語は「炎(も)ゆ」。盛夏の燃えるような熱気のこと。
「宮古島」の地名はちゃんと機能している。
「水は炎ゆ」の描写にオリジナリティーがある。
ただ能登の句と同様、暑い所にある3音の島でも詠めるというのが少し惜しかった。
    
向日葵を 抜けると海や 走り出す  森口瑤子(名人8段) 
【自 解】伊豆の下田に行った時の思い出。
たくさんの向日葵が咲いている道を抜けると海が広がっていて、思わず駆け出した。
【解 説】気持ちのいい句。「や」の切れの後に走り出す人物に映像がスッと行くのは確かな技術。
ただ「観光地」という意味において、どこの場所かわからないのが他の地名を入れた句に一歩及ばなかったと点と言える。
しかし、2句とも地名に頼らず詠もうとした作者の初志貫徹の姿勢を褒めたいと思う。
    
油照り 影が溶け出す 中田島  立川志らく(名人7段) 
【自 解】日本三大砂丘のひとつ、静岡県の中田島砂丘は母の故郷の近くにある。
子どもの頃に行ったことはなかったが、大人になって行ってみた。
真夏の暑い日で、観光客の影さえも溶けていくような印象があった。
【解 説】中田島がどういう場所か調べてみた。
砂丘とわかると上五中七の描写はいいなぁと思う。
惜しいのは、中田島を知らない人にも少しのヒントが欲しかった。
「砂」「砂丘」が入るとグンと映像化ができる。
 
全25句の中で個人的に好きだったのは以下の3句。
 夏暁の納沙布 FMのノイズ 
 舳先より 泡盛の神酒 一礼す
 雪渓のピザ屋 品川ナンバー来

2024炎帝戦観戦記 2

2024年07月30日 | 俳句
 
九州・沖縄ブロック
1位 舳先(へさき)より 泡盛の神酒(みき) 一礼す  千原ジュニア(永世名人)
【自 解】宮古島が大好きで毎年行っているが、地元の友達と一緒に船で沖に出る時は必ず泡盛を海に垂らして事故がないように祈る。
それが毎回自分の役目になっている。
【解 説】海の神様に無事を祈る小さな儀式。
ハーリーという競漕の神事か、新しい船の進水式のセレモニーかとも読めるが、日常生活の中で釣りに行く時もそうすると聞くと、ますます味わい深い句である。
焼酎の傍題である「泡盛」が季語で、地域性も見えてくる。
下五の「一礼す」もきっぱりした感じでとてもいい。海の眩しさも立ち上がってくる。この句も句碑にしてもいいと思う。
【私 感】同感。日々の暮らしで常に神や自然への畏敬の念を持っている島の人々。
その彼らに作者もまた敬意を払っているのが読み取れる。
ファーストステージ4位だったフジモンが「ちんすこうに書いたらいい」とガヤを入れていた(笑)

2位 カタカナの 魚ばかりや 市薄暑  瀧川鯉斗
【自 解】沖縄の市場に行った時、カタカナの名前の珍しい魚が並んでいて、その時のことを詠んだ。
【解 説】上五中七の切り取り方がとてもいい。独自の視点がある。
季語「薄暑」は、初夏の汗ばむ暑さのことで3音である。
このように「市薄暑」として場所の情報を入れたり、例えば「夕薄暑」として時間の情報を入れて5音にしたりして光景を整えるのはテクニックのひとつである。
よく勉強している。
 
3位 始発待つ 素足ぶらぶら 大三東(おおみさき)  かたせ梨乃  
【自 解】長崎県の島原鉄道に、日本で一番海に近い駅と言われている大三東がある。
ここのプラットホームに腰掛けて足をブラブラすると潮が飛んでくるくらいに海が近い。
朝日が綺麗で、早朝の空気、潮の匂いを感じながら始発電車を待った思い出を詠んだ。
【解 説】大三東の知識がなかったので調べた。どういう場所かわかって読むと、時間を具体的に書き、素足をぶらぶらさせている様子などが読み手の脳の中に映像として生まれてくる。
地名を使う効果については、誰もが知っている例えば富士山なら、同じような光景を思い浮かべる。知名度が日本全国でない場合は、この句によって知られるようになってくると、読み終えた後の歓声がだんだん大きくなっていく。
この句をきっかけに大三東が有名になって、この句を理解してくれる人が増えていくことを願っている。
    
4位 スキットルの 固き四角や 片陰り  森迫永依(特待生2級) 
【自 解】沖縄の西表島に旅行に行った時、気分が上がってスキットル(ウイスキーなどを入れる携帯用の小型水筒)を買った。
お酒を入れてビーチにいたが、暑くて片陰りの場所で休んだ。
手に持っているスキットルの冷たさ重さを実感した時の句。
【解 説】スキットルの手触りを「固き四角」と丁寧に書いているのは良い。
季語「片陰り」でサラッと場所・状況が書けている。
破綻のない句だが、なぜ4位になったか。
今回のテーマは「観光地」。北海道から沖縄まで片陰りのある場所ならどこでも当てはまる。そこが残念なところ。地域性のある季語にすれば上五中七が俄然生きてくる。例えば、
添削 スキットルの 固き四角や 花梯梧(でいご)
    
中部ブロック
1位 黴(かび)臭い ホテルだけど 海がデカい 森口瑤子(名人9段)
【自 解】小学生の頃、家族旅行で海辺のホテルに行ったことがあった。
部屋に入るとカビ臭く湿気臭く、嫌な気持ちで窓を開けた瞬間に海がバーンと見えて、全てが吹き飛んで楽しくなった思い出を読んだ。
【解 説】完全に五・七・五を逸脱、しかも口語の俳句。
しかしこの語り口、調べ、内容がガッチリ手を組んでいる。
「海が近い」ではホテル情報で終わる。「海がデカい」としたこの判断が順位を分けた。
    
2位 熱田守護の 亀の蛭(ひる)剥ぐ 炎天下 千賀健永(名人9段) 
【自 解】実家が愛知県熱田神宮のすぐ近くにある。
亀が神宮の守り神とされているが、子どもの頃の夏、甲羅や体に蛭の付いた亀を見つけた。うちに連れ帰り、蛭をすべて剥ぎ取って元の場所に戻してやったことがあった。
【解 説】上五中七の素材が面白い。よくそんなところに目をつけた。俳人の鑑のような体験だと思う。
「蛭」「炎天下」の季重なりのマイナスはあるが、句材がオリジナリティー、リアリティーに溢れている。
「炎天下」を諦めればいい句になる。誠にもったいない。
添削 熱田守護なる 亀の甲羅の 蛭を剥ぐ
これなら断トツの1位だった。熱田神宮に句碑も立つ。 

3位 胎児寝る 風鈴数多(あまた) きゃらきゃらと 犬山紙子(特待生2級)   
【自 解】子どもがお腹にいた頃、西伊豆の宇久須神社に行ったことがあった。
別名風鈴神社と呼ばれ、200個以上の風鈴が吊るされている。
その音が重なってキャラキャラと精霊みたいな音で、お腹の子どもを寝かしつけているように感じられた。
【解 説】「きゃらきゃら」のオノマトペがいい。音だけでなく風鈴の材質も感じさせる。
問題はどこかと言うと「寝る」と言い切ったことで損した。
作者の思いは、風鈴の音がお腹の赤ちゃんを眠らせてくれる優しい音に聞こえたのではないか?
添削 風鈴のきゃらきゃら 胎児眠らさん
   
4位 雨後の虹 怒髪ゆるんだ 東尋坊  津田寛治 
【自 解】台風で風雨の酷い時、敢えて東尋坊に行ってみたことがあった。
予想に違わず怒髪天を衝くような荒波だった。
やがて雨が止んだら虹が架かって、荒々しかった波も少し緩んだように見えた。
【解 説】季語は「虹」。「雨後の虹」と有名な地名「東尋坊」の取り合わせはとても良い。
問題は中七である。「怒髪天を衝く」ことわざにもたれかかり過ぎ、比喩が大袈裟で損をしている。ここは素直に波とした方がよい。
添削 雨後の虹 白波ゆるぶ 東尋坊  
 
北海道・東北ブロック
1位 釧路駅 知らないコンビニの 冷房  蓮見翔(特待生5級)
【自 解】東京より人の少ないエリアで、旅先の寂しさや不安を感じることがある。
普段行っている店とは違うコンビニに入って、冷房は変わらず同じ冷やし方。同じ匂いにホッとしたという記憶を詠んだ。
【解 説】地名の「釧路駅」と季語「冷房」との関係が妙なリアリティーを持っている。
涼しいはずの北海道釧路に来たのに思ったよりも暑く、あたりには見たこともない名前のコンビニがあって、不安とコンビニを見つけた安心とがない交ぜになっているようなリアリティーが中七にある。
最後の「冷房」とは何てチープな感慨だろう。しかしその中に作者が観光地を歩くときの真実味が入ってくる。
この作者は「リアリティーは物事の細部にある」ということがわかっているのだろう。
    
2位 竜飛より 海峡見ゆる 翌(あす)は秋  梅沢富美男(特別永世名人)
【自 解】青森県津軽半島の竜飛崎は季節が早くやってくる。
暑い日でも、ここに来ると涼しい風が吹いて早めに秋が訪れたと感じる。
【解 説】季語は「翌(あす)は秋」。暦の立秋の前日で夏の終わりのこと。夏の季語。
この粋な季語を持ってきたのがよかった。
竜飛崎から海峡を見下ろす俯瞰の光景だと言うこともわかる。
全体的に格調のある句なので句碑向きではあるが、どこかで見たことのある歌詞の雰囲気がする。
季語で救われている。
    
3位 船に群れ 海猫の腹 蒼々と  こがけん(特待生4級)   
【自 解】三陸海岸の遊覧船に乗った時、海猫に餌をあげた。
すごく晴れた日で、空の青が海に映り、その光が海猫の腹に映って青くなっていた。
その情景を詠んだ。
【解 説】「海猫」が夏の季語。
目の付け所が良い。よく海猫の腹の特徴を見た。観察する目を持っている。
上五の「に」が散文的で気になる。
添削 舷(ふなべり)や 腹蒼々と 海猫(ごめ)の群
【私 感】「ごめ」で昭和の歌謡曲「石狩挽歌」を思い出した。(作詞:なかにし礼)
♪海猫(ごめ)が鳴くから ニシンが来ると〜
こがけん「添削後の俳句を自費で句碑にします!」
フジモン「海猫(ごめ)の2字の碑を」

4位 荒山の 岩間匂ふや 稚児車(ちんぐるま)  ペナルティ・ヒデ
【自 解】北海道の大雪山(系)に登った時、可憐な稚児車の花を見た。
厳しい環境で綺麗に咲いているなぁと感動した。
【解 説】夏の季語「稚児車」は白く小さな可憐な花で、まさに「岩間匂ふや」の表現がふさわしい風情である。この目の付け所はよい。
何が問題かと言うと「荒山」も「岩間」も地理的な情報で重なっている点である。
「岩間」を生かすのが作者の思いに近いのではないか。
上五に季語ではない情報を入れると映像が鮮やかになる。例えば、
添削 青空や 岩間を匂ふ 稚児車
こうすると青い空と白い花の色の対比ができる。
他にもいろいろできるので、作者自身で考えて欲しい。
 
そういうことで、各ブロック1位の5名が決勝戦に進んだ。

2024炎帝戦観戦記 1

2024年07月29日 | 俳句
7月11日(木)、プレバト俳句の炎帝戦が放送された。
ずいぶん間が空いてしまったが、毎回観戦記を投稿していることなので7月中にあげておこう。
今回は趣向を変え、過去最大のスケールで行われた。
参加資格は名人・特待生・「才能あり」経験者280人で、2か月前から募集して51人がエントリーされた。
お題は「好きな観光地」。
自由に場所を選んで2句提出。全国を5ブロックに分けてそれぞれに4人が選ばれ、計20人が出場した。
名人・特待生以外で7人が選ばれていた。
各ブロックの1位だけが決勝戦に進む。
 
余談だが、番組冒頭に千原ジュニアさんの俳句を句碑にする動きがあるという話題が振られた。
4月25日放送、「ふるさと」のお題で詠んだのは、
  故郷の 苜蓿(もくしゅく)の香は 濃かりけり 
苜蓿とはクローバー、シロツメグサのこと。
ふるさと福知山のクローバーはとりわけ香りが濃いという印象で詠んだという。
夏井先生が「福知山に句碑を立てて欲しいくらい」と絶賛して、市役所がその気になったらしい。
私もその番組を見た時、大好きな句で句碑にすればいいのにと思っていた。
例えば川沿いの土手を春にクローバーで敷きつめ、地味だが愛らしい花、四つ葉のクローバーを探すといったのどかな観光スポットになりうる。
その側に句碑がある。小ぶりな道祖神ほどのものが風景に馴染むと思う、、、と勝手に思いを巡らせていた。
司会者が続けて「今回は好きな観光地。ひょっとしたら全国の自治体から句碑にしたいというオファーがあるかも」と言うと、出演者たちが色めき立った。
よって、トークのキーワードが「句碑」になった
 
 
関東・甲信越ブロック
1位 雪渓のピザ屋 品川ナンバー来  横尾渉(永世名人)
【自 解】長野県に美味しいピザ店があり、友達と行った時の思い出から。
【解 説】季語は「雪渓」。高山の谷間に夏でも残っている雪のこと。
どの地域、どういう場所か、具体的な地名は使ってないが、雪渓のある場所、品川ナンバーが来る辺りの距離感の作り方で想像させる技が見事。
加えて、雪渓の白く冷たいものと、片やピザは熱々でカラフルなトッピング。
色の対比、温度の対比もさりげなく入っている。
最後を「来(く)」で収めるたのも、観光地を楽しんでいる感じが出た。
   
2位 峰雲の ホッピー通り ハイボール  嶋佐和也(ニューヨーク)
【自 解】以前、浅草でレギュラー番組を持っていた。
収録後に浅草寺近くの居酒屋が集まるホッピー通りで飲んでいた。
夕方、外のテーブルで飲むハイボールが思い出深い。
【解 説】季語は「峰雲」、入道雲のことである。
リズムが良くて楽しい。助詞「の」でホッピー通りにつなげた判断がよかった。
 
3位 三越の 獅子は阿の口 夏旺(さか)ん  村上健志  (永世名人)  
【自 解】日本橋三越の前にライオン像があり、口を開いていて狛犬の「阿吽」の「阿」の口をしている。
この季節のデパート前の賑やかさが十分出せたのではないかと思う。
【解 説】三越の獅子に「夏旺ん」の季語を取り合わせるのはさすがだと感心する。
問題は「阿の口」。はっきり言って無難にまとめた感がある。
ここは描写する創作としての一番肝になる所。
それを口を開けていたら「阿の口」と言うのは他の人でも思いつくこと。
もう一度三越の前に行って、ライオン像の前に立って観察するように。
    
4位 高原の 横笛ピュルル 夏の空  水野真紀(特待生5級) 
【自 解】息子が小学3年生の時美ヶ原高原に行ったことがあった。
土産物店で横笛を買って、いろんなところでピュルピュルと吹いていた思い出を詠んだ。
【解 説】問題は上五の「に」である。
ここに「に」を置くと散文的になりがちになるので要注意。「に」以外にあり得ない時以外は使わないよう覚えておいてもらいたい。
この場合、語順を変えれば解決する。
添削 高原は夏空 横笛のピュルル
    
関西・中四国ブロック
1位 渡月橋の騒(ぞめ)き 干からびた蜥蜴(とかげ)  立川志らく(名人7段)
【自 解】京都の渡月橋辺りが最も好きな場所である。
「騒き」とは、吉原で冷やかして歩いている客のことで、行き来する人たちとイメージが重なったが、同時に道で干からびている蜥蜴が浮かび、それを詠んでみた。
【解 説】前半9音、後半8音で、足して17音の破調の句。
「騒き」という言葉の向こう側に、人でごった返す声・車などのいろんな音が一緒に湧き上がってくる効果がある。ここで切れる。
そしてふと視線を下にやると干からびた蜥蜴がいる。
「干からびた」にとても暑い京都の夏の印象が表されている。
    
2位 夏を追う 叡電(えいでん)の影 チャリの影  安藤和津 
【自 解】比叡山や鞍馬寺に行く叡山電鉄からの景色は、ひなびていてとてもいい。
電車の影と線路沿いの道をを走っていた自転車の影が、夏を惜しんで追いかけているような印象で記憶している。
【解 説】上五で溌剌とした初夏の頃かなとも思ったが、読んでいくと「影」がリフレインされていく。
このリフレインが調べを作っている。同時に映像も作っていて、余韻も作ってくる。
影が2つ重なることによって、夏が始まって去っていく、それを追いかけ惜しむ想いをも入れ込んでいるのではないか。
    
3位 USJ セットファサードの 片陰  河野純喜(JO1)   
【自 解】僕の地元は奈良県で、高校時代に年間パスポートを買ってUSJに通っていた。
しかし夏はものすごく暑く、映画のセットからできる日影を選んで歩く人たちの様子を詠んでみた。
【解 説】いきなりアルファベットで、次にセットファサード。
調べたら映画の撮影に使われる舞台セットのことだった。
この句は調べてみようと思わせる魅力を持っている。
季語は「片陰」。夏の太陽から逃れる日陰のこと。
季語を信じることができたから成立した一句である。
   
4位 朝九時の ビール塩こぶ ビリケンはん  藤本敏史(永世名人) 
【自 解】大阪の新世界の立ち飲み屋には、喫茶店のように「生ビールと塩昆布」「チューハイと塩昆布」といったモーニングセットがある。
それで朝から安く飲むことができる。
通天閣の神様ビリケンも人間の姿になって飲んでいるんじゃないだろうか、、、
【解 説】大阪らしいリズムに乗った明るさがある。
そして漠然とした朝ではなく「九時」もリアリティーがある。「塩こぶ」も然り。
しかし最後の「ビリケンはん」の着地の効果はどうなのか?
ビリケンを入れたら新世界だと分かるだろうと思ったかもしれないが、念押ししすぎて損をしている。
この句をよくするためには、全く違うものを持ってこなくてはいけない。
こちらが勝手に入れられないので作者が再度工夫すること。
藤本「全く違うもの…?」
「ビリケンはん」という言葉に頼って、そこら辺にありそうな句にしたというのを、優しい言葉で言った。
(テロップに、例えば「阪神帽」「スポーツ紙」「王将碑」など とあった)