
7月22日にプレバト俳句の炎帝戦があった。
今回は特別ルールで、過去出演して「才能あり」になったことのある224人全員に参加資格があった、
兼題は「Tシャツ」で、60人が投句(意外に少ない印象)した中から、優秀句上位10句に選ばた人が出場。
名人、特待生が順当に選ばれた中、過去数回出演して「才能あり」1回だけだった犬山紙子さんが加わり、なんと優勝という快挙を果たした。
夏井先生の解説、添削。
1位
日盛りや 母の二の腕は 静謐 犬山紙子
【自 解】20代の頃、母の介護をしていた。
真夏の午後、寝ている母の部屋で半袖から出ている腕をそっと触るとひんやりとして、炎天の屋外とは違う静かな安らかな感じがした。その記憶を詠んだ。
【解 説】「日盛りや」で5音、残り12音のいわゆる破調の句。
Tシャツから見える二の腕が白くひんやりしているという描写が見事。
最初に読んだ時、年配のお母さんの人生の安らぎ、諦観を感じた。
また、子どもを突き放している母の静けさという解釈もできる。
読めば読むほど奥行きが深くなり、この一句で短篇が書けるのではないか。
俳句は短いので、振ってみたら当たったということはある。
本人も、これほどいい句だとは思わずに提出したのかもしれない。
しかしうっかりホームランだとしたら、とんでもなくよく飛んだ見事なホームランだった。
2位
Tシャツの 干され西日の 消防署 東国原英夫永世名人
【自 解】消防署の2階にTシャツが干されていた。
落ちきれない汚れもあり、署員の激務が想像された。
それに当たる西日が彼らを慰労し、賞賛しているようだった。
【解 説】「Tシャツの干され」は鉄板の類想フレーズと言ってもいい。
しかしこの句は、その類想を共感という土台に据え、強みにしている。
それを分かってやっているのが見える。
前半は家庭の日常だと思って読み、それが過酷な労働の現場だと分かった時のハッとする感動がストレートに伝わってくる。
「西日」という季語がそれに照り映え、映像がしっかり見え、季語を主役に押し出している。
3位
まだマシな Tシャツを貸す 夜の雷 村上健志名人10段
【自 解】恋人が来て、シワクチャなTシャツの中からマシな1枚を貸し、その時雷が鳴って一瞬訪れる沈黙を詠んだ。
【解 説】上五「まだマシな」は自信がなければ書けない。それだけにリアリティがある。
「貸す」という動詞の選択も上手く、この一語で貸す方と借りる方の二人の人物が登場する。
4位
光るシャツ ひるぎの森を 行くカヌー 千賀健永名人4段
【自 解】沖縄旅行に行った時、ひるぎ(河口などに生える熱帯植物の総称)の森でカヌーに乗ったことがあった。
Tシャツに反射する光が記憶にあり、その思い出を詠んだ。
【解 説】Tシャツの持つ躍動感を、「カヌー」という季語と合わせて気持ちよく表現している。
離れた場所からこの光景を見ている感じがし、もちろんそれでもよいが、作者自身がカヌーに乗っていることを出したいのなら、
添削
シャツ光らせ ひるぎの森を 行くカヌーとしてもよい。
5位
白靴の 老女冷ゆ 生鮮売場 ミッツ・マングローブ名人2段
【自 解】自分は寒がりで、夏場のスーパーの生鮮売り場は肌寒さを覚える。
おしゃれをして買い物していた老婦人も寒そうにしていた。
【解 説】よい工夫がされている。
「白靴」は、夏のおしゃれとしての季語である。
老女がおしゃれをして、出かけるのはスーパーという現実を上手に切り取っている。
6位
若夏や Tシャツという 戦闘服 梅沢富美男永世名人
【自 解】若い頃は貧しく、夏はTシャツにジーパンの服装だったが、その恰好では入店を断られることも多かった。
Tシャツ1枚で闘っていた時代を詠んだ。
【解 説】「○○という」の言い回しはないことはなく、類想感があり、説明的、理屈の匂いもする。
「若夏」は沖縄で言われていた言葉から来た季語。沖縄に「戦闘服」となると、読者は別の思いを抱く。
「という」の理屈と、「戦闘」をバラしてあげるといい。
添削
若夏や Tシャツ一枚の闘い7位
花栗や 肌に張り付く ツアーロゴ 北山宏光特待生3級
【自 解】半野外のライブをしたことがあった。
その時何かの匂いがして、確認したら栗の花だった。
【解 説】生々しく季語と出会っていることがわかる。
季語体験を身体に入れていくのは大事なこと。
「ツアーロゴ」でTシャツとわかり、「汗」と書かずに汗をかいているのがわかる。
このままでもいいが、直すなら
添削
ツアーロゴ張り付く 花栗の真昼としてもよい。
8位
星空の 渋谷白シャツ CEO 横尾渉名人6段
【自 解】渋谷あたりの若い起業家は、スーツではなくラフなTシャツ姿で輝いて見える。
「し」の韻を踏んでみた。
【解 説】「し」の付く単語を畳みかける手法で、リズムが生まれている。
ただ、直すほどではないが「星空」が悩みどころである。夜のおしゃれ感を出したかったのか?
9位
夏暁(なつあけ)の おなら逞し ロンパース 藤本敏史名人10段
【自 解】子どもが幼い頃、早朝に泣き声で起こされることが多かった。
寝不足気味で辛かったが、おむつを替えていると大きなオナラをして、元気に成長していることに安心し、笑えた。
【解 説】惜しいのは語順。「おなら」から始めた方が面白い。
俗な方向にいくと思わせて、下五の「ロンパース」で赤ちゃんだったのかとする。
添削
おなら逞し 夏暁(なつあけ)の ロンパース10位
白シャツは 何より白く 退院す 千原ジュニア名人6段
【自 解】20歳の時に、急性肝炎で死にかけたことがある。
黄疸がひどく、衣類にも色がつくほどだった。
夏頃にようやく治って退院する時、新品の白シャツを着た思い出を詠んだ。
それは病室の壁やカーテンの白より、シーツの白より白く感じた。
【解 説】シビアな体験を読んだいい句ではあるが、どこに改善点があるかというと、「何より」という漠然とした語句。
添削
白シャツの 全き白や 退院す添削
白シャツの 白はこの白 退院すなどとしてはどうか。
過去に犬山さんが出演した回はよく覚えている。
初めて出た時、兼題が「日光 華厳の滝」だった。
その時彼女が詠んだ句は、「…三十路の肌を保湿する」といった感じのものだった。
「才能なし」の最下位で、夏井先生から「季語(滝:夏の季語)を保湿美容液呼ばわりとは何事!」と叱責されていた。
次に出て「才能あり」を取った時は、俳句もしっかり憶えている。
兼題写真はたしか「海辺の町を行く路線バス」だったと思う。
故郷の 干物ゆらめく 褥暑かな季語の「褥暑」でムシムシした暑さ、干物の匂いを喚起させ、単純に美しく懐かしいだけではない故郷への複雑な思いが表現されていると絶賛された。
私も大好きな句である。
先週の番組での兼題は「蜩(ひぐらし)」だった。
セミは夏の季語だが、ヒグラシは秋の季語になる。
今日は、二十四節気の「処暑」。
ようやく暑さが和らぎ、穀物が実り始める頃。