ジャック・ニコルソンつながりで恋愛小説家(1997年)を観た。
これはもう何度となく観ている。
彼を最初に見た映画はチャイナタウン(1974年)だったと思う。
フェイ・ダナウェイ目的で観たが、強面ながらダブルのスーツにソフト帽姿がカッコよかった。
後にイージー・ライダー(1964年)に出ていたことを知ったが、その当時は認識がなかった。
その後のカッコーの巣の上で(1975年)、シャイニング(1981年)などで、コワモテはまさに怖いイメージになり、怪優などと言われていた。
しかし年齢を経て、頑固で傲岸不遜な人物像に滑稽味を漂わせるような役柄が増えたように思う。
ニコルソン演じるメルヴィンは売れっ子の小説家だが、性格はというと作品とはまるで異なる人物である。
自己中心的でプライドが高く、極度の潔癖症。
高温のお湯で手を洗い、石鹸は一度使ったら捨てる。
ドアの鍵も照明のスイッチも4〜5回繰り返さないと気が済まない。
表を歩く時は、敷石の継ぎ目を踏むことができない。
最悪なのは偏見がひどく、相手かまわず差別的発言をわめき散らすことである。
マンハッタンの高級アパートメントで一人暮らししているが、隣人のゲイの画家サイモンに、彼と親しい黒人の画商に、中米からの移民者らしきハウスキーパーの女性に、行きつけのレストランで、勝手に自分のテーブルと決めている席に座っていたユダヤ人カップルに…。
その暴言を書き出すのはためらわれるが、ニコルソンが演技でそのセリフを吐くと、不謹慎ながら思わず吹いてしまう。
画家のサイモンが強盗に襲われて入院し、彼の飼い犬を預かる羽目に。
映画の冒頭では、この子犬を地下のゴミ捨て場につながるダスターシュートに放り込んでいたのだ。
この犬(ブリュッセル・グリフォン)がとにかく可愛く、いいお芝居をする。
偏屈なメルヴィンが唯一素直になるのは、レストランのウェイトレスのキャロル(ヘレン・ハント)である。
彼女は息子と母とブルックリンで、貧しいながら懸命に暮らしている。
喘息の息子の発作で仕事を休むと、彼女の給仕しか受け付けないメルヴィンは大いに困る。

ネタバレにならないよう、このあたりにとどめておくが、二人がディナーに行った時のシーンを。
メルヴィンがドレスコードで入店できず、店の貸す服を拒否して街でジャケットとネクタイを買って戻った時のひと言。
「変な店だな。男には上着とタイを強要して、女は部屋着でいいとは。」
……貧しくとも精一杯のおしゃれ着で来たキャロルになんと無神経な!
そんなメルヴィンはまともな人間になれるのか?
ラストの一世一代のセリフがなかなかいい。
この映画でジャック・ニコルソンとヘレン・ハントは、ともにオスカーの主演男優賞、主演女優賞を受賞している。
恋愛適齢期(2003年)でも似たようなキャラクターを演じている。
共演はダイアン・キートン。若い医師役でキアヌ・リーブスも出演している。
ともにいわゆるロマンチック・コメディで、邦題も恋愛小説家に寄せたのだろう。