アセトン高原は標高が高いだけにいくらか涼しかった。
(サイトでは「アサートン高原」と表記しているが、「アセトン」の発音がより近いということなのでそうする。)
そろそろコテージに着くという辺りで、何が原因だか道路の片側を塞いで一本の木がなぎ倒されていた。
これがその日の夜をドラマチックに仕立て上げる名演出家だったことを、私たちはその時知る由もなかった。
山小屋風のコテージは、うっそうとした森の中、専用ゲートを開けてさらに奥まった所にあった。
私たちを迎えてくれたのは、野生の七面鳥とワラビーだった。
人を怖がらず、備え付けの餌を撒くとすぐ近くで食べる。
右端の画像は夕食後にベランダに上がってきたワラビー。
接写できるほどに、掌から餌を食べるほど近くに寄って来た。
コテージは洗濯室も完備しているくらいだから(玄関写真の左のドア)、2泊以上でなければ借りられないらしい。どうやらそれをMさんが交渉して特別1泊OKになったようである。感謝!
裏手には川が流れていて、運がよければカモノハシに出会えるそうだが、残念ながら現れてくれなかった。
夕方到着したので、さっそく夕食の支度に取り掛からなければならない。
Mさんのご主人が運び込んだクーラーボックスには、ご飯、味噌汁、ふるさとの味チキン南蛮、サラダの材料が入っていた。
ところがここで問題発生! 電気が点かない! 停電である。
部屋の明かりはもちろん、炊飯器も使えない。ガステーブルの種火も電気である。
もしかしてあの倒木が電線を切断したのかも…。
管理人に問い合わせると果たしてその通りで、復旧に時間がかかるとのこと。
しかし手をこまねいて待つのではなく、工夫して行動するのが主婦である。
Tさんは、普段からお鍋でご飯を炊いているのでまさに本領発揮。
暮れなずむ中、ありったけの懐中電灯とろうそくで手元を照らしながら、予定のディナーは滞りなく完成。(Tさんにいただいた画像使用)
今夜も食事はベランダで。
車の音も人家の明かりも全く届かない隔絶された森の中、ろうそくを灯しての食事はむしろその時その場にふさわしかった。
旅の思い出は、こういうアクシデントこそ印象深く忘れないものである。
私たちは大いに停電を愉しんだ。
そろそろ食事が終わる頃、電気が復旧した。
夜が更けてくると夜気は涼しさを超えて肌寒かったが、上着を着込み、ハンモックにミノムシの如くくるまり、Kさんとベランダで語り合った。
この年になると、話題は「来し方行く末」である。