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言の葉

2008.11.28 開設
2022.07.01 移設
sonnet wrote.

2024冬麗戦観戦記

2024年01月15日 | 俳句

先日、プレバト俳句タイトル戦の「冬麗戦」が放送された。
去年1年間で詠まれた312句の中から優秀句を詠んだ16名が参加した。
今回も名人・特待生以外で4名が選ばれていた。
今回の兼題は「大笑い」。順位は以下の通りだった。

1位 春風亭昇吉(特待生4級)
    一月の 笑いの外に ひとりいた
2位 横尾渉(永世名人) 
    残業の鍋焼 M-1の出囃子 
3位 梅沢富美男(永世名人)
    初笑い 追い出す寄席の はね太鼓
4位 村上健志(永世名人)   
    爆笑や 横隔膜に 去年(こぞ)の揺れ
5位 立川志らく(名人7段)
    福笑いのような 祖父の、死に顔
6位  川島如恵留    
    初旅のB席 iPadにドリフ 
7位 中田喜子(名人9段)  
    盃の 富士に一礼 初笑
8位  森口瑤子(名人7段)   
    「犯人は…」に続く 客席のくつさめ
9位 千原ジュニア(永世名人)
    笑ひ声 洩るる交番 注連飾(しめかざり) 
10位 安藤和津 
    妣(はは)の忌や 遺言だもの 牡蠣フライ

11位 本上まなみ(特待生4級)
12位 こがけん(特待生4級)
13位 かたせ梨乃
14位 水野真紀(特待生5級)
15位 勝村政信(特待生5級)
16位 えなこ
 
11位以下の俳句は番組では発表されなかったが、TVerで公開された。

     *********************************************

ちなみに16名が参加資格を得た昨年の優秀句も記しておこう。
 
乳房切除す 母よ芒(すすき)の 先に絮(わた) 春風亭昇吉
秋光の跳ね橋 ドローン追うチワワ 横尾渉
夏シャツの コロッケ百個 下げてくる 梅沢富美男
吊り橋に 四つの碇 鰯雲 村上健志
忘れ物を探しに 菜の花を行く 立川志らく
父特製 夜食うどんの 麺柔し 川島如恵留
青年の 歩幅につられ 秋空へ 中田喜子
木漏れ日に晒され 空蝉のしずか 森口瑤子
極月の号外 無傷のチャンピオン 千原ジュニア
色褪せし 無人の木馬 春しぐれ 安藤和津 
あの崖の 上がわらびの 萌える野と 本上まなみ
鍵失せて ファミレスにいる 春の月 こがけん
鱧(はも)の皮 あの娘 再婚したらしい かたせ梨乃
オーディション帰り 渋谷の秋そぞろ 水野真紀
亡き妻と 入学前夜の ハイボール 勝村政信
残暑の夜 誰も洗わぬ カレー鍋 えなこ

2023 金秋戦観戦記 2

2023年10月18日 | 俳句
夏井先生の解説は以下の通り。
 
1位 朝月の アザーン 砂漠の空港へ  森迫永依(特待生3段)
【自 解】アザーンとは、イスラム教における礼拝への呼び掛けのこと。
モロッコ旅行に行った時、モスクがたくさんあって、どこにいてもアザーンが一日5回は聞こえていた。
帰国の日にホテルをチェックアウトして表に出ると、夜明け前の月が残っていて、静かな街にアザーンが聞こえてきた。
寂しい気持ちと神聖な感じを季語に込めた。
【解 説】こうした海外の光景を詠んだ俳句を「海外詠」と言う。
それに果敢に挑んでくれた。
海外詠の難しさは季節感の薄さと違和感だが、これは実体験なのだと納得させられる。
有明の月が想像され、アザーンでイスラム圏の国へワープしていく。
アザーンと砂漠がちょっと近いように感じるかもしれないが、街中のアザーンの声を耳の奥、胸の中に抱きながら砂漠の空港へ出発しようとしているのだから、光景の齟齬はなく映像がしっかり描けている。
 
2位 月白の ワーディー渡る ヌーの群れ   藤本敏史(永世名人) 
【自 解】ワーディーとは水の枯れた川のことで、年に数回雨が降った時だけ一時的に水が流れて川になる。
そこを渡って行くヌーの群れの情景を詠んでみた。
【解 説】これも海外詠。季語の「月白」を選んだのがよかった。
月が出る前に空がほんのり明るくなる情景のことである。
水の枯れた川を野営地を求めて渡って行くヌーの群れ。そこには土埃も立つだろう。
季語「月白」の色合い、枯れた川、ヌーの群れ、全ての色合いが無彩色の濃淡の映像になって、印象的な陰影が描かれている。
 
3位 こりりと すっぱそうな 三日月のかど  森口瑤子 (名人7段)  
【自 解】兼題写真をもらった後、本物の月を見ても難しく、ありとあらゆる月の写真を見た。
三日月の写真を見た時、角の尖った部分がフルーツの、例えばパイナップルみたいで酸っぱそうに思え、この一句になった。
【解 説】みんながなかなか思いつかないから、そこに詩がある。
こんな句に出会ったのは初めてである。
上五中七でいい意味での違和感、意外性がある。
それを「かど」で着地させ、映像として押さえているのが良い。
それはまた作者の尖った心情とも接点を持っている。
読む人には好き嫌いが分かれるかもしれないが、恐れることなく自分の感覚を率直に書いていくと共感する人は必ずいる。
自分を信じて果敢に挑戦して欲しい。
  
4位 良夜かな 香典返しの 茶漬け食ふ  村上健志(永世名人)
【自 解】季語「良夜」とは、中秋の名月の夜のこと。
食べる行為は生きている証しであり、「死」との距離を良夜の日にいい感じで取れたという思いを詠んだ。
【解 説】上五に「かな」を付けるのはとても難しい手法である。
なぜなら、先に詠嘆すると中七下五の内容とのバランスが取りにくくなるから。
しかしこの句は、際どいところでバランスが取れている。
成功の理由が最後の「食ふ」の着地。
お茶漬けは食べるものだから、本来「食ふ」は不要。
「香典返しなる茶漬け」としてもよいが、そうするとお茶漬け入りの箱でも見ているような感じにも解釈される。
作者は哀しみが落ち着いて日常が戻り、生きる行為として「食ふ」を言いたかったのが理解できる。
   
5位 名月は 東に 父島観測所   春風亭昇吉 (特待生4級) 
【自 解】気象予報士の資格があり、小笠原諸島にある父島気象観測所を見たくて船で行ったことがある。
そこは360度水平線で、日の入りとほぼ同時に月の出が見られた。
その時見た月を一句にした。
【解 説】兼題写真に真正面から取り組んだ作品である。
海の広さ、月の大きさが感じられる。
「父島観測所」という固有名詞の力も効いている。
作者のお話を聞い後で言うなら、季語は「名月」ではなく「満月」かもしれない。
「名月」は月を愛でる心情に軸足があり、日本の端の孤島で愛でる月がなんと美しいことか、ということになる。
「満月」は、まん丸な月が360度の水平線に上ってくる光景を気象予報士として心打たれた俳句になる。
 添削 満月は 東に 父島観測所

6位 良夜のノーヒッター 肘の手術痕  横尾渉(永世名人) 
【自 解】野球のナイトゲームで、ピッチャーがノーヒットノーランを達成した。
その肘には手術痕があった。
彼の努力を月は見ていたのだろうという句である。
【解 説】月の良い夜の勝利。月に向かって握りこぶしを挙げる映像が見えてくる。
ただ、必要な情報を17音に詰め込みすぎた感がある。
それによって、季語「良夜」がちょっと脇役に行ってしまった。
詩としての調べも窮屈になっているが、どの言葉も外せないのでこのままで。
 
7位 あんな家 二度と帰るか 睨む月  千原ジュニア(永世名人) 
【自 解】中学生の頃、何かのことで夜に家を飛び出したことがあった。
空には月が出ていて、イライラして睨みつけた記憶がある。
【解 説】上五中七に生々しい言葉叩きつけるように持ってくるのはいいと思う。
だが下五の着地が問題になる。選択肢は2つある。
1つは、「月煌々」とか「月明し」のように月を映像化する方法。
しかし「睨む」という動作に作者の思いがあるので、外せないのなら「月睨む」とする。
さらに、前半が強い言葉なのでこうしてはどうか。
 添削 あんな家 二度と帰るか 月に吼ゆ
 
8位 桂月や キャラメルの香の 満ち満ちて   梅沢富美男(永世名人) 
【自 解】桂の木はいい香りがする。桂の林を歩くと砂糖の焦げたような甘い香りが漂ってくる。
満月を見ると黄色く、月にもその香りが満ちているに違いないと思われた。
【解 説】月には桂の木が生えているという中国の伝説があり、季語「桂月」は月の別の呼び名である。
また陰暦8月を「桂月」とも言い、どちらの意味で詠んだのか悩んだ。
むしろ陰暦8月なら悪い俳句ではないが、兼題写真は「月」である。
だとすると、上五の季語を中七下五で説明しているだけの一句になっている。
もっとわかりやすく言うと己の知識だけで作った、知識をひけらかしてみた句。そこがもったいない。
 添削 キャラメルの香か 桂月の甘からん
 
9位 別れるはずだったのに 月が綺麗  犬山紙子(名人6段)  
【自 解】つきあっていた人と別れると決意して会った夜、あまりに月が綺麗で気持ちが揺らいでしまった。
本心はまだ愛しているという女性を詠んでみた。
【解 説】夏目漱石が英語教師をしていた頃、「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したという逸話があり、月が綺麗 = I love you が隠されている。
この機知はとてもいい。
しかし「のに」と説明する言葉になっていたのが惜しい。
 添削 別れるはずだった 月が綺麗だった
 
10位 細月を探す 三箇所 残り蚊に 皆藤愛子(名人5段)
【自 解】実体験で、夜空を観察している時に三か所蚊に刺されたことがあった。
それを俳句にした。
【解 説】「残り蚊」とは涼しくなっても出る蚊で秋の季語。
「細月」も月で秋の季語。
どちらの季語が主役かがはっきりせず失敗した。
細い月とはいえ、探すほどの時間が経つだろうか?ということもある。
「細月」のサ、「探す」のサ、「三箇所」のサで韻を踏もうとした意図はわかるが、「残り蚊に刺された」を主役にした方が整いやすい。
  添削 月さがす 間を残り蚊に 刺されけり 

2023金秋戦観戦記 1

2023年10月17日 | 俳句
先週、プレバト俳句の金秋戦が放送された。
4月に実施された春光戦の1位、2位がシード権を得て、その時夏井先生が、
「永世名人は順位に関係なくシード権があるが、予選から戦ってはどうか? 私ならそうするけど。」
と言っていた。
しかしそうはならず、1位の藤本敏史(永世名人)、2位の皆藤愛子(名人5段)と、永世名人の梅沢富美男、村上健志、千原ジュニア、横尾渉の6名がシード。
これに事前に行われた予選で、1位春風亭昇吉(特待生4級)、2位森口瑤子(名人7段)、3位犬山紙子(名人6段)、4位森迫永依(特待生3段)の4名が選ばれ、10名で戦った。
 
今回の兼題写真は「月」だけが写っているものだった。
冬の雪、秋の月、春の花(桜)は、あまたある季語の中でも「雪月花」と言われる三大季語で、それだけに過去最高難度のお題とも言える。
順位は以下の通りだった。

1位 朝月の アザーン 砂漠の空港へ  森迫永依(特待生3段)
    
2位 月白の ワーディー渡る ヌーの群れ  藤本敏史(永世名人) 
    
3位 こりりと すっぱそうな 三日月のかど  森口瑤子  (名人7段)  
    
4位 良夜かな 香典返しの 茶漬け食ふ  村上健志(永世名人) 
    
5位 名月は 東に 父島観測所  春風亭昇吉 (特待生4級)
    
6位 良夜の ノーヒッター 肘の手術痕  横尾渉(永世名人) 
    
7位 あんな家 二度と帰るか 睨む月  千原ジュニア(永世名人)   
    
8位 桂月や キャラメルの香の 満ち満ちて  梅沢富美男(永世名人)

9位 別れるはずだったのに 月が綺麗  犬山紙子(名人6段)  
    
10位 細月を探す 三箇所 残り蚊に  皆藤愛子(名人5段)

2023炎帝戦観戦記

2023年08月13日 | 俳句
8月3日にプレバト俳句の炎帝戦が放送された。
炎帝戦はこのシステムが定番になったようで、過去に「才能あり」経験の出演者254名に参加資格がある。
お題が出され、投句エントリーした中から優秀句を詠んだ上位15名が出場資格を得て行われた。
名人・特待生以外に4名が選ばれていた。
今回の兼題写真は「行きつけのお店」で、順位と夏井先生の解説、添削は以下の通りだった。
 
1位 水貝の さくりと清く まず一献  梅沢富美男 (特別永世名人)
【自 解】夏になると行きつけの料亭で水貝をいただく。
これを肴に飲むのは、暑い夏に頑張った自分へのご褒美でもある、
【解 説】夏の季語の「水貝」は、生のアワビと野菜を水に浮かべた料理。
その季語を気持ちよく描けている。
「清し」だったら水貝のことだけで終わっているが、「清く」とすることで料理だけでなく店の清潔感、上品さも全て表している。
下五の「まず一献」で、作者はこの季節になると必ずこの店に行って水貝を食べるのだろうと思わせる。
小手先の行きつけ感ではなく、季語を生かしながらお店の雰囲気、味も表現している。
 
2位 呼び鈴の はんなり抜けて 湯びき鱧(はも)  中田喜子(名人8段)
【自 解】京都のいつものお店で懐石料理をいただいている。
卓上に呼び鈴が置いてあり、それを鳴らすと優しい音が帳場に届いて、湯びき鱧が運ばれてくるというシーンを詠んだ。
【解 説】季語の「鱧」を美味しそうにちゃんと描くことで、そのお店に対する想いを表現している。
「はんなり」で京都だと想像させ、「抜けて」で店の空間、奥行きを感じさせ、呼び鈴の涼しげな響きも伝わってくる。
露骨なおなじみ感の出し方ではなく、言外に滲ませている粋な一句である。
 
3位 鱧の皮 あの娘再婚 したらしい  かたせ梨乃
【自 解】夏になると、行きつけのお店で鱧料理をいただいている。
私と同じように毎年来店されている女性の近況を聞くと、「再婚したらしい」と店主に言われた。
私は一度もしてないのに二度も!(笑)
【解 説】この句の特徴は、店とお客さんとの会話を盛り込むことで、行きつけ感をうまく表現している。
鱧は高級料理だが、鱧の皮は比較的庶民的でお手頃。それがちょっと下世話な話をしているときに出てくるのがよい。
また「結婚」ではなく「再婚」もいい。「皮」とつり合っている。
 
4位 古都眩し 夜は酒場の 氷店  横尾渉(名人10段)
【自 解】行きつけのバーが、夏の間だけ昼間にかき氷の店をやっている。
子どもたちがかき氷を食べながら、ズラリと並んだお酒のボトルを不思議そうに見ていたのが印象的だった。
【解 説】季語は「氷店」。
「夜は」の「は」によって、自分は昼の様子も夜の様子も知っているという行きつけ感が表現されている。
もったいないのは、上五の「古都眩し」からの流れになると、行きつけというより、観光パンフレットの情報?という読み方もされがちである。
作品としては良い。
 
5位 土用鰻 大将すまん 小ジョッキ  伊集院光
【自 解】土用の丑の日、暑い最中に炭火の前で鰻を焼き続けている店主は大変。
待ってる間にビールを飲みたいが、申し訳ない気もする。
しかし我慢しきれず、せめてはと小ジョッキを頼む場面を詠んだ。
【解 説】1年の中でお店が一番忙しい日。
朝からずっと焼き続けているのが季語の力で見えてくる。
「大将すまん」で行きつけの親しい間柄だとわかる。
なぜ「小」かについては、テイクアウトを待つ短い間に飲むというふうに解釈した。
 
6位 土地区画整理 末伏の タッカンマリ  藤本敏史 (永世名人)
【自 解】長年通っている韓国料理の店がある。
土用の丑の日と同じように、韓国でも初伏、中伏、末伏というのがあり、精のつく料理を食べる習慣があるそうだ。
その店が道路拡張計画の影響で閉店か移転するかもしれないと聞いた。
【解 説】「末伏」が季語。立秋後の真夏のような酷暑日のこと。
「末伏のタッカンマリ」、このリズムが楽しくていい。
ただ「土地区画整理」の解釈が、拡張工事をする側、影響を受ける側に二分されてくる。
例えば、
添削 地上げの噂 末伏の タッカンマリ
こうすると明らかに困っているお店側になり、誤読がなくなるのではないか。
 
7位  じゃあそれと ガツ刺し 夕涼の酒場  村上健志(永世名人)
【自 解】焼きトンが好きでよく行く店がある。
最初に必ず「今日は美味しい○○の部位がありますよ」と薦められる。
なので自分も決まってそれといつもの好きなガツ刺しをオーダーする。
【解 説】これも客の台詞を入れて行きつけ感を出した一句。
酒場というと屋内のイメージが強いので、季語の「夕涼」を生かすなら、
添削 じゃあそれと ガツ刺し 夕涼の屋台
または地名を入れて「屋台」を「中洲」として屋台を想像させることもできる。
 
8位 焼酎や けふは店主に 辞儀深う  千原ジュニア(永世名人)
【自 解】大阪に昔から芸人仲間の集まる居酒屋がある。
いつも楽しく飲んでいるが、みんな若いので時には「アイツより俺の方が面白い」などといった会話もある。
ある時マスターが一人の芸人に「お前のことをえらく言ってる後輩らがいる。絶対的な笑いであんなこと言わせないようになれ」と叱咤激励していた。
彼はお礼を言って深々とお辞儀して帰って行った。
【解 説】「焼酎」が夏の季語。その昔、夏の疲れをとる暑気払いとして飲まれていた。
これも「今日は」の助詞「は」で行きつけ感を出した句に分類される。
ただ、なぜお辞儀をしているのか、読みの幅が広すぎる。
隣の席の客に絡んで迷惑をかけたお詫びとか、転勤でもう来られないというお別れの挨拶とか・・・
しかし作者にとって心に残る一夜であったのだろうという手触りがするので、自分の人生の一句として残しておいていいのではないか。
 
9位 西日溜める店 影だけが 呑んでる  立川志らく(名人7段)
【自 解】今はもうないが、昔通っていた飲み屋があった。
その店は西日がまともに当たってとにかく暑く、窓を背に飲んでいる客たちは皆逆光で、まるで黒い影が並んで飲んでいるように見えた。その時の印象を詠んだ。
【解 説】「西日」が夏の季語。
ただ「溜める」という表現が不安な要素でもある。
それよりもちょっと「行きつけ感」を加えてはどうか。
添削 西日の店 いつも影だけが 呑んでる 
 
10位 キープボトル 墓碑銘となる 夏のBAR  春風亭昇吉(特待生4級)
【自 解】居酒屋あるあるの話になるが、常連のおじさんが亡くなって、店主はそのことを知らなかった。
名前を記したキープボトルだけが残され、なにやら語りかけているようだった。
【解 説】「キープボトル」と「バー」が本当に2つとも必要か?
季語をもっと丁寧に「晩夏」とすれば「墓碑銘」と連動して似合うのではないか。
添削 晩夏なるBAR 墓碑銘となるボトル
こうすると「なる」の韻も踏める。
 
10位以下は順位だけで俳句の発表はなかったが、TVerで公開されたのでチェックした。
11位 命日を集う 紫陽花のレストラン  森口遥子(名人6段)
【解 説】毎年友人の命日に集まる様子を詠んだ一句。
季語の「紫陽花」は作者にとって動かし難い思いがあるのだろうから良しとする。
ただ「レストラン」と音数を使う必要があったか? 
「店」にして、その分馴染み感や紫陽花の描写に使えたのではないか?
 
12位 鰻待つ 今日は台本 家に置き  千賀健永(名人9段)
【解 説】鰻を食べる特別な日の開放感を詠んだ一句。
これは季語が動くのではないかというのがいちばんの問題点。
鰻でなく鱧でも、他の夏の食べ物でも成立するのではないか。
「今日は」の助詞「は」で特別感を出した配慮は良かった。
 
13位 風青し カンロ杓子の 三拍子  森迫永依(特待生3級)
【解 説】かき氷を作る音を切り取った一句。
「風青し」は載っていない歳時記もある新しい季語で、青葉や海をイメージさせて清々しい。
杓子のすくう三拍子とシロップ感の取り合わせはよかったが、行きつけ感が弱いのが残念。
 
14位 混濁のスープ 青山椒の蒼 星野真里
【解 説】坦々麺の青山椒の辛さを「蒼」と詠んだ一句。
季語は「青山椒」。
混濁しているのはどういうメニューのスープかをきっちり書いた方がよかった。
これだけでは坦々麺が見えてこない。
 
15位 夏惜しむ キープボトルを 一人呑む 嶋佐和也 
【解 説】行きつけのバーで、一人夏の終わりを感じた一句。
「夏惜しむ」の季語がストレートでよかった。
下手なことをしないで、自分の思いを素直に詠んでいる。
 
  *********************************
 
千原ジュニアさんがいみじくも言っていた。
「今回のテーマは、人生経験の豊富さが重要で有利だったのではないか。」と。
然り。
それに対してMCの浜田さんが、
「それって、つまり上位は年寄りだってこと?」
ジュニア「・・・そ、そうです。」

2023春光戦観戦記2

2023年04月02日 | 俳句
夏井先生の解説と添削は以下の通り。
 
1位 給与手渡し 春宵の 喫煙所
【自 解】まだ給料が手渡しだった時代の町工場をイメージした。
給料袋を直にもらって、気持ちもウキウキして喫煙所に集まり「これから飲みに行こうか」というひとこまを詠んでみた。
【解 説】季語の「春宵」が主役としてしっかり立っている。
やっと給料日になって、ほのぼのとした談笑が聞こえてくる。
煙草の匂いもする。
給料を直に受け取る充実感で懐が温かく「一杯いこうか」という、まさに春の宵。
小さいところにちゃんと目をつけて、季語を主役に立てている。
【私 感】千原ジュニアの茶々「手渡しの時代はどこでもタバコが吸えた。『喫煙所』の是非です。」には笑ってしまった。
 
2位 ギャラ明細は二行 療養の春
【自 解】以前、突発性難聴になって数ヶ月仕事を休んだことがある。
その時事務所から送られてきた明細が衝撃的で、再放送分の2行しかなかった。
その体験を詠んだ。
【解 説】細部が上手。「ギャラ」で芸能系の仕事だと想像がつく。
明細はたった2行という数詞にリアリティがある。
季語をもう少し主役に押し上げるなら、逆からいった方がいいかもしれない。
添削 療養の春や ギャラ明細二行 
 
3位 鞦韆(しゅうせん)に 退職の日の 花束と
【自 解】自分は給与明細をもらった経験がないので、世代的に定年を迎えた人物を描いてみようと思った。
「鞦韆」とはブランコのことで、ブランコに乗っているように毎日毎日会社に行っていた。
しかしいつかは降りなければならない。その気持ちを詠んだ。
【解 説】「鞦韆」、ブランコは春の季語。定年退職の日と取り合わせたのはとても良い。
下五「花束と」の「と」が大事。花束と一緒に自分がぽつねんとそこにいる。
しかし上五の「鞦韆に」の「に」は、散文的、説明的になってしまう。
このように上五「に」を使う時は、しっかり吟味すべき要注意の助詞と言われている。
この句の「に」は作者にとっても大事と思われるので、説明臭さを解消して余韻に変えればいい。
添削 退職の日の 花束と 鞦韆(しゅうせん)に
 
4位 保護シール 剥がす手応え 啄木忌
【自 解】石川啄木の生活苦だったことや庶民の感じの雰囲気と、個人情報保護シールを剥がす時のなんとも言えない感触。
それが相性が良いのではないかと思って取り合わせた。
【解 説】俳人石川啄木の命日4月13日は「啄木忌」として春の季語。
兼題写真から「保護シール」に目をつけたのは良い。
難しい忌日の季語に挑戦したのも決して失敗はしていない。
悩ましいのは「手応え」。兼題写真を見た人は剥がす手の感触とわかるだろうが、字面だけだと「今月の給料は結構ある」という手応えのことだと解釈する人の割合も多いだろう。
金銭的に苦労した啄木に対する皮肉めいた読み方をされると、作者の思いとかけ離れてしまう。
添削 保護シール強(こは)し 啄木忌の明細
 
5位 口座開設 朱肉拭き取る 夏近し
【自 解】15歳の時に吉本に入所した。
銀行口座を作るよう言われ、100円でハンコを買って口座開設した。
今からお笑いでやっていけるだろうかという不安と、でもここにギャラが振り込まれるのだと思った15歳の春を詠んだ。
【解 説】中七にリアリティがある。
「夏近し」の季語に溌剌とした感じがある。春が終わっていく微妙なニュアンスなので「季語が動く」という人もいるかもしれないが、作者が自分の思いを託しているのならいい。
ささやかな問題として、読んだ時に中七で切れるような印象がある。
その理由は、複合動詞「拭き取る」と形容詞「近し」が並んだので、韻律がバタついてしまったからである。それを解消するには、
添削 口座開設 拭き取る朱肉 夏近し
 
6位 本採用 朧夜の 缶チューハイ
【自 解】アルバイトの試用期間が終わって、給与明細に「本採用」の文字を見つけた。
嬉しくなって帰りに缶チューハイを買った。
【解 説】季語の「朧夜」が微妙である。
朧夜のイメージから、作者の意図とは逆に本採用になれずにモヤモヤしているのだろうかと、読み手が迷ってしまう。
きちんと「通知」と書けば誤解されない。季語も明るい気分のものが良い。
添削 本採用通知 春夜の 缶チューハイ 
【私 感】解説・添削後の作者の発言に感心した。
「季語がどんな意味を含むのか、いろんな俳句を読まないと自分の中に染み込んでこない。勉強不足だった。」
 
7位 春光の起業 ゲーミングチェア届く
【自 解】「給料」から「起業」に発想を飛ばした。
長時間座っても疲れないゲーミングチェアを使う企業が増えていることを聞いて、取り合わせとして詠んでみた。
【解 説】「春光の起業」という前半に「ゲーミングチェア」という物を取り合わせたのはいい。
もったいないのは「届く」という言葉で、違和感がある。
これだと自分の所にだけ1台届くというニュアンスになってしまう。
企業らしさを感じさせる言葉にする。大事な押さえになる。
添削 春光の起業 ゲーミングチェア導入
 
8位 桜蕊(しべ)降る 陸自の戦車しづか
【自 解】自分は給与明細をもらったことがない、
大変な仕事をして給料をもらっている人を考えた時、明細→迷彩もあってか災害時の救援に行く自衛隊員が浮かんだ。
櫻蕊の降る中、静かに戦車のある映像が浮かんだ。
【解 説】テーマとの絡みにおいて多少損しているが、作品の方向性としてはなかなか面白いものを出してきた。
「桜蕊降る」全体が春の季語。それに戦車で柔らかさと硬さ、冷たさ、大小という対比ができている。
もったいないのは「陸自」という言い方でまとめてしまっていること。
添削 戦車しづか 桜蕊(しべ)降る 駐屯地
 
9位 職を辞したる 尾崎放哉 鳥曇(とりぐもり)   
【自 解】尾崎放哉は職を転々とした人だったらしいが、人は生きていくために働かなくてはいけない。でも仕事をやめたい、職場が合わないということがある。
季語の「鳥曇」の隊をなして飛ぶ鳥の様子と、集団行動ができない、取り残されることを尾崎放哉に重ね合わせて詠んだ。
【解 説】尾崎放哉は自由律俳人。有名な句では「咳をしても一人」がある。
発想そのものは悪くない。「尾崎放哉」は「放哉」だけでも十分通じる。
また「職を辞したる」が、1回辞めた、あるいは定年まで務めて辞めたと解釈する人もいる。
添削 またも職 辞せる放哉 鳥曇 
こうすると放哉らしさが少し出て、季語「鳥曇」に収斂していく。
人物名を出す時は、もうひと工夫欲しい。

10位 我が給与 マックのバイトに 負けた春
【自 解】就職しての初任給は、時代もあるが安くて10万円ちょっとだった。
マックのアルバイトをしている友達と飲んだ。当時マックはユニフォームがかっこよく、憧れのアルバイトだった。時給を聞くと400円ということだった。
その席は自分が支払って帰宅。
ふと自分の給料は時給にしたらいくらだろうと計算してみたら300円ちょっとだった。
そのときの気持ちをそのまま詠んだ。
【解 説】実体験なのだろうと思ったが、この発想に類想感がある。
テーマには合致してるが「詩」がないというひと言に尽きる。
今回は、1位から9位までには「詩」があった。
添削 マックのバイトに 追いつきたし春の 我が給与 
こうすると「春」だけが多少季語としての匂いを発するが、直したところで大した違いはない。