
夏井先生の解説と添削。
1位 初富士は青し ケサランパサラン来
【自 解】自分にとってのラッキーは何かと考えた時、真っ先に浮かんだのがケサランパサランだった。
綿毛のようなもので空中に浮遊していて、小さい頃からそれを見つけるとラッキー!と思っていた。これに有難い背景として新年の季語「初富士」を取り合わせた。
【解 説】新年の感慨を「青」に託している。
空の青、雪の青白さ、空気の青さ。いろんな青のイメージの濃淡を前半に描いて、長い「ケサランパサラン」が出てくる。
ケサランパサランに「新富士」を取り合わせる勇気、個性に驚き感心した。
2位 雪虫の 第一発見者は 次男
【自 解】雪虫を見かけると、その後雪が降ってくると聞いたことがある。
この冬、その雪虫を見つけたのが次男だった。小さい子の方が自然を見分ける力に優れているのかもしれない。
【解 説】まず「次男」がリアリティがあっていい。ちょっと得意げな顔をして、いつもはお兄ちゃんに敵わないけれど、その日は嬉しそうに報告している情景が見える。
そして「第一発見者」という硬い言葉を使ったのもいい。こう呼ばれることによって次男のプライド、嬉しさが増す。そこに親の優しい視線がある。
テーマの「ラッキー」との関連性で言えば、たかが雪虫を見つけたことにすぎないが、そんなささやかなことも家族みんなで喜び合える感性が素晴らしい。
幸せを絵に描いたようなご家族である。
3位 冬ぬくし 粘板岩に 貝の跡
【自 解】季語は「冬ぬくし」で、寒い冬の中の暖かい日はそれだけでもうラッキー。
化石発掘体験ロケで参考VTRを見たことがあり、そこから発想した。
粘板岩をハンマーで叩いて、その中に化石を見つけたら凄くラッキーである。
【解 説】作品としてはきちんとできている。
「冬ぬくし」の季語が動くのではないかと考える読者も何割かいるかもしれない。
「岩」や「貝」には冷たい感じの季語の方が良いのではないかと・・・
しかし、冬の暖かい日に化石探しを楽しみ、化石が見つかってラッキーで、テーマに季語が寄り添っている。
4位 マフラーにきら 失くしたはずのピアス
【自 解】よくピアスを失くすことがある。
使おうと思ったマフラーが小さく光って、見るとピアスだった。
諦めていたのが見つかって嬉しかった経験から詠んだ。
【解 説】現実的な意味では一番ラッキー度は高いかもしれない。
ただ俳句の世界で「失くしたはずのイヤリング」などはよく見受ける。
それだけ経験者が多いということだろう。
作者が分かった上で添削するなら、作者らしさを入れてはどうか。
添削 マフラーのフリンジ あらここにピアス
5位 四時限目休講 小春のキネマ
【自 解】自分は大学に行ってないが、突然休講になることがあり、学生は「ラッキー!」と思うらしい。
その空いた時間、天気もよく好きな映画を見に行くという俳句にした。
【解 説】まさに大学あるある。
「四時間目休講」と「小春」の取り合わせだけでもすでにラッキー感がある。
「キネマ」としたことで、映画マニアのような大学生が一人で行ったのではないだろうかという感じも伝わってくる。
音数の問題で言えば「小春」を「小春日」にすると流れが作れる。
添削 四時限目休講 小春日のキネマ
6位 焼鳥や 嗚呼隣席に 郷ひろみ
【自 解】体験談を詠んだ。
以前焼き鳥の店に行った時、隣に郷ひろみさんがいた。
そして会計をしようとしたら「郷さんからいただいています。」と言われた。
わざわざ電話をして「自分につけておいて」と仰ったらしい。
これまでの焼き鳥で一番美味しかった。
【解 説】これはこれで面白く、楽しませてもらった。季語は「焼鳥」
ただこれに奥行きというかポエムがあるかと言えば、その点で少し損をしている。
しかし、おかしみ・滑稽を詠んだ「俳諧」もあり、直しなしでできている。
7位 一月の銀座で おそろいの遅刻
【自 解】自分にとってのラッキーは何かと考えた時、最近の体験で待ち合わせの約束に遅刻して焦っていたら、相手も同じ時間くらい遅れるという連絡がありホッとした。
これもラッキーなことではないだろうか。
【解 説】「ラッキー」というテーマに対してこのエピソードは悪くない。
問題点は2つある。ひとつは「で」が散文的である。なくても意味は伝わるので不要。
もうひとつは「おそろいの遅刻」がどういうニュアンスか、作者の意図がストレートには伝わりにくい。
例えば友達と約束したら恋人とおそろいで来たとか、ペアルックのおそろいで来たとも読める。
「お互い」にすると誤解されない。字余りしてもよければ「様」を入れてもよい。
添削 一月の銀座 お互い様の遅刻
8位 初旅は海へ 黄色の京急来
【自 解】京急線に「イエローハッピートレイン」という電車がある。
これを見られたり乗れたりすると幸運だと言われている。
今年初めての旅でそれに乗って行けたら、良い1年になるだろう。
【解 説】前半はとてもいいが、悩ましいのは後半。
「黄色の京急来」という淡々とした記述が前半とアンバランスで損している。
そして「黄色の京急」のラッキー感の認知度の問題もある。
読者に小さなヒントを投げかける書き方にする。
また、いっそ思い切り字余りにするやり方もある。
添削 京急は黄色だ 初旅は海へ
9位 夕の膳 二つ「ん」のつく 冬至かな
【自 解】冬至には南瓜(なんきん)など「ん」が2つ付くものを食べると縁起がいいと言われている。
冬至の日の夕食風景を詠んだ。
【解 説】一見謎かけのようには見え、読み進めていくと冬至の南瓜だとわかる。
作者はすごく良いことを書いたと思っているかもしれないが、これは冬至の風習を俳句にした感じにとどまっている。
これを謎かけにしたいなら、語順が間違っている。
上五で答えを言ってしまっている。
添削 「ん」のつくもの二つ 冬至の夕の膳
10位 雪晴や チャームへ託す 運選ぶ
【自 解】ペンダントの先に付けられたチャームは、クローバーやハートなど幸運をモチーフにしているものが多く、中七下五の言い方がいいのではと思った。
【解 説】雪晴れとチャームの取り合わせは良い。
問題点は語り方である。
作者はいいと思ったようだが、「託す」「選ぶ」辺りの叙述が散文的である。
動詞2つはやめ、どんな運なのかを具体的に、チャームの描写も書いてはどうか。
テーマに沿わせようとする意識が強く、詩の部分をうっかり落としている。
添削 雪晴や 金運のチャーム きらきら
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今回TVerでは、11位以下の俳句にも夏井先生の簡単な解説があった。
11位 吉兆の輝き 一村をめざす
【解 説】「吉兆」とは、商売繁盛を祈願する福笹の飾り物で冬の季語。
「一村をめざす」が帰省や旅行だと解釈されかねないが、作者は商談に向かう先とのことで、だったら「産地の村」などにすると十分いい句になる。
12位 3ミリのジンクス 冬晴れの球児
【解 説】「3ミリ」がわかりにくい。「三笘の1ミリ」もあったことだし、ラインを外れることだろうかと思ったりされる。
髪を3ミリの長さの坊主頭で試合に臨むということらしいが、だったら「3ミリに刈って」とすればわかりやすくなった。
13位 夢のあと はぐれ牛すじ おでん鍋
【解 説】食べ終わったと思っていたら、鍋の底に牛すじが残っていてラッキーということらしい。
作者は松尾芭蕉の「夏草や兵どもが夢の跡」から「夢の跡」を使いたがったようだが、知識を入れたことで窮屈な印象になった。
添削 牛すじの 外れて おでん鍋の底
14位 ダイヤモンドダスト ファンが持つライト
【解 説】ライブのペンライトがあたかもダイヤモンドダストのようだと、比喩にしたことで季語の鮮度が落ちてしまう。
テーマ「ラッキー」というより、テーマ「感謝」というところか。
15位 闇動く 幸せが動く 梟
【解 説】闇夜に幸運の鳥と言われるフクロウを見つけ、幸せがもたらされると詠んだ気持ちはわかるが、いきなり「闇動く」とあるので、幸せが動いて不幸が来る印象になっているのが残念。かように語順は難しく大事。
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今回優勝した森迫永依さんは、小役時代に「ちびまる子ちゃん」を演じた方。
わずか4回出演での快挙である。初回からいい句を詠んでいた。
ケサランパサランは以前何かの本で知り、名称そのものが呪文みたいで面白いと思っていたが、初富士と合わせるとは!
そして「来(く)」としたのもすごいと思う。
私だったらありきたりに「舞う」などとするだろう。
2位の本上まなみさんも出演1〜2回だったと思う。
私はこの俳句が一番好きだ。好みであって順位には納得している。
夏井先生の解説は、私が言うのも何だがさすがである。
鑑賞力も必要なのだと痛感する。
ひとつだけ疑問に思ったことがある。
9位梅沢さんの俳句での添削
「ん」のつくもの二つ 冬至の夕の膳
冬至に食べて縁起がいいのはナンキン、ニンジン、レンコンなど「ん」が2つ付くもの。
しかしこれだと「ん」が(ひとつでも)つくもの二つ(2品)になりやしないか?
ともあれ、今回も楽しませてもらった。
名人・有段者を押さえ、特待生でもないお2人のしなやかな発想、語彙力が勝利した。