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言の葉

2008.11.28 開設
2022.07.01 移設
sonnet wrote.

2024炎帝戦観戦記 1

2024年07月29日 | 俳句
7月11日(木)、プレバト俳句の炎帝戦が放送された。
ずいぶん間が空いてしまったが、毎回観戦記を投稿していることなので7月中にあげておこう。
今回は趣向を変え、過去最大のスケールで行われた。
参加資格は名人・特待生・「才能あり」経験者280人で、2か月前から募集して51人がエントリーされた。
お題は「好きな観光地」。
自由に場所を選んで2句提出。全国を5ブロックに分けてそれぞれに4人が選ばれ、計20人が出場した。
名人・特待生以外で7人が選ばれていた。
各ブロックの1位だけが決勝戦に進む。
 
余談だが、番組冒頭に千原ジュニアさんの俳句を句碑にする動きがあるという話題が振られた。
4月25日放送、「ふるさと」のお題で詠んだのは、
  故郷の 苜蓿(もくしゅく)の香は 濃かりけり 
苜蓿とはクローバー、シロツメグサのこと。
ふるさと福知山のクローバーはとりわけ香りが濃いという印象で詠んだという。
夏井先生が「福知山に句碑を立てて欲しいくらい」と絶賛して、市役所がその気になったらしい。
私もその番組を見た時、大好きな句で句碑にすればいいのにと思っていた。
例えば川沿いの土手を春にクローバーで敷きつめ、地味だが愛らしい花、四つ葉のクローバーを探すといったのどかな観光スポットになりうる。
その側に句碑がある。小ぶりな道祖神ほどのものが風景に馴染むと思う、、、と勝手に思いを巡らせていた。
司会者が続けて「今回は好きな観光地。ひょっとしたら全国の自治体から句碑にしたいというオファーがあるかも」と言うと、出演者たちが色めき立った。
よって、トークのキーワードが「句碑」になった
 
 
関東・甲信越ブロック
1位 雪渓のピザ屋 品川ナンバー来  横尾渉(永世名人)
【自 解】長野県に美味しいピザ店があり、友達と行った時の思い出から。
【解 説】季語は「雪渓」。高山の谷間に夏でも残っている雪のこと。
どの地域、どういう場所か、具体的な地名は使ってないが、雪渓のある場所、品川ナンバーが来る辺りの距離感の作り方で想像させる技が見事。
加えて、雪渓の白く冷たいものと、片やピザは熱々でカラフルなトッピング。
色の対比、温度の対比もさりげなく入っている。
最後を「来(く)」で収めるたのも、観光地を楽しんでいる感じが出た。
   
2位 峰雲の ホッピー通り ハイボール  嶋佐和也(ニューヨーク)
【自 解】以前、浅草でレギュラー番組を持っていた。
収録後に浅草寺近くの居酒屋が集まるホッピー通りで飲んでいた。
夕方、外のテーブルで飲むハイボールが思い出深い。
【解 説】季語は「峰雲」、入道雲のことである。
リズムが良くて楽しい。助詞「の」でホッピー通りにつなげた判断がよかった。
 
3位 三越の 獅子は阿の口 夏旺(さか)ん  村上健志  (永世名人)  
【自 解】日本橋三越の前にライオン像があり、口を開いていて狛犬の「阿吽」の「阿」の口をしている。
この季節のデパート前の賑やかさが十分出せたのではないかと思う。
【解 説】三越の獅子に「夏旺ん」の季語を取り合わせるのはさすがだと感心する。
問題は「阿の口」。はっきり言って無難にまとめた感がある。
ここは描写する創作としての一番肝になる所。
それを口を開けていたら「阿の口」と言うのは他の人でも思いつくこと。
もう一度三越の前に行って、ライオン像の前に立って観察するように。
    
4位 高原の 横笛ピュルル 夏の空  水野真紀(特待生5級) 
【自 解】息子が小学3年生の時美ヶ原高原に行ったことがあった。
土産物店で横笛を買って、いろんなところでピュルピュルと吹いていた思い出を詠んだ。
【解 説】問題は上五の「に」である。
ここに「に」を置くと散文的になりがちになるので要注意。「に」以外にあり得ない時以外は使わないよう覚えておいてもらいたい。
この場合、語順を変えれば解決する。
添削 高原は夏空 横笛のピュルル
    
関西・中四国ブロック
1位 渡月橋の騒(ぞめ)き 干からびた蜥蜴(とかげ)  立川志らく(名人7段)
【自 解】京都の渡月橋辺りが最も好きな場所である。
「騒き」とは、吉原で冷やかして歩いている客のことで、行き来する人たちとイメージが重なったが、同時に道で干からびている蜥蜴が浮かび、それを詠んでみた。
【解 説】前半9音、後半8音で、足して17音の破調の句。
「騒き」という言葉の向こう側に、人でごった返す声・車などのいろんな音が一緒に湧き上がってくる効果がある。ここで切れる。
そしてふと視線を下にやると干からびた蜥蜴がいる。
「干からびた」にとても暑い京都の夏の印象が表されている。
    
2位 夏を追う 叡電(えいでん)の影 チャリの影  安藤和津 
【自 解】比叡山や鞍馬寺に行く叡山電鉄からの景色は、ひなびていてとてもいい。
電車の影と線路沿いの道をを走っていた自転車の影が、夏を惜しんで追いかけているような印象で記憶している。
【解 説】上五で溌剌とした初夏の頃かなとも思ったが、読んでいくと「影」がリフレインされていく。
このリフレインが調べを作っている。同時に映像も作っていて、余韻も作ってくる。
影が2つ重なることによって、夏が始まって去っていく、それを追いかけ惜しむ想いをも入れ込んでいるのではないか。
    
3位 USJ セットファサードの 片陰  河野純喜(JO1)   
【自 解】僕の地元は奈良県で、高校時代に年間パスポートを買ってUSJに通っていた。
しかし夏はものすごく暑く、映画のセットからできる日影を選んで歩く人たちの様子を詠んでみた。
【解 説】いきなりアルファベットで、次にセットファサード。
調べたら映画の撮影に使われる舞台セットのことだった。
この句は調べてみようと思わせる魅力を持っている。
季語は「片陰」。夏の太陽から逃れる日陰のこと。
季語を信じることができたから成立した一句である。
   
4位 朝九時の ビール塩こぶ ビリケンはん  藤本敏史(永世名人) 
【自 解】大阪の新世界の立ち飲み屋には、喫茶店のように「生ビールと塩昆布」「チューハイと塩昆布」といったモーニングセットがある。
それで朝から安く飲むことができる。
通天閣の神様ビリケンも人間の姿になって飲んでいるんじゃないだろうか、、、
【解 説】大阪らしいリズムに乗った明るさがある。
そして漠然とした朝ではなく「九時」もリアリティーがある。「塩こぶ」も然り。
しかし最後の「ビリケンはん」の着地の効果はどうなのか?
ビリケンを入れたら新世界だと分かるだろうと思ったかもしれないが、念押ししすぎて損をしている。
この句をよくするためには、全く違うものを持ってこなくてはいけない。
こちらが勝手に入れられないので作者が再度工夫すること。
藤本「全く違うもの…?」
「ビリケンはん」という言葉に頼って、そこら辺にありそうな句にしたというのを、優しい言葉で言った。
(テロップに、例えば「阪神帽」「スポーツ紙」「王将碑」など とあった)

2024 春光戦決勝戦

2024年03月31日 | 俳句
1stステージを勝ち上がった3名は、新たな俳句で対戦した。
3名の自解が済んだ後に優勝者を発表。
残り2名についてもどちらが秀句かを夏井先生が明言して、以下の順位になった。
簡単な解説と添削は以下の通り。
 
1位 出郷の 車窓を叩く 飛花落花 千賀健永(名人9段)
【自 解】自分の故郷は名古屋。新幹線で上京する時、車窓に桜の花が散り、それは涙のようにも決意のようにも感じた。その時の思いを詠んだ。
【解 説】ふるさとを詠むのは難しいが、「出郷」の一言でポンと打ち出している。
そして「叩く」とあると、読者の脳は瞬間的に先走って見送りの人、別れを惜しんでいる人だと思う。
しかし叩いているには飛花であり落花である。
作者の思い通りに言葉を紡いで、読者をその場所に連れて行っている。
 
2位 青光りせり 750cc(ナナハン)に 花吹雪 千原ジュニア(永世名人)
【自 解】春の好天の日、バイクでTBSに行く時は青山墓地を通っていく。
青いタンクが光って桜吹雪が舞うとテンションが上がり、これから向かう仕事も楽しくなってくる。
【解 説】青光りしているのはバイクの車体でありつつ、花吹雪の光の印象と重なってくる。
 
3位 風吹かば 花の色なる 城下町 梅沢富美男(永世名人)
【自 解】青森県弘前城の桜は見事である。
大輪の桜の花が散ると、城下町が桜の色になる。その時の光景を詠んだ。
【解 説】「吹かば」いらない。例えば、
添削 夕風や 花の色なる 城下町
とすると、夕暮れの花の色になる。
 
**********************************:
 
全員2句提出したが、両句とも紹介されたのは上位3名だけだった。
放映後のTVerで、公開されなかった決勝用の秀句が1名だけ紹介されていた。
 
祖父逝きて 今朝の櫻の 寒き色  的場浩司(特待生4級)
【解 説】こちらの俳句を1stステージに出していたらベスト3に入っていた。
最初の俳句は思いが固まった句だったが、こちらは実体験で生々しく素晴らしい。

2024 春光戦2

2024年03月30日 | 俳句
夏井先生の解説と添削は以下の通り。
 
1位 苗代の桜や 鬼の住まいする 梅沢富美男(永世名人)
【自 解】プロモーションビデオの撮影で、岐阜県下呂市の苗代桜に行った。
田んぼのそばにある見事な桜で、花が散る時、ふと鬼が住んでいるのかと思わせるような光景だった。
【解 説】「苗代桜」という特定の桜を知っている人はもちろん、知らない人も田植え前の苗代とその近くにある桜を想像できるだろう。
そして急に異世界に引き込んでいる。
「桜」と「鬼」を取り合わせるのはかなり難しいが、季語を主役にして寄り添わせるバランスを作っているのはさすがである。
 
2位 刑務所を 囲む桜の 仄白き 千原ジュニア(永世名人)
【自 解】ある刑務所の周りの桜を見たことがある。
とても綺麗だったが、普段見ている桜より白いような、色が薄いのではないかと思った。その時の印象を詠んだ。
【解 説】「刑務所」と言う言葉自体に情報量が多い。
そして「塀」の言葉を入れず「を囲む」ですべてを表現した技術的な点を誉めたい。
下五も真っ白とせず仄白く、また終止形にせず「仄白き」と余韻を持たせているのが良い。
 
3位 幽谷の ロッジの夜明け 白き飛花 千賀健永(名人9段)
【自 解】日本画家の東山魁夷氏の作品が大好きで、その方の絵画を俳句にしたいと思った。
深い谷の中にロッジがあって、白い花びらが舞っている情景を俳句にした。
【解 説】「幽谷の」から入って「ロッジ」という建物、「夜明け」という時間。それぞれが邪魔しないようにきちんとパーツが入っている。
どうしたら1位を目指せるかアドバイスすると、
ひとつ目は、下五の「白き飛花」を「飛花白し」とすると、飛んでいく花びらの印象が白く残る。
もうひとつの選択肢は、「幽谷のロッジ」で切れを作る方法。
添削 幽谷の ロッジの夜明け 飛花白し
   幽谷のロッジ 夜明けの飛花白し
 
4位 花月夜 冒険譚に 挿す栞 横尾渉(永世名人)
【自 解】冒険小説を読み耽っていたら夜になり、窓を見ると桜が綺麗で、一度休憩して桜を愛でようと思い、栞を挟んで本を閉じた場面を詠んだ。
【解 説】基本形をかっちり使ってきている。
「花月夜」と「冒険譚」の取り合わせはファンタジーぽい味わいもあり、作者の意図通りだろう。
悩みどころは「挿す栞」か「栞挿す」であるが、作者の詠んだ「挿す栞」を良しとする。
「栞挿す」とすると、「挿す」が不要になってくる。
冒険譚が本当の冒険かもしれないが、最後の「栞」で読書だったとわかり、ゆっくり栞を挿む指先を感じながら、「なんと美しい花月夜だろう」と季語を際立たせている。
 
5位 束の間を 正気の母と 花の道 森口遥子(名人8段)
【自 解】母が闘病の最後の方は、薬の副作用などもいろいろあって、普通ではない母が見え隠れしていた。
しかし昔通りの明るい母も束の間あり、そんな時母の大好きな桜の道を散歩した思い出がある。
【解 説】割とありがちな光景、句材とも言えるが、この位置に「正気の」を入れたことを強く誉めたい。
悩ましいのは「道」を許容するかどうかである。桜が咲いているのは屋外だから不要でもある。
しかし、作者にとっては「母との桜の道」の記憶が重要だと判断し、敢えて触らずこのままで。
 
6位 さくらさくら むすめの たましいのいろ 犬山紙子(特待生3級) 
【自 解】桜並木のある川沿いに住んでいたことがあり、小さい娘と歩きながら「さくらさくら」と歌ったりして多幸感に包まれた。
小さな娘の魂はきっとこんな色なんだろうと思った。
【解 説】「魂の色のようだ」というのが詩になっていて素敵な一句。
もったいないのは「娘」。もちろん作者自身の娘だとわかるが、こういう発想の句の場合は、敢えて限定しない方が共感の幅が広がる。
添削 さくらさくら 子のたましいの さくら色 
下五にも「さくら」を入れてリフレインを効かせる。
こうしていたらベスト3に入っていた。
 
7位 濠(ほり)の端の 羽音走りて 初桜 中田喜子 (名人10段)
【自 解】皇居のお濠の桜を、咲き始めの頃に愛でながら歩くのが好きである。
お濠の水鳥たちがせわしなく動き出して、彼らも桜を楽しんでいるのだろうと思った。
【解 説】美しい光景で、音の情報も入っている。
「端」「羽音」「走りて」「初櫻」で「は」の韻の踏み方もいい。
もったいないのは「濠の端の」の「の」。
経過していく場所とか時間を表現する「を」とする。
また「走れり」とすると切れが生まれる。
添削 濠の橋を 羽音走れり 初桜
こうしていたら、この句もベスト3に入っていた。
 
8位 花曇 昼夜の区別なき 赤子(こども) 村上健志(永世名人)
【自 解】生まれたばかりの赤ちゃんは昼夜の区別がない。
「花曇」は花を育てる意味合いの季語「養花天」との別名なので、取り合わせがいいのではないかと思った。
【解 説】確かに「花曇」と「赤子」の取り合わせはとてもいいと思う。
何が問題かというと中七。ちょっと離れて客観的に説明している感じである。
これを映像として動かしてあげなければいけない。
赤ちゃんは具体的に何をしているのか。
添削 花ぐもり 夜を泣き昼を泣く 赤子
 
9位 花月夜 学童終わりの チャンバラ戦 森迫永依(特待生2級)  
【自 解】昔住んでいたマンションでの光景。
きれいな桜が咲く夜、桜の下で友だちがチャンバラごっこをしていたのを思い出した。
【解 説】光景も賑やかさもわかる。しかし、学童保育は夕方に終わるというイメージを持つ人の方が多いのではないだろうか。
それが花も月も美しい夜の季語「花月夜」の後に来ると、時間が逆行してしまう。
時間ではなく、場所の情報を入れたら整うのではないか。
添削 チャンバラの 続く団地や 花月夜

10位 我が運命(さだめ) 夜櫻に問う 生も死も 的場浩司(特待生4級)
【自 解】桜が一番好きな花である。
夜桜を見ていていると、今年も見られたという喜びと、同時にあと何回見られるのだろうかという思いがよぎる。
【解 説】思いはよくわかる。ただ全体が観念的になってしまった、
和製ハムレットのようになっているのが、俳句としては少し損をしている。
生と死を問うているのだから上五の「我が運命」はいらない。
俳句は季語を主役にして、季語に思いを託すのが基本。
なので、上五を夜桜の描写にしてはどうか。
しかし、作者はいつも自分の表現したいものを絶対やるという姿勢を貫いていて、それは大事なことなので感心している。
添削 満開の 夜櫻に問う 生も死も
   満開の 夜櫻に我が 生を問う

2024 春光戦

2024年03月29日 | 俳句
3月28日(木)、プレバト俳句の春光戦が放送された。
今回はいつもとルールが異なっていた。
(今回だけか、今後すべてがこの形になるのか?)
同じお題で2句提出し、1stステージの上位3名が決勝戦に進む。
決勝戦でその3名が別の俳句で新たに戦うという形式だった。
今回の兼題写真は「桜」。
順位は以下の通りだった。

1位 梅沢富美男(永世名人)
    苗代の桜や 鬼の住まいする
2位 千原ジュニア(永世名人) 
    刑務所を 囲む桜の 仄白き 
3位 千賀健永(名人9段)
    幽谷の ロッジの夜明け 白き飛花   
4位 横尾渉(永世名人) 
    花月夜 冒険譚に 挿す栞
5位 森口遥子(名人8段)  
    束の間を 正気の母と 花の道  
6位 犬山紙子(特待生3級) 
    さくらさくら むすめの たましいのいろ  
7位 中田喜子 (名人10段)
    濠(ほり)の端の 羽音走りて 初桜  
8位 村上健志(永世名人)
    花曇 昼夜の区別なき 赤子(こども) 
9位 森迫永依(特待生2級) 
    花月夜 学童終わりの チャンバラ戦 
10位 的場浩司(特待生4級)
    我が運命(さだめ) 夜櫻に問う 生も死も 

2024 冬麗戦観戦記 2

2024年01月16日 | 俳句
夏井先生の解説と添削。
 
1位 一月の 笑いの外に ひとりいた 春風亭昇吉(特待生4級)
【自 解】大学受験で浪人をしていた正月。
家族や親戚が集まり、居間で楽しそうに笑っている時、自室で一人受験勉強をしていた時の思い出を詠んだ。
【解 説】季語は「一月」。すべての月が季語となるが、それぞれにイメージがあり、結構難しい。
年が改まり気分が華やぐ一月だからこそ、家族や友人の笑いの外にいる自分を強く意識してしまう。それが季語「一月」の力になっている。
面白いことに1位、5位になった落語家の二人とも、笑いの反対側から笑いを描こうとしている。
そういう落語家さんたちの発想が秀逸だと改めて思わされた。

2位 残業の鍋焼 M-1の出囃子 横尾渉(永世名人)
【自 解】残業をしている人が、休憩で鍋焼きうどんを食べながら、お笑いの賞レースM-1をテレビで見ている情景を詠んでみた。
【解 説】これは「句またがり」の型である。
残業・鍋焼・M-1・出囃子で、俳句としては材料多めであるが破綻なくまとめている。
そして「なべやき」「でばやし」の語句が軽い脚韻のリズムとして考えられている。

3位 初笑い 追い出す寄席の はね太鼓 梅沢富美男(永世名人)
【自 解】寄席小屋の前を通った時、お客さんが大笑いしながら出てくるところだった。
終演でお客さんが帰る時に打つはね太鼓の音が鳴っていた。
「はね太鼓」が専門用語なので敢えて「追い出す」を入れた。
【解 説】まさにテーマのど真ん中を詠んだ句と言える。
「初笑い」の後に「はね太鼓」とすると、「追い出す」が説明になってしまうが、語順で得をしている。
「お帰りはこちら」とお客さまのお尻を叩くような弾む音が余韻となって、季語「初笑い」の余韻と重なっていく。

4位 爆笑や 横隔膜に 去年(こぞ)の揺れ 村上健志(永世名人)
【自 解】笑いながら年を越して、笑いは収まったけど横隔膜はまだ揺れている。
その揺れの原因の笑いはすでに去年のものとなっている。
「去年」は新年の季語で、1年を振り返るという意味もあるので、たくさん笑っていい年だったという思いで詠んだ。
【解 説】「去年今年(こぞことし)」の傍題になるが、難しい季語に挑戦している。
1年という長い時間でもあり、午前0時になったその一瞬前の時間も「去年」。
手練れが新しいことに挑戦し、季語を大切にしている姿勢を大いに評価したい。

5位 福笑いのような 祖父の、死に顔 立川志らく(名人7段)
【自 解】子どもの頃、大好きな祖父が亡くなった。
その時初めて死に顔というものを見た。なんだか福笑いみたいな顔だと思ったが、子ども心にそんなことを思ってはいけないという気持ちがあり、その一瞬のためらいを句点「、」で表現した。
【解 説】兼題の「大笑い」に対極の「死」を持ってきている。
季語の「福笑い」を「のような」と比喩にしていることで、季語としての力が弱くはなるが、祖父の人相をちゃんと映像化している。
作者はいつもこのようなことを試み、表現者として面白い。

6位 初旅のB席 iPadにドリフ  川島如恵留   
【自 解】新幹線で移動することが多いが、A席C席に申し訳ないと思いいつつ笑いをこらえて見ていた状況を詠んだ。
【解 説】句を読む時、その句にとって一番幸せな読み方を探ってあげるというのが読者の誠実な態度。なぜB席なのかを丁寧に読み取ってあげないといけない。
両隣の人に遠慮しながら見ているというのがこれでわかる。
そして「iPad」と「ドリフ」の相性がなかなかいい。兼題の「大笑い」にドリフターズはベタになりがちだが、iPadを出すことによって時代が交錯し、それを今の若者が笑いながら見ているという掛け合わせが効果的。

7位 盃の 富士に一礼 初笑 中田喜子(名人9段)
【自 解】お正月。切子硝子のぐい呑みに吟醸酒を注ぐと富士山が浮かび上がるという細工になっていて、お父さんが思わず一礼し、家族がクスッと笑う情景を詠んだ。
【解 説】奇をてらわないよろしさがある。
富士のめでたさ、一礼をする礼儀正しい感じが正月の気分に寄り添っている。
テーマの「大笑い」にしては上品すぎる感じはするが、ほのぼのとした好感の持てる作品。
 
8位 「犯人は…」に続く 客席のくつさめ 森口瑤子(名人7段)
【自 解】サスペンスの舞台を観に行った時の実体験。
ようやく犯人がわかる場面で身を乗り出して観ていたら、役者が「犯人は」と言った瞬間に観客の一人が大きなくしゃみをして、みんな笑いをこらえていた。
【解 説】「くっさめ」が季語でくしゃみのこと。古語の表記だと促音ではなく「くつさめ」と書く。
エピソードをうまく一句にしている。
惜しいのは「に続く」で、状況の説明になっているのがもったいない。
「犯人は」の後の間、小さな時間をここに作ってはどうか。
「沈黙」では重いので「静黙」。
そして俳句は縦書きで一行に詰めて書くが、静黙の後にひとマス空けるという特殊なテクニックもある。
添削 「犯人は…」の静黙 客席のくつさめ
 
9位 笑ひ声 洩るる交番 注連飾(しめかざり) 千原ジュニア(永世名人)  
【自 解】警察官の方が声を出して笑っている場面はそうそう見たことがない。
交番から笑いが聞こえているような正月のめでたと平和な時を詠みたかった。
【解 説】句材としていい光景を切り取っている。
新年の季語「注連飾」を主役にしようとする意志も感じられる。
直すとするなら「洩るる」であるが、作者がこういうニュアンスで描こうとしているのだから添削することはない。
テーマ「大笑い」で順位をつける時、「洩れる」という笑いの量で損をした。

10位 妣(はは)の忌や 遺言だもの 牡蠣フライ 安藤和津
【自 解】長年認知症を患っていた母を在宅介護していた。
生前とても食いしん坊で、3回忌の時に好物のカキフライを家族全員で食べながら母を偲び、思い出話に大笑いしたりして、すごくいい送り方ができたと思っている。
【解 説】中七下五のフレーズが愉快。何回でも口に出したくなるような調べも俳句では大事な要素である。
惜しいのは「妣(はは)」。これは亡くなった母の漢字なので「忌」と重複する。
「母三回忌」としてもいいし、悲しみが強く出るケースで「母の通夜」もあり、どれくらいの時間の忌なのかで、悲しみの種類が変わってくる。
意表を突きつつリアリティーのある一句。
添削 母の通夜 遺言だもの 牡蠣フライ

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今回もTVerで11位以下の俳句発表と夏井先生の解説があった。

11位 ばればれの 父の手品や 冬座敷 本上まなみ(特待生4級)
【解 説】「冬座敷」が季語であるが、「夏座敷」とは対照的にもの寂しいイメージを持っている。
それが愉しい家族団欒とは不釣り合いである。
添削 ばればれの 手品の父や お正月
 
12位 ゲラの子は ゲラに育つや 春隣 こがけん(特待生4級)
【解 説】「ゲラ」は笑い上戸の俗語になる。
わからない人のために「大笑い」に「げら」とルビを入れてはどうか。
さらに春隣の後に「げらげら」を使いきってもいいのではないか。
素材が面白いので、この作者は将来性がありそう。
添削 大笑い(げら)の子は大笑い(げら)や 春隣のげらげら
 
13位 元日の 「大仏の鼻」 抜く女優 かたせ梨乃
【解 説】エピソードを一句にまとめようとして破綻している。
「女優」を諦めて、下五を「お元日」にするとめでたさも出てくる。
添削 大仏の 鼻を抜けたり お元日
 
14位 大笑ふ 君は私似 春間近 水野真紀(特待生5級)
【解 説】自分に似ている子どもさんだろうと解釈したが、詩歌の世界で「君」は恋愛の対象と読まれがちなので注意して欲しい。
そして名詞「大笑い」を「大笑う」と動詞に使ったのが一番気になった。
添削 君は私似 春まぢかなる 大笑い
 
15位 墓前にて あなたと笑った 冬の空 勝村政信(特待生5級)
【解 説】「あなた」の範囲が広過ぎて絞り込めない。
聞くと、先輩俳優の故原田芳雄さんとのこと。
だとしたら、中七下五に「原田芳雄の墓前にて」と入れた方がよい。
添削 冬空に笑う 原田芳雄の墓前にて
 
16位 雪景色 転んだあとの 顔判子 えなこ
【解 説】下五の「顔判子」が作者の工夫したところだと思うが、比喩として精度がゆるい。
「雪にわたしの顔の痕」とすると、一句で言いたかったことが入る。
季語の「雪景色」が不要になるので、上五を使って物語が広げられる。
例えば、
添削 失恋や 雪にわたしの 顔の痕