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言の葉

2008.11.28 開設
2022.07.01 移設
sonnet wrote.

2024金秋戦観戦記 決勝戦

2024年10月07日 | 俳句
10月3日、金秋戦決勝戦が放送された。
今回は「自分で撮った写真」を題材にしての俳句ということだった。
普段どれだけ周りの景色に意識を向けているか? どんな時に俳句を作ろうと思うか?
そういうのを見せていただきたいと夏井先生の弁。
結果は以下の通りだった。
 
1位 三日月や 真朱(まそほ)の隠岐に 藍の波  的場浩司(特待生3段)
【自 解】1ヶ月ほど前に島根県の隠岐諸島にロケに行った時、美しい夕景を見た。
三日月が出ていて、暮色をただ夕焼けとか赤とかで表現したくなかった。
三日月と空と海の三色で、隠岐の美しさが俳句を読んだ人に伝わればと思った。
【解 説】上五を「や」の切れ字でなんと美しい三日月だろう!と詠嘆している。
隠岐という島は、その昔後鳥羽上皇や後醍醐天皇が流刑となった歴史的な場所。
これに対して「真朱」とはくすんだ朱色で日本の伝統的な色。「藍」もまたそうである。
美意識が言葉に入っていて、破綻せずに言葉だけでスケッチしているのは誉めなければいけない。
一言一句置くべき位置に選び抜かれた言葉が置かれている。
 
2位 灯台の周期 星月夜の無辺  千賀健永(名人9段) 
【自 解】宮古島に旅行に行った時の夜空の写真を選んだ。
「星月夜」はゴッホの絵画から取った。星が月のように明るい夜という意味の季語である。
果てしなく広がる夜空の美しさに感動して作った俳句。
【解 説】対句表現の型になっている。作者はこの型をしっかりできるようになっている。
灯台は人工的なもので、一定のリズム光を放つ。星月夜は宇宙とつながる広大な自然。何億光年の光を放っている。この対比がいい。
1位との微かな差になったのが「無辺」。他の言葉が見つからずに使った消極的な感がある。
広さより静けさの方に持っていってはどうか。
 添削 灯台の周期 星月夜の深閑
 
3位 長き夜や 絵本の丸き 角を拭く  村上健志(永世名人)  
【自 解】子どもが生まれ、最近は子どもの写真しか撮っていない。
その中で、リビングに設置したベビーサークルの写真を選んだ。
まだ0歳だが、絵本を見せたりして遊んであげている。
その角は痛くないように丸くなっている。
子どもが舐めてよだれが付いた絵本を拭いてあげたことを句にした。
【解 説】中七下五だけだと、保育園や幼稚園で先生が拭いているとうい解釈もあるが、上五の季語「長き夜」で、これは家庭の風景に違いないと分かる。
真っすぐ自分の表現したい方向に読者を誘導できていて、その点は確かなもの。
なぜ3位かというと、「長き夜」と「絵本」の取り合わせにやや類想感がある。
しかし読んであげるのではなく、きれいに拭いてあげるというのに工夫が見られた。
  
4位 銀杏の実 剥き終え自由に なる十指  藤本敏史(永世名人)
【自 解】自宅の近所のこの店の前をよく通るが、陳列されている野菜や果物の移り変わりで季節を感じている。
子どもの頃、よく母に銀杏の殻剥きを手伝わされていた。
当時ファミコンが出た頃で、早く遊びたくて仕方なかった。
ようやく剥き終えて、さあ遊ぶぞという俳句である。
【解 説】季語を「銀杏(ぎんなん)」ではなく「銀杏(いちょう)の実」としたのを好意的に解釈した。つまりあの銀杏の木になっていた実というのを意識して表現したのではないかと。
だが、自解を聞くとそうではないようなので「ぎんなん」にしては。
そして「自由に」の「に」はない方がよい。
今、自由な10本の指があるという臨場感が高くなる。
 添削 銀杏を 剥き終え 自由なる十指
 
5位 外苑はさやか 孤食のカチョエペぺ  横尾渉(永世名人)
【自 解】このスカジャンは、メンバーの藤ヶ谷と二人でMCの浜田さんに贈り、三人お揃いにしたので、どうしてもこの写真を使いたかった。
一人の外食でパスタを食べに行った。一人だと食べることに専念して味がしっかり分かる。
カチョエペぺとは、チーズと胡椒だけのシンプルなパスタで、その店の美味しさの基準になるというものらしい。
【解 説】季語「さやか」と「カチョエペぺ」という言葉の響き合いは面白い。
問題は「孤食」で、作者はポジティブな意味合いで選んだようだが、読者の何割かはそうは受け取らないだろう。
マイナスの評価を少しでも避けたいなら、普通に「一人」の方が一人の食事を楽しんでいる感が出る。
 添削 外苑はさやか 一人のカチョエペぺ

6位 師が逝き ひぐらし 号泣しております  立川志らく(名人7段)
【自 解】スマホに4,000枚ほどの写真があるが、そのほとんどが子どもを撮ったものである。
これは唯一あった風景写真で、師匠立川談志の訃報を聞いた時の夕景と似ていると思って、のちに撮ったものだった。
訃報は予期していなかったので、涙も出なかった。
しかしその時鳴いていたひぐらしの弱々しい声が号泣しているように聞こえた。
自分の心、他の弟子たち、ファンの悲しみのように聞こえた。
師に対して詠んでいるので敬語にした。
【解 説】ひぐらしは静かにカナカナとはるかな感じで鳴く。
その鳴き方に対して「号泣」は強引ではないだろうか?
しづかなる号泣として季語との相性を近づけておく。
そして「師」と書かず、ひぐらしの中に亡くなった人がいるという追悼句にしてはどうか。
 添削 しづかなる号泣 ひぐらしに逝きぬ
 
7位 待宵のジャングル 細切れのラジオ  森迫永依(特待生1級)
【自 解】つい最近インドネシア旅行に行ってきた。
カリマンタン島を二泊三日で周り、水上ボートで宿泊する旅だった。
夜になるとエンジンを切って真っ暗な中、聴いていたラジオの電波が入ったり入らなかったりした情景を詠んだ。
【解 説】季語は「待宵」。中秋の名月の前の夜のこと。
実はこの句はちゃんとした工夫で3位が取れていた。
どこが損しているかというと、ジャングルの中のラジオだから電波が届きにくいという因果関係が出てきてしまっている点。それはそうだろうと読者は思う。
言い方を変えてはどうか。
 添削 待宵のジャングル 瀕死なるラジオ
 
8位 稲穂波 合掌屋根を 登りけり  千原ジュニア(永世名人) 
【自 解】2週間ほど前に他局番組のロケで白川郷に行った。
稲穂が黄色く実って、風が吹くとまさしく波のように奥にある合掌造りの屋根までも吹き上がっていくように見えた。
【解 説】表現したいことは想像できる。稲穂を渡る風が合掌造りの屋根までも届くかのように拭いている。
ただ、書き方の点で損をしている。
これは合掌造りの屋根のアップから引いていくと良い。
 添削 合掌の 屋根を登らむ 稲穂波
 
9位 芝居小屋 奈落の闇を 虫時雨  梅沢富美男(特別永世名人)  
【自 解】公演が終わった後の劇場を撮った写真を選んだ。
今は近代的になっているが、昔の芝居小屋の奈落の底は土間だった。
秋口になると暗がりから虫の声が聴こえ、もの寂しい思いがした。
【解 説】奈落は暗い場所なので「闇」はいらない。
上五を「芝居小屋」としたら、今まさに芝居をしていると解釈する読者もいる。
ここは終わっているとはっきり書いた方が得。
五音の「芝居果て」は終演したばかりで賑わいが残っている印象なので、六音になるが「芝居果てし」と過去形にした方がいい。
 添削 芝居果てし 奈落の土間や 虫の闇
 
10位 方向音痴ぐるぐる ぐるぐる秋思  森口瑤子(名人8段)
【自 解】写真は撮るのも撮られるのも好きではなく、数少ない中から選んだ。
ロケ現場に向かっていた時の行き止まりの路地の写真。
方向音痴で、その昔携帯電話のなかった頃にロケ現場に行くのが大変だった。
とにかく迷って、連絡のしようもなく不安になった時の心持ちを詠んだ。
【解 説】意図は分かる。ただし分かりすぎるというので損をしている。
ではどうするか。
「行く方(ゆくかた)」という言葉がある。
これは「進んでいく方向」という意味の他に、「心を晴れやかにする方法」という意味もある。
これを使い、進んでいく方向を失いつつ心を晴らす方法も失っているという、二つの意味がかかるだけで、少し詩の方に舵取りができる。
 添削 行く方を失い ぐるぐるぐる秋思 

2024金秋戦観戦記 予選2

2024年09月19日 | 俳句
Cブロックのお題は「一人旅」
(敬称略)

1位 清秋や 海にマンタと いるしじま  千賀健永(名人9段)
    
2位 ひとすじの秋水 ひとり旅とどめ  中田喜子(名人10段)
   【添削】 ひとすじの秋水 ひとり旅の果て
    
3位 月白や 温泉にいる 吾と腫瘍  犬山紙子(特待生1級) 
   【添削】 月白や 旅の湯に吾(あ)と 吾(わ)が腫瘍
    
4位 山の宿 昭和のままの 虫の闇  武田鉄矢(特待生2級)
   【添削】 山宿(やましゅく)や 昭和の色の 虫の闇
    
5位 退職金一括 金秋の四季島  パックン(特待生2級)
   【添削】 退職の旅よ 金秋の四季島
 
永世名人の梅沢富美男、村上健志、千原ジュニア、藤本敏史、横尾渉の5名はシード。
これに加え、Aブロック1位的場浩司(特待生3段)、Bブロック1位森迫永依(特待生1級)、Cブロック1位千賀健永(名人9段)が決まった。
そして残り2枠は、Bブロック2位の森口瑤子(名人8段)、Aブロック2位の立川志らく(名人7段)が選ばれた。
決勝戦のお題は「自分で撮った写真」で詠むことになる。

2024金秋戦観戦記 予選1

2024年09月15日 | 俳句
プレバト俳句の金秋戦が始まった。
9月12日(木)、3ブロックのうちA・Bブロックの予選が放送された。
 
今回のシステムは、10名出場のうち永世名人の梅沢富美男、村上健志、千原ジュニア、藤本敏史、横尾渉(敬称略。以下同)の5名がシードで、残り5席を予選で争う。
各ブロック1位が予選通過で3席埋まり、残り2席は夏井先生によって選ばれる。
抽選で組分けされたので2位2名とは限らず、俳句の出来で1ブロックからの2位・3位が選ばれることもある。
 
予選の共通テーマは「一人○○」だった。
自解と解説は割愛して、添削のあったものだけ記しておこう。
 

Aブロックのお題は「一人めし」

1位 削げし頬 月下貪る パンの耳  的場浩司(特待生3段)
    
2位 生きる為に 飯を喰う 外は蛍  立川志らく(名人7段) 
   【添削】生きる為に 飯喰う 外は蛍
    
3位 ソーキ煮の とろ火見ている 夜長かな  こがけん(特待生3級) 
    
4位 一人めし 半値太刀魚 喰むいざや  水野真紀(特待生5級) 
   【添削】半値なる 太刀魚ひとり 喰むいざや
       半値なる 太刀魚ひとり いざ喰まん
       
5位 夜半の秋 ひとり味わう アルファ米  馬場典子(特待生1級)
   【添削】困憊や ひとり秋夜の アルファ米
       傷心や ひとり秋夜の アルファ米
       お疲れ様アタシ 秋夜の アルファ米
 
 

Bブロックのお題は「一人暮らし」

1位 薄めたシャンプー 朝冷のワンルーム  森迫永依(特待生1級) 
    
2位 空の巣症候群の ような夜長  森口瑤子(名人8段)   
    
3位 今日よりは ひとり分なり 秋の風  柴田理恵(特待生3級)

4位 のろのろと 包帯広げ 干す秋夜  皆藤愛子(名人6段)  
    
5位 母からの手紙 無月の段ボール  春風亭昇吉(特待生3級)

2024炎帝戦観戦記 3 決勝戦

2024年07月31日 | 俳句
 
1位 夏暁(なつあけ)の納沙布 FMのノイズ  ダウ90000 蓮見翔(特待生4級)
【自 解】北海道東端の納沙布岬は日本で一番最初に日が昇る場所である。
友達と車で朝日を見に行ったことがあった。
端っこなのでラジオもきれいに入らない。
車の中でノイズがかかったまま日の出を待っていた。
【解 説】後半の「FMのノイズ」は、あると言えばあるフレーズ。
しかし前半がしっかりしている。
夏の暁、短い夜が明けようとしている。そして納沙布の地名が大事。
日本で一番早く日が昇る場所へ行こうとしている。車とは書いてないが、この書き方でカーラジオのFMに違いないと、読者は勝手に想像する。
そして岬に近づくほどノイズが激しくなっていく。その距離感を「ノイズ」で表現している。作者は朝日を声を上げて眺めたのではないか。
季語の「夏暁」がしっかり主役に立って、地名が季語を支えている。
 
*********************************
 
以下の4句については、TVerで解説がされた。
番組内で優勝を争った句は横尾さんということだったので2位としたが、TVerでは順位をつけずに解説だけだったので、あとは段位順とした。

2位 能登は虹 一棟貸しの 露天風呂  横尾渉(永世名人)
【自 解】以前番組のお題で能登の「千枚田」があった。
梅沢さんに実際行ってみた方がいいと勧められ行ったことがある。
その時の思い出と、地震後の復興で頑張っている能登に希望の虹を架けたい思いもあった。
【解 説】能登と季語「虹」との取り合わせが復興のイメージやエールで、読者も同じ思いを共有できる。
残念だったのは後半部分が上五と少し離れてしまっている。
能登が「伊勢」でも「萩」でも成立してしまう点である。
能登ならではのものが入っているとよかった。
 
宮古島 ホースに溜まる 水は炎(も)ゆ  千原ジュニア(永世名人)  
【自 解】宮古島では、庭の水道の蛇口を捻ると、ホースに溜まっている水が熱湯みたいに熱くなっている。
そこで暮らす人たちは、そんな環境も受け入れて暮らしておられる。
【解 説】季語は「炎(も)ゆ」。盛夏の燃えるような熱気のこと。
「宮古島」の地名はちゃんと機能している。
「水は炎ゆ」の描写にオリジナリティーがある。
ただ能登の句と同様、暑い所にある3音の島でも詠めるというのが少し惜しかった。
    
向日葵を 抜けると海や 走り出す  森口瑤子(名人8段) 
【自 解】伊豆の下田に行った時の思い出。
たくさんの向日葵が咲いている道を抜けると海が広がっていて、思わず駆け出した。
【解 説】気持ちのいい句。「や」の切れの後に走り出す人物に映像がスッと行くのは確かな技術。
ただ「観光地」という意味において、どこの場所かわからないのが他の地名を入れた句に一歩及ばなかったと点と言える。
しかし、2句とも地名に頼らず詠もうとした作者の初志貫徹の姿勢を褒めたいと思う。
    
油照り 影が溶け出す 中田島  立川志らく(名人7段) 
【自 解】日本三大砂丘のひとつ、静岡県の中田島砂丘は母の故郷の近くにある。
子どもの頃に行ったことはなかったが、大人になって行ってみた。
真夏の暑い日で、観光客の影さえも溶けていくような印象があった。
【解 説】中田島がどういう場所か調べてみた。
砂丘とわかると上五中七の描写はいいなぁと思う。
惜しいのは、中田島を知らない人にも少しのヒントが欲しかった。
「砂」「砂丘」が入るとグンと映像化ができる。
 
全25句の中で個人的に好きだったのは以下の3句。
 夏暁の納沙布 FMのノイズ 
 舳先より 泡盛の神酒 一礼す
 雪渓のピザ屋 品川ナンバー来

2024炎帝戦観戦記 2

2024年07月30日 | 俳句
 
九州・沖縄ブロック
1位 舳先(へさき)より 泡盛の神酒(みき) 一礼す  千原ジュニア(永世名人)
【自 解】宮古島が大好きで毎年行っているが、地元の友達と一緒に船で沖に出る時は必ず泡盛を海に垂らして事故がないように祈る。
それが毎回自分の役目になっている。
【解 説】海の神様に無事を祈る小さな儀式。
ハーリーという競漕の神事か、新しい船の進水式のセレモニーかとも読めるが、日常生活の中で釣りに行く時もそうすると聞くと、ますます味わい深い句である。
焼酎の傍題である「泡盛」が季語で、地域性も見えてくる。
下五の「一礼す」もきっぱりした感じでとてもいい。海の眩しさも立ち上がってくる。この句も句碑にしてもいいと思う。
【私 感】同感。日々の暮らしで常に神や自然への畏敬の念を持っている島の人々。
その彼らに作者もまた敬意を払っているのが読み取れる。
ファーストステージ4位だったフジモンが「ちんすこうに書いたらいい」とガヤを入れていた(笑)

2位 カタカナの 魚ばかりや 市薄暑  瀧川鯉斗
【自 解】沖縄の市場に行った時、カタカナの名前の珍しい魚が並んでいて、その時のことを詠んだ。
【解 説】上五中七の切り取り方がとてもいい。独自の視点がある。
季語「薄暑」は、初夏の汗ばむ暑さのことで3音である。
このように「市薄暑」として場所の情報を入れたり、例えば「夕薄暑」として時間の情報を入れて5音にしたりして光景を整えるのはテクニックのひとつである。
よく勉強している。
 
3位 始発待つ 素足ぶらぶら 大三東(おおみさき)  かたせ梨乃  
【自 解】長崎県の島原鉄道に、日本で一番海に近い駅と言われている大三東がある。
ここのプラットホームに腰掛けて足をブラブラすると潮が飛んでくるくらいに海が近い。
朝日が綺麗で、早朝の空気、潮の匂いを感じながら始発電車を待った思い出を詠んだ。
【解 説】大三東の知識がなかったので調べた。どういう場所かわかって読むと、時間を具体的に書き、素足をぶらぶらさせている様子などが読み手の脳の中に映像として生まれてくる。
地名を使う効果については、誰もが知っている例えば富士山なら、同じような光景を思い浮かべる。知名度が日本全国でない場合は、この句によって知られるようになってくると、読み終えた後の歓声がだんだん大きくなっていく。
この句をきっかけに大三東が有名になって、この句を理解してくれる人が増えていくことを願っている。
    
4位 スキットルの 固き四角や 片陰り  森迫永依(特待生2級) 
【自 解】沖縄の西表島に旅行に行った時、気分が上がってスキットル(ウイスキーなどを入れる携帯用の小型水筒)を買った。
お酒を入れてビーチにいたが、暑くて片陰りの場所で休んだ。
手に持っているスキットルの冷たさ重さを実感した時の句。
【解 説】スキットルの手触りを「固き四角」と丁寧に書いているのは良い。
季語「片陰り」でサラッと場所・状況が書けている。
破綻のない句だが、なぜ4位になったか。
今回のテーマは「観光地」。北海道から沖縄まで片陰りのある場所ならどこでも当てはまる。そこが残念なところ。地域性のある季語にすれば上五中七が俄然生きてくる。例えば、
添削 スキットルの 固き四角や 花梯梧(でいご)
    
中部ブロック
1位 黴(かび)臭い ホテルだけど 海がデカい 森口瑤子(名人9段)
【自 解】小学生の頃、家族旅行で海辺のホテルに行ったことがあった。
部屋に入るとカビ臭く湿気臭く、嫌な気持ちで窓を開けた瞬間に海がバーンと見えて、全てが吹き飛んで楽しくなった思い出を読んだ。
【解 説】完全に五・七・五を逸脱、しかも口語の俳句。
しかしこの語り口、調べ、内容がガッチリ手を組んでいる。
「海が近い」ではホテル情報で終わる。「海がデカい」としたこの判断が順位を分けた。
    
2位 熱田守護の 亀の蛭(ひる)剥ぐ 炎天下 千賀健永(名人9段) 
【自 解】実家が愛知県熱田神宮のすぐ近くにある。
亀が神宮の守り神とされているが、子どもの頃の夏、甲羅や体に蛭の付いた亀を見つけた。うちに連れ帰り、蛭をすべて剥ぎ取って元の場所に戻してやったことがあった。
【解 説】上五中七の素材が面白い。よくそんなところに目をつけた。俳人の鑑のような体験だと思う。
「蛭」「炎天下」の季重なりのマイナスはあるが、句材がオリジナリティー、リアリティーに溢れている。
「炎天下」を諦めればいい句になる。誠にもったいない。
添削 熱田守護なる 亀の甲羅の 蛭を剥ぐ
これなら断トツの1位だった。熱田神宮に句碑も立つ。 

3位 胎児寝る 風鈴数多(あまた) きゃらきゃらと 犬山紙子(特待生2級)   
【自 解】子どもがお腹にいた頃、西伊豆の宇久須神社に行ったことがあった。
別名風鈴神社と呼ばれ、200個以上の風鈴が吊るされている。
その音が重なってキャラキャラと精霊みたいな音で、お腹の子どもを寝かしつけているように感じられた。
【解 説】「きゃらきゃら」のオノマトペがいい。音だけでなく風鈴の材質も感じさせる。
問題はどこかと言うと「寝る」と言い切ったことで損した。
作者の思いは、風鈴の音がお腹の赤ちゃんを眠らせてくれる優しい音に聞こえたのではないか?
添削 風鈴のきゃらきゃら 胎児眠らさん
   
4位 雨後の虹 怒髪ゆるんだ 東尋坊  津田寛治 
【自 解】台風で風雨の酷い時、敢えて東尋坊に行ってみたことがあった。
予想に違わず怒髪天を衝くような荒波だった。
やがて雨が止んだら虹が架かって、荒々しかった波も少し緩んだように見えた。
【解 説】季語は「虹」。「雨後の虹」と有名な地名「東尋坊」の取り合わせはとても良い。
問題は中七である。「怒髪天を衝く」ことわざにもたれかかり過ぎ、比喩が大袈裟で損をしている。ここは素直に波とした方がよい。
添削 雨後の虹 白波ゆるぶ 東尋坊  
 
北海道・東北ブロック
1位 釧路駅 知らないコンビニの 冷房  蓮見翔(特待生5級)
【自 解】東京より人の少ないエリアで、旅先の寂しさや不安を感じることがある。
普段行っている店とは違うコンビニに入って、冷房は変わらず同じ冷やし方。同じ匂いにホッとしたという記憶を詠んだ。
【解 説】地名の「釧路駅」と季語「冷房」との関係が妙なリアリティーを持っている。
涼しいはずの北海道釧路に来たのに思ったよりも暑く、あたりには見たこともない名前のコンビニがあって、不安とコンビニを見つけた安心とがない交ぜになっているようなリアリティーが中七にある。
最後の「冷房」とは何てチープな感慨だろう。しかしその中に作者が観光地を歩くときの真実味が入ってくる。
この作者は「リアリティーは物事の細部にある」ということがわかっているのだろう。
    
2位 竜飛より 海峡見ゆる 翌(あす)は秋  梅沢富美男(特別永世名人)
【自 解】青森県津軽半島の竜飛崎は季節が早くやってくる。
暑い日でも、ここに来ると涼しい風が吹いて早めに秋が訪れたと感じる。
【解 説】季語は「翌(あす)は秋」。暦の立秋の前日で夏の終わりのこと。夏の季語。
この粋な季語を持ってきたのがよかった。
竜飛崎から海峡を見下ろす俯瞰の光景だと言うこともわかる。
全体的に格調のある句なので句碑向きではあるが、どこかで見たことのある歌詞の雰囲気がする。
季語で救われている。
    
3位 船に群れ 海猫の腹 蒼々と  こがけん(特待生4級)   
【自 解】三陸海岸の遊覧船に乗った時、海猫に餌をあげた。
すごく晴れた日で、空の青が海に映り、その光が海猫の腹に映って青くなっていた。
その情景を詠んだ。
【解 説】「海猫」が夏の季語。
目の付け所が良い。よく海猫の腹の特徴を見た。観察する目を持っている。
上五の「に」が散文的で気になる。
添削 舷(ふなべり)や 腹蒼々と 海猫(ごめ)の群
【私 感】「ごめ」で昭和の歌謡曲「石狩挽歌」を思い出した。(作詞:なかにし礼)
♪海猫(ごめ)が鳴くから ニシンが来ると〜
こがけん「添削後の俳句を自費で句碑にします!」
フジモン「海猫(ごめ)の2字の碑を」

4位 荒山の 岩間匂ふや 稚児車(ちんぐるま)  ペナルティ・ヒデ
【自 解】北海道の大雪山(系)に登った時、可憐な稚児車の花を見た。
厳しい環境で綺麗に咲いているなぁと感動した。
【解 説】夏の季語「稚児車」は白く小さな可憐な花で、まさに「岩間匂ふや」の表現がふさわしい風情である。この目の付け所はよい。
何が問題かと言うと「荒山」も「岩間」も地理的な情報で重なっている点である。
「岩間」を生かすのが作者の思いに近いのではないか。
上五に季語ではない情報を入れると映像が鮮やかになる。例えば、
添削 青空や 岩間を匂ふ 稚児車
こうすると青い空と白い花の色の対比ができる。
他にもいろいろできるので、作者自身で考えて欲しい。
 
そういうことで、各ブロック1位の5名が決勝戦に進んだ。