min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸(上)』

2014-11-08 13:20:21 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『新・傭兵代理店 悪魔の大陸(上)』 祥伝社 2014.5.25第1刷 \690+tax

おススメ度:★★★★☆

このシリーズでは初めての上下巻で出された。感想を上下纏めてとも考えたが内容、舞台背景があまりにも違うので分けて記すことにした。と言っても、上下にはもちろん共通項があるわけで、それは後ほど明らかになる。
上巻では今世界中で最もホットな紛争地であるシリアが舞台となる。前回アルジェリアで拉致された内閣調査室の片倉を救出した藤堂浩志は、美香としばしモロッコで休養した後、日本へ帰国する美香を見送り、単身英国へ向かった。
英国SASより格闘技の教官として招かれたためだ。SASで格闘技を教える傍ら、以前より浩志の古武道の師匠である明石妙仁から頼まれていた孫の様子を探るべく、休暇を利用してフランスのコルス(コルシカ)島を訪れたのであった。そこで4年ぶりに出会った明石シュウ真は実に逞しい外人部隊の兵士に成長していた。
そのコルス島でひとりのアラブ系フランス人スタルクが接触してきて、シリアの化学兵器使用の有無を調査するフランス政府のミッションに同行し、自分をガードして欲しい。フランス人化学者2名には4名の外人部隊の精鋭が付くというものであった。なんとその精鋭の兵士の中にシュウ真が加わってこようとは!

トルコ東部、シリアと国境を接する地点よりシリア入りを目論んだ一行であるが、既にトルコ領から何者かにマークされていた。
からくもシリア入りを果たした彼らを待ち受けていた状況は想像をはるかに超えた厳しさであった。現在のシリア情勢を知る上で、通常メディアを通してはなかなか分かりずらいのだが、著者渡辺裕之氏はどのようなニュースソースを持っているのか知らないが、見事に分かりやすく解説してくれる。
シリアで彼らを援護してくれるアルカイダ系のヌスラ戦線など日本ではほとんど知られていない。またISISイスラム国についても昨年の時点で本編中ではISILと記している。この呼び名は今年の9月頃からオバマ大統領や一部報道機関で使いだされた用語だ。
Islamic State in Iraq and the Levantの略で単にIraq and Syria と表記するよりも広がりを持った地域を指すもので、現在のイスラム国の言動をみるとISILのほうがよりふさわしいと思われる。
さて、現実世界の報道ではアサド大統領のシリア政府がサリン等の化学兵器を使用した疑いがもたれ、米国のオバマ大統領はもし使用されたのが事実であればアメリカ軍の派兵もじさない旨の強硬声明を出したものの、その後はロシアなどから反政府側が使用したのではないかという疑義がなされ、オバマの振り上げた拳も空振りに終わった感がある。
オバマにとって米軍の新たに紛争地へ派遣するなど、中間選挙を前にして決定など出来るわけがない。
さて、本編中では化学兵器の使用の有無については言及はしないものの、反政府勢力が関与したという噂の裏には更なる黒い霧が発生していた事を示唆する。それはシリアを巡る米ロの対立を利用し自らの利権を確保しようという中国の陰謀であった。
浩志らが幾度となく窮地に陥った背景には間違いなくこの陰謀を手助けする輩がいることを察知する。その流れで下巻に入っていくわけだ。
本編で先に記したようにフランス外人部隊でも落下傘部隊という精鋭部隊に配属された明石シュウ真が今後このシリーズで更に活躍してくれることを期待したい。