min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ジェイムズ・カルロス・ブレイク著『掠奪の群れ』

2008-09-23 11:10:11 | 「ハ行」の作家
ジェイムズ・カルロス・ブレイク著『掠奪の群れ』文春文庫 2008.9.10一刷 819円+tax
原題:[HANDSOME HARRY]

オススメ度★★★★☆

1930年代に実在した“デリンジャー・ギャング”団の一員、ハリー・ピアポント、原題にある通り、通り名を“ハンサム・ハリー”の短くも激烈な生涯を描いたクライム・ノヴェル。
親父の退屈なだけの40年のクソみたいな人生よりも、たとえ40時間の人生であったとしても、強盗の瞬間にこそ生き甲斐を感じるハリーは後者の40時間の人生を迷うことなく選択したであろう若者であった。

生まれついてのアウトローは前作『無頼の掟』でも取り上げられたわけであるが、今回はより集団的な強盗団を結成し、その中で仲間同士の結束、信頼と裏切り、また愛人たちとの愛憎を余すことなく描いている。
彼らの全てが強盗を犯罪とは認識しているものの、事の善悪から判断すると悪いことなんぞと思っていない。どうせ農民や年寄りを騙して吸い上げた銀行屋から上前を撥ねる感じで、自分たちの良心の呵責なんぞカケラも感じてはいないのだ。

時あたかも大恐慌の時代であり、半端者の彼らが真っ当に稼いだってなんぼにもならない社会状況であった。どっちを向いても八方塞の社会状況の中で、単純なお頭(オツム)のハリーの反骨魂は警察権力へと向けられた。
何度も懲罰房に放り込まれてもけっして刑務官におもねることはなかった。最後の最後まで、そう電気椅子に座らされ焼き殺される瞬間まで。

さて、物語として読む分には何とも面白い小説であることは間違いないのであるが、やはりアナーキーな空しさは否定のしようがない。
大恐慌のあの時代がひたひたと迫っているような昨今の米国、世界の状況の中で、ハリーのような反骨の心意気を持った犯罪者が出てくるとは思えない。
完全に閉塞された社会状況下、出現するのはせいぜい無差別殺戮者の群れであろうか。そこが当時と現代の違いであろう。