min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

夢は荒れ地を

2006-08-12 12:28:54 | 「ハ行」の作家
舟戸与一著『夢は荒れ地を』 文集文庫 2006.6.10  895円+tax

本作品の初出は「週間文春」で2001年10月から2003年4月まで連載された。その後2003年3月に文芸春秋から単行本として刊行されたもの。

2001年のカンボジア、首都プノンペンに降り立った楢本辰次は現地での運転手兼通訳のヌオン・ロタと会った。辰次の目的は自衛隊同期であり、当地カンボジアPKOで派遣されその後現地にて退官し行方を絶った越路修介を探し出すことであった。
現役自衛官辰次の有給休暇は一ヶ月であった。なんとしてもこの間に修介を見つけ出し、彼が日本に置き去りにした妻子を自分が引き取ったことを告げねばならない。更に修介の妻は自分の子供も宿していることも。

彼の足跡の手がかりを探すうちに300万人の同胞を屠ったと言われるクメール・ルージュの崩壊とその後のフンセン率いる政府の腐敗、汚職の状況が明らかになってくる。
またカンボジア社会を蝕む売春組織の氾濫、更に幼児売買の横行といったカンボシア内部に広がる深い闇の部分を知ることになる。

登場人物は失踪した修介、カンボジアの貧しい子供たちの「識字率向上」のため私設の学校を建てた丹波明和、彼らと関係のある元クメール・ルージュの投降兵で今は独自の村をつくり村長となったチア・サミンと仲間たち。
そしてプノンペンのヴェトナム系新興売春窟のボス。ボイポトの人買いの女。

それぞれの想いが交錯して物語が進むのであるが、最後は船戸作品であるがゆえに“血しぶき”が舞う暴力の世界へ突入してゆく。
それもかって暴力とは無縁の世界に生きてきたものたちが【暴力の義務、義務としての暴力】のために銃をとることになる。

船戸作品のほぼ定石として
虐げられた民が追い詰められ最後の足掻きとして絶望的な抵抗を試みる。
だがやはり強者である国家権力に圧殺されてゆく。
その状況を日本人の“狂言回し”的な視点から描く、というものであった。

今回の作品で気になるのは、そもそもカンボジアに残留し「ある事」のために身をささげる修介の動機があいまいであること。その彼を探しにやって来た辰次の動機もまた納得できるものでないこと。
辰次の運転手やボランティアの丹波明和が銃を手にする理由も何かあいまいな点にある。
そんなあいまいだらけの外部の人間とも言える者たちに引きづられる形で戦闘に参加する元クメール・ルージュの兵たちに僕は納得できなかった。

本作品を最後にしてしばらく船戸作品から遠ざかることになろう。

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