min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

荒南風(あらはえ)

2005-10-06 10:00:35 | 「ア行」の作家
阿井渉介著 講談社文庫 2005.9.15 781+tax 1997作品(講談社・単行本)

年にわずかではあるが読み出すと止まらない、激しく魂を揺さぶられる本と出会うことがあるが本書はその数少ない一作だ。

主人公である彦地の設定がユニークだ。この種の作品で元漁師、それも遠洋マグロ漁の船頭(漁労長)であったという主人公は今までお目にかかったことがない。
あるさしせまった事情から彦地は拳銃の密輸にかかわってしまったのだが警察に発覚し4年の刑に服すことになった。
自らが関与した密輸拳銃によってコンビニの罪のない店長とアルバイトの女子高生が殺されたことを知った彦地は出所後その拳銃の行方と拳銃を使って殺人を犯した犯人を突き止めようとし、密輸の背後に存在したと思われる暴力団事務所に単身乗り込んだのであるが・・・。

暴力団組長の息子を誘拐して逃避行に移る。主人公彦地と中学生の男の子との間の感情の交流、反発、共感、共鳴といった描写があるのだがこれを読むにつけR.B.パーカーの『初秋』を思い起こした。
だが男の子が心を開き、大人に成長していくさまは本作のほうがより感動的である。
著者の阿井渉介氏の圧倒的な海の男への共鳴、マグロ漁の詳細、漁師の料理に関する知識の豊富さに驚かされる。
また、海の男の生き様と知恵がヤクザ相手に存分に発揮される場面が幾度も出てきてこの奇妙な噛み合わせがなんとも新鮮かつ強烈な印象を読者に与える。

この作家、お初ではあるがなかなか手ごたえを感じさせる作家だ。本格的ミステリーの著作が多いようであるが近作『魂丸』もまた海洋冒険小説の傑作といわれているみたいで、そちらのほうも是非読んでみたい。