min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

有川浩著『図書館革命』

2010-09-23 00:14:46 | 「ア行」の作家
有川浩著『図書館革命』アスキー・メディアワークス発行 2007.11.30 初版 
オススメ度:★★★★★

ある日敦賀原発が国籍不明のテロ集団に襲われ、政府はからくも彼らを撃退、殲滅した
との衝撃的事件が報道され、図書隊に衝撃が走った。
政府は異例ともいえる速さで「対テロ特措法」を採択したからだ。この特措法によって権限を急激に拡大したのは自衛隊と警察ばかりではなく良化委員会も含まれていた。
想定される事態は、良化委員会がこのテロ組織が作家当麻氏の著作『原発危機』をテキストがわりに使ったとみなし、当麻氏自身の身柄を拘束しようとするにちがいないということであった。この事例を機に“作家狩り”が行われるに違いない。
良化特務機関の行動は迅速で既に図書隊基地の出入り口には彼らの監視体制がひかれた。
ここへ「週間新世相」の折口が当の当麻氏を伴って図書基地へ庇護を求めて駆け込んできた。一時は基地内に隠れることは可能であるものの、早晩内部にも当麻氏の存在が知れることは必死で、彼の身柄は稲峰元指令自宅へ移されたのであるが図書隊内部の裏切りで露見してしまう。ここに当麻氏を巡る図書館特殊部隊と良化特務機関の激突が!

手塚慧が主導する「未来企画」との一時的共闘が柴崎の活躍によって実現し、この事件を機会にテレビ等のメディアで良化法案の不当性を訴え始めたところ、良化委員会はここへ来て報道機関そのものへの締め付けを始める。
特にTVへの締め付けは普段書物や雑誌などに無関心であった一般大衆の不評を買い、「良化法」そのものへ目を向けさせる絶好の機会となり始めた。

一方、当麻側が起こした「メディア良化法」の違憲裁判は結果として敗訴となり、事態はのっぴきならない状況に陥る。
ここで事態を打開する妙案が放たれた。その妙案とは?何とこのアイデアが笠原郁のつぶやきから生じたところが傑作だ。
この妙案の実行段階で郁の八面六臂の活躍が始まる。最終結末は一体どうなるのであろうか!?
シリーズ4編の最後に相応しく郁の大活躍があり、あれほど読者をやきもきさせた“お二人”の関係に見事なケリをつけていただいた。

ところで、作者有川浩氏はこの図書館シリーズを通じて一番訴えたかった事は何であろうか?
今のところ我が国においては言論及び出版の自由、そして表現の自由は守られているようにみえるが、これもかなり脆弱な基盤の上に築かれた権利であって、国家と
いうものは常にその自由を規制しようと考えている点を忘れてはいけない。
国民の無関心という隙を狙って、一旦、作中にあるような「メディア規制法案」が議会を通ってしまえば、とてつもない不利益が我々国民に課されることになる。
有川氏は「図書館」を武装させる、という一見エキセントリックな手法を駆使して、我々に来るべき事態への危機意識を喚起している。
また、単純おバカ風で体育会系のノリの良いヒロインの恋物語にからめながら、面白おかしくストーリーを展開するのであるが、その時々に提示される諸々の問題提起は実は極めて重たいテーマである。
メディアが国家権力に規制され、時に彼らの思う方向にマインドコントロールされた場合の恐ろしさは、お隣の「大国」の事例を見るとより明白となろう。