min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ドン・ウィンズロウ著『犬の力 上』

2010-02-06 17:14:32 | 「ア行」の作家
ドン・ウィンズロウ著『犬の力 上』(原題:The power of the dog)角川文庫 H21.12.20再版  952+tax

おススメ度:★★★★★

アメリカ合衆国をめぐる麻薬戦争に関する小説は今までもいくつかあったと思うが、メキシコを舞台にしたそれは珍しいのではないだろうか。
麻薬の中でもヘロイン以上に猛威をふるっているのが南米産のコカインである。主なる生産地はコロンビアが有名であるが、1975年当時はメキシコではケシが栽培されていたようだ。
物語の冒頭はこのメキシコはシナロア州の燃えるケシ畑から始まる。
合衆国麻薬取締局(DEA)の特別捜査官アートは連邦保安局の数個師団による、この地のケシ畑掃討作戦に参加していた。 

この掃討作戦でメキシコにおける麻薬供給ルートは根絶されたものとみなされたのだが、実はメキシコが新たなるコロンビア・コカイン供給ルートの一大拠点になる出発点でもあった。
供給ルートとなり得た最大の理由は合衆国と接する2千キロに及ぶ国境線であった。
このコカインの流通ルートは後に盟約団(フェデラシオン)と呼ばれたのであるが、そのドンとなったのはシナロア州警察の州知事特別補佐官のバレーラであり、二人の甥が下について結成された。

物語はDEA捜査官アートの、組織の頭目バレーラへ対する執拗な組織撲滅の戦いを描くとともに、NYを舞台にした麻薬密売組織の内部抗争、盟約団内部での権力闘争が互いに絡み合いながら進行する。
主要な登場人物が相当数に上り、読み進めるのが段々難しくなるのだが、登場する悪党どもが其々なかなか魅力的であり、そのひとり一人を取り出しても一遍の小説になるのではないかと思わせるほどだ。

作品全体のトーンは血生臭い拷問シーンやら殺戮シーンが多く、この手の描写に弱い読者には不向きかも知れない。だが、何よりストーリイ展開のスピードと面白さに引っ張られまさにページターナーとなるのは請け合いだ。いったいどんな結末になるのか一瞬先がわからない興奮に包まれる。
これだけ骨太な作品に出合うことは数年に一度ではないか!?と思われる。もう上巻を読了したら堪らず下巻にとりかかろう!