min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

氷結の森

2007-03-24 13:28:44 | 「カ行」の作家
熊谷達也著『氷結の森』集英社 2007.1.30 1,900円+tax

阿仁のマタギが樺太で群来(鰊の群れ)を追う!なぜマタギがそんなところで何をしている?
もう、この設定だけで本書に飛びついてしまった。

主人公、柴田矢一郎は秋田県の山間阿仁出身のマタギである。徴兵されロシアへ送り出される直前に見合い結婚させられた。
戦場は矢一郎のマタギとしての狩猟の腕が狙撃手としての才能を全面的に開花させた。
だが、矢一郎は人間をゲーム(獲物)として捉える自分の内なる冷酷なハンターとしての悦びの潜在意識に深い絶望感を抱いたのであった。
上官の強い慰留の勧めを押しのけ除隊し帰郷したのであったが、故郷で待ち受けていたいたのは許しがたい妻の不貞であった。
あろうことか妻は生まれてまもない赤ん坊を抱いていたのだ。不貞の相手が無二の親友であったことが彼を絶望の淵に追いやり離縁をせまったのだが、親友と妻は赤ん坊を道連れにし無理心中してしまった。
そのことを逆恨みした妻の弟は復讐を矢一郎に宣言する。そんな状況に心底うんざりした矢一郎は故郷をそして国をも捨てる覚悟ではるばる樺太の果てまで逃れてきたのであった。
矢一郎は定職にもつかず定住もしようとしなかった。上述の鰊漁や樵となって自らの肉体を敢えて酷使することに自虐的な満足を得ていた。
ある意味自分にふさわしい“死に場所”を求めて流離っていたとも言える。そんな北の果ての樺太まで義弟の追跡の影が見えた。
からくも義弟の放った散弾銃から逃れた矢一郎であったが更なる過酷な運命が待っていた。命の恩人ともいえる先住民ギリヤークの酋長の娘が矢一郎との関係で拉致され、凍結した海峡を渡って対岸のロシアの大陸まで連れ去られたらしい。
その後を追う矢一郎、そして更に彼を待ち受けていたのは「軍靴の響」であった。
果たして矢一郎は先住民の娘を連れ戻すことが出来るのであろうか?

ひさしぶりの一気読みとなった本編であるが、冒険小説好きな男性には非の打ち所の無い作品となっているが女性読者に言わしめるとある不満が残るのではないだろうか。
それは矢一郎を慕うふたりの女性の取り扱いだ。矢一郎がロシアの大陸まで渡ろうとした理由は先に述べた先住民の娘のためだけではない。
その前に強盗に襲われ瀕死の重傷を負った彼を献身的に介抱して世話をし更に金を貸してくれた鰊場のさる女性に借金を返す、というのがもうひとつの目的であった。
両方の女性から求められた矢一郎の判断、対応はいまひとつ釈然としないものがある。これはあくまでも男性の視点から描かれた嫌いがある。
だが、そんなツッコミを蹴散らすような緊迫感に満ちたストーリー展開で読者をぐいぐい引っ張ってラストへと突入する。

本編は先に上梓された『邂逅の森』『相克の森』に続く森三部作だそうであるが、『相克の森』をジャンプして本編を読んでしまった。
内容的には連続しているわけではなさそうだが、唯一今回『邂逅の森』で重要な役割を果たした“富山の薬売り”が再登場している。
機会があれば『相克の森』も読むつもりだ。
久々の冒険小説らしい冒険小説を読了した満足感と余韻を味わっている。