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min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

マングースの尻尾

2007-04-08 00:38:52 | 「サ行」の作家
笹本稜平著『マングースの尻尾』 徳間書店 2006.2.28 1600+tax

主人公戸崎は日本の商社のパリ駐在員であった。銅の先物買いで失敗し(過去これに似た某商社マンがいたなぁ)その穴埋めにリスキーなデリバティブに手を出したのが完全に墓穴を掘る結果となった。
商社に起訴され5年の実刑をくらってパリの刑務所に入った戸崎は3年目に仮釈放された。
そんな彼に救いの手を差しのべたのは欧州随一の武器の目利きとして名高いポランスキーという武器商人であった。ポランスキーの狙いは戸崎の商社マン時代に培った中東・アフリカ方面への武器販売ルートであった。
かくしてふたりは申し分ないパートナーとして相互に信頼する関係を築いてきた。そんなある日ポランスキーがノドを掻き切られて殺害された。
戸崎がやったと思わせるタレこみを信じたポランスキーのひとり娘ジャンヌは戸崎への復讐のため深夜彼の寝室に寝込みを襲ったのだが・・・

戸崎は事件の背後に“マングース”と呼ばれる男の存在を嗅ぎ取った。このマングースとは一部闇の世界で知られるDGSE(フランス対外保安総局)の中東:北アフリカ部長の要職につきながら裏では「死の商人」としてのビジネスを手広く行っている危険かつ狡猾な男であった。
マングースの存在を知った戸崎はかって傭兵であった親友ピガールの助力を得るためマルセイユへ出向こうとする。だが彼への疑念を晴らしたポランスキーの娘ジャンヌも強引に同行すると主張するのであった。
かくしてマングースへの復讐心に燃える戸崎、ジャンヌそしてピガールは宿敵マングースを倒すために立ち上がったのであるが、敵はより巧妙に先手を打って彼らの前に立ちはだかる。
何と言っても国家の諜報機関の幹部としての立場がマングースの強みであり、ジリジリと3人を追い詰めるのであるが復習の機会は思わぬ形で訪れることになる。

「太平洋の薔薇」や「極点飛行」などの長編冒険小説と比べると確かに骨太な作品ではないと感じるかも知れない。だが小粒ではあるが時折ピリッとスパイスが効いた作品もお気軽に読めてよいのではなかろうか。
本編は短編連作のかたちを取っているがその効果が良いほうに出たか裏目に出たかは読者それぞれの嗜好によって違いがあるかも知れない。僕個人の感想としては、たまにはいいんでは、といった感想である。

「フォックスストーン」の主人公桧垣耀二が凄腕の傭兵として登場してきたのにはビックリした。「フォックスストーン」は当ブログでも取り上げているので興味がある方はのぞいてみて下さい。
http://blog.goo.ne.jp/snapshot8823/e/3153554895e3a10ae754cde18b83827c

また「極点飛行」もご参考までに紹介させていただきますね。
http://blog.goo.ne.jp/snapshot8823/e/c7ba5a6487fafec7c8fd9caa8b62dbf2




ユニット

2006-02-12 10:21:22 | 「サ行」の作家
佐々木譲著「ユニット」文春文庫 2005.12.10 714+tax

妻がレイプされ殺された上、一才になる娘をも巻き添えで殺された真鍋。事件のトラウマにより酒に溺れる日々を送っていた。

門脇裕子は結婚以来の家庭内暴力に苦しみ、もう限界を感じて5歳になる息子を連れて家出をした。家庭内で暴力を振るう夫はあろうことか現職の刑事であり、たちまち居所を探られるのではないかと恐怖を感じる裕子であった。

小さな工務店を経営する波多野はいわゆる「熟年離婚」というやつで妻が突然出て行ってしまい、食事から会社の雑用まで妻にすっかり依存していた分途方に暮れるのであった。

そんなまったく違った世界に生きてきた三人が地下鉄での飛び込み自殺の事件をきっかけに結ばれることになる。
真鍋は波多野工務店での現場仕事、裕子は炊事婦として働き出すのだが、真鍋の妻子を殺した当時17歳の少年がわずか7年後に服役を終え刑務所を出所した事実を知った真鍋は許されえぬ犯人に対し猛烈な殺意を抱くのであった。
そして「制裁」の計画を練り実行しようとする。
一方、裕子の夫は警察という立場を利用して社会福祉事務所、女性救援介護センターのルートを辿り、裕子の隠れる波多野工務店にせまりつつあった。

物語の内容は今では日常のマスコミをにぎわしている「未成年者による凶悪事件」、「家庭内暴力」、「熟年離婚」などの問題を取り扱っているのだが、小説世界で描かれる事件が今や何の誇張も感じないほど現実世界での事件の方が陰惨であり過剰である気がする。
取り扱うテーマがあまりにも重過ぎるため、結末はどうなるのだろう?とページをくる手が止まらなくなるのはやはり佐々木譲の筆力によるものであろう。また表題となった「ユニット」の意味が最後にわかるのであるが、この辺りはやはり佐々木譲的カタルシスのあるエンディングではなかろうか。

ちなみに昨夜テレ朝系列「土曜ワイド劇場」で同名のタイトル「ユニット」として放映されていたのは何とタイムリーであった。
舞台が北海道から関東に変わった点といくつかの脚本上の変更を別として原作からの逸脱はそんなになかったかと思う。

海燕ジョーの奇跡

2005-09-21 18:26:05 | 「サ行」の作家
佐木隆三著 新潮社 昭和55年2月発行 ¥980

沖縄の本土復帰直前、沖縄におけるヤクザ達は本土の巨大極道組織に対抗するために大同団結をはかり「琉球連合」を結成した。
同連合の三番手についた島袋組は同連合の理事の姦計にはまり、解散させられたばかりか捕まれば抹殺される立場に追いやられる。島袋組の若き構成員ジョーは意を決し理事長暗殺を敢行する。
全島くまなく張られた同連合の監視の目をかいくぐり、沖縄の南、フィリピンへ脱出を試みる。フィリピンは幼き頃別れた父の住む島であった。アメリカ軍属のフィリピン人と同じく基地内のPXで働いていた日本人の母親の間に生まれたジョーは“あいの子”として幼い時から周囲の子供たちに差別されいじめられた。
そんな屈折したジョーの未来もまた幸せにはほど遠い血にまみれた人生しか残されなかった。
果たしてヤクザの手をのがれ、恋人である陽子に明日はあるのか?
未だに基地問題が尾を引く沖縄であるが、その原点とも言える戦後そして復帰を迎える沸騰した熱気をはらむ沖縄を舞台に、そして南の島々、更にフィリピンに舞台を移して混血ジョーと仲間の波乱の青春群像を描いた秀作。

フォックス・ストーン

2005-09-07 12:28:29 | 「サ行」の作家
「フォックス・ストーン」
笹本稜平著 文春文庫 2005/08 第1刷 667+tax

かって硝煙と血に満ちたアフリカでフランス外人部隊の傭兵として共に戦った、アメリカ人の戦友が東京のホテルで変死した。傭兵時代には自らがジャズピアニストであることをそぶりにも見せなかった戦友ダグ。今や天才的ジャズピアニストとして世界に知られる存在になっていた。
ヘロインを過多にとっての死亡、ということに不審を抱いたかっての戦友であり親友であった檜垣はダグの死を自殺あるいは事故死とは思わなかった。
親友の死の真相を求めて米国へ渡った檜垣は、ダグの死の背後にある北米とアフリカ大陸を股にかけた巨大な「国際的陰謀」の存在に気付くのであった。
真相に近づこうとすればするほど周囲の大切な人々が殺され、いよいよ真実を確かめる為アフリカへ赴く檜垣。物語は一種のミステリー・サスペンス仕立てで展開され最後の最後まで陰謀の黒幕が明らかにされない。最後に檜垣の心を奈落の底に突き落とす真実とは?
ビアフラ戦争を彷彿とさせる飢餓と殺戮の暗黒大陸を描きながら、そこに蠢く権力への欲望、新たなダイヤモンド鉱脈にからむ巨額な富への欲望が交錯する。
最後まで愛と友情のため命を惜しまない行動を貫く主人公の檜垣。今や著者笹本稜平は国際的スケールの冒険小説をかかせたら当代随一の書き手になったのではなかろうか。

極点飛行

2005-08-09 18:33:05 | 「サ行」の作家
笹本稜平 著  光文社 1,785+tax

南極、ブリザード、黄金、ナチス、CIA、ときて美女、ツインオッター(航空機)の日本人パイロットなるキーワードが並ぶともうこれは胸がわくわくの「冒険小説」のお膳立てが出来上がろうというもの。
特にくそ暑い真夏に氷点下60度なんていう世界が舞台だとぐ~んと涼しくなる。以前マクリーンの『北極戦線』を読んだのも真夏だったなどと、どうでもいいことを思い出してしまう。
今回は対極の南極が舞台。南極を舞台にして「ナチスの金塊」伝説をめぐる血なまぐさい争奪戦が繰り広げられるのであるが、一見荒唐無稽な物語に真実味を与える手立て、お膳立てをこの作者笹本稜平はしっかりと整えている。
元ジャンボジェットの副操縦士であるアキラの一途な生き方に共感するとともに脇役陣が多種多彩で魅力的である。特にアイスマンと呼ばれる日系二世の強烈な生き様と個性が周囲を圧倒し、唯一アイスマンを制御できるのがその姪っ子である女医だったりする。
敵側の悪党もこれまた役者ぞろい。「冒険小説」に欠かせない自然の猛威と強大な敵がてんこもり状態で物語は思わぬ方向に突き進む。
綿密な歴史の虚構を組み立てながらナチスの亡霊と南米の独裁国家の謀略と欲望が交錯する、久々に堪能した本格的冒険小説の傑作である。

雪嵐

2005-07-31 20:15:29 | 「サ行」の作家
ダン・シモンズ著 早川書房 2,310

前作『鋼(はがね)』の続編。前作では主人公クルツとその取り巻きの連中、そしてクルツのパートナーが殺された背景や理由が今ひとつ説明不足であったのだが本作においてその詳細が明らかになってゆく。ということは作者は初めから続編があることを前提として『鋼』を書いたということだ。
前回、この主人公、元私立探偵が正義か悪か?と書いたが、こいつは正真正銘の悪(ワル)であることがわかった。だが、彼の相対する連中がはるかにワルであるためそんな議論は無駄というものだ。
今回はパートナーの殺害を指示したマフィアのドンを前回ほぼ壊滅させた敵対するマフィアの生き残りの女を使ってドンの命を狙う作戦に出たクルツであったが、その前にとてつもない強敵が現れる。この4者4つどもえの戦いの結末やいかに?
本作は前作よりもクール度は増し、徹底的にハードボイルドである。連続殺人機が殺人課の警部になりすます、ということが果たして可能か?という疑問が生じるのであるが、そこは日本の戸籍制度がない米国社会ならではの物語設定なのかも知れない。
とまれ、更に続編を期待できる作品だ。

2005-07-20 19:20:36 | 「サ行」の作家
ダン・シモンズ著 原題:HARDCASE 早川書房 2002.5.31 1900+tax

ダン・シモンズの著作は前回の「ダーウィンの剃刀」に次ぎ2作目。
本作の主人公はかなり強烈!正義の味方かはたまた悪の権化か一概に判断できない存在である。

私立探偵のジョー・クルツは事務所のパートナーであった赤毛のサマンサを惨殺されたのであるが、殺した相手を探し出すや躊躇することなくその男を襲い殺してしまう。
冒頭からその殺人シーンから入り、11年のムショ暮しを終えシャバへ出てきたところから物語りは始る。
ムショの中にいても「懸賞首をかけられており、無事シャバに戻ってきたこと自体が奇跡とも語られ、主人公ジョー・クルツが置かれた立場は容易でないものが想像される。
ムショから出て直ぐに向かった先がマフィアのドンであり、ファミリーのトラブルの調査を申し入れるのであるが、とたんに殺し屋が現れ命を狙われる。
殺し屋の面々がまた空恐ろしい連中ばかりで、一体この連中を雇っている背後にはどんな奴が存在するのか読むほどに緊迫感が増してくる。
とにかく主人公を含め登場する人物がみな超ハード・ボイルドしてる?感じだ。特に通称“デンマーク人”と呼ばれる殺し屋に至ってはこっちを主人公にしたいくらいクールなのだ。
全編に渡るクールな暴力シーンには背筋が冷たくなるほどで、ドンデン返しにつぐドンデン返しでこの男(主人公)はいつまで命が持つの?とハラハラドキドキ。
「固ゆで卵」度満点の一作であります。オススメ度4★