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min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ボブ・メイヤー著『チャイナ・ウォー13』

2010-03-03 00:00:04 | 「マ行」の作家
ボブ・メイヤー著『チャイナ・ウォー13』(原題:DRAGON SIM-13) 二見文庫 2003.9.25 第七刷 829+tax

オススメ度:★★★★☆

本書の裏表紙の紹介文から

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古参の軍曹ライリーが所属する米陸軍特殊部隊のチーム3に蜜命が下った。
中国の石油パイプラインを壊滅せよ!
交戦中ではない国を攻撃することに疑念を覚えつつも、ライリーたち12名は中国の山中に決死の潜入を図る。自分たちが恐るべき策謀に利用されているとは、知る由もなかった。
襲いくる中国軍を相手に孤立無援の戦いを強いられるチーム3の運命は?
白熱の軍事アクション!
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これを読むといかにも荒唐無稽で、あり得ないストーリーと思えるのであるが、ここは著者が合衆国陸軍士官学校出身で、自らもかって特殊部隊に所属し、退役後はジョン・F・ケネディ特殊戦学校及びフォート・ブラッグ基地学校で教鞭をとっている生粋の軍人であることから、軍事作戦の策定や武器・兵器に関するディテールは圧倒的な説得力を持つ。
また、本作品の時代背景が中国の天安門事件にからむ時期に重なっており、本書でも登場するような「軍事シミュレーション」は当時はさかんに行われていたであろうことは疑問の余地がない。
著者は、本来「軍事シミュレーション」であるはずのものを、極めて巧みに現実の「作戦行動」にまで持ってゆく仕掛けをこしらえる。それには上述の著者ならでは持つ軍事知識によるものであろう。

本書における戦闘場面は圧巻である。またチーム3における団結力、戦友同士の絆は読者の涙腺を緩めることになろう。
本書は期待以上の出来栄えになっており、軍事オタク以外の読者をも大いに楽しませること請け合いの作品。



三雲岳斗著『M.G.H.楽園の鏡像』

2010-02-27 18:26:45 | 「マ行」の作家
三雲岳斗著『M.G.H.楽園の鏡像』徳間デュアル文庫 2006.6.30 初刷 686+tax

オススメ度:★★★☆☆

無重力空間に浮かぶ真紅の球体(実は血である)と与圧服を着たまま前面だけが潰れた、まるで墜落死したような死体が漂う、そんな衝撃的なシーンから物語りは始まる。
ここは日本初の多目的宇宙ステーションの「白鳳」。この死体は事故によるものなのか、故意の殺人によるものなのか。
この事件が未解決のまま、更に発生するもうひとつの事件。原因不明の喀血でもがき苦しみながら死亡した。果たしてふたつの死亡事故に関連性はあるのか、また殺人であるならば、犯人の目的は、動機は、そして方法は?。

密閉された、といえばこれ以上密封された空間はないであろう軌道上の宇宙ステーションで起きた事件を解決するのは、ここに新婚旅行でやってきた若き材料工学の研究員凌と彼に思いを寄せる従兄妹の舞衣であった。
舞衣はこの新婚カップル招待の宇宙旅行を凌に黙って密かに応募し、当選したことを良いことに凌に「偽装結婚」を強要し、強引に実現させたのであった。
凌にはこの舞衣の陰謀?を拒否するには忍びない「白鳳」を訪れたい強烈な欲望があったので彼女の策謀に乗ったわけだ。

事件の謎解きにはある意味納得できる手法がとられている。これが荒唐無稽な理屈だと興ざめしてしまうところを、我々素人でも高校の物理程度の理解力があれば解かるところがミソ。
ところで、本作はどう見ても若人向けに書かれたライトノベルっぽい装丁で、登場人物もいかにもコミックに出てきそうなキャラばかり。
どうにも生身の人間臭がしないのは読者である私の年齢のせいなのか。ま、ぶつくさ言わずに単純にライトなタッチ“青春SFミステリー?”を楽しめばよいのかも知れない。

本編は先日行われた旧FADVメンバーで行った「旧暦正月を祝う横浜中華街オフ」で本プレでいただいたもの。
本の表紙に描かれたイラストを見ただけで通常の僕であればけっして手には取らない代物である。

蛇足:「2000年第一回日本SF新人賞受賞作」の単行本を文庫化したもの。

ザ・ロード

2008-08-15 10:59:13 | 「マ行」の作家
コーマック・マッカーシー著『ザ・ロード』早川書房 2008.6.25一刷 1,800+tax

オススメ度★★★★★

荒涼たる大地には緑の木々もなく、地上には生き物の姿は無く、空には飛ぶ鳥の一羽すら見当たらない。どんよりと曇った空からは冷たい雨がふりそそぎ疲れた足取りの親子を濡らす。やがて雨はちらつく雪と変わり、空腹をかかえた彼らの体力を容赦なく奪っていく。父と息子はひたすら南に向かって歩き続ける。もうこの冬は南でなければ命を永らえることはできないからだ。
途中で遭遇する人間たちはほぼ敵とみなして間違いない。見つかれば持ち物を全て奪われるか命を奪われあげくは喰われてしまうのだ。

ここは近未来のアメリカ合衆国で、多分核戦争のため大方の都市は破壊され、アメリカ本土はもちろん全地球規模で環境破壊が進んでいるものと思われる。
旅する親子の名前が語られることはなく、彼らが何処に住んでいてどのようにこの厄災に会いそして生き延びたのかも分からない。
ただひとつ分かるのは父親が息子を守ること、なんとか暖かい地方まで逃れ生き残るチャンスを息子に与えたい、それだけであった。
作中、父親は息子に向かって「お前は火を運ぶ者」だから、と励ます。この場合の“火”とは一体何を意味するものなのか最後まで明かされることはないのであるが、読者は各々この意味を考えることになる。
“火”とは“正義”なのであろうか“希望”なのであろうか。少なくともこの親子は“正義と希望”を最後まで捨てようとはしない。例え周囲の世界がどんなに邪悪であり絶望に満ちていようとも。
だが、現実はこの親子にとって救いがあるとは思えないのであるが。やがて二人が目指す目的地に着いた後に待っているものは何であろう。

私はかってこれほど苦難と絶望に満ちたロード・ノヴェルを読んだことがない。今年、著者の「血と暴力の国」が映画化され「ノーカントリー」という題名の映画となって大ヒットし、著者も一躍注目されたのであるが、全くカタルシスのかけらもない同作に比べると本作にはまだ希望の光がないわけでもない。
本作品を幼い息子に捧げる以上は人類の未来を信じても良いのでろうか。

ずしりと重いテーマを扱いながら極めて文学的な味わいを得ることができた。作者渾身の一作であると思われる超オススメの作品である。


落雷の旅路

2008-05-13 17:32:43 | 「マ行」の作家
丸山健二著『落雷の旅路』文藝春秋 2006.10.30 第一刷 2000円+tax

オススメ度 ★★★☆☆

「星夜」
「海鳴り、遙か」
「夢の影」
「牙に蛍」
「もっと深い雪」
「直下の死」
「波も光も」
「桜吹雪」
「対岸の日溜まり」
「落雷の旅路」

の10編からなる短編集。

先ず一作目の「星夜」を読み出したとたん圧倒させられる。
芥川賞を23才の若さで受賞したという著者の「文学者」としての語彙の豊富さ、表現力の深さ、多様性、に驚愕の念を禁じ得ない。言葉の魔術師とも言うのであろうか。
多分、自分が高校生くらいの若さで読んだとしたら、男の魂の叫びの内容は理解できないかも知れないが、魂の咆哮とも言える文章の表現力に自らの魂も根こそぎ揺さぶられる快感に酔いしれたかも知れない。
だが、もう還暦を目前とした今の自分にはこれらの文章を味わう「体力」が失われてしまったのを自覚する。(著者の丸山氏のエネルギーにただただ感服するのみ)
「海鳴り、遙か」「夢の影」と読み進めるに従い疲れの度合いが増し、「牙に蛍」で多少息を継いでほっとしたものの、もう次からいけない。
「自分はこのような純文学を受け付けない体質になってしまったのか」と独りごち、ほとんど丸山健二氏の世界に浸って味わおうという姿勢ではなくなっている、いやむしろ執拗なまでに抉られる人間の魂の奥底の表現に疲れ果てる。

最後の「落雷の旅路」を読んでがっくりと疲れを感じ、「ああ、こんな読み物はこれだけにしよう」と思う自分がいるのを発見する。
短編集の出来不出来から言えば十分に秀作なのであろうが、他人様に敢えて「読んでみて!」とは言えない気持ちが正直なところであろう。

愚者と愚者(上)野蛮な飢えた神々の叛乱

2006-10-08 14:31:06 | 「マ行」の作家
『愚者と愚者 (上) 野蛮な飢えた神々の叛乱』

打海文三著 角川書店 H18.9.30  1500円

応化16年の日本はいまだ内戦状態下にあった。佐々木海人は今や常陸軍の孤児部隊の司令官となった。若干二十歳の司令官だ。
首都圏をめぐる各勢力の攻防戦は依然として混沌とした状態にあり、抜きん出た軍事勢力は排出していなかった。
そんな中「我らの祖国」と名乗る武装集団によるテロが、カイトが所属する常陸軍及び同盟軍に対し頻繁に行われた。
彼らが標榜するスローガンは「日本男子の同盟による祖国再建」であり「外国人武装勢力と女テロリスト集団を殲滅する」というものであり、外国人、性的マイノリティー、女性マフィア等が混在する常陸軍とその同盟軍は格好の攻撃対象とされた。
更に通称「黒い旅団」と呼ばれるゲイとヒロイズムを掲げた集団が登場し更なる混乱を首都圏にもたらす。
さて、ここでこの首都を取り巻く軍事勢力ならびにマフィアをあげておく。
ただしその内訳は上巻の巻頭にある「首都攻防戦における武装勢力」のままではなく私的見解を交えたものである。
・旧政府軍
・宇都宮軍
・常陸軍
・仙台軍
以上の軍は旧政府軍はもちろんのこと、かっての自衛隊を母体とした軍事組織のように見えけられる。
・黒い旅団
正式名称は信州兵士評議会で信州大学の元学生を核に結成されたように記憶する。
・我らの祖国
旧治安情報局と旧冨士師団(自衛隊?)と2月運動の残党が結成した軍事勢力といわれるが謎の部分が多い集団。

以下はマフィアほか雑多の武装勢力か

・パンプキン・ガールズ・・・・月田姉妹がつくった女の子のマフィア
・虹の旗
・高麗幇
・東京UF
・鉄兜団
・ンガルンガニ
などなど。

とにかくこのような軍事組織、犯罪グループ、思想的武装集団が、それぞれの目的、利害関係を複雑にからませながら離合集散していくさまはめまぐるしい。

さて、上巻では望まずして3千5百名を率いる孤児部隊の司令官となった佐々木海人大佐が軍事だけではなく政治、経済そして内部の組織運営にまつわる様々な問題を、時に“大人”としての駆け引き、判断をせまられ苦悩する姿が描かれる。
特に所属する組織内での諸問題が深刻でとりわけ戦友の裏切りに苦悶しそして冷徹な判断を必要とされる姿が痛ましい。
カイト少年は今や単なる奔放な孤児としての生き様を捨て周囲の家族、仲間、友人、上官、組織はもちろん、日本そのものの行方を考えねばならない立場に立たされる。
未だに少年の断片をかいまみせながらも現実と言う大人の世界に足を踏み入れたカイトの苦悩は今後も続くのだろう。果たして彼はどのようにどこまで成長するのであろうか?
個人的には少年のままのカイトでいてほしいのだが・・・・


熱砂の絆

2006-08-02 21:54:54 | 「マ行」の作家
グレン・ミード著『熱砂の絆』二見文庫 上下共790円+tax

これぞ「正統派冒険小説」と呼んでいい作品ではなかろうか。英国が生んだ冒険小説作家の巨頭ヒギンズやフォーサイスの後継者、とも言われてもさほど異を唱えるつもりはないくらい。この作家は多作家ではなく邦訳された作品は今のところ3作品のみ。
第一作が『ブランデンブルグの誓約』で二作目が『雪の狼』そして三作目が本作品。第一作は未読であるが『雪の狼』はめちゃくちゃ面白かった。
第二次大戦下、スターリン暗殺計画を描いた作品であるが最高に興奮させてくれた作品であった。
さて本編は同じく第二次大戦下のエジプト・カイロでドイツがローズベルト暗殺を企て実行しようとした荒唐無稽とも思われる内容だ。だが、このチャーチル、ローズベルト、蒋介石が会談しようとした際に実際暗殺計画があったという歴史的秘話に触発され、極めてエキサイティングな肉付けをほどこされて上梓されたのが本編である。

一方この作品は戦時下における相手国の最高責任者を暗殺しようという血なまぐさい物語であるのだが登場する二人の男性と一人の女性が織り成す友情と愛の物語である。
「神の見えざる手」によって運命を操られたとも言える男女3人の物語は作者の巧妙なプロットの展開によって最後の最後まで気を許させない。
この作品がなんとも切ない愛と友情をテーマにしていることが作中はもちろん最後の最後に読者の胸を熱い思いで満たすことは間違いない。
ストーリーの紹介はあえて行わないが、最近本格的な「冒険小説」に飢えているアナタに是非オススメしたい一篇だ。

ラスト・ライト

2005-07-08 16:42:41 | 「マ行」の作家
アンディ・マクナブ著 角川文庫 H17.4.25895+tax

元SAS隊員の作家である。本作はニック・ストーンシリーズの第4作ということであるが初めて読んだ。
前作を全く読んでいないので多少人物のキャラがよく分からない。印象としては随分しまらない感じのイギリス情報部の下請工作員である。
最初に指示された狙撃ターゲットの人物に躊躇した彼は、情報部の上司に抹殺されそうになる。ここは彼の「保険」が奏効し、次の指令をまっとうすれば命は助かるという譲歩を得る。しかしニックには致命的な“人質”を情報部に取られている。この辺りの経緯は前作を読まなければわからない。
狙撃しそこなった同じターゲットを追ってパナマのジャングルに赴くのであるが・・・。とにかく主人公がショボい。が、いざとなると輝きを示すのであるが、なんか思考と行動がぎくしゃくして気にくわない。単なる狙撃の依頼の裏には想像を絶する陰謀が隠されていた。はたしてニックはミッションを遂行し無事帰ることができるのか?

アンディー・マクナブのドキュメンタリーな作品「ブラヴォー・ツー・ゼロ―」を読んで、実際その作戦に参加した著者が語る“事実”の迫力に感動した記憶があるのだが、本作のようなフィクションになるとどこかやはりピンとこない感じがする。

オルタード・カーボン

2005-06-11 11:00:51 | 「マ行」の作家
リチャード・モーガン著、田口俊樹訳。アスペクト・2005.4.5発行

いきなりだが本作の装丁がカッコいい。サイズは欧米のペーパーバックほどで上下本のカップリングでハードボックスの中に収められていて、本の帯には全体がブルーっぽい色調で未来都市のイラストが描かれている。本屋の店頭で思わず手にとってみたくなる装丁だ。

さて、本作は2004年度フィリップ・K・ディック賞を受賞したとのことであるがその事実を除外しても読み進むうちに映画「ブレードランナー」(原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」)のシーンを瞬時に思い浮かべる。未来都市の上空を行きかうのはクルーザーとよばれる車両で、垂直離着陸ができ地上走行も可能なもの。
本作の時代設定は更に未来の27世紀で主たる舞台は地球である。
「ブレードランナー」が描かれた2019年の世界では精巧なレプリカント(人造人間)が登場するのだが、本作で描かれる未来ではロボット、人造人間はもちろん更に驚くべき生体医学の技術の成果が登場する。
27世紀を迎えた人類は各自の“心”は全てデジタル化されて“スタック”と称される小さなメモリー装置にダウンロードされ後頭部に埋め込まれる。肉体が経年劣化すると新たな別の肉体(スリーブ)にその“スタック”が移され外見は別であるが同じ“心”をもった人間として生命は永らえられる。外見を変えたくなければ自らの“クローン”をいくつも保有し必要に応じて取り替えればよい。
この辺りが本作の題名である「オルタード・カーボン」=(変身コピー)の所以となる。
しかし、こうした“スリーブ”を取り替えるにはそれなりの財力が必要で金の無いもの、また宗教(この小説ではカトリック教徒)的理由で人工的命の再生もしくは延命ができないことになる。いずれかの理由でバック・アップを持っていない“スタック”を持った人間は“R.D”(リアルデス・真の死)を迎える。
本作のストーリーの詳細は割愛させていただくが、簡単に述べると地球で300歳以上生き継いできた“メト”と呼ばれる大富豪がある日謎の自殺をとげる。だが“スタック”を遠隔ダウンロードしていたこの大富豪は自分は自殺などした覚えはない、ついてはその真相を探ってほしい旨の捜査を主人公タケシ・コバッチに依頼した。
タケシはワーランズ・ワールドという外宇宙でエンヴォイという特殊外交部隊(強襲部隊か?)にかって属していたが今は百数十年の保管刑にあり、依頼主の巨大な政治力でもって保釈され地球にスタックを伝送され新たなスリーブとともに登場とあいなる。
この与えられたスリーブと大いに係わりがあると思われるベイ・シティー(サンフランシスコ)警察の女警部補クリスティン・オルテガとのからみや最終的な敵との対決がスピーディーに展開してゆく。ところで下巻の訳者あとがきで著者リチャード・モーガンについて解説されているのだが、この作者はチャンドラーやW・ギブソン、フィリップ・K・ディック更には村上春樹、ローレンス・ブロックらの名作に対するオマージュのようなシーンがふんだんにちりばめられているそうで、そうした過去の名作に造詣が深い読者には
一味違う楽しみがあるようだ。

また主人公のタケシ・コヴァッチや元エンヴォイの上司レイリーン・カワハラなどの登場人物の名前が明らかに日系であることも興味深い。タケシはやはり「北野武」からとったのではないか、などと想像すると本編のタケシとはまたイメージが異なり、あまりダブって考えないほうがよい。
余談ではあるがタケシが生まれたオフワールドの惑星の開発が日本の金と東欧の入植者で開拓された下りの設定は、現に日系自動車メーカーがその生産拠点を東欧諸国にシフトしている例もありなんか納得してしまう自分を発見(微苦笑)
とまれ、本作は遠い未来、手段・方法は問わずに“不老不死”を手に入れた結果、『人間とは何か?生命とは?』という古くて新しいテーマを我々読者につきつけることになった次第。

作者自身は自作のようなカテゴリーを“フューチャー・ノワール”と命名したいようなことを言っているようだが、本作は時代を超えた「ハード・ボイルド」ではなかろうか。


半島を出よ

2005-05-07 10:49:23 | 「マ行」の作家
村上龍著 幻冬舎2005.3.25発行 上下巻各1,900+tax

今から6年後の日本。「日出る国の落日」の言葉とおり、経済破綻した日本が舞台。この時お隣の狂人が支配する国家は未だしぶとく存在。その国の一部謀略機関が練った計略は日本の九州、福岡市にあるドーム占拠であった。
たった9人によるドーム占拠と2時間後には4百数十名の特殊部隊が小型複葉機で進入する。そして12万の本隊が艦船にて上陸が予定されている。この時日本政府の対応は?といったかなりエキセントリックなテーマである。
本作のポイントはこれら北朝鮮軍が「反乱軍」として登場することにある。そして最初のターゲットが福岡ドームという点。
この度肝を抜く作戦に対し、案の定、時の日本政府の対応はお粗末の一言。このあたりのイライラ加減は麻生幾著『宣戦布告』を思い出させる。
政府は結局なんの対応もできぬまま福岡を封鎖してしまう。さて、事態の打開を行うものは誰か?上巻であるグループを長々と描写するのであるが、やはり立ち向かうのは彼らだ。とにかく構成メンバーが凄まじい。傭兵とか軍事のプロでは決してない、要は完璧な社会のおぶれ者たちなのである。住基ネットにも載らないがゆえに彼らは全てカタカナで名前が表記される。例えばイシハラやタテノといった具合だ。彼らが北朝鮮軍に挑む方法は僕の想像力をはるかに凌駕したものであった。これは凄い!の一語。ただここまで物語がたどり着くまでが長い。実に下巻の半分を過ぎるまで待たねばならない。
村上龍はほとんど“偏執狂”かと思えるほど各部ディテールを描くのに固執する。それが北朝鮮の国であれ特殊部隊に加わった者たちであれ、虫、銃器と全てに渡ってのディテールが連綿と続く。実際、不要とも思われる部分もあり、僕にいわせれば上巻一冊で充分なのでは。せっかくの面白いプロットが途中で足踏み状態になりイライラさせられる。
忍耐力に欠ける僕のような読者は途中で投げるかも知れないが、やはり後半部分までじっと「我慢の子」であるべき。
ま、とにもかくにもここまで書き込んだ村上龍の“思い”に敬意を表したい。


ジョッキー

2005-04-25 12:33:01 | 「マ行」の作家
村松剛史著 集英社文庫 2005年1月

日本には多分“競馬小説”なる小説ジャンルなどないと思われる。この小説は一騎手の視点からとらえた優れた「競馬小説」であるとともにそれ以上に爽やかな「青春恋愛小説」である、とも言える。
主人公中島八弥は競馬学校を卒業し美浦トレセンにあるマイナーな厩舎に所属する騎手である。だがこの千葉厩舎は経営難に陥り、窮余の策として有力な馬主兼生産者の大路に援助を仰いだ。その見返り条件は大路の息子を千葉厩舎の専属騎手として配することであった。
中島八弥はそのおかげで千葉厩舎を出るはめになり、フリーランスの騎手として生きざるを得なくなったのだが生来の性格と兄弟子の影響を受けてか自ら騎乗の鞍を得る営業は行わなかった。
したがって日々の食費にも事欠く有様であった。そんな彼にある日思いもかけぬチャンスが巡ってきたのだが・・・。
今や30才を目前とした不遇の騎手八弥は果たしてそのチャンスをものにし一挙に一流ジョッキーへ浮上できるのであろうか?
中央競馬会の様子や彼を取り巻く強烈な個性を持つ馬主やら調教師、厩務員、同僚のジョッキーらが織り成す物語は普段窺い知れぬ世界であるが故に興味深いものがある。