sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

「少年が来る」

2019-03-22 | 本とか
ハン・ガンの「菜食主義者」は、すごい小説だと思いつつも、
暗く重く痛いようなぬるぬるした壊れやすさが生理的に気持ち悪くてすごく疲れて、
もうこの人の本はいいわと思ってたけど、
同じ作者の「少年が来る」を借りて少し読み始めたら、まず、
キツい状況下の優しい人のことを、やはりとても繊細に描写していて舌を巻いた。
柔らかい布を幾重にも巻いたような手でするノック、
幼い鳥のようにふわっと抜ける魂・・・参ったなー。うまい。やさしい。うまい。
彼女の文章の繊細さは、気持ち悪さも優しさもどちらも激しく増幅させる。
ここでは互いを思いやる姉と弟の描写がとてつもなく優しくて、
泣かせる箇所でないのに泣けてしかたないし、その後の悲しい箇所ではもう涙ボロボロ。
すごい本だな。「こちらあみ子」並に衝撃を受けています。
描写に大げさなところはなく、どのような悲惨な場面でも筆致は静か。
どのような悲しみも怒りも、やはり静かに書かれていて、
エンターテイメント的な盛り上がりや感動はなく、
そういうところに何も落とし込まない誠実さに感動します。
後半はきつい描写も多く、拷問の激しさ、その中で心を殺される人など
読んでてつらい部分が多かったけど、
この作者の本は、もっと読まなければいけないなぁとしみじみ思った。

独裁的な軍事政権に反対する民主化デモが軍により鎮圧され
大勢の学生や人々が殺され拷問された韓国の光州事件(1980)で
殺された人たち、拷問された人たちのエピソードが、
時間や空間を時々超えながら、行きつ戻りつ語られる小説。
不思議な二人称で書かれていて、最初、読み始めはかなりとまどいます。
「君」って誰なのか。「あなた」って誰なのか。それを語っているのは誰なのか。
でも途中からひきこまれる。
その事件のおぞましさに、立ち向かう人の覚悟に、その末につけられた傷の深さに。
まだ子供と言える少年たちもいた。
性的な拷問を受けた女性もいた。
生き残ってしまったことが苦しい人もいた。
子供を亡くした後悔を一緒背負っていく母親もいた。

光州事件については、映画「タクシー運転手」を昨年見たばかりなので
映画の中のシーンが蘇り、わたしの想像力を助けます。
小説自体には、メッセージを振り回すようなところはないんだけど、
これほどの犠牲を払って、こうまでして手にした民主主義なのか、
と改めて韓国の民主化運動を思う。