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夏の旅エッセイ 2 ~海南の夕陽~

2006-08-09 22:41:13 | 町と旅

 台風が頻繁にやってくる季節になりました。この季節の旅は台風情報も気になります。
 ある年の旅も、台風情報を気にしながらの旅でした。


 台風が西日本に迫っているという情報を聞きながら、私は夕方和歌山県へとやってきた。空は快晴、和歌山市の少し南にある海南という町に着くと、夏の夕方の強い陽射しにホームが照らされていた。
 JR紀勢本線海南駅を降り、線路づたいに歩いて駅裏へと回った。そこには、野上電気鉄道という私鉄の駅があった。田舎の古い米屋を思わせる古く小さい駅舎に掲げられた看板には「海南駅」ではなく、「日方駅」と書かれている。
 木の戸を開け駅舎に入り、一番線しかない狭いホームに出ると、クリーム色と赤に塗られたかなり古い電車が停まっていた。少し曇った窓ガラス、硬い座席、木の床、平成の時代から昭和初期にタイムスリップしたかのような車内。私は、持っていた旅カメラ「ミノルタ マックテレ」で何枚か写真を撮った。
 夕方、町の始発駅から出る列車は全国どこでも、大抵は学校帰りの高校生で賑わっているのだが、夏休みとあってか二両編成の車内は閑散としていた。

 僅かな乗客を乗せ、古い電車はゆっくりと動き出した。床から聞こえてくる重低音のモーター音をBGMに、田園地帯を往く。やがて、田んぼも人家も車窓から減り始め、右手に小さな川が寄り添い始めた。緩やかに山間へと景色が変わっていく。終点の駅名は「登山口」といった。山の麓の小さな集落にある駅だった。
 駅を出て、集落を散歩する。傾き始めた太陽が、細い路地を照らす。やがて太陽が山に隠れた頃、時報とともに「遠き山に日が落ちて」のメロディが集落に流れた。

 帰りの電車も空いていた。野上電鉄は廃止されるらしい。それでも、廃止反対の看板も無く、客も少なく、けだるそうに切符を回収する若い車掌の姿だけが生々しい現実のように思えた。

 日没の海南の町を歩き、港を眺めたりしてきた私は、町の片隅にあった「宮前湯」という銭湯に入った。「宮前」という名が気に入ったのだ。宮前駅も和歌山駅の隣にある。
 風呂上がりに夕食を求め、一軒の店に入った。先ほど野上電鉄日方駅に行く途中に見つけた店で、入ってみるとカウンターだけの店で、定員5人程度の規模の店。店を一人仕切っているのは40代と思われるおかみさんだった。

 おかみさんは、一見さんである私に「どこからおいでになりました?」と聞いてきた。私の答えを聞いて、横にいた常連客二人のうちの一人が「今、Jリーグで盛り上がっている所だね」と話に加わってきた。
 話が盛り上がってきたところで、私はおかみさんの後ろの棚にあった和歌山の地酒「祝砲」を頼み、和歌山の話に花を咲かせた。
 常連客二人のお兄さんは楽しい人達で、すっかり気に入られた私は、一人のお兄さんに「明日、俺の車で和歌山を案内するよ。和歌山城とか見に行こう」とお誘いまで受けた。
 残念ながら、私は今晩新大阪から夜行列車に乗って明日、広島へと向かう。
 おかみさんは、明日は台風だから広島の方には行けないから、和歌山に泊まっていけと言う。お兄さん達も心配してくれた。

 親切が身にしみながら私は厚く礼を述べて、新大阪へと向かうために店を出た。おかみさんも常連客も気さくで良い人達だった。紀勢本線~阪和線と乗り継ぎの電車の中で私は、野上電鉄と海南の町を包んでいた夕陽を思い出していた。
 九州へ向かう夜行列車はこの日運休だったが、広島行きは運転していて、私はなんとか夜行列車に乗る事が出来た。

  今回のBGM  サイレント・サマー / ribbon


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