フリージア工房 国道723号店

ハロプロメンバーを応援してアイドル音楽を愛するエッセイブログ

スパイラルミュージック・スパイラル

2012-11-28 22:20:18 | アイドル etc

 俺はその日、仕事で疲れていた。溜まったストレスの発散の場を求めて渋谷の街をぶらつく。仕事場が渋谷にあるのだ。イライラしながら、平日だというのに混んでいる渋谷の雑踏を掻き分けて歩くうち、気づけば駅前のはずれに来ていた。適当な店でも見つけて軽く飲むかと思い、首都高をくぐって恵比寿の方に向かって歩くと、十人くらいの男が並んでいる店があった。あまり明るい雰囲気ではないが、ちょっと気になったので並んでいる男の中で気の良さそうな人を見つけて「何に並んでるの?」と聞いてみた。すると男は「アイドルのライブです」と答えた。
 「アイドルのライブ?って、AKBかなんかか?いや、AKBにしては客が少ないだろう。あっ、もしかしてこれが地下アイドルというやつか?前にテレビで観たぞ」と頭の中で考えながら、少しだけ気になった俺は料金を聞いてみた。すると男は「二千円のプラスドリンク代です」と答えた。
 なんかあまり声をかけてほしくなさそうな雰囲気だし、俺もイライラしていたから、どこかトゲトゲしい雰囲気を発散していたのだろう。質問はそこで止めて並んでみる事にした。
 「アイドルのライブなんて観た事ないぞ。いや、少し前にサンシャインシティで誰かが歌っているのを通りがかったな。誰かはわからなかったが、オタクどもが奇声を発していて、先日別れた彼女が早く行きましょう!と、逃げるように俺の手を引っ張ったっけ」
 そんな回想をしていたら、別れた彼女の事を思い出して余計に腹が立ってきたから回想はやめた。

 列が動いて入場になった。チケットを買う際にいきなり店員に「誰を観に来ましたか?」なんて聞かれたから、「よく知らないんで誰でもいいっす」と答えたら、そういう何かの指名とかではなく、観客の中での人気度を調査しているらしい。店員は困った顔をしたが、俺を一瞥すると事情を察してくれたらしく、黙ってチケットを渡してくれた。
 五百円のドリンクチケットで適当にバーボンを選んで、それを片手に中に入る。狭いし、暗いな。ちょっと不安になってきたぜ。

 少し酔いが回るのが早いなと思いながらステージを見ていると、最初のグループが出てきた。「ねがいごと」という名前らしい。変わった名前だが、それも地下っぽくていいんじゃね?などと斜に構えて眺めていたら、近くの客がサビでのメンバーの動きに合わせて右に左に動きながら声を上げ始めた。なんだっけ、こういうのがヲタ芸って言うのかな?テレビで言ってた気がする。
 トップバッターがいきなり盛り上がっているとか、この子たちは前座じゃないのか?と不思議な気持ちで見続ける。ライブはそれなりに面白い。ステージよりも客席をついつい見てしまうが。

 何組目かわからないがステージに「ねこパンチ」という面白い名前のグループが出てきた。どう見ても中学生くらいなのだが、俺の後ろで座って眺めていた男がいきなり立ち上がって拳を振り上げて盛り上がってるぜ。思わず苦笑してしまったが、曲をよく聴いてみたら良い曲だな。ああ、アイドルって活動出来る期間なんて短いだろうなという事は素人の俺でもわかる。オタクは浮気性だろうしな。そういう儚い現実を歌っている中学生たちに俺はついつい耳を傾けてしまったぜ。

ねこパンチ 2期生 / Moon Light Flower


 そのあたりが「きっかけ」になったんだろうか、段々とライブが面白くなってきた。彼女達は地下アイドルなんだろうけど、俺が思っているよりは上手い。百人はいないだろうなという観客たちも楽しそうだ。俺は楽しそうな人間を観るのは好きだ。会社の頭の堅いわからず屋どもより、ここのオタクたちの方がよっぽど人間じゃないか?

 そんな風にライブを肯定し始めた頃、ステージにちっちゃい女の子二人組が現れた。ちっちゃいけど高校生くらいか?とてもパワフルでキャッチーだ。そして、またサビに合わせて観客が左右に動いている。何杯目かのバーボンを片手に観ていた俺はバーボンを吹きそうになったぜ。でも、なんだか可愛いな。なんだか楽しそうだな。

イニーミニーマニーモー / 無敵だヨ!Yes we can!


 次々とアイドルが出てくるから、もう何組目なのか、何時間やっているのかなんてわからなくなっている。腕時計は敢えて見ない。ライブ中に時計を見るのは野暮だろう?
 「多国籍軍」という名前のグループが出てきた。なんだかすごい名前だな。クレーム来ないのか?というか、茶髪の子ハーフかと思ったら日本人で、黒髪の和風な感じの子がハーフなのか。俺もいつしかアイドルたちのステージトークを真面目に聞くようになっていた。そして、多国籍軍って物騒な名前の子達は歌も曲も良いな。気に入ったぜ。

多国籍軍 / 暖かなあの道


ウルトラガール / 正義の見方


 「ウルトラガール」という正義の味方な女の子たちのダンスのキレに驚いた頃には、俺もついには立ち上がって観ていた。中学生相手に立ち上がっていた男の事を苦笑していられないな。もう、踊るアホウに観るアホウだ。
 だけど慣れないライブという娯楽に少し疲れ始めていた頃、ステージには元気を届けるアイドルという「Power Spot」というグループが現れた。タイミングいいな。いい演出だ。少し元気出てきたぞ。いや、何曲目かのマイムマイムのメロディを組み込んでいるナンバーを聴いていたら本当に元気になってきたんだ。みんな力一杯踊り歌っている。健気だな。

パワースポット / パワー上昇


 俺はやっと気づいてきた。なんでこの狭い空間にオタクたちはやってきてアイドルを楽しんでいるかって事を。彼らにとってアイドルは元気の源なんだな。だって観ているだけで、何にも知らない俺だって元気になってきたんだ。会社のストレスは何が原因だったっけ?もう忘れたぜ。

 ステージには一番最初に出てきた「ねがいごと」が出てきた。営業職を長年やってきた俺は人の顔を覚えるのは得意だ。名前はともかく、顔は覚えてきたかもしれない。もうすっかりペースにハマってしまったんだろうな。
 聞き覚えのあるイントロが聞こえてきた。最初の方でオタクたちが左右に動いていた曲だな。あの頃は俺は完全にビジターだったけど、数時間ライブを見続けてきた俺はもう違うぜ。バーボンの力を借りて、騒ぐのは苦手で宴会でも静かな俺が前に入り込んでいった。観客はどうぞどうぞという感じで俺を招き入れて、その輪に仲間入りした俺は気づくと一緒に左右に動きながら雄叫びを上げていた。

ねがいごと / ね・が・い・ご・と


 「アイドルって面白いじゃねえか。地下アイドルってやるじゃんか」俺は帰りにロビーと呼ぶには小さなロビーもどきの空間に設けられた売場でアイドルからCDを買っていた。そして、何時間か前の店員の言葉を思い出していた。
 「今日は誰を観に来ましたか?」
 「全員だ」今の俺はそう力強く答える事だろう。

(この記事に出てくるライブの描写およびアイドルは実在しますが、主人公とその設定はフィクションです)

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全員で青春ソング

2012-11-27 22:17:58 | ハロプロ(℃)

 初めて「青春ソング」を観たのはアルバム発売直後のツアーだから、そのバージョンは勿論矢島舞美ソロバージョンです。リズミカルなタテノリに合わせて元気よく踊り歌う舞美ちゃんの姿は、まさに「彼女にぴったりなナンバー」と思わせてくれるものがありました。CDで聴く以上に、生で観た時に感じる躍動感は素晴らしく、今後のツアーでも観たいと思ったものです。
 しかし、℃-uteのアルバムのソロ曲、デュエット曲はライブでは定番曲にならない事が多く、残念な予想を抱きながら次のツアーを待ったのです。

 ところが、曲自体はその後のツアーでも歌い継がれた。矢島舞美ソロナンバーとしてではなく、℃-ute全員で歌うメンバーとして。

 それからは全員で歌うスタイルが定番となり、気がつけば「この曲は全員で歌うメンバー」という存在になりました。更には今回のベスト盤に全員で歌うバージョンが収録されました。
 この流れを振り返り思うのは、曲というもなはライブを通じて変化していくものであり、そのためにもライブをたくさん行なっていくというのは間違いではないという事。お客さんが来なければ商売になりませんから、むやみにライブをたくさん開催するべきとは言えないけれど、曲を変化させていくという流れを目の当たりに出来るのもライブを追っていく人間の楽しみではないかと思います。

 「青春ソング」がライブで好評となった理由は単純にノリの良さが一番でしょうが、ライブでおなじみの大サビ大合唱が楽しかった事。そして、それが映えるのはやはりソロよりも全員で歌うスタイルである事。そういう要因がうまい具合に活きて曲を思わぬ方向に導いた。そんな好例かなと思います。

℃-ute 『青春ソング』 (LIVE)


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「サラバ、愛しき悲しみたちよ」

2012-11-26 22:40:54 | アイドル etc

ももいろクローバーZ「サラバ、愛しき悲しみたちよ」MV


  出場者が決まってから紅白の是非や出場者選考に対して何かを言うのはカッコワルイと思うので力説はしないけれど、マスコミの権威を自認する権威が選ぶ「一番組の出演者」に特別な権威をファン側が付けるような事はやめてほしい。「なぜ選ばれないんだ?」なんて言っている時点で権威に飲み込まれている事に気づくべし。そもそも、選ばれている人達はみんな大きい事務所に所属する歌い手さん。「権威が選ぶ権威の人達」の輪の中に自分の応援するアイドルを送り込みたい?私には理解出来ないのです。ちなみに、知名度の面では大して効果はない事はもうわかっていますし、以前その事は記事にしました。

 さて、ももいろクローバーZさん紅白出場おめでとう!これは素直にそう思う。権威だなんだ以上に、そこに行き着くためのストーリーを描いていた者が目標を達成した事は尊い。いや、実は今回は間違いなく出ると思っていた。メンバーが大麻で捕まったりしない限りは。そして、そんな事はありえないから、あとは発表を待つだけだろうと思っていた。
 ももクロはその書き上げているストーリーの中に「紅白」というキーワードは既にちゃんと用意されていて、無名時代にNHKホールの前で路上ライブもやっている。数年越しの壮大な大河ドラマが一つのクライマックスを迎えた。今はそういう状況。このあたりの覚悟とか下準備がモーニング娘。にはなかった事は確かで、かつてはテレビの企画に乗ってデビューして、テレビの描いたストーリーに乗っかりながら話題を提供していった過去を持つ(そして、その頃は絶大な人気を誇っていた)モーニング娘。が今は失ってしまった部分であります。それは、あえて失ってみせたのでありましょうが、テレビで目立ちたければそういうギミックであったり、ハッタリとかは大事なのです。
 つまり、テレビの舞台で映えるのはどっちか?と問いかけられれば、私だって娘。よいもももクロを推します。紅白というハレにはギミック満載のももクロは相応しい。

 そんなももクロは売れっ子らしく作家も豪華になっている。相対性理論のやくしまるえつこさんを引っ張ってきたかと思えば、今回は布袋寅泰さんが作曲。サウンドもそれっぽい音に溢れている。
 私はたまに思うのですが、ハロプロにアップフロント所属ではないミュージシャンが書いたらどんな感じになるだろうか?という妄想。布袋さんがもしモーニング娘。に書いたらどんな曲が出来上がるのだろうか? いや、ハロプロイコールつんく♂サウンドなのであるという事は理解しているけれど、そういう妄想が本当に妄想で終わってしまう事のほうが余程「紅白にももクロは出るが娘。は出ない」事より大きい差であり、それは是か非かを問う事の方が語るべきテーマな気もするのですが。
 この新曲の作詞がかつてBuono!でハロヲタにも好評を得ていた岩里祐穂さんであるという事を知り、私はますますハロの音楽制作に関して歯がゆい想いを抱いているのです。

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脱シングル集なアルバム

2012-11-24 11:29:20 | ハロプロ2012-2014

?℃-ute神聖なるベストアルバム「神聖なるPerformance Video集」ダイジェスト


 CD売上が接触イベントの数や内容て上下する時代、アルバムでもイベントは行われたりするけれど、さすがにシングルの数倍の価格のアルバムで複数買いを誘導するのは難しいらしく、最近のアイドル運営はアルバムを発売するという事に関して消極的なような気がします。あれだけのシングル売上を記録していながらAKBがアルバム発売ペースを超鈍足にしているのも、シングルほど売る事に旨みがないのかもしれません。
 そもそも、最近のアイドルの傾向としてはアルバムはシングルを中心とした活動の集大成であるような作りのものが多く、アルバムを買う事でベスト盤を手に入れたような満足感を得られるような作りになっているケースが多いようです。
 本来は人はそれを「ベスト盤」と呼ぶであろう内容のものがニューアルバムとして店頭に並ぶ。ヲタはイベント参加のために既にシングルは揃えているから、そんなベスト盤みたいな「ニューアルバム」はあまり興味は持てなくても仕方がない。

 その点、ハロプロは年に一度はニューアルバムを発売する。ベスト盤は何年かに一回のペース(今週は℃-uteのベスト盤が発売されました)。買う側もニューアルバムに収録されるアルバム曲も楽しみだったりするし、そのアルバム曲がコンサートでのお楽しみであったりもするのです。

 アルバムって本来は一枚の中に何かしらのコンセプトを用意して、それを表現して一枚に凝縮するというものではないのかな?と思う私には、最近のアイドルのアルバム軽視、というか持ち歌を並べただけのようなハーフベストなアルバムの作りは少し残念であります。以前娘。やベリが出していた季節コンセプトなミニアルバムとか、ハロプロとして出していたカバーアルバムとか、そういうコンセプトがわかりやすい「単なるシングル集とおまけ数曲」ではないアルバムがアイドル界にもっと増えればいいのにと思います。

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田中れいなバンドという入学式

2012-11-20 21:36:21 | ハロプロ(娘。)

 その話を知った時に何故か頭の中にギターが激しく鳴り響いていた。まだどんなメンバーがいて、どんなサウンドを聴かせてくれるかもわからないのだけれど、何故かハードロックが頭の中で鳴り響いていたような気がする。

 あまり驚きはなかったのは、きっとバンドを結成するという決定事項が既にあったからだろうと思う。ただバンドを結成するというだけで、まだどんなジャンルを志向して、どんなコンセプトで活動をしていくかはわからないけれど、なんとなくサウンドの方向性は予測出来る。そこしかないという確信めいた予測。

 モーニング娘。はアイドルであり、歌手である。改まって書くのは、今まで卒業していった何人ものメンバーの中で「本業歌手」として活動を続けていけた人が少ないからで、それは多分ソロである事から後からいくらでも軌道修正出来る身軽さ、或いはソロであるからいくつも「副業」を増やせる身軽さがあるからだろうと思う。安倍なつみさんが良い例で、歌手として活動をしていきながら舞台の仕事も積極的に取り組み、現状に照らし合わせながら軸を変えていった。

 さて、れいなはこれからも歌い続ける。ソロではなく、今度はバンドとして歌を歌っていく。勿論バンドを続けながらタレント活動も出来るが、やるからにはバンドに集中してほしいし、音楽に生きてほしい。おそらく本人も今は歌を歌っていく事しか頭にない筈だと思いたい。これはベストな選択であり、ベターな卒業なのだ。
 私は密かに期待している。モーニング娘。を卒業した後でも歌手として売れる道はあるのだという実例を、れいなが作ってくれる事を。そういう人がいる事でモーニング娘。の存在意義が見えてくるのだ。モーニング娘。は歌手なのだから。
 今の時代、もはやCDが何枚売れたかで競争しているのはアイドル界だけである。音楽としてのツールはCDに限った話ではないのだから、本来アイドル歌手は様々な手法で歌を届ける事が出来るのだが、チャートという概念がそれを許さないのが現実なのである。
 しかし、バンドを結成して売っていこうというその先には、握手会商法などといういかにもアイドル界な短距離走を用意しているとは考えにくいし、あくまでライブを精力的にこなし、そこで儲けを生み出していくのだと信じたい。これはれいなにとって、現役モーニング娘。メンバーにとって素晴らしい道筋ではないか。

 卒業という言葉にはどこか感傷的な響きが付随するけれど、田中れいなモーニング娘。卒業は本当の意味での発展的卒業、未来に向かう卒業、音楽と売上という理想と現実への新たな挑戦に挑む卒業、そういう前向きなものなのだ。全力拍手で送り出したいという意味で、こんなにも力強く気分を高揚させられる卒業は、もしかすると初めてかもしれない。学校を卒業して社会に出る時、不安はあったとしてもそこに感傷的な思いはいらないように、れいなバンドの未来を明るく迎えるものと受け止めたい。これは卒業式より入社式なのだ。

田中れいなバンドメンバー発表! モーニング娘。


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nerveな日々

2012-11-16 23:09:07 | アイドル etc

 少年はトレーディングカード、つまり通称トレカを集めるのが趣味だった。戦闘能力の高いカードやレアカードも勿論持っていたが、少年が特に愛しているカードは地味ながら個性のあるキャラのカード。目立っている人間が嫌いなその少年は、趣味の世界でも目立たない存在を溺愛した。
 少年は友人がいないから、せっかく見事なまでのカードコレクションを持っていてもそれを披露する機会はなかったが、少年にとってカード趣味というものは好きなカードをじっくり眺めて楽しむという意味であり、潔癖症な少年は必ず専用の手袋をはめてカードを見た。
「誰にもこのカードは触らせない」
 少年は毎夜カードを眺めては孤独な時間を恍惚の時間へ変えていたのだ。

 ある日、少年はカードが劣化しないようにするためにラミネート加工をする事を思いついた。ラミネート加工を施せばカードは汚れないし、色褪せたりもしない。永遠にその輝きを維持できるのだ。少年は自ら考えたこのアイデアに酔いしれ、専門店に出向いてラミネート加工を施した。
 ラミネート加工をしたあとも少年は手袋をしてカードを扱っていたが、以前よりずっと精神的には楽になった。
「もう、これで汚れる事はないんだ。永遠にまっさらなままなんだ」
 少年の孤独で恍惚の時間はますます充実の時を刻んでいくかと思われた。

 しかし、一週間ほど経つとカードに異変が起き始めた。印刷が落ち始めたのである。カードに使われていたインクか、或いは印刷方法がラミネート加工には合わなかったのか、文字や絵が霞んでいくのだった。
 少年はショックのあまり一心不乱でラミネートを切り元の状態に戻したが、もう手遅れであった。カードは以前のカードではなくなっていた。
「なんで!なんでなんだよ!あんなにお金を使ってきたのに。なんでなんだよ」
 少年は色褪せたカードを床に無造作に並べながら涙を流した。

 それから一週間も経ったかどうかというある日、少年は河原でコレクションしてきたカードを燃やすと、そのまま駅前のCD屋に足を運んだ。手にしたCDには週末行われるイベントへの参加券が封入されている。少年はイベントに参加してメンバーと握手をするつもりだ。勿論、アイドルと握手をするのは初めてだ。彼は新たな生き甲斐を見つけた。対象がカードという人工物からアイドルという生身の人間に変わった。
 家に変えると少年はCDに付属してきた特典生写真をいつものように手袋をしながら手にとり、薄笑いを浮かべた。新たな孤独で恍惚の時間が始まったのだ。
「さすがに人間をラミネートするようなヘマはしないからな」
 少年は止まらない頬の緩みを押さえようともせず、たくさん妄想をした。まだ、妄想の先に、いや妄想と同じ時間に大好きなメンバーが想像を超えた世界に身を流している事は当然知らない。

nerve/BiS(MV+live)

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地域スポーツの方向性

2012-11-13 23:06:52 | サッカー

 ~前回からの続き~

http://www.j-league.or.jp/aboutj/pdf/aboutj.pdf
(PDFファイルですので注意)
 Jリーグは何故チーム名から企業名を外す事を義務づけているか、何故クラブが活動をしている地域を「フランチャイズ」ではなく「ホームタウン」と呼ぶのかについて書いてあります。
 プロスポーツクラブは活動をする地域から利益を受け、その利益を活動で還元する。これは世界の常識であり、ほとんどの国のプロスポーツはそのように運営されています。例外は東アジアの、というか日本と韓国に存在するだけと言っても過言ではありません。
 地域に根差した活動というものは公共活動とも言える訳で、その活動が地域にとってプラスになるものであると判断されるものであるならば、プロスポーツクラブの資本に税金を投入することは間違った事ではありません。税金を使って債務超過を解消したりするのは非常手段であり歓迎すべき事ではありませんが、市民が健全に楽しめる娯楽の場を提供する事に税金を使うのは、公園や音楽ホールや図書館と同じような事業であり、計画性がしっかりしたものであれば何も問題はありません。
 いや、プロスポーツは興行である以上は民間企業がお金を全面負担するべきという考えもありますが、民間企業が全てを出資して事業としてプロスポーツ運営を行えば、それはその瞬間に永続的なものである保証はなくなります。それは企業の都合で活動の方向性が決まる事になるからです。企業の経営が苦しくなればスポーツにお金を使っていくのが容易ではなくなります。
 あまり一般には知られていない事例ですが、実はJリーグでもプロ野球のように運営会社が変わったケースがいくつかあります。これはプロ野球の場合はイコールで金銭的責任を負う企業、つまり親会社が変わるので「身売り」と表現されているものであり、それゆえにチーム名も同時に変わりますが、Jリーグの場合は運営会社が変わってもチーム名は基本的には変わらないのでニュースにはなりにくいようです。
 しかし、このチーム名が変わらないという部分が「プロスポーツは誰のものであるか?」を如実に表しており、企業スポーツのデメリット部分をも表しています。企業スポーツであればチーム名が変わるからです。プロ野球のパリーグのチームを応援している人ならばわかりやすいとは思いますが、イメージしにくいという人は読売ジャイアンツや阪神タイガースが身売りしてチーム名の頭にある企業名が代わったらと想像してみてください。喜ばしい事ではないとは感じられると思います。

 現在、Jリーグは40クラブが存在しています。更にその下のリーグにもJリーグ入りを目指して活動をしているクラブが20以上あります。それだけ多くのクラブが生まれ、そのクラブが大都市だけでなく地方からもたくさん誕生しているのは、ひとつの企業の財力に頼るのではなく、複数の企業、地元の自治体の協力があってこそであり、その仕組みが構築されてきているからなのでありましょう。そのノウハウがしっかり完成されていれば景気や収支の変動に合わせてやりくり出来て、そのお金が地域社会に循環していくのだと思います。

 スポーツに限った話ではなく、興行というものと、それを運営する事は多角的な方向から取り組んでいく時代になってきているのだと思います。
 ~この項 おわり~

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サッカー界と企業チーム

2012-11-12 23:39:58 | サッカー

 ~前回からの続き~

 先日、Jリーグが早ければ2014年からJ3を立ち上げる事を発表しました。今年からJ2とJFLとで入れ替えがスタートし、昨日の試合でJ2最下位が決定した町田ゼルビアがJFL優勝のV・ファーレン長崎と入れ替わりJFLに降格、長崎がJ2に昇格をする事になりました。
 サッカーは上から下のリーグまで入れ替えが毎年行われているシステムになっているので、J2とJFLが入れ替えを行なう事自体は自然な成り行きでありますが、問題なのはJFLがアマチュアチームが多数所属するリーグであり、アマチュアサッカー日本一を決めるリーグというコンセプトがある点。下のリーグからJリーグを目指してJFLに上がってきたチームは順応出来ても、プロリーグであるJ2から落ちてきたチームは財政的にも苦しくなる。そこで救済策としてJ3を作り、JFLからプロクラブ、セミプロクラブをそちらに移管する方向を打ち出しました。J3がスタートすると今後はJ2とJ3による入れ替えとなります。
 長年日本のアマチュアスポーツを支えてきた企業スポーツは衰退傾向にあり、地域密着型のクラブへの移行が進行していないスポーツはどんどんチーム数が減り、リーグ戦の運営が苦しくなっている。サッカーも企業チームが減りつつあり、クラブチームが年々増えている傾向があります。今年のJFLは17チーム中、企業チームはソニー仙台、Honda FC、佐川滋賀、佐川印刷、ホンダロックの4チーム。この中から佐川滋賀が廃部になる事が決定しています。
 JFLへの昇格を賭けた全国地域リーグ決勝大会という大会が間もなく始まりますが、今年出場する各地域リーグの代表は遂に企業チームが0という事態になりました。
(2012 全国地域リーグ決勝大会出場チーム。ノルブリッツ北海道 福島ユナイテッド SC相模原 サウルコス福井 FC鈴鹿ランポーレ アミティエSC デッツォーラ島根 FC今治 FC鹿児島 FCコリア バンディオンセ加古川 ネクストファジアーノ岡山)

 地域リーグを勝ち抜いてきた代表チームからも企業チームが消えた今年。この流れは今後どうなっていくのだろうか? ~次回へ更に続く~

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企業がスポーツから離れる時代

2012-11-07 20:31:39 | サッカー

 アイドルも事務所の色が強く出過ぎるとヲタは拒絶反応を抱きやすくなるように、スポーツチームも企業色が強いと支持を得にくい。この10年、いや20年くらいの間、毎年企業のスポーツチームの消滅の話題がニュースになっている。多くは社員として選手と契約させてスポーツを行わせているアマチュアチーム。会社名が新聞やスポーツニュースに出る事で宣伝効果を狙ったり、企業のイメージアップのために「広告費」として割りきって企業はスポーツチームを所有してきました。
 しかし、少しでも経費を抑える事が経営安定のための良策として、スポーツチームの「広告費」は削減しようという動きが広がった結果、多くの一流企業はスポーツチームを手放していきました。それはアマチュアチームだけにとどまらず、プロ野球やJリーグでも親会社として参画していたチームから撤退した企業もあります。

 スポーツにお金を出すという事が大口スポンサーとして行なうよりも、大会スポンサーであったり、Jリーグが推進しているようにたくさんの企業にスポンサーを募るような方向に企業がシフトしているとも言え、プロ野球のような一社による親会社経営は企業としてもハードルが高いものとなりつつあります。実際、プロ野球に新規参入してくるのはベンチャー系です。

 サッカーJリーグの下に位置し、アマチュアが参加するサッカーリーグとしては国内最高峰であるJFLに所属している佐川急便滋賀が今期限りでチームを廃部する事を先日発表しました。理由としては、やはり経費削減が挙げられていました。
 現在JFLにはチームが17ありますが、佐川滋賀廃部により企業チームは残り4チームとなりました(ソニー仙台、ホンダFC、佐川印刷、ホンダロック)。JFLの下に位置する全国地域リーグの優勝チームなどが集まりJFLへの昇格を賭けて行われる全国地域リーグ決勝大会、今年は参加12チームに企業チームはありません。Jリーグを目指しているチームか、アマチュアクラブチームです。つまり来年のJFLは企業チームは3チームという事になります。
 そういうタイミングだから出た話なのか、J3リーグを作る計画がいよいよ表面化しました。今年からJ2の最下位とJFLの上位チームとで入れ替えが始まりますが、J2から落ちてきたチームの救済としてJ3を作り、現在JFLに所属しているJリーグ参加を目指しているチーム、地域リーグに所属しているJリーグを目指しているチームを集めてJ2の下にもJリーグを作ろうという訳です。
~続く~

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若者のすべて

2012-11-05 22:20:38 | アイドル etc

 新潟県は意外と地方アイドルの活動が活発な県で、現在活動中のグループがいくつもある。これはおそらく、地方アイドルの先駆者の一つであるNegiccoの存在が大きいのだと思う。彼女達が地道に何年も活動をしてきた事が新潟県の地方アイドルにとって励みになり、良き手本になっているのだと思います。

 そんな新潟県でRYUTistというグループが活動している。新潟市古町にあるライブハウスで定期的に公演を行い、レパートリーをどんどん増やしている。つまり、音楽面に力を入れているアイドルグループだ。
 力は入れているけれど、まだまだ実力は発展途上でステージングには拙さもあるかもしれないけれど、彼女達は非常に真摯な姿勢でステージに上がっているのはわかります。TIFで歌う姿を観た私は、その姿に胸を打たれました。

 新潟市は近年政令都市になったくらいの大きな街で、大勢の人々が通りを行き交い、道路には次々と車が走りすぎていきます。そんな新潟の街の玄関口である新潟駅には万代(ばんだい)口と南口があります。元々栄えていたのは万代口で、南口は閑散としていて別世界でした。万代口からは信濃川の手前に万代シティという場所があり、そこには伊勢丹やダイエー(現在は撤退し別なテナントになった)があり、信濃川を渡ると本町という古い歓楽街になり、やがて道路はいくつかのアーケードと交差する大きな繁華街に出ます。そこが古町(ふるまち)です。地元の人は「ふ」にアクセントを付けて呼びます。
 その古町は年々衰退しているという。かつては新潟市最大の繁華街、すなわち日本海側の街で一番の繁華街であった古町が時代の流れに飲まれている。今や南口のほうが栄え。大きな店がたくさん出来ている。
 地方都市の多くがそうであるように、新潟市も自動車社会です。バス路線がたくさんあり、地方都市の中ではかなり路線バス網が発達している新潟でさえも、時代の流れで人々は自家用車で郊外にある大型ショッピングセンターに出かけて買い物をするようになりました。かつては日曜日の夕方は、路線別に乗り場が分けられている古町のバス停には買い物袋をたくさん抱えた人達が列を作っていたものでした。

 TIFでRYUTistは持ち歌をいくつか歌いました。まっすぐな瞳で歌うメンバー。じっと聴き入る観客。私はある曲の歌詞に「花火」と出てきた瞬間、夏の一大イベントTIFと新潟の夏の一大祭りである信濃川の花火を重ね、ステージの向こうにいろんな風景を思い浮かべました。

若者のすべて 【カバー】



 RYUTistの公式サイトはとても良く出来ていて、プロフィール画像が可愛いというアイドルとして大切な事をきちんと押さえ、更には全公演セットリスト一覧のページ。RYUTistはライブでたくさんカバーをやっているのでそのカバー曲一覧。更には全オリジナル曲の歌詞を紹介したページまであります。
 これは運営がアイドルとアイドル音楽というものに真剣に取り組んでいる証拠であると私は強く思う訳です。きちんと作品を大切にしているという事。そういう姿勢がステージにも表れるのでしょう、RYUTistのステージはとても清々しく、とても爽やかで、そこに「花火」というキーワードがノスタルジーをかきたてる。

RYUTist 公式サイト
http://ryutist.jp/

 「花火」を歌った歌は実はオリジナル曲ではなくカバー曲であると後日知りました。フジファブリックの「若者のすべて」というナンバー。そして、そのRYUTistが歌うカバー版「若者のすべて」がアイドル音楽に詳しい人達の間では高評価である事も知りました。

 アイドルグループというものは今観ているメンバーでまた来年も同じものが観られるとは限らない。旬が短い女性アイドルというジャンルは人の入れ替わりも激しい。私はTIFの時になんとなくそれに気づいていたのかもしれません。「今年の夏の花火は今年の夏でしか観られない」という事を。

 RYUTistは昨日行われた公演で、メンバーの一人である木村優里さんが次の公演をもって卒業する事を発表しました。

 RYUTistの代表曲であり、RYUTistのテーマソング的な存在でさえあるのが「ラリリレル」というナンバー。歌詞は好きな人とまたここで会おうねという約束の歌。私はその約束を待っているという想いを歌う歌。少しずつ成長していくよという誓いの歌。公式サイトにある歌詞をじっくり読みながら、RYUTistと会えて、何かを思い出した夏をリプレイする秋です。
 やがて新潟は寒い冬が訪れる。けれど、その先には雪解けと一緒に春が待っている。

【RYUTist】ラリリレル

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