フリージア工房 国道723号店

ハロプロメンバーを応援してアイドル音楽を愛するエッセイブログ

秋を旅する~玖珠町の西日~

2007-10-15 22:26:30 | 町と旅
昔、東京パフォーマンスドール(TPD)が好きで特に穴井夕子のファンだった私は、オリコンの誌上で穴井ちゃんの故郷が大分県玖珠(くす)郡玖珠町と知り、出かけてみようと、ある九月の日に旅立ったのであった。

高校の修学旅行以来の九州に気分が舞い上がりながら、長崎~熊本~大分と周り旅三日目の夕方にJR久大本線豊後森(ぶんごもり)駅に着いた。西日の差すホームに隣接して草むした空き地があり、そこに使われていない朽ち果てた煉瓦造りの機関庫があった。そのなんとも言えない淋しい眺めを横目に、小さな駅前広場に出た。
今晩の宿をまだ決めていなかったので電話帳を見ると、玖珠町にはホテルは無さそうなので、一軒の旅館に電話を入れた。

宿泊場所が決まり安心したが、まだ夜には少し早いので、玖珠町散歩を開始した。オリコンに紹介されていた穴井ちゃんの通っていた学校などを見て回る。小さな盆地町の玖珠町は、歩きでも大体を見て回れるくらいの規模だったが、駅から学校の辺りまではポツポツと人家もあり、時折人とすれ違った。西日に照らされる小さな学校と小道。ここからアイドルが生まれたのだ。

歩いているうちに日が暮れてきたので、駅近くの居酒屋に入った。飛び込み客なので夕食は無いと、旅館への電話で告げられたからだ。
しかし、店のメニューには、これといった変わった物がなく、あまり長居する事なく店を出た。味はまあまあだった。
少し物足りない気分で、酒屋で玖珠郡の地酒を買い旅館へ向かった。山が近いからか、日が沈むと九月と言えども肌寒かった。

旅館は民宿みたいな小さな旅館で、電話の時より愛想の良い女将さんというか、この家の奥さんに迎えられ部屋へ入る。宿泊客はあまりいないようだった。
十人くらいは寝られそうな広い部屋に荷物を置き、女将さんに案内されて風呂に入る。田舎の家庭の風呂的なサイズの風呂でくつろぎ、部屋に戻りテレビをつけると、隣の部屋から突然女性の「キャー」という声が聞こえた。何事かとしばらく身構えていると、突然その隣の部屋から別なトーンな女性の声が聞こえてきた…。
まだ八時なのにと、苦笑いしながら先ほど買ってきた地酒を飲むために、女将さんからコップを借りようと下に降りたら、今度は女将さんが台所にいる自分を見て驚きの声を上げた。
一人旅の者が観光地でもない町にやってきて旅館に泊まると、傷心の旅の果てに…な事をしでかさないかと心配されるらしいと聞いてはいたが、その驚きぶりに、こちらもビックリだ。

コップを借りて一時間ほど酒を楽しんだあと、自宅に電話をかけるために再び下に降り、今度は女将さんを驚かさないように一声掛けた。
土間にあった旅館用の外線電話は、一旦オペレーター相手に、繋いでほしい番号を伝えるシステムになっていた。まるで海外通話みたいである。
電話を済ませて、女将さんにお礼を述べると、女将さんが「もしかして横浜のほうの方ですか?」と聞いてきて立ち話が始まった。
オペレーターに告げた市外局番が、という女将さん。聞けば、娘さんが就職で玖珠町を離れて、横浜で一人暮らしをしているのだという。若い人はみんな大人になると都会に出てしまうのだと、女将さんは寂しそうな横顔で話した。私の脳裏には穴井ちゃんの姿がダブって浮かんでいた。

翌朝は、西日に負けないくらいの朝日を期待していたのに曇り空だった。朝食のテーブルを隣合わせた、昨夜の隣のお騒がせ宿泊客は、中年男性と三十代くらいの女性だった。観光地でもない所に宿泊するような客は自分も含めて、人様には説明し難い旅をしているようである。

今回のBGM HISTORY / 穴井夕子
コメント (3)
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