さいふうさいブログ

けんちくのこと、日々のこと、いろんなこと。長野県の建築設計事務所 栖風采プランニングのブログです。

蚕室の補修工事~簓子下見板張り~

2018年06月01日 | 現場20~東御市海野宿 S宅蚕室補修工事

6月になりました

二十四節気では小満の終わる頃。

小満は「万物盈満(えいまん)すれば草木枝葉繁る」(暦便覧)とあるように

万物、命が満ち満ちでいくころで、

鳥や虫、そして獣や人間、草木も花々も皆、キラッキラに輝く季節なんでしょうね

 

実際、ここ最近の私の朝の日課は、

まず庭に出て、鳥の賑やかな囀りを聴きながら庭を見て周ります。

忙しない虫達の姿があったり

黒大蟻の羽蟻。(5/15)

ぶんぶん沢山の黒大蟻の羽蟻が舞ってたので驚きました

蜂かと思ったくらい大きい羽蟻。調べて黒大蟻だと分かりました。

偶然にも結婚飛行に出くわしてしまったみたいです

  

ジューンベリー 

ちょうど今が旬で、実が赤くなってきたところですが、

この通り、いつも葉っぱが丸く切り取られていて、誰の仕業なんだろうと思ってたら

君だったのね(笑)

ハキリバチ(葉切蜂)

切り取った葉っぱを携えているのが分かるでしょうか。どこに運んでいくのかしら。

   

カエルやトカゲ(←この絵はヘビだけど 笑)がそこら辺に居たり

居心地のいい場所を見つけるのが得意なのね。

 

 

GWの時に植えた野菜の種や苗の生育を観察したり

ズッキーニの芽

  

庭先に生えてる食べれる山菜野草やイチゴを摘みつつ

タケノコと野蒜

庭に蔓延る竹藪を、これ以上何とか増えないようにタケノコを採って食べる、そんな季節


庭に元々生えてた自生イチゴ。全く手入れもしてないのに、毎年実をたくさんつけてくれます。

自生イチゴとジューンベリーの収穫。

イチゴはジャムに。ジューンベリーは専ら生食で。

  

そして、雑草に覆われ始めた屋敷の草取り・・・

そんな感じな日々デス

  

 

更に七十二候でみると、小満の初候(5/21~25頃)は蚕起きて桑を食う

ブログを書いている今日は小満の末候(5/31~6/4)で麦秋至る。

私の暮らしている信州は寒冷なので、七十二候の季節より遅い感じ?

だとすれば

ちょうど今時分が蚕起きて桑を食う頃だったりするのでしょうか?

(でも今年は季節の進みが例年より10日くらいは早い感じ

 


  

さて、ここからが本題になるのですが

(いつも前振りが長すぎですね

  

実は数年前から、近所の蚕室を借りて資材置場として使わせてもらっています

(海野宿内の建物です)

蚕室の近くで、ちょうど桑の実がなっておりました♪

桑の実。

既に鳥達に殆ど食べられていて、残りものをちょっとだけ失敬してつまみ食いしてみると、とても美味しい~

 

この桑の木が蚕室近くに植わっているという事は、養蚕の名残でしょうか。

正しくその昔、この地域で養蚕が盛んだった頃、

ちょうど今頃は、蚕起きて桑を食う だったのかもしれませんね☆

  

 

桑の葉。

お蚕さんの餌だったのよね~

 

 

そしてこちらが資材置場として使わせて頂いてる蚕室です。

(海野宿 あづまや 蚕室)

およそ3年前の2015年6月 屋根の補修してる時の写真です。

  

こちらの屋敷は何年か前から空家になってまして、

売りに出ていたのを現在の所有者Sさんが買われたものです。

  

私共の家からすぐ近く(同じ組内)の建物でしたので、

不動産売買情報にこの家が出てると聞いた時は、正直驚きました

そして調べたら、既に売却済み。。。

どんな方が買われたのだろう、と思っていたところ

Sさんから改修のご相談等の連絡をいただきまして(2014年)

それ以来、この屋敷には何かと出入りさせてもらっております

(Sさん、いつも色々と有難うございます) 

 

 

蚕室出入口 (2018年 現況)

  

この通り、蚕室の出入口が壊れてほぼオープンな状況で、、、

私共の資材を置いておくには、ちょっと不安

 

また、この建物は観光客からもよく見える立地で、、、

ボロボロのシートが気になったりもする。。。

   

折角、Sさんのご好意でこの蚕室を資材置場として使わせて貰っているのですし、

この出入口両脇の壁を、私共で補修だけでもしておこうか

実は5月下旬頃より出入口付近のプチ補修工事を行っておりました

 

  

何故、このタイミングで蚕室のプチ補修工事なのかと言いますと・・・

  

上田で進行中の古民家改修の段取りの兼ね合いで、

大工さんにお暇を与えないよう、というこちらの事情もあったり

  

一方で、 

  

佐久で進行中の古民家再生で設計に盛り込まれている「簓子下見板張り」のために

簓子を作る曲面桟加工機をうちの旦那さんが購入しまして

(佐久の現場では、工期が大幅に遅れているので、工具をこちらで用意して大工さんに貸すなどして単純作業の効率化を図る作戦です)

佐久の現場でいきなり新たな道具を使う前に、自前の工事で試しに使ってやってみるか

という事でもありました

   

で、その購入したマシーンがコレ↓です・・・

簓子を作る曲面桟加工機 ちょっと高かった 

  


   

ところで簓子って何?!と、

まず読みからして分からない方が多いと思いますので、

一先ず、「簓子下見板張り」に関連する建築用語の説明をしたいと思います。

  

まずは簓子ですが

簓子ささらこ)と読みまして、こういう部位 ↓ の事を指します。

 

『日本建築語彙』より

  

次に、「下見板」についてですが、

建物の外壁に、板材を少しずつ重ねてに張ったもので、

下図(左)のように「南京下見板」(「鎧張り」とも)と呼ばれます。

 

その下見板に縦に押さえ材(押縁や簓子)を加えたものを(下図 中央)

南京下見板簓子ささらこ)=「簓子下見

南京下見板+押縁=「押縁下見」

と呼びます。

 

「押縁」と「簓子」の違いは何かと言いますと(下図から判断すると)

押縁は、単なる角材。

簓子下見板に密着するように刻まれた(加工<羽刻>された)材

  

下図(右)は「ドイツ下見板」と呼ばれるものですが、

下見板の説明にあるような、板材を少しずつ重ねる のとは若干違い、

板自体に合決(あいじゃくり)の加工されたものを張ってます。

 

 

 図:『木造建築用語辞典』より

  

また、板材を少しずつ重ねて張ることを「羽重(はがさね)」とも言いますが、

今のような防水紙など化学工業製品が無い時代に

水が当たれば(入れば)、水を材に溜ることなく流して排出する原理として、

板材を少しずつ重ねて張ることがなされていた訳で

外壁の下見板の張り方同様、

勾配屋根の野地板でも、板を突き合わせて張るのではなく、羽重ねになっていたものです。

 

羽重とは

『日本建築語彙』より

  

 

佐久の古民家再生現場。現状の野地板は羽重です。

 

 

こちらは海野宿の我が家。

主屋の保存修理工事の際に、やり替えた野地板ですが羽重にしました。

 

 ちなみに、我が家の羽重はこれ↓

 


 

次に外壁の板張について少し考えてみたいのですが、

板の張り方には、縦と横があります。

 

縦張り、横張り、どちらにしようか、

現在では一般的に、好みやデザインで決められてる事が多いように思います。

 

一方で、伝統的な建物を見てみると

諸外国も日本も、縦張り、横張り、それぞれありますが

簓子下見板張りのような手の込んだ板張りは日本だけのよう?

 

どうしてこんな手の込んだ板張り(簓子下見板張り)を日本ではやるようになったのでしょうか

 

板張りを考える上で、まず、弱点を考えてみますと

板の一番の弱点は、板の形状から来る「くるい」じゃないかと思うのです。

 

木材の「くるい」『建築材料用教材』より

 

 

特に外壁において板材を使えば、雨風や湿気で「幅反り」と「反り」が顕著になるのは止むをえません。

 

板張りは、板を下地材に釘等で打ち付けて固定しますが

「幅反り」によって、釘が浮いてしまう事がしばしばあります。

そうすると、板張りに隙間を生じさせてしまう事にも繋がり

雨水が壁内に侵入することになりかねません。

 

板張りの下地材は、板の方向に対して交差するように取り付けられます。

(板が縦張りなら下地は横桟。 板が横張りなら下地は縦桟

 

もし板が反って隙間が開き雨水が侵入してしまった場合、

下地材が横桟ならば、そこに雨水が溜り、そのうち下地材が痛みます。

むしろ、下地材が縦桟らば、もし雨水が壁内に侵入してしまったとしても、

縦桟に沿って下方へ雨水は流れ、最終的には土台水切りから排出されます。

 

という事は、

下地材の事まで考慮すると、板張りは 横張り(下見板張)の方がいいのかもしれません。

  

実際、縦張りを計画した事がありますが、縦張用胴縁は横、外壁の通気胴縁は縦二重に胴縁を配置しました。

(横胴縁に通気用の欠き込みしてを施工している事例も見受けられますが、私はそのような事はやったことありません。)

 

また一方で、板材は部位によって吸水(毛管上昇作用)しやすいところがあります。

それは木口。木端や木表、木裏に比べ、吸水しやすい部位です。

板材における各部名称 『建築材料用教材』より

  

 

木材にとって、吸水は部分的に含水率を上げてしまいます。

そうすると木材を腐らせる腐朽菌の繁殖リスクが高まりますので

出来るだけ吸水は避けたいものです。

なので、一番吸水しやすい木口を保護したいと考えますよね。

 →木口を露出しないように納める。

 →小口が現われるのなら、小口付近に水の溜るような状況をつくらないようにする。

 →小口に現われるのなら、直接カバー、キャップする

  

一方、

もし吸水してしまったとしても、すぐさま腐る訳ではありませんから

水分をスムーズに放出できれば良いわけで、

ならば、木の組織構造上、繊維方向を上下にして(つまり木が立っていたように)使えばいい、という事になりますね。

だとすれば、板張りは、縦張りの方がいいようにも思えてきます。

  

結局、板張りは、横張りがいいのか、縦張りがいいのか、

どちらにも一長一短があり悩んでしまいますね

  

で、あれこれ考えていると、

 

もしかして、板張りの弱点を全て克服するかのような納まりが簓子下見板張りじゃないの!

今頃、この歳で気がついた

  

いかに小口を見せない納まりにするか、

いかに釘などの頭も出来るだけ露出しないようにするか、

とどのつまり、切ったくっつけた、そういう部分がネックになりやすいもの。

  

簓子下見板張り

良く見れば、木口も釘も、殆ど見えない納まりじゃないですか!

すごい、完璧すぎます

日本人って凄い~

  

横張りの下見板張りだけですと、釘の頭は露出しており、板の幅反りで釘が浮きがちですけども、その反りを簓子押さえられる!

横板の継目(木口)も簓子隠れる!

板の長さも、簓子で継目を隠せるので長物でなくてもいい!

それだけじゃありません。

施工方法、釘止め方法によっては板張りそれ自体が取り外し可能なパネルにもなる!

 

なんて欲張りで、完璧な造りなんでしょう~

 


 

では完璧とも言える板張り簓子下見板張り

伝統的な建築によく見られますね。

 

伝統的な民家の外壁は(地域にもよりますが)土壁で出来ており、

その土壁保護するように板が張られている事があり、

それに簓子下見板張りが多かったりします。

  

土壁保護するんですから、基本的には土壁を仕上げた後に、板を後付け、という事になります。

なので簓子下見板張りには取り外し可能な板パネルになっているものが多いのです。

 

例えば、これは我が家の場合ですが、大戸の脇の腰板が簓子下見板張りです。

御覧になって分かるように、板が汚くなってますよね。

これは道路からの水跳ねです

そろそろメンテする時期ですね・・・

 

この簓子下見板張り取り外し出来るようにしています。

インターホンを新設する時に腰板を外した様子。

  

土壁は仕上げてありますので、腰板が無くても仕上げとしては完了しています。

けども、

どうしても外壁の下部は、屋根の庇の高さ、深さによっても違いがありますが、

横なぐりの雨や、アスファルト道路からの水跳ねにやられてしまいます。

 

土壁は、今の新建材とは違って、水に強くはありませんので

板壁で保護して、板が痛めば取り換える、という事をしたのだと思います。

  

 

借りている蚕室の妻側外壁も、この通り簓子下見板張り

こちらの簓子下見板張り取り外し出来る造り(要するにパネル)です。

長年、手が入っていなく風化し痛んでいますね。。。

(しかしそれが絵になると言いますか、よくこの壁面を写真撮ってる観光客を見かけます。)

 

めくれ浮き上がってる所がありましたので覗いてみると、こんな感じ。

土壁にただ掛けてあるだけです。

土壁は板壁に保護されていたので、そんなに痛んでいる感じがしなかったです。

 

折れ金物のところに閂(かんぬき)みたいな木がありますが、

それでパネル状になってる簓子下見板張りを押さえています。

  

横から見ると

簓子(ささらこ)が下見板から外れかかっているところも!

でも、この壊れかかってる状態を見れば

簓子下見板の張り方が何となく分かるかと思うのですが、どうでしょう。

釘が、横板の裏から→縦竿の簓子に打たれている事にお気づきでしょうか。

そして、横板は羽重ねになってますね。

  

こちらは、もっと凄い発見!

簓子木口板金

吸水しやすい木口を板金で保護していますね。

 

 

このように取り外し可能な簓子下見板張り外壁の仕上げとして捉えていいのかどうか、

土壁は今ではもう一般的では無いので、

外壁の保護目的というより、汚れたり痛みやすい部分のメンテ・修復・交換しやすい仕上げとして考えられると思いますね。

 

さて、こんな簓子下見板張りがご近所にありました

この写真から、私が何を言いたいか分かりますか?

よーく観察してみて下さい。

伝統的デザインの成り立ちを理解しているか否か。

理解していない方が造るとこうなるの典型?(笑)

 

簓子が二本重なってますよね。

という事は、取り外し出来るパネル状の簓子下見板張りって事です。

 

でも、よーく見て!

簓子を留めている釘(ダホ)の間隔。

全ての簓子に釘(ダホ)があるのが確認できます。

という事は?

そう、パネル式ではないという事です。

恐らく、先に板を張り、後から簓子を壁に打ち付けてますね。

だったら、簓子を二重必要は無いんじゃない?(笑)

 

まさか、デザイン?(笑)

 


 

さてさて随分、話が長くなってしまいました

話を戻して

借りている蚕室のプチ補修工事

 

早速、簓子を作る曲面桟加工機を大工さんに貸し出して作ってもらいましたよ~

 

そして、取りあえず、土壁の無くなってた部分を簓子下見板張りで塞ぎました。

板は先行塗装してありましたが、枠はまだ未塗装

この壁は、あくまでも一時的な補修。

なので材料は出来るだけ汎用品を使いました。

板材は6寸の化粧野地板を利用したので幅が狭い。

そこへ簓子の太さを、一応、周りの建物を参考にして合わせたので、

バランス的に太かったですね

(大工さんにも言われました)

 

枠を塗装すれば多少は細く見えるでしょうか。。。

一応、塗装は後日、塗る予定デス。。。

 

ビフォー

 

 

 

 

     

 

取りあえず、アフター

*保存修理工事を正式にやる時には、簓子下見板を外して、土壁に復原することになるでしょう

  

曲面桟加工機で作って貰った簓子です。

 

およそ2坪くらいの簓子下見板張り、ビフォーアフターまで6人工で造り上げてましたけども、

早かったのかどうなのか、私にはイマイチ分かりません

新築現場で簓子下見板張りを嵌め込むのとも違いますし。

  

さて、残すはあと出入口の建具。どうしようかなぁ。

  

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