サッカー日誌 / 2014年03月16日


神宮外苑を舞台のスポーツ史


後藤健生『国立競技場の100年』
(ミネルヴァ書房 2013年12月 2,500円+税)

★外苑の施設を縦軸に
 後藤健生さんの『国立競技場の100年』を読んだ。
 単なる「スタジアム物語」ではない。明治神宮外苑のスポーツ施設の成り立ちと移り変わりを縦軸にして、社会情勢や世界情勢を織り込みながら日本のスポーツの発展のあとを辿った通史である。
 日本スポーツの通史は、これまで本になっていないようにい思う。
 陸上競技やサッカーなどスポーツごとの本はあり、日本体育協会史など団体の年史は出ているが、スポーツ全体を日本の社会の発展のなかに位置づけながら見渡した読み物は初めて読んだ。
 明治神宮外苑のスポーツ施設を「語り部」として話を展開した着想もおもしろい。神宮外苑競技場と、その後身である国立競技場は、日本のスポーツを100年にわたって見続けてきた。その物言わぬ国立競技場に語らせた歴史である。

★バランスのとれた内容
 国立競技場に語らせることによって、バランスのとれた内容になっているのもいい。
 過去の著作の中には、戦前のスポーツが軍国主義に利用された面ばかりを強調したものもあった。また体協の出版物はオリンピック中心主義で、アマチュアリズムを絶対視する立場から書かれていた。
 しかし『国立競技場の100年』は、著者がサッカー・ライターであるにも関わらず、サッカーに偏ってはいない。
 また、一つ一つの出来事については知っていても、通史として読めば新たに教えられるところも多い。
 たとえば、明治神宮競技大会の開催をめぐって、1920年代から当時の内務省と文部省が「縄張り争い」をしていたことが書いてある。100年近く後の現在、「スポーツ庁」の新設をめぐって厚生労働省と文部省が綱引きを演じているのは、その続きのようである。

★スポーツ関係者必読の書
 「読み物」として書かれているが、厳密な考証や詳細な説明が述べられている。
 大正時代の新聞雑誌から特殊な分野の研究論文まで広く資料を収集している。その努力には敬服のほかはない。
 巻末に参考文献の一覧が掲載されている。資料としても貴重である。スポーツ関係者の「必読の書」だと思う。
 ぼく自身にとっては、とくに興味深かった。1950年代に明治神宮外苑競技場の土を踏んだことがあり、1964年東京オリンピックのために国立競技場に改装された前後からは、スポーツ記者として、ほとんど、その現場に立ちあってきた。
 また、この本に出てくる多くの戦前、戦後のスポーツ界の中心人物に話を聞く機会が何度もあった。
 しかし、資料をもとにまとめられた、この本を読むと、自分の見聞の記憶が、かなり曖昧に思えてきた。
 貴重な取材の機会を何度も持ちながら、それを、しっかりと記録に残してこなかったことを、ジャーナリストとして恥ずかしく思う。



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